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【講義アーカイブ】最澄・徳一論争を読み解く(生成と多重視点の仏教学 特別講義)(講師:師茂樹)[2021年3月20日]
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平安時代初期におきた最澄と徳一の論争は、「三一権実諍論」などとも呼ばれ、日本仏教史のなかでも広く知られた論争である。この論争は、一乗思想と三乗思想、一切皆成仏(すべての衆生がブッダになれる)説と一分不成仏(一部の衆生はブッダになれない)説といったインド以来の対立の延長線上にあり、その最高潮である、という見方がされてきた。しかし、実際に『守護国界章』などの文献を読んでみると、そのような単純な二項対立ではなく、様々な思想がモザイクのように引用されており、そのこみいった議論にたじろぐ人も少なくない。なぜこんなに複雑なのか。そしてなぜ、この複雑な論争が、単純な二項対立として語られてきたのか。近年、この論争がより広範な思想的対立が絡み合う中で成立したものであることが明らかになっている。特に、奈良時代から平安時代初期にかけての列島の仏教界で大きな問題であった、三論宗と法相宗の対立――いわゆる「空有の論争」が大きな背景としてあった。この対立も、「空」vs.「有」という単純な対立ではなかった。三論・法相の対立や最澄・徳一論争を読み解くには、広範な東アジア仏教思想の文脈を読み解く必要がある。本講義では、最澄・徳一論争が東アジア仏教思想史の中でどのように位置付けられるのか、近年の研究をふまえつつご紹介したい。そして、この広範な文脈が、一乗/三乗の対立、という二項対立として理解されるきっかけとなった最澄の歴史叙述についても、言及することになるだろう。※ レジュメ: http://ow.ly/I6HW30rBnKZ