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鏡の迷宮
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鏡の迷宮

2021-04-23 20:09

     実花はマッチングアプリで出会った瀬谷という青年と遊園地に来ていた。彼は夢のために古本屋でアルバイトをしていると言っていたが、遊び相手が欲しかっただけの実花には関係のないことだった。

     なるべく人が多いところを避けながら歩くと、遊園地の南側にある「合わせ鏡の館」にたどり着いた。鏡を使った迷路のアトラクションで、巨大なサーカステントのような外観は脱出の困難さを物語っていた。

     受付では迷子になった場合に使用するという首にかけるストラップ付の無線機が渡された。また、スカートを着用していた実花は、足元に鏡がある部屋があるため、ショートパンツの無料貸し出しをしていると言われたが、瀬谷ははかなくていいという。スケベ心が顔中に現れていたが、実花も乗り気で貸し出しを断った。2人が受付を済ませて内部に入ると、最初の部屋は5メートル四方の鏡に四方八方を囲まれた部屋だった。受付で言われたように、さっそく床が鏡張りになっており、実花の下着が陰の中で見え隠れしていた。扉が閉まると、完全に閉じ込められており経路のようなものは見当たらなかった。1分程度扉を探したが、それらしい継ぎ目はあるものの開きそうもないことが分かった。突然、四方の壁にはめられている鏡が真っ黒になった。調光ミラーフィルムに電圧がかけられ、鏡が透明状態になったことで、壁の奥に設置されている大型のディスプレイが見えるようになったのだ。抽象画の様な映像とともに、迷路についてアナウンスが入る。

    「合わせ鏡は古来より過去や未来を映し、悪魔の通り道になると言われている。鏡は自分自身だけでなく、真実を映すものでもあり、別の世界との境界でもある。鏡に映った何かに手招きをされてもついて行ってはいけない。戻れなくなってしまう」

     戻れなくなってしまう、というセリフは音声が加工されており、ノイズ交じりで潰れたような音声が折り重なるように数度繰り返された。実花はヤダだの怖いだのと本気なのかわからない反応を示しながら映像を見ていた。瀬谷ははしゃぐ実花を見て、一緒に来てよかったと思いながら実花の手を握った。5分程度の映像が終わると先ほど見つけた継ぎ目が開き、迷路へと送り出された。

     六角柱の内部を移り歩くようになっており、うち何面かが抜けていて、隣り合う別の六角柱へと移ることが出来るようになっていた。鏡に映った自分の像を眺めると必ず合わせ鏡になっている。何か所かに悪魔を模した繊維強化プラスチック製の像や、万華鏡の中にいるように瞬間瞬間に色が変わるレーザー照明があり、それが演出でもあり迷路攻略の目印にもなっていた。

     同じレーザー照明に三度突き当たって、実花は迷ったの、などと責任を瀬谷に全て押し付けるように問いかけた。彼女は攻略に加わる気はなさそうだった。瀬谷はそのことを気にもしていなかったが、彼はそれよりも、そこまでに何度か視界を横切った例の八つ足の怪物に焦りを感じていた。

     瀬谷は蜘蛛のように8本の足を持ち、上半身は人間の子供の様でありながら、4つの頭を持っている奇妙な何かが自分の部屋に度々忍び込むので、大声をあげていつも追い払っているのである。彼はその怪物が以前付き合っていた女性が堕胎し、自分の子供だと主張されたモノの成れの果てだと考えていた。

     大声を出せばいつものように奴は逃げていくだろうが、実花の前でそうすることに抵抗があった。それに、場所が場所だ。アトラクションの演出と見間違えた可能性がある。

     瀬谷は落ち着こうと、一枚の鏡に手を当て自分を見つめた。レーザー照明が鬱陶しくぎらぎらと光の球を動かし続けている。合わせ鏡に自分の姿が無限に増殖していた。自分の頭がいくつもあるようで、あの怪物と一瞬見間違える。

     そうだ、と瀬谷は鏡越しに見える実花に言う。

    「右側に手を当てながらずっと進んでいけば出られるはずだよ。それに、万が一の時は無線を使えばいい」

     実花は地道な解決案に不満げだったが、出られないよりはましだった。さあ、再度出発しようと瀬谷が振り返ったところに、実花はいなかった。

     瀬谷は実花の名を呼び掛けたが返事がない。瀬谷はまさかあの怪物に連れ去られたのでは、と振り返れど振り返れど自分の姿しか映さない鏡を見ながら焦燥感を募らせた。そして実花を探すために、よたよたと鏡に囲まれた道を歩き始めた。

     実花はといえば、唐突に姿を消した瀬谷に愛想をつかし、早々に無線機に迷ったことを申し出た。外に出た実花が改めて合わせ鏡の館の案内を見ると、「5つのテーマで作られた迷路が待ち受ける」となっていて、六角柱の合わせ鏡は最初の迷路だった。スタッフに一緒だった男性は、と瀬谷について聞かれたが、先に行ってしまったと答えた。

    「帰ろ」

     実花は遊び相手が居なくなって、退屈だった。


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