『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』
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『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』

2013-10-14 21:49
    2012年ポルトガル映画
      4人の監督によるオムニバス作品。世界遺産ギマラインス歴史地区を題材に描く。

       『バーテンダー』 アキ・カウリスマキ監督

    大通りから外れた路地裏にある小さな店のバーテンダーが出勤する。
    青い壁に赤いドア。黒い石畳を踏みしめる。
    スープの仕込みをして開店するが客は常連の2人だけ。表通りの大きな店に客を取られて閑古鳥が鳴いている。
    その夜、花束を持ってバス停で女を待つが彼女は現れない。
    石畳に花束を叩きつけ彼は家に帰る。

    いつものカウリスマキ節で、主人公は終始無言のコメディタッチだが、やや毒が足りないようにも思う。感情の領域に踏み込まない注意深さからか。
    ありもしない心理を観客に勝手に読みとらせるブン投げ方式。
    ここでの影の主役は「市井の人が踏んできた石畳」の歴史。

       『スウィート・エクソシスト』 ペドロ・コスタ監督

    ポルトガルのカーネーション革命に参加した黒人移民が闘争の果てに精神に異常をきたし、精神病院のエレベーターでかつての同志の亡霊と出会う。
    亡霊は鉛の兵隊の姿で、複数の人格と声を持つ。

    鉛の兵隊が女の人格と声を持つ場面などはかなりユーモラス。
    狭いエレベーターを主人公の精神世界としてパースペクティブな視点で提示してみせるしたたかさが良い。犬の遠吠え・エレベーターの機械音等、オフの音響も効いている。
    四本中一番ポルトガルの歴史に肉薄した、といいたいところだが、語り部が狂人である時点で一番信用できない。

       『割れたガラス』 ビクトル・エリセ監督

    1845年の創業以来、欧州第2位の規模にまで発展しながら閉鎖された巨大な紡績工場のドキュメンタリー(?)。
    在りし日の大食堂での工員達の記念写真を背に、元工員が自分の思い出を語る。中には工場を早々と退職し、外国に出稼ぎに出た話なども混じる。
    写真の壁際に置かれた水色のテーブルから3歩の歩幅を歩き、椅子に座る元工員。唐突に役者が自分の演じた芝居を語ったり、アコーディオン奏者が現われたりする。
    音楽家の背を写したショットから180度の切り返しで彼の演奏を真正面から撮る。
    記念写真に映った工員達のアップが次々と並び、哀愁を帯びた音楽が奏でられる。

    冒頭、この作品が次回長編の為のテスト作であることが告げられるが、もうその時点である疑念が浮かぶ。
    リタイアした普通の労働者が、淀み詰りもなく一方的に朗々と語る時点でかなり怪しい。役者が出てきた段階で、疑念が確信に変わりはじめる。
    180度の切り返し自体が別撮りであることを暗示しているが、3歩の歩幅の距離にカメラを置いて被写体のウエストショットを撮ることは物理的に不可能である。
    そもそも写真の大食堂と同じ場所での撮影であるならば部屋が小さ過ぎるではないか。
    つまり、この音楽家は写真を見つめながら演奏などしていない。
    「写真に刻まれた人々の想いを紡ぐように鳴り響く物哀しげなアコーディオン」などという「画面を見つめない者」の幻想を、エリセは「歴史のねつ造」として告発する。
    カメラのレンズはフィクションとドキュメンタリーの狭間で揺れている。

       『征服者、征服さる』 マノエル・ド・オリヴェイラ監督

    ギマランイス地区をバスツアーで訪れた観光客とツアーガイドを追う。
    初代ポルトガル王アフォンソ1世の銅像が観光客を見下ろしている。馬に乗った衛兵が姿を現す。
    石畳を踏みつける馬の蹄の音が鳴り響く。

    スケベ爺らしく若くて可愛い女子を美しく見せて、銃を掲げた警備隊を見せて、何か起こりそうなのにそっちじゃないという、洒落たオチ。
    映像を武器に長年戦ってきた者の映像批判。
    かつての征服者である王が、長い歳月の間「踏みにじられた石畳の歴史」を俯瞰から眺め、やがて自身の身も浸食される悲喜劇である。
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