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墓地で肝試し
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墓地で肝試し

2021-01-01 20:23

     敦也は大学の友人、針尾とともに夜中の墓地で肝試しをしていた。敦也はとにかく乗り気じゃなかった。針尾は身の回りで起きる不可解なことを心霊現象にこじつけようとする悪癖があり、自動ドアが誤作動を起こすのは幽霊が通るからだ、などとする妄言を周囲の者はいやというほど聞かされている。

     口先だけならまだしも、稀に今回のように罰当たりな行為を強要されることがあるから、友人を大切にしろという死んだ祖母の言いつけを今回ばかりは破っても文句は言われないだろうと考えていた。

     墓地の駐車場に停めたクーラーの効いた車内で針尾がSNSでもして時間をつぶしていることだろうということを想像して、敦也は苦虫を嚙みつぶしたような表情をした。時折曇天の隙間から見える下弦の月は足元を十分に照らしてはくれず、何度かつまずきそうになる度に、墓地で転ぶと足を切らなければならないと父親に脅されたことを思い出す。

     盂蘭盆を過ぎたころのことで、ほとんどの墓はきれいに掃除され、花もまだ枯れずにいた。

     敦也が何より嫌だったのは、2人だけのゆるいやり取りだったこともあるが、肝試しの目標がないことだった。そのせいであてもなく、深夜の真っ暗な墓地をフラフラと歩き回らなければならなかった。体感で5分くらいぶらついた後駐車場に戻り、役者が交代するという手はずだった。

     虫の声が高鳴り、背筋を不快な汗が伝う。

     敦也はひとつの計略をめぐらした。くすねてきた針尾お気に入りのライターを、墓地の最奥にある、荒れ果てて橿原という名字だけが読み取れる墓に置いてくることにしたのだ。

     ニコチンが切れた針尾は不機嫌そうに戻ってきた敦也をねめつけた。敦也は手のひらを見せ、ライターを持っていないことをアピールした。針尾は舌打ちをしながら墓地へと入っていった。

     敦也が車に背中をあずけて雲が流れていく様子を眺めていると、墓地から悲鳴が聞こえてきた。敦也は墓地の方をちらと見た。

     まもなく針尾は走って帰ってきたが、どうやらライターは持っていないようだった。墓地の駐車場にたった一つだけある街灯がうっすら照らす針尾の顔は青ざめて、悲壮感たっぷりといった様相だった。

     敦也はざまあみろと、笑いをこらえながら針尾に何があったのか問うと、彼は錯乱した状態でばあちゃんいた、ばあちゃんいたと繰り返していた。敦也は彼の言うばあちゃんというのが敦也の祖母のことだと気づいた。2人は幼少からの付き合いで、敦也に対して厳しいしつけをしていた祖母に悪ふざけが過ぎた針尾と敦也がともども叱られるということが度々あったことを敦也は懐かしく思い出した。

     敦也は針尾に、あまり無礼を働くと祟られるかもしれない、ちゃんと挨拶をして来いと言い放った。針尾は信じられないというように目をかっぴらいて、首がもげそうなほどぶんぶんと横に振った。敦也はとうとう我慢が出来なくなり、高らかに笑い始めた。こうまで取り乱すとは。普段調子のいいことばかり吹聴する彼が追い詰められ、哀れじみた様子で狼狽している様子がおかしくてたまらなかった。

     ひとしきり笑い終わるとじゃあ、帰るかと車に乗り込もうとする敦也の肩を針尾ががっとつかんだ。針尾は震える声を何とか絞り出して、ライターが恋人からのプレゼントで持っていないと彼女と別れることになるかもしれないと理由を話し、取りに行ってほしいと言い出した。敦也は肩をすくめると、針尾が5分歩き回らずにさっさと帰ってきてしまったことを指摘し、ライターを置いてきたことは悪かったが、自分で取りに行くべきだと反論した。

     針尾は少し考え、じゃあ、一緒に来てほしい、冗談じゃなく本当にお前のばあちゃんがいたんだ、と懇願した。敦也は仕方なくついていくことにした。

     2度目の墓地は針尾と同行していることもあり、それほど嫌な感じがしなかった。それに敦也は祖母とまた会えるならそれほど恐怖を抱くことはないと感じていた。厳しい人だったが、曲がったことが大嫌いな正義の人だったというだけのことで、祖母との楽しい思い出もたくさんある。ライターを置いてきたことは悪ふざけが過ぎたかもしれないが、肝試しを持ち掛けてきたのは針尾の方だ。

     ライターを置いた橿原と書かれた墓石の前に立った。針尾はひったくるようにライターを手に取るとさっさと帰ろうと促した。

     そういえば、と敦也は疑問を感じた。祖母の墓は確かに敷地内にあるが、今いる第一霊園ではなく、隣の第二霊園だ。敷地内だからといってわざわざ自分の墓から別のところに出てくるだろうか。そもそも、針尾の出まかせや見間違いという可能性はまだ残っている。

     敦也は腑に落ちないまま、さっさと行こうとしている針尾に、祖母の墓に手を合わせてくるから車で待っていてくれといった。針尾は振り返りもせずに早歩きで去っていった。

     橿原と書かれた墓石に騒いだことを謝るように手を合わせてお辞儀をした後、敦也は先日送ったばかりの祖母の墓石へ向かい、再び手を合わせた。

     敦也が駐車場へ戻ると車はなくなっており、針尾は敦也を置いて帰ってしまっていた。貴重品は持ち歩いていたから困ることと言ったら徒歩で帰るにはやや遠い場所にいるというくらいのものだったし、電話で呼び戻すのも面倒なので、このまま歩いて帰ることにした。

     夜空では雲間が広がり始めていた。

    ※2021/01/07 後半追加しました。ご迷惑おかけしました。


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