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記事 4件
  • 「Histoire of June~麻枝 准作品の軌跡~」 第4回 『AIR』――母と娘、そして“継承”の物語

    2020-08-07 20:00  
    著者:坂上秋成 みなさん、こんにちは。坂上秋成です。
     7月下旬にこの原稿を書いているのですが、どうやら関東地方の梅雨明けは8月にずれこむらしく、じめじめとしたこの季節が苦手な僕としては悩みどころです。原稿が公開される頃には毎日青空が広がっているといいのですが。
     そんな感じで夏です。
     夏と言えば『AIR』です。
     Keyの第2作として2000年9月に発売された『AIR』は、PC版の売り上げだけで10万本を超える大ヒット作となり、その後も東映アニメーションや京都アニメーションによるアニメ化を経て、2020年現在も色あせることなく人々の記憶に残り続ける名作となりました。
     
  • 「Histoire of June~麻枝 准作品の軌跡~」 第3回 『Kanon』における贖罪とコミュニケーション

    2020-07-10 20:00  
    著者:坂上秋成
     みなさんこんにちは、坂上秋成です。
     「イスジュン」もいつの間にやら第3回となりました。ガッチガチの分析や批評ではなく、ゆるふわな感じでやっていきますと宣言して始まったこのコーナーですが、なかなかバランスをとるのは難しいですね。これまで『MOON.』『ONE~輝く季節へ~』について語ってきましたが、もうちょっと柔らかくした方がいいのか、もしくは逆にカタめの考察なんかを入れてみたりした方がいいのかと毎回悩んでいます。
     ともあれ、今回あつかう対象は『Kanon』です!
     これまで語ってきた2作はTactics作品でしたが、ここから先はいよいよ真っ向からKey作品について述べていくことになります。
     『Kanon』は言わずと知れたKeyの代表作のひとつであり、同時に記念すべき第1作でもあります。1999年に発売された本作では、企画を久弥直樹氏が担当し、麻枝 准氏とともにシナリオを執筆する形が採られました。
     『ONE』を高く評価したユーザーがそのままついてきてくれたこともあり、ビジュアルアーツ代表である馬場隆博氏は、「『Kanon』の場合は発売前から会社への問い合わせ電話が鳴りやまず、明らかにこれまでと違うことが起きているという感触があった」と語っています。
     そして売り上げはもちろんのこと、本作はそのノベルゲームとしてのクオリティの高さによって、今なお根強い人気を誇っています。オープニングとエンディングのそれぞれに『Last regrets』と『風の辿り着く場所』というボーカル曲を用意したことも当時としては新鮮でしたし(それに加えて個々のBGMも素晴らしい!)、記号性を高めることによってキャラクターを魅力的かつ個性的に作り上げたことも印象的でした。
     実際、それぞれのキャラクターの口癖、喋り方、好物、持っているアイテムといった個別の記号にとてつもないこだわりを見せ、それらを「萌え要素」としてユーザーへ提示したことは、『Kanon』という作品の大きな強みになっていると言えるでしょう。
     
  • 「Histoire of June~麻枝 准作品の軌跡~」第2回 『ONE~輝く季節へ~』のまばゆい“日常”

    2020-06-12 20:10  
    著者:坂上秋成
     みなさんこんにちは、坂上秋成です。
     麻枝ラボが立ち上げられてから一月ほど経ちました。対談・コラムなど楽しんでいただけているでしょうか。自分としても、ラボやコンテンツがみなさんの“日常”を豊かにできるものになるよう、精いっぱい動いていきたいと思っています。
     そんな感じで第2回は、前回取り上げた『MOON.』と同じく麻枝 准さんがTactics時代に企画・ライターを務めた作品『ONE~輝く季節へ~』(以下、『ONE』)を取り上げます。
    (c)NEXTON この作品は実に多様な側面を持っていますが、大きな主題として“日常の尊さ”を挙げることができます。
     本作の主人公・折原浩平は幼馴染の長森瑞佳や友人の住井護といった人々と一緒にまぶしすぎる日常を送っています。しかし物語が進むに連れ、彼の日常に不穏な気配が漂うことになります。自分がいつか「永遠の世界」に連れていかれてしまうのではないかという恐怖が、浩平の生活に忍び込んでくるのです。
     今ここにある日常から切り離され、どこか遠くにある世界に向かわなければいけなくなるだろうという、漠然とした不安。こうした、日常の豊かさと「永遠の世界」がもたらす影との対比が『ONE』という作品の根幹に置かれています。
     『ONE』に関して、麻枝さんは久弥直樹さんの担当キャラの方が人気だったことから(とあるキャラクター人気投票では、上位三名が久弥さん担当の里村茜・川名みさき・上月澪であり、麻枝さんが手がけた長森瑞佳・七瀬留美・椎名繭の三名は全員四位以下となっています)ご自身を“ハズレライター”と感じてしまっていました(『ONE』については今も思っているのかも)。
     ですが、久弥さんのシナリオ・キャラが魅力的だったことを差し引いても、僕は『ONE』という作品の中核には、麻枝さんだからこそ描けるにぎやかな日常とその儚さがあると感じています。
     自分の趣味も混じった話になってしまいますが、僕はこの作品の中で、長森と七瀬のシナリオがダントツで好きです。シナリオで泣けるということもありますが、それ以上に、長森や七瀬とただ一緒に登校し、会話し、はしゃいでいるというそれだけのことが、とてつもなく尊いものに感じられるというのが大きな理由です。
     実際、これは凄いことで、大きな事件が起こらない平凡な日常をプレイしているだけで、「このゲーム面白い!」とユーザーに感じてもらうことはとんでもなく高度な技術が必要になるものだと思います。ただキャラクターとやり取りをしているだけのシーンで飽きさせず、「この日常にマジ感謝……」と思えるようなシナリオを書けるライターとなると、麻枝さん以外に、『それは舞い散る桜のように』『俺たちに翼はない』の王雀孫さん、『家族計画』『CROSS†CHANNEL』の田中ロミオさん(前者は山田一名義)といった人が思い浮かびますが、決して多くはないように感じます。
     本来ならメインヒロインである長森ルートの話をしていきたいところですが、そちらは『Keyの軌跡』でこれでもかというくらいに書いたので、今回は七瀬留美ルートを中心に少し『ONE』の世界を語ってみます。
     
  • 「Histoire of June~麻枝 准作品の軌跡~」第1回 『MOON.』が遺したもの

    2020-05-10 14:58  
    著者:坂上秋成

     皆さんこんにちは、坂上秋成と申します。
     本コーナー『Histoire of June(イストワール オブ ジューン)〜麻枝准作品の軌跡〜』では、その名の通り、麻枝 准さんがこれまで関わってきた作品についての解説、批評を行っていきます。
     とはいえ、硬めの作品分析については2019年に星海社から刊行された『Keyの軌跡』で存分にやらせてもらったので、このコーナーでは麻枝さんから聞いたちょっとした裏話なんかも混ぜつつ、もう少しゆるっとしたノリで個々の作品について語っていきたいと思っています。
     
     そんなわけで本編です。記念すべき連載第1回では、麻枝さん初の企画・シナリオ担当作品である『MOON.』について書いていきます。このサイトを訪れている方にとっては周知の事実かもしれませんが、この作品はKeyではなく、麻枝さんがそれ以前に所属していたTactics(株式会社ネクストンのブランド)から1997年に発売されたものです。
     そのため「Key作品」ではないのですが、Keyスタッフの多くが制作に関わっていたことも含め、まぎれもない「麻枝 准作品」であり、この場で絶対に触れておくべきコンテンツだと考えています。
     
     さて、肝心の内容についてですが、「とにかくぶっ飛んだノベルゲーム」というのが『MOON.』を評する上で適切な言い方かと思われます。
     本作は主人公の天沢郁未という少女(当時女性主人公というのは割と珍しかったはずですが、麻枝さんとしては学生時代に書いていた小説がいつも女性主人公だったので、自然な流れだったとのこと)が、母の怪死の謎を追って宗教団体FARGOへ乗り込むシーンから始まるのですが、まあその後の展開がエグい!
     郁未はFARGOへ向かった後、兄に会うため施設を訪れた巳間晴香、そして姉を探しにやってきた名倉由依という2人の少女と知り合い、協力しながら施設の全容や目的について探っていくことになります。
     ですが晴香と由依、選択肢を間違えるとめっちゃあっさり死亡します。しかもその選択肢が初見で正解へたどり着くのが相当に難解なものであるため、ほとんどのユーザーは晴香と由依の死亡シーンを見ているんじゃないかと思います。だからこそ、全員が生還するエンディングを見た時の感動もひとしおなんですが、そこにたどり着くまでにユーザーのメンタルはガシガシ削られていきます。「鬼畜サイコ涙腺緩まし系」「商業ゲームのタブーに挑む」というキャッチコピーに一切の偽りなしという感じの作品に仕上がっています。
     このような話を聞くと、『Kanon』や『CLANNAD』や『Angel Beats!』といった後年の作品で麻枝さんを知った人は驚くかもしれません。けれど『MOON.』が発売された1990年代後半というのは、今から振り返ると、日本のノベルゲームにとって特殊な時代だったのです。
     もの凄くざっくりした言い方になりますが、それは人間の持つ異常性を作品として表現することに今よりも世間がずっと寛容な時代でした。実際、『MOON.』は『To Heart』、『WHITE ALBUM』、『うたわれるもの』、『WHITE ALBUM2』といった作品で有名なブランドLeafが発売した『雫』『痕』(ともに1996年発売)という作品に大きな影響を受けています。
     この2作品はいずれも、きわめてダークな雰囲気で作られたゲームです。『雫』は人間の精神