イン・ザ・ビデオ
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イン・ザ・ビデオ

2020-12-04 18:31

     ビデオドロームやリングなど、ビデオグラムが現実世界に影響を及ぼすような作品が作りたくて、大学に入学してから映画研究会に入った。

     映研では昔撮影中に行方不明になった先輩がいるという噂があって、ホラー好きな私としては不謹慎ながら期待したのだが、“行方不明になった先輩の噂”があるだけで物証はないし、先輩がどんな人なのか、いつごろの話かも判然としない状態で、たちの悪いいたずらというのが関の山だった。

     映研では撮影機材や編集用のPCなどが使用できるようになっていて、会員同士の使用予定の調整は当然必要だが、映画好きやドラマ好きが集まるので、こんな作品が撮りたいとプレゼンすると興味を持った人が手伝ってくれるという仕組みになっていた。

     とはいっても、実際は仲がいい同士で薄ら笑い浮かべながらホームビデオを撮ったり、一方でお互いの実力を把握しあっているチームでユーチューバーのプロモーションビデオを撮影したりと、活動の質は玉石混交だが、大体グループができてしまっているから、新規で誰とも交流がない私がプロットや脚本を書いて、共有しているチャットに貼って興味を持ってくれた人が2人もいたことは奇跡といっていいだろう。

     協力してくれた2人は学内で何度か見かけたことのある、いつも一緒に居る後輩の女性たちで、片方は自称霊視ができるお団子頭の不思議ちゃん、もう一方はおとなしいがしっかりした感じの印象を受ける、ショートボブが似合う人だった。

     2人は興味あるのかないのか、撮影しようとしている20分程度のショートムービーのストーリーや見どころを改めて熱っぽく説明する私のことを、動物園のカバでも見るように観察していた。正直、スマホの着信音が作中の噂になっている呪文にすり替わっていて、スマホ画面が窓に映り、女性の姿をした幽鬼が窓をモニター代わりにして出現するというクライマックスは少々無理があると突っ込まれるかと緊張していたが、特にそういうこともなく撮影に入ることになった。質問の一つもなく、わかりました、頑張りましょうと言われるのは、心強い一方で本当にわかってくれているのか心配になる。オウム返しでもなにか確認してくれるとありがたいのだが。

     心配をよそに、神社や街中、大学構内を使用した撮影は順調に進んで、2人とも期待通りに演技やサポートをしてくれた。問題が起きたのはクライマックスの窓から出てきた幽鬼を演じる不思議ちゃんがショートボブににじり寄って襲う場面だった。撮影はほとんど講義がなく人が少ない土曜日を選んだ。クラブ活動で出てきている人やゼミ、研究活動があるのか、何人かは人を見かけたが、学生の自主製作とはいえ写り込みを嫌がる人を避けるためだった。大学図書館の裏手で、白いワンピースに身を包んだ不思議ちゃんの後姿を三脚で固定したカメラで撮影していた。服の色は重要で、ステレオタイプで考えれば、白は死装束、真っ赤な服は血、黒は喪服を連想させるので、白い服は亡霊や幽霊なんだと言外に観客に印象付けることが出来る。白いワンピースは映研の倉庫にあった衣装だった。

     ショートボブに不思議ちゃんがいよいよ肩をがっしりつかんで、空を映してショートボブの悲鳴が入るカットに続く、という手前で急に不思議ちゃんの動きが止まり、ゆっくりとこちらを振り返ったのだ。これまで台本を無視した動きをしなかったので驚いて、カメラから視線を外し二人の方を見た。しかし、不思議ちゃんはこちらに背をむけたまま、台本通りショートボブの肩をつかんで、カットの声を待っているようだった。不思議ちゃんは演技を続けていたが、ショートボブが私を、というよりは私の背後を見ているようで、私は振り返ったがそこには何もなかった。

     カットが入らずショートボブと見つめあう形になっていた不思議ちゃんが、何やらおかしいと思ったのか、あの、と声をかけてきた。

     私は見間違いかと思ったが、ごめんと謝りながら映像を確認することにした。映像を確認すると、やはり不思議ちゃんがこちらを振り返っている。振り返っている場面で停止して、2人にも映像を確認してもらい、そんなはずはない、どっきりでも仕掛けているのかと私が疑われさえしたが、実際に映っているのは2人に間違いないし、これが最後のカットだし申し訳ないけど撮りなおそうと2人にお願いした。

     再度の撮影は問題なく終わり、何だったんだろうと言い合ったが答えが見つかるはずもなく、私はそのまま編集作業に入ることにした。2人はお祓いに行こうと言い合っていたが、奇妙な現象が恐ろしいというよりは、流行のスイーツを食べに行くようなはしゃぎ方をしていた。

     映研の編集部屋には何台かのPC、ミキサー、スイッチャー、何に使うのか未だにわからない機材がいくつもあって、そこに入るだけでも業界人になったようなわくわく感を味わえる。しばらく編集作業をしていて、ふと気になったので、問題のあった映像を再度確認することにした。

     やはり不思議ちゃんがこちらを振り返っている。私が2人を直接見たはずのタイミングでさえ振り返ったままだった。映像の中でもショートボブは私の背後を見ていて、2人ともがカメラ目線になっていた。その映像は不思議ちゃんがあの、というまで続いているはずだからそのまま再生し続けていると、カメラの焦点が動き始め、2人の視線の先を探るように振り返った。私は三脚に固定したカメラを動かしていない。私は背筋がぞわぞわと粟立つように感じた。

     カメラが振り返りきる前に視線を外したかったが、目が釘付けになってしまっていた。そして、誰もいなかったはずの背後にはセミロングの女性が立っていた。目元は陰になっていて、口元も輪郭がぼやけ、笑っているのか怒っているのか判然としなかった。服は水色の半そでに、淡いグリーンのロングスカートをはいていた。手には文化包丁を持っており、刃部は乾いた血がこびりついているようで、よく見ると半そでのシャツの裾にも乾いて茶色になった血液のようなものが付着していた。

     突然背後から声がして、びっくりして振り返るとショートボブが編集部屋の入り口に立っていて、表情の読めない視線を向けて、先輩もお祓いに行ったほうがいいですよ、とだけ言って去っていった。

     私は結局作品を完成させることなく、映研をやめてしまった。2人も映研には顔を出していないようだ。時々構内で見かけるとどうも、なんて声を掛け合う程度だがお互いの無事を確認しあっている。助言通りお祓いに行ったが、効果があるかどうかはわからない。


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