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血の味を覚えたケモノ
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血の味を覚えたケモノ

2021-03-26 20:55

     高校時代の友人たちと、同窓会がてらハロウィンパーティーをしようという話になりました。たぶん、渋谷でバカ騒ぎしている連中に中てられたのだと思います。とはいえ、僕らが住んでいるのは田舎ですし、人数もせいぜい7、8人なので、一人暮らししている奴の部屋で仮装して飲み食いするだけですが。

     友人の一人で、優しく人当たりは良いものの、気が利く方ではない亮介が相談に来たので僕は吸血鬼の仮装を薦め、適当なタイミングで誰かに噛みついてやれば盛り上がると助言しました。

     興ざめになるので仮装は手抜き禁止との御触れが出ていました。当日はそれぞれ友人宅に着いてから一室を使って着替えたのですが、コスチュームプレイ経験者と素人では全く出来栄えが異なり、かつらやカラーコンタクトレンズ等使用して随分凝った仮装をしている者もいましたが、大半はネット通販で衣装を購入したもののようでした。仮装のお披露目こそ盛り上がりましたが、そのあとは奇抜な格好をした飲み会という様相で、高校時代や近況について話したり、手料理を作ったりとのんびり過ごしました。

     そんな中、亮介は馬鹿正直に僕の助言を実行しました。相手は高校時代に仲良くしていたものの、結局くっつかずに卒業を迎えた桜という女性でした。しかし、亮介は力加減を間違えてしまい、桜の首筋に傷を付けてしまったのです。彼女の細いうなじに一筋の血がたらりと垂れました。

     正義感の強い自称サバサバ系の里香が亮介を咎めたのですが、桜が大丈夫と言い、亮介にやりすぎだよと諭すように微笑みかけました。亮介はそのあと桜に何度も謝っているようでしたが、他の者は一時ざわついただけで、大して気にもしていないようでした。

     パーティーから数日経ち、亮介が僕を訪ねてきました。聞くと、血が飲みたくて堪らない、少し分けて欲しいというのです。僕はぎょっとしました。先日のパーティーで僕の助言を真に受けて桜に噛みついて血を流させてしまったことを逆恨みして、脅かそうと冗談で言っているのかとも思いましたが、亮介はそういう人間ではないと思いなおしました。事情を聞くと、桜に噛みついて血を流させてしまった時に、ほんの数滴血が口に入ったそうなのですが、それがまた舐めたくて仕方がないのだと言います。自分の血を試したが、痛いし、血が少なくなって頭がぼんやりするから、僕に血を提供しろというのです。

     その証明だと言わんばかりに見せつけてきた腕には血を飲もうと試行錯誤した跡がありました。噛みついた痕は内出血を起こしていましたが、血はほとんど出なかったようでした。彼が血の滲むガーゼを留めているサージカルテープをはがすと、刃物でつけたのだろう傷跡がありました。しかし、どんなに努力をした証を見せられても、血を提供するなんて考えられません。

     僕は血の代用品として聞いたことのあるトマトジュースやバラを提案しました。亮介が試してみる気になったようなので、僕は買ってきてやるからそこで待っていろと、逃げるようにアパートの部屋から出ました。買い物の途中に考えを巡らせましたが、どうしようもないので手持ちの金で買えるだけトマトジュースとバラの花を購入して帰宅しました。

     亮介は僕が買ってきたものを一通り試しました。彼は不満げでしたが、少し楽になったと切なそうに微笑むとトマトジュースをいくつか持って帰っていきました。

     亮介とはそれからしばらく連絡を取りませんでした。会っても何を話せばいいのかわからないし、また血を寄越せと言われるのではと警戒していました。そのうち、亮介と桜が付き合うことになったと聞きました。ハロウィンパーティーでの一件を知っている友人だったので、亮介のやつうまくやったな等と呑気に言っていましたが、僕は何か嫌な感じがして曖昧に相槌を打つ事しかできませんでした。

     またそれからしばらくして、亮介が傷害事件で逮捕されました。桜に噛みつき、血を啜ったという話でした。桜は裂傷と少し重い貧血で2、3日入院したと言います。亮介は精神病院に強制入院させられました。

     僕は彼の入院によって、僕が彼に噛みつきを唆し、血を欲するようになった原因を作ったことを詳らかにされるのではないかと気が気ではありません。


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