窓の足跡
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窓の足跡

2020-11-13 21:00

     アパートの大家が趣味で設置している花壇に咲いていたクリスマスローズが子供に荒らされて、大家が住人に何か知らないか聞き込みをしていました。

     僕は何も知らないと伝えると、バイト先の本屋へ向かおうと階段を下りました。行きがかりに例の花壇を見てみると、確かにひどく荒らされていましたが足跡はどうもはだしのようで、指の跡がうっすらありました。この寒いのにはだしで外を歩き回ることがあるだろうか、僕は疑問でした。それもどうやら一人ではなく、複数の子供が同じようにはだしで花壇を踏み荒らしたようなのです。

     バイトの帰り、珍しく雪が降ったので、早めに暖を取ろうとコンビニで日本酒とインスタント麺を買って部屋に戻りました。ストーブをつけてこたつに潜ろうとしましたが、次の日もバイトはありますし、風呂に入らないわけにも夕飯を食べないわけにもいきません。

     凍えながらやかんに水を張り、火にかけました。やかんから湯気が立ち始め、ストーブのおかげでだんだん部屋があったまってくると、窓が結露しているのが目に入り、カーテンを閉めました。

     翌朝バイトに行こうと部屋を出ると、階段を下りた先でうっすらと積もった雪に、花壇を荒らしたのと同じような何人かの子供のものと思われるはだしの足跡がありました。僕は一瞬、アパートの住人の子供なのかと思いましたが、アパートは僕のようなフリーターや学生ばかりで小さな子供を見かけたことが無いのです。近所の子供がアパートを遊び場にしているのかとうっとうしいような気がしました。

     バイト中友人から電話が入り、知り合いの女性をまたはらませてしまい、堕胎させようとしているということを相談され、陰鬱な気持ちで帰途につきました。

     僕の部屋の前にやはり何人かの子供のものと思われる足型の濡れた後がありました。雪で遊んだ子供がそのまま部屋に向かったのでしょうか。奇妙なことに子供の足跡は僕の部屋の前にしかなく、どうやって他のところをぬらさず僕の部屋の前にだけ足跡を残したのかわかりませんでした。

     僕は子供との関係を大家さんやほかの住人に疑われてはいけないと、足跡の水をタオルでふき取りました。

     部屋の扉を開け、いつものように帰宅しました。なんとなく、子供が近くをうろついているような気がして鍵をしっかり閉めたことを確認し、普段放置しているドアチェーンをかけました。

     かじかむ手を吐息で温めながら、やかんを火にかけてストーブとこたつのスイッチを入れました。こたつは温まるまでまだ時間がかかりそうだったので、ストーブに手をかざしてしばらく固まっていました。

     そうだ、と、カーテンを例のごとく閉め忘れていたことを思い出し、窓を振り返ると、結露した窓に子供の足跡が無数に浮かび上がっていたのです。窓の結露は部屋の内側ですので、足跡の主は部屋の中にいることになります。僕はそれに思い足り、恐る恐る部屋を見渡しました。

     すると視界の上方、天井にほど近いところに4つの頭、1つの胴体、4対の足の奇妙な、蜘蛛のような生き物がいることに気づきました。細長く伸びた足の先端は人間の子供のそれそのもので、これまで付近で見つかったのは全てこいつが犯人だということを確信しました。何人かの子供ではなく、4対の足を持つ怪物だったのです。

     僕は、恐怖を吐瀉する様に叫びました。それにびっくりしたのか怪物は体を震わせてどこかに消えてしまいました。

    何故あの女の所ではなく、僕の所に来たのかはわかりません。

     とにかく臆病な怪物だということが分かったので、僕はそれ以来部屋に戻ると必ず1度は大声で叫ぶようにしています。あいつらを追い払うためには、隣近所に迷惑でも叫ぶしかないのです。

     そうしてあいつらを遠ざけなければなりません。そうです、僕はあいつらの父親じゃないのだから。


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