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ジェットコースター
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ジェットコースター

2021-04-16 18:34

     成人式の実行委員会で久しぶりに会って連絡先を交換した同級生が夏の長期休暇で帰郷するというので、正成は2人で遊園地に遊びに行くことにした。

     遊園地はお化け屋敷を中心に作られたせいか、他のアトラクションも色濃いホラーチックな雰囲気を醸していた。同級生の香苗はさっそくお化け屋敷に行きたがったが、何かトラブルが起きたようで、立ち入り禁止になっていた。香苗は一瞬残念そうにしたが、すぐに笑顔に戻り、正成にジェットコースターに乗ろう、と提案した。

     この遊園地のジェットコースターは、速さや落下の迫力を追求したものではなく、映画の4D上映のように映像とジェットコースターを融合させたアトラクションになっていた。乗客は専用のゴーグルを装着する。動きに合わせて映像が切り替わり、予め用意された3D映像と、備え付けのカメラで取り込んだ目前の映像にエフェクトを付与するなど、VRとARを活用した仕掛けになっていた。

     順番を待つ間、正成は居酒屋で友人の耳から何かが零れ出たのを見て、脳味噌が溶けたと大騒ぎした話などをした。話が上手いほうではないが、香苗は終始ニコニコとしていて、楽しんでくれているようだった。

     少し順番が進み、ジェットコースターから降りる客の姿が見えた。しかし、行列を作って待っている客がいるというのに何故か最後尾の席が空いている。正成は疑問に思いつつも、香苗が進むのに合わせて歩いた。今度は隙間なく席がうめられ、最後尾に座った金髪とお団子頭の女性2人が楽しそうにゴーグルをつけて、何か言い合っているのを眺めていると、アナウンスが入って出発していった。

     香苗は他県の大学で電子工学を学んでいるのだが、男子生徒の割合のほうが多いのに、出会いがないとこぼしていた。正成は理想が高いのでは、と思ったが口には出さなかった。

     しばらくして戻ってきたジェットコースターはやはり最後尾の客がいなくなっていた。

     正成は香苗に最後尾の人がいなくなっていると言ったが、見間違いではと相手にしてもらえず、早く乗ろうと急かされた。気が乗らないまま手を引かれて案内されると、最後尾に座ることになった。

     スタッフに確認しようと声をかけたが、ゴーグルを渡され、運転中の注意事項などを矢継ぎ早に説明されて訊ねる機会を逃してしまった。安全バーで固定され、もう降りるとも言い出せなくなってしまい、仕方なくゴーグルを装着した。香苗は楽しみだね、などと呑気に言っている。背筋を暑さのせいではない汗が伝うのを感じた。

     ゴーグルはカメラモードになっており、黒くいかついゴーグルを装着した香苗と顔を見合わせているのが分かった。目元は見えないが口角が上がっていて、楽しそうにしているのがわかる。屋根のついている乗降場所から出発すると、抜けるような青空のもとに連れ出された。かたかたとチェーンリフトが車両を巻き上げている音がする。やがて頂点に達すると、一瞬の浮遊感の後に一気にスピードが上がり、乗客の歓喜の悲鳴が上がる。

     コースのすぐそばに、ARで幽霊のような映像が浮かび上がっていた。ゴーグルの演出が主役とはいえ、ジェットコースターとしても十分な迫力があった。やがて、さびれたトンネル風に装飾されたセットの中に突入する。すると、ARがVRに切り替わり、トンネルの中を走行する圧迫感のある轟音が鳴り響く中、怪異たちが次々に襲いかかってくる。正成は情緒もへったくれもないと感じたが、お祭り騒ぎな演出にどこか心踊らされた。

     口裂け女と思しきキャラクターが大きな口を開けて、乗客を飲み込むような動作をして画面が真っ暗になった。車両は走行を続け、圧迫感のある轟音は鳴り続けているが、視界が変化しない。待ったのは30秒程度だろうか、どうにもおかしいと思った正成は、ゴーグルの充電でも切れたのかとゴーグルを取り外した。そのとたん車両ががたつき、勢いゴーグルを手放してしまった。落ちるままにしておけば足元に収まったのだろうが、慌てて手を動かしたものだから、変にぶつかってしまって、車両の外側へと飛んで行った。

     正成が周囲を見渡すと、黒塗りされたはりぼての中を走行していた。トンネル内はVRの映像が流れるから、内装を凝る必要がなかったのだろう。ふと、異常に気が付いた。隣に香苗はいるが、他の乗客がいない。やがて、惰性で動いていた車両は止まった。

     アトラクションのセットにしてはやけに長いトンネルで、前後とも出入り口が見えない。

     香苗に声をかけて、ゴーグルを外させる。彼女は正成に状況説明を求めたが、説明出来ようはずもない。

     安全バーがどうにも動かせないので、身をよじって何とか抜け出してレールを歩いて助けを求めようと、2人は足元が覚束ないまま黒く塗られたコンクリートパネルを頼りに歩き始めた。

     彼らがいなくなった車両は乗降場所に到着し、満足した乗客たちが感想を言い合いながら降りていく。そしてまた、順番待ちをしていた客を乗せてジェットコースターは走り出した。


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