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インフォメーションセンター
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インフォメーションセンター

2021-04-30 19:57

     家族で遊園地に遊びに来ていた和夫は、弟の和也を見失ってしまった。和也は学友を見つけたらしく、「ミヨコちゃんがいた」と3人が昼ご飯を食べる場所を探している間に駆け出してしまったのだ。和夫と両親は昼食どころではなくなってしまった。駆けていった方向を探したものの、どこかのアトラクションに入ったのか、すれ違ったのか見つけられる目途が立たないので、インフォメーションセンターで呼び出してもらうことにした。

     インフォメーションセンターは騒然としていた。スタッフの若い女性はまたか、という様子で、和也の服装や体型、年齢を訊ねた。どうやら、遊園地内で迷子、というよりは行方不明者が続出しているようで、その対応に追われていた。

     問い合わせてまもなく弟の容姿とインフォメーションセンターで家族が待っていることがアナウンスされた。家族で話し合って、待っているのは母親だけでいいという話になり、和夫と父は手分けして和也を探しに出た。案内担当のスタッフたちは迷子の家族が不安にならないように配慮する余裕がなくなっていた。

    「お化け屋敷の方、どうなった」

    「進展なし。とりあえずもう客は入れてるけど」

    「なんで客が出入りした数、確認してないの!」

    「どれの話っすか」

    「ジェットコースターでしょ」

    「合わせ鏡、ほんとに人いなくなったの? 無線機の返却忘れじゃないの」

     母親は不安になった。何度も無線が入るが、事態が好転する兆しはなかった。15分程度待ったものの、和夫からも父親からも連絡が入らず、和也も放送を聞いてインフォメーションセンターに自力で来る様子もない。母親は遠慮がちに再度スタッフに、和也がアトラクション内部に居て放送を聞きそびれた可能性があるからアナウンスしてほしいと願い出た。

     スタッフは了承しつつ、アトラクションで受付をしているスタッフも迷子情報には目を光らせていて、出入りがあれば声をかけるようになっていると説明した。母親の心配を取り除くための説明だったが、トラブルが多く、行方不明者が続出している中ですべての迷子情報を意識できるとは思えなかった。

     追加のアナウンスが入ったのはそのやり取りの5分後だった。アナウンスが入った直後、無線機から和也の声が聞こえた。

    「ママ、どこ?」

     母親は即座に反応した。

    「和也の、息子の声です! その無線はどこにつながっているんですか!?」

     最初、何台か設置されている箱型のトランシーバーから、大人のスタッフではなく子供の声が聞こえたことに違和感があった。まもなくスタッフの何名かがどの無線のチャンネルが使用されたのかに気づき、慄然とした。

    「そんなはずない」

    「どういうことです? どことつながっているんですか」

    「この周波数のトランシーバーは予備として用意したもので、その」

    「なんです、わかるように言ってください!」

    「周波数が合わせてあるのはこれだけです」

     年配の男性スタッフが指さした先に、充電器に接続された古いトランシーバーが一つだけあった。この遊園地ではヒューマンエラー防止のため、各トランシーバーのチャンネルを変更できないように改造していた。スタッフ同士の業務連絡用、合わせ鏡の館での客への貸し出し用、そして緊急時に持ち出す予備のトランシーバーが用意されていた。外部から持ち込まれた無線機と偶然周波数があってしまう可能性も皆無ではないが、迷子の小学生がそんなものを持っているというのは妥当性の低い推測だろう。

     それまで騒然としていたインフォメーションセンターが静まり返る中、和也の声が響く。

    「ママ、もう終わりの時間なの? まだ遊び足りないのに」

     母親は無線機に視線を釘づけにしてうろたえた。

    「何、な、何を言っているの」

    「夕日があんなに真っ赤に。ママ、きれいだね」

     ちょうどその時正午となり、入り口にある広場の大時計が陽気な音楽を鳴らしながら、人形を躍らせる。母親は無線機に近寄りマイクをつかむと、和也に呼び掛けた。

    「今どこにいるの、迎えに行くから場所を教えて」

    「ママ? よく聞こえないよ。 観覧車に乗って上から見たら見つけられるかなあ」

    「乗っちゃだめよ! 入口のところまで戻ってきて!」

     スタッフは業務用の無線機を通じて、観覧車を担当しているスタッフに迷子に注意するように言うが、周囲にそれらしい子供はいないという。和也の声にノイズが混じる。

    「マ……マ? どこ? ……僕を……探して」

     そして、予備の無線機からは何も聞こえなくなってしまった。母親は観覧車の方に行くと言い残してインフォメーションセンターを去った。遊園地で起きているトラブルを知らされていない入場者たちは楽し気に遊園地内を行き来している。


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