• オマケのようなもの

    2019-07-31 05:491









    本編にブッ込めなかった空気感なんぞを一席。












    あれはいつのことだったか









    「怖ぇこと言い出すなよ!土壇場で思い出したら、」
    「くっくっくっ。大変だろーなぁ、思い出したら。」
    「て…てめ…わざとかよッ、どーゆー性格なんだ!」
    「言っとくが思い出すのはてめーの勝手だからな。」
    古いSFホラーの酒飲み話だが、シャレにならない者もいる。


          「「ミクロの恐怖」だ?くっそ…ヤなヤツ…」
          「この話は終わりな。しかし良く寝てんな。」
          「「爆睡」って言葉の意味がすげー解るわ。」
          「少なくとも人の三倍四倍は頭使うもんな。」
          睡眠は脳みその休暇整頓ゆえ仮眠とはいえコイツは容赦ない。


    「寝落ちっつーけどガチで落ちるのな。」
    「子供みてーだよな。旦那そろぼちか。」
    「けど大将呼んでく意味あったのかね?」
    「あるよ。置いてくとほら…解んだろ?」
    周りのハラハラどこ吹く風、ZZZZZ…、てな具合である。


          「落書きしても気付かねーかな。瞼に目とか。」
          「やってみたらどうだ命が惜しくねーならよ。」
          「言ってみただけだ逃げ切れる自信ねーって。」
          「こういうのはむしろ喜びそうな気がするが。」
          すちゃ、と取り出したのは銀パッケージのピンクのルージュ。


    「わざわざ買ってきたのか?」
    「いや女が忘れてったやつ。」
    「けっこう高ぇやつじゃね?」
    「パチモンだが色はいいぜ。」
    そろそろと近付く、目を覚ます気配は全く無い、幸せそうだ。


          「起きるなよーーー…ぬーりぬり…っと。」
          「やりやがった…ちょ待て無駄に似合う!」
          「色が白いからなー…イイと思ったんだ。」
          「されるがままだな。…待て待て…こう、」
          商売道具のよく磨いだ刃先で手早く、眉を整え産毛も剃って。


    「気ぃ付けろよ…傷一つつけてみろ命ねーぞ。」
    「話しかけるな気が散る。おお…いんじゃね?」
    「ネコネコしいな、人のいるトコで寝るしよ。」
    「野郎の肌じゃあねー…つーか幾つだこいつ?」
    もともと陶人形じみたのが柳眉になると破壊力が当社比三倍。


          「女っぽいってわけでもねーんだがな。」
          「真ん中…でもねーな。両方…も違う。」
          「されて嬉しいこと全部やる感じかね。」
          「至芸だそーだぜ、小姑が言うにはよ。」
          ガミガミ細かく言うからって小姑呼ばわりはあんまりだろう。


    「あーあー髪ボッサボサ。」
    「櫛ならあるぜ。ほらよ。」
    「細かい傷わりとあるな。」
    「自分だけは…だもんな。」
    他人の傷は跡形も無く癒すが自らだけは医師頼りという皮肉。


          「なんでこんなトコに居るのかねえ…」
          「まあいろいろ…あったんだろうよ。」
          「大将に訊いたがクっソ睨まれたわ。」
          「勇気あんな…空気読まねーってか。」
          悲劇だからか、自分だけが知ってるとの密かな優越だからか。







    ふいにドアノブの回る音がした。
    「帰った。変わった事は無いか。」
    聞き慣れた舞台役者ばりによく通る、美しいがおっかない帰還の一声に、
    ガラにもなくしんみり眺めていた悪ダチ同士が、文字通り飛び上がった。
    あばばばっとルージュや櫛を隠すが、視線は既に寝顔に貼り付いている。
    「…塗ったくったのはどっちだ。」
    返事せずとも目線で正解を選び取った右手が、まっすぐに胸倉へ伸びた、

    ぱし。
    「…、」

    届く寸前の右手を、その下から伸びた左手が包み受け制めていた。
    なぜ制めると訝る顔に静止したままキロと眼の動きだけが応える。
    「あ…ああ、その…悪気…は、」
    ぎぎ…と、掴んだまま力ずくで筋肉の盛り上がる腕を下ろさせる。
    特に頑張っている様子でもない、厳しい顔立ちは穏やかなままだ。
    このご面相で極めて…温順で我慢強く波立たない性格ではあった。
    た、助かった?

    滑るように、ソファーの前に来てしゃがんだ。
    額に触れる、手首に真珠色の環が浮き上がる。
    微熱は上がらないままで下がったらしかった。
    掌にすっぽり入る肩に手を掛け、軽く揺らす。

    「…………。」

    枕元に三つの白い影がぼんやり浮かび濃くなってゆく。
    寝コケていたツレが薄目をぱちぱちし、口を動かした。
    おかえり、と息だけで。
    「確認したいがいいか。」
    片手が合図用の小鏡を出し、その顔の前へ差し出した。
    ???、と、ぽけらっと見ていた目が、大きくなった。

          ガバッと飛び起き…るが血圧低いせいでヨタる。
          ぴょんと使い魔どもが跳ねわちゃる、混乱混乱。
          両肩を支えて座らせすくりと立つ、姿がブレた。

    ――― ぶん ―――

    何が起きたか皆が理解するまでに数秒を要した。
    ソファーの横を大の大人が伸身縦回転で舞った。
    天井の高さと受け身の訓練が無ければ死んでる。
    着地はケツから。
    「!!!!!!」
    人間、本気で痛い時には声なんか出ないものだ。


          「ルージュはカップが汚れる、…と言っている。」
          大将に負けず劣らずの低音イケボが理由を説明。
          片腕と背でブン投げてからごくごく平静に説明。
          着地の角度考えて投げるからダメージそこそこ、
          だが重力消されるコワさは味わってみれば解る。
          傍であり得ない光景を見るコワさも、以下同文。


    「…それもそうだ。礼儀というのは大切だ…が、」
    大将の呆れた流し目がケツと同じくらいイタい。
    「当人が嫌かどうかを確かめるほうが先、だな。
     すまなかったな、次から順序に気を付けよう。」
    いや待て気を付けるべきはお仕置きの程度では?
    「時に、カップにつかないタイプのルージュも
     最近はあると聞くが、…ああ、ただの雑学だ。」
    座ったままほよほよと首を横に振られ潔く撤退。


          細い指がちょちょいと動くと真ん中の使い魔が、
          脂汗流して悶絶している丸刈り頭にスポと装着。
          ピンクに塗られた唇が塗った相手を向いて呟く。
          歌うようなその声が優しいことを皆知っている。
          びっしり浮いていた脂汗が見る見る引いていく。
          ふはーっ…と、詰めていた息を吐き顔色が戻る。


    ふらふらーと立ち上がるとユニットバス方面へ。
    ふわふわと三体の使い魔たちが後をついて飛ぶ。
    「頭を冷やしてついでに洗う、…と言っている。」
    「長湯は良くないぞ、よろけているが大丈夫か。」
    一歩踏み出しかけた大将の前へ長身がスと移動。
    動線を華麗に遮っておいて手首をじいっと見る。


          顔を動かす前にキロと目だけ向ける独特の仕草。
          き…来たこっち来た…何…でしょうか逃げたい。
          「眉は助かるが次は石鹸かローションを頼むと。」
          …は?、…と固まる、…大将がうんうんと頷く。
          「肌が傷むからな。形は悪くないとオレも思う。」
          「顔剃りの代金が浮くのは助かると。…それと、」


    耳元に口を寄せるとぼそぼそと、小声が囁いた。
    ツレのそれはくすぐったく可愛いばっかりだが。
    言われた意味を反芻し理解すると、腰が砕けた。
    「…言っておくが、思い出すのはお前の勝手だ。」
    ぞぞぞと鳥肌が立って脂汗がだらだら流れ出す。
    「…自分がやられて嫌なことは仲間にはするな。」


          大将が名前呼びながら何度か揺さぶってきたが、
          けっこう長いこと反応できずにいた…気がした。









    「それからあいつらには平謝りすると決めてる。」
    「食べないならくれないか。冷めてしまうだろ。」
    「何皿食うんだよどこ入ってんだアホだろお前!」
    有り合わせの田舎風煮込だがあいつのは美味い。
    フライパンで手焼きしたでかいフォカッチャを
    添えて食べると絶品だ、生地も何か独特だった。
    制されてむくれながらクラムで汁までさらえる。
    「何がどう怖かったか今イチ解らないんだがな。」
    「説明ヘッタクソだよな。整理整頓して話せよ。」
    「まず最初のSFホラー?どんな話だったんだ?」


          謎光線だかなんだか浴びた男がどこまでも小さくなる話だ。
          「仕事」の待ち時間にどこぞの書斎で読んだ英語の児童書。
          主人公は元に戻れず最後は原子レベルの世界へ紛れ消える。
          何かのハズミでもし「能力」の歯止めが壊れたらどうなる。
          コントロールできるつもりでも「能力」には謎が多いよな。
          はじめ笑っていたがだんだん真顔になり顔色が悪くなって…


    「…それをアレに言うとか…」
    「…悪趣味にも程があるな…」
    呆れる氷点下の三つの目玉。
    悪かった、反省はしている。
    反省嫌いだが今回ばかりは。


          「で?最後の囁きの内容は?」
          「…言いたくねぇ…怖ぇ…。」
          「ビビリが他人は脅すかよ?」
          「る…るせ…言うよ…言う。」
          思い出したくもねぇのによ。


    気が付くともう間合に入られている。
    初動が大概追えない、足音もしない。
    東洋系だからか体臭ってもんも無い。
    ニンジャってやつは実在するんだな。
    僅かにザラつく低いイケボの説得力…



    ――― お前の入った鏡の前に同じ鏡を立てたらどうなる ―――



          ああ、とクソ生意気が顔見合わせる。
          「出口を間違えたらどうなるのかな?」
          「うわぁやめろ怖ぇだろーがあああ!」
          「まあ思い出すのはあんたの勝手だ。」
          「だから反省してるつってんだろぉ!」
          けらけら笑って手付かずの皿を略奪。
          「食欲無いだろ、やっぱりもらうよ。」


    だがしかしクソ生意気の片割れ沈黙。
    手が止まっている…眉間に深い縦皺。
    「…どうしたんだい、食べ過ぎかな?」
    ぼそぼそ…と返答、よく聞こえない。
    「うるさい属性なのにどうしたんだ?」
    「この話の怖ぇのはそこじゃあねえ…」
    カップを持つ手が震え水面が揺れる。


          伊達眼の奥の三白眼のまばたきが無い。
          「寝てたんだよな…ホラー話してた時。」
          は!と、両サイドが気づいて凍結した。
          あいつの睡眠はそれはハンパなく深い。
          カーチェイスの最中だろーが熟睡する。
          寝たふりなど有り得ない、なにせ多忙。
          隙あらば回復しないと心身共もたない。
          「…おっかねーのは…どっちなんだよ?」


    あれだけ深く眠っていても情報入れてる側なのか?
    熟睡中に聴いた事すら読み解いてしまう側なのか?







    「…そんなこともわかんねーのか?」
    むくり…と、ソファーから起きる影。
    アイマスクの下から鮮やかな青い瞳。
    女神が金筆で描いたような眉が寄る。
    「ぐだぐだうるせえ、寝られねーぞ。」
    つかつか寄ってフォカッチャを掴む。


          血の気の引いた三人尻目に丸かじり。
          「美味ぇ。それ手付かずか?よこせ。」
          無造作に略奪しエレガントに食らう。
          「目ん玉どこにつけてるんだかなぁ。」
          「なんだよ小姑。てめえ判んのかよ。」
          「誰が小姑だッ。もう一人いただろ?」


    そいつだよ、と…目に染みる青い瞳が笑う。
    「ソレを普通に拾って普通に扱う怖ぇのが。」
    とても真似はできねーな…と回すフォーク。
    「アレも一種の魔法かも、と思う時がある。」
    雑多な鬼才を受け容れる魔法、生かす魔法。
    故郷を囲む海よりも広く深いその稀有の懐。




    …違いねぇ、と気が晴れた。













    そんな日だってあったのだ
    あれはいつのことだったか
    思い出せないその暇も無い
    もう痛みも無い融けてゆく
    寂しがりの魔法使いが憩う
    そんな日が続くと思ってた
    そんな日だってあったのに










    (完)










    原作つきMMDはスターシステムの後継の一つとも思う今日このごろ
    投稿九つ目になりますのでこれにて失礼いたします、多謝多謝の多謝。
    また他ジャンルででも何か書けたら楽しいな。



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  • 後書きのようなもの

    2019-07-20 23:20






    この拙い文を最後まで読んでくださる方がおられたなら。
    貴重なお時間いただき、本当にありがとうございました、
    ご不快は無かったでしょうか…それだけが気がかりです。
    ジョジョの奇妙な平行世界の一つ…
    ですらない、単なる私的な実験レポートでありましたが。
    さて実験は成功したのか失敗したのか…

    区分けは「ジョジョ五部MMDの二次創作」でしょうか。
    技術の進化と発想の自由闊達さには目を見晴らされます。
    たまには年齢相応の無駄息子だとか邪神コロネ暴走とか、
    お仕事を選ばない涙ぐましい暗チだとか、
    暗チのいる日常だとか、暗チの有効活用法とか、
    暗チのキャラ崩壊とか、暗チのドタバタ青春劇とか、
    暗チとちいさいのだとか、静画と動画で始まる謎解きだとか、
    リーダーが細部は完璧なのにズレてるとか、
    なんという影響力か…MMDっていいなぁ…学ぶしかないな!
    職人様がたに対しては伏して感謝申し上げる他ございません。

    ソルジェラさんを生き証人として解説してもらうという目的で、
    一番傷が少なくて身体が丈夫そうな人に居残ってもらいました。
    だがッ!ジャンプならッ!嘗ての強敵は最も頼れる味方のはず!
    そんなばかなアンタは死んだはずだあッ!は日常茶飯事のはず!
    ゲームとかには絶対使えない個性的なスタンドがいいなあとか…
    ソルベさん一言(断末魔)だけか残念、じゃあ静かな人でとか…
    ジェラさんCV無いのか、寂しいな喋るなということか、とか…
    原作ジェラさんは凛々しく、ソルベさんは渋く、良い男ですね。
    物語の二年前に亡くなっているのでメンバーとは二歳ズレると。
    弱い人が取られたなら皆の怯えとの合いが悪いので強かろうと。

    スタンドって魔法だよなースタンド使いは魔法使いだよなー
    そんなところから入っています(が最推しは波紋の初代様)
    うっかりモバイルとエロゲ投入したのはオーパーツでした、
    あと…ティッツァごめんティッツァごめんごめんごめんな!
    恥パで戻ってきたフーゴさん側近で活躍しているだろうか、
    シーラ嬢もムーロロさんもポルさんもお達者か。などなど。


    とりとめもなく。
    当方、十数年ぶりのファンアートです。
    では、これにて失礼をば…(深々礼)


    京アニ…辛い。
    国の宝たる夢売り職人が…
    …辛い。辛い。


    こんこん 2019.07.20


  • 二次創作 狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~ あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 その6(完)

    2019-07-20 23:16





    *******************************
    エピローグ、おとぎ話の大団円…といえば聞こえは良いものの、
    こっから先は趣味しかありませんがお覚悟よろしいでしょうか?
    いんじゃね?と仰せの勇者のみスクロールお願い申し上げます。
    *******************************

































    四月。

    しばらく寒暖を繰り返したネアポリスはここ数日の陽気に華やいでいる。
    町には観光客がそぞろ歩き、見下ろす庭園のそここには春の花、
    新たな側近を迎えたあの日と同じにジョルノは風に吹かれて窓辺に居た。
    ただしメンタルは壊滅的だ。

    「…詳しい説明を聞きたい…。」

    震え声を聞き、傍らの飾り台の上の亀が申し訳なさげに頭を引っ込める。
    背後に控えた側近たちが顔を見合わせた。
    全員既に「それ」をゲットし済みだった。

    「シーラ。」
    片目に星をメイクした美少女が踵を合わせる。
    「はい、ジョルノ様。」
    「君はどうして貰ったの。」
    序列6位、シーラE、パワー型スタンド戦士、親衛隊先鋒・兼・遊撃隊。
    「葬儀の騒ぎで「シロッポ」と「カッサーティナ」にアレを見せるなと
     事前に言われましたが、彼らが望むので止めずに最後まで見せました。
     理由を言わねーとシメると言われたので、彼らの言い分を伝えました。
     あなたは優しいから、悲しいから、怖がったりしないで見たかったと。
     あなたはやはり優しい、ひどいことのようでも苦しませなかった、と。
     本部十週走らされましたがその翌日。ガキ共がねだるから持っとけと。
     以上です。」
    むうっ、と緑の目が睨む。
    「仲悪かったんじゃあなかったの君達。」
    「よろしく付き合うようにとおっしゃったのは他ならぬジョルノ様です。
     私が彼らをクズと感じたのは、任務を楽しんでいるかに見えたことと、
     麻薬利権に執心があるように見えたことですが、どちらも違いました。
     よその部署や幹部達のように、私を小娘とあなどりもしませんでした。
     彼が私を嫌ったのは、毎度嬉々として経費の申請書を突っ返してくる
     嫌がらせ側だったからですが、私が遺族と知ると態度が変わりました。」
    「仲直りしたのは良いことだけどさ…それは喜ぶべきことなんだけどさ…」
    整然と説明されて釈然とせず爪を噛む。

    「仲直りとも違いますが彼は有能です。」
    「ああ解ったよ仕方ないな。ムーロロ!」
    序列7位、カンノーロ・ムーロロ。
    ボルサリーノ帽がトレードマーク、情報部の凄腕、護衛も兼ねる。
    左頬が腫れて派手な青タン作っている。
    「はッ。」
    「どんなこすズルい手を使った?」
    整ってはいるが暗めで地味な顔立ちが複雑な表情を浮かべて答える。
    「ジェラートとソルベにあしらわれ、顔すら忘れていたというのは
     私にとって非常な名折れでありましたので、例の動画を熟見して
     彼らの肖像画を描いて贈りました。…すると胸倉を掴まれまして、」
    「それで、それ?」
    左顔を指差す。
    「いえ。こういうのの描きかた教えろオレは絵心がねーからな、と。
     しかし自覚なしのウソですな、絵心無しであの美しいスタンドの
     形状再現など無理、コツさえ掴めば…と答えたら、渡されました。
     要するに授業料です。…強制ですがね。」
    「じゃ…じゃあなんで殴られてるんです!?」
    それは、と、帽子のつばを摘み俯く。
    「口が滑ったのです。「その時」もしもソルベが指示通り逃げれば、
     二人とも助かったのではないかと思う、ジェラートなら芝居でも
     駆け引きでも何でもして、旧親衛隊ぐらい手玉にとったはず、と。
     ブン殴った後、てめーは全然解ってねー、と踏んづけられました。
     虎の尾を踏んでこの程度で澄んだのは、絵が気に入ったからかと。」
    いや芸は身を扶くとはこのことですな、とかペラと写真を向けられ、
    若いやんちゃな彼と二人が仲良く描かれている睦まじい絵面を見て、
    色白のこめかみにピクピク青筋。

    「あざとい!ポルナレフさんは!?」
    亀を振り返る。
    『立ち話をした。』
    のそり、と首を上げた亀が咽喉を震わせ奇妙な「声」で答えた。
    序列2位・ココ・ジャンボことジャン・ピエール・ポルナレフ。
    今は亀の肉体の中だが歴戦の勇士、暫定だが組織の参謀トップ。
    『三つ質問され答えた。それだけだ。』
    「聞かせてもらっても構いませんか?」
    飾り台の前にしゃがみ亀と目線を合わせる。
    現実離れしたファンタジックな画だが王子然とした容姿が妙にハマる。

    『構わんよ。「人の心にすげー敏感な奴が、特定の誰か一人にだけは
     やたら鈍感なのはどうしてなんだ」とか。私は専門家じゃあないが。』
    ジョルノが大きく目を見開き、顔を寄せる。
    「それは僕も聞きたいです。どうしてでしょうか?」
    生死の境でも変わらなかった不可思議な優先順位。
    亀がゆっくり頭を振る、
    『甘えたかったんだと思う、と答えた。何かとても嫌な辛い目に逢い、
     その人だけは安全、無防備でいていい人、そう決めていたのかなと。
     敏感であることは警戒があるということだ。装ってるうちに本当に
     そうなったが、それは幸せな約束事だった。…納得したようだった。
     専門家の見解じゃあダメなんだそうだ。そういうのは違うんだ、と。』 
    「…なるほど…他には?」
    台の上、顎の下に手を重ねる、…あどけなさの残る少年の横顔。

    『誰かの名前を絶対に呼ばない奴がいた、他人に紹介したりする時は
     その名を使うんだが、何故だか解るか、と。』
    「そうだったんだ?へえ…、それはどうして?」
    先生を前にした学生そのものだ…こういう瞬間があれから増えた、と
    シーラとムーロロが同じように思い見つめる。
    過度に張り詰めた痛々しい感じが薄れ、代わりに柔軟さが増している。
    何もかも独りで背負い込もうとし「過ぎ」る近寄りがたさが遠のいた。
    『自分だけが知っている、何か別の名で呼んでいたのじゃあないかな。
     たとえばだが、出生届にある本名。二人きりの時や、心の会話では。
     口には出さなくとも、相手にとって特別な存在でいたかったのかね。
     私には日本の友人が何人かいるんだが、何か共通した気配がするよ。』
    「…そう…ですね。そうかもしれない。」
    語らず察し合う国で生まれたジョルノには響くものもある。
    どこからどう流れ着き寄り添ったのかは、知る由も無いが。

    『三つ目だ。いつかはあいつらのために泣いてやれるんだろうか、と。』
    「それは…」
    質問ではない、との語尾をジョルノは飲み込む。
    サバイバーズギルトというが「考え過ぎではない」から逃げ場が無い。
    救う場面と方法は明確に在り且つ彼と彼らにしか出来ないことだった。
    「サルディニア」の意味を聞くだけで師の終幕を読み解くほどの男だ、
    幾千幾万の言葉を連ねようとも、聡き者の自責を打ち消す魔法は無い。
    愛おしむ心や笑みを取り戻してもそれは常に取り戻せぬ現実と一体だ。
    自らへの罰にしか向かわない、赦す方向である涙…どう取り戻すと…?

    「…答えたのですか?」
    『私にも解らない。…が、代わりに泣いてくれる者もいる。大切にと。』
    なるほど、求められたのは専門家の「見解」ではない。
    ほう…と息を抜き、午後の光の中、明るい緑が潤んだ。
    「彼は、なんて?」
    『黙って、私の背中に「これ」を落とした。』
    ポウ、と亀の背の上に魔道具めいた一本の鍵が浮かんだ。
    氷色のアクアマリンと金茶のキャッツアイが光る、古風な美しい造り。

    しかしそれが現れた途端、せっかく感動的だった空気がいきなり全壊。
    機嫌直しかけていたジョルノが今度は憤慨せず垂直降下で落ち込んだ。

    「なんで…なんで出歩かないポルナレフさんにまであげてるのに、
     僕にだけ鍵よこさないんですか??ミスタもフーゴも、とっくに、」
    振り出しに戻…りかけたが、

    「そりゃあ君がいけないなあ、ジョルノ。嘘やタテマエは禁物だ。」
    穏やかに微笑みながら豪奢な金髪の美少年が入室し場が華やいだ。
    窓辺に観葉植物の鉢植えを置く序列4位、パンナコッタ・フーゴ。
    ジョルノの参謀にして影武者、お兄さん、いざとなれば最終兵器。
    「契約の件は僕と一緒に許してくれているけど、その後がダメだ。
     聞いたよ、君、彼にしょっちゅうチャージしに行ってるだろう。
     使わないとパワーが落ちるから役立ててあげます、とか言って。」
    ムッとした様子でジョルノが立つ、
    「だって、首やっちゃったせいか時々頭痛がするって聞いたから。
     レクイエムから無理に引き出した力が不安定なのもほんとです、
     ちっとも使えない時もあるんですよ、べつに嘘もタテマエも…、
     だいいち傷の補修したの僕なんですからね、責任というものが、」
    「そのタテマエが嘘だから逃げられているんだよ。勘がいいんだ。
     基本、触られるのが嫌いなんだと思うよ、僕も苦手だから解る。
     ガード固いだろ、衰弱してた時に立て続けに痛い目みてるもの。
     恩師を「そういうの」から護るのに悪戦苦闘もしてたんだって?
     それを嘘ついて触りまくったら、いくら味方でもヒいちゃうよ。」

    話の意味を悟ったシーラとムーロロの眉間に同時に縦皺が寄った。
    フーゴは相変わらずニコニコしながら、理論武装をポイ捨てされ
    一気に旗色が悪くなった新米ボスに顔を近づけて、声を落とした。

    「認められたい人に褒められたりお礼されるのは嬉しいもんだね。
     で、恩着せてなんか良いこと言って、見返りを期待…違うかい?」
    「~~~!!」

    ふしゅううっ、と、絶世の美形が耳から湯気吹くほど赤くなった。
    いじけ虫のいじめられっ子だったジョルノに自信と信頼を教えた
    原体験の相手は、親でなく不言実行の律儀なギャングだったとか。
    ブチャラティだって、誰もが知る親分肌の生真面目な男前だった。
    判り易い正解のしるしに、ああ…と、親衛隊の姫が頷く。
    「目下のご寵愛というわけですか。」
    認めてほしいとジョルノ・ジョバァーナに思わす格の漢は稀だが、
    稀だけにいざ出会うと…つまりこうなるようだ。
    「ついでにスキンシップにお目覚めになったと。」
    「わざと誤解を招く言い回しを選んでないかな!」

    男惚れ体質とでも言ったらいいか。
    共感し命がけででも望まれる形を顕したくなる。
    なおお近づきになる手段を致命的に誤った模様。

    『言ってはナンだが君の回復能力自体もかなりその、印象がな…。
     傷塞ぐのにフォークブッ刺したと聞いたが、どうかと思うぞ…。』
    「だ…だって出血…血を補充…しないと」
    遠慮がちに亀参謀が追い討ちカマし、気にしてなかったボス蒼白。
    敵じゃあないのにイタイコトする獣医師が患畜に噛まれる構図ッ!?
    しかも野生動物と仲良くなろうと触り過ぎて警戒されまくりかッ!?
    ふむ、と、多芸な古典的ギャングもニヒルに笑った。
    「ああ目立ってはじゃれ合いすら憚られる、鬱憤も溜まりますか。
     素直に頭ポムポムしてくださいとおっしゃるのをお奨めします。」
    「そういう余計なこと言うから殴られるんだよ君はーッ!!」

    実際…
    ジョルノの狙いどおり、彼は呆れるほど役にハマり「目立った」。
    あの日、夜まで昏睡し目覚めた彼は一言だけ言った。
    「オレを有効活用してみせろ。」
    望むところをド正面から突く再起動の覇気は、武者震いを誘った。

    齎した「効果」が最高の舞台で最大限に発揮されたのはつい先日。
    去る四月六日、ブローノ・ブチャラティの命日をもって、
    新旧交代劇で逝った友たちは新設の「功労者の墓所」に葬られた。
    ジョルノの盟友ブチャラティ、アバッキオ、ナランチャ。
    旧ボス配下だが恩ある後見人、ヌンツィオ・ペリーコロ。
    加えて旧上層部の不実不正に初めに非を鳴らしたとして、
    リゾット・ネェロを筆頭とする悲運のアサッシーノ八名。
    嘘でもないが本当でもない。
    人たる所以をくれた者への感謝と懺悔に殉じたなどと、誰が知ろうか。
    過去の彼らの功績を組織として遇するのは難しく、英霊も必要だった。
    組織の懐刀からの転落劇も目を引く容姿も若さも、それに適していた。
    茶番だが泥の底よりはマシだ、役に立ってやってくれ、とは彼の弔辞。
    実像の冒涜をあれほど憎んだ男だが、黙って片棒を担いでくれたのだ。
    タテマエが何であれ、彼らは紛うことなき「功労者」だったのだから。

    その際、影武者を用いず自ら献花する首領「ジョジョ」の首を狙って、
    麻薬利権の旨みを忘れられない裏切者の一団が、葬儀の場を襲撃した。
    下克上の期に漏れず、ジョルノは歴然と強く聡明な本物の腹心のみを
    序列の上へ置いたので、ディアボロ相手の「世渡り」巧者ほどそこに
    食い込むことを許されず、それを我慢出来ぬ一定数は想定されていた。
    小僧に頂点に座られたばかりか小娘や苛めぬいてきた暗殺屋までもに
    序列の上へ並ばれた悔しさも、仕返しされる危機感もあったのだろう。
    後に言う、新生パッショーネ最後の動乱だ。

    きな臭い動きは事前に予測されていたものの、規模の桁だけは違った。
    手を組んだ他国の麻薬ギャングの一個小隊と重火器までも持ち出して
    幹部たちの家族を人質に迫った敵「軍」に、
    これも後に言う「ジョジョの盾」たちが研ぎ澄まされた牙を剥いた。

    序列3位、グイード・ミスタ、百発百中、魔弾の射手。
    快活な平素から一転、急場での静かなる集中を武器とする、最側近。

    そして序列5位、ギアッチョ。
    Tigre di ghiaccio 、誰が呼び始めたのかは定かでない。
    完全復活したその肉体は、銃弾も刃も炎すらも一笑に付す白き魔獣。
    向けられた火器の束を捕捉不能に突き抜ければ爆薬が順に凍り付く、
    腕の一振りは人質たちと襲撃者どもの間を硬い氷壁で完全に遮った。
    人質を奪還された敵の乱射は足元から突き上げた氷柱にかき乱され。
    両脇に追い付くシーラとムーロロ、背後からピンポイントで敵兵を
    片端から撃ち倒すミスタ、三人共まるで生き物のように生成消滅を
    繰り返す氷壁に護られ掠り傷一つ無く、重火器は忽ちスクラップに。
    可憐な分身を三体同時に高速操作した師に手を叩かせただろう精妙。
    以前より伸びた効果範囲に加え地下の水道管がとどめに活用された。
    「メッセンジャーを、二人。」
    命令に傭兵二名が紙屑のように飛ばされ、生き残りどもは地表から
    噴き出た水が巻き上がり凍ったドームに数瞬の間に追い込められた。
    恐怖し中央で犇く眼前、真半球の穹窿越しの包囲。
    丘を吹き渡る風、四枚の盾と黄金の「ジョジョ」。
    「…「躾」を。」
    静寂、上がる腕の優雅。
    双眸に白熱の憤怒のみ。

    「ホワイト・アルバム…「グラス・オニオン」。」

    フィンガースナップ一つ、直後、ドームが破裂。
    「内側」へ。
    轟音は遅れて響いた、氷は虹纏う飛沫と化し煌いた。
    残された二名の絶望の唱が、丘の上の墓所を彩った。
    「ジョジョの友」の弔いを穢した末路は一塊の赤いオブジェであった。
    漆黒の狼と鷹の頬を緩ませたであろう華麗なる殲滅のイリュージョン。
    密閉状態で内部の気体を座標を絞り一点凝集・固体化する減圧攻撃だ、
    真空中での損壊と全方位から刻む氷刃、惨くはあるが苦しむ暇は無い。
    あの日のジョルノの言及を上位互換した、超絶技巧のお披露目だった。
    常人の目には魔術にしか見えない、下手するとスタンド使いの目にも。
    唾棄の対象であった暗殺のイヌは三年の時を経て魔術師に返り咲いた。
    虚脱状態で二名が送り返された後、パッショーネにちょっかいかける
    裏社会の者は絶えて無くなり、組織内も格段にまとまり引き締まった。
    人質の家族を救われた幹部たちの深甚な感謝と心酔は言うまでもない。

    街を保ち共存する為には組織内の不実も不和も有ってはならなかった。
    ハンパな強さゆえに外部からの侵略を許すのも有ってはならなかった。
    圧倒的な力と美、加えてエンターテインメント性を兼ねた「親」。
    自身の絶世の容姿をも活用したジョルノの組織再生の戦略だった。
    かつて戦った敵を強く欲するようになったのも、構想の要として。
    唯一無二の威と型にはまらず読めない行動様式をもつ最強の衛士。
    操るのは、世にも稀なる「可視のスタンド」、それも実に美しい。
    組織の雄飛を支えた鬼才らの手になる「最高傑作」たる氷使いは、
    葬儀以後組織のスタンド戦士を畏怖と崇敬をもって完璧に束ねる、
    そのうえ転落を生き抜いたからこそ幹部個々の性格と泣き所とを
    実によく識っている、睨みが効く、ここまでの適任者は他に無い、
    危険上等で求めたのは「最強最美のワル目立ち要員」なのだった。
    この存在のトンデモさを前にすれば、美貌で小僧の首領だろうが
    亀の参謀長だろうがまだあどけない美少女の鉄壁だろうが普通に
    説得力をもってしまう、新旧交代劇の無理すぎる設定すらも霞む。
    まだ腹心が少なくおぼつかない状況を乗り切るための苦肉の策だ、
    ずっとそれで通す気は無い、が経験を詰み人材を充実させるまで。
    策士フーゴも勇者ポルナレフも快哉を叫ぶ上出来のド反則だった。

    …ただし…、「多少の」誤算は生じた。

    「本当にカッコ良かったんだよ!演算のくだりとかは凄かった!
     あれ見たら君らだって絶対シビレる、葬儀も捨てがたいけど!」
    一つは…首領自身が番犬ならぬ番虎に喰われまくっていること。
    戦闘中子供を気遣うブチャラティに即陥ちした性は健在だった。

    もう一つは、ジョルノの予感どおり、というか予想の斜め上に、
    本当に、文・字・通り!、彼がジョルノの支配を無視したこと。
    敗因はおおむね契約書の最後の特例的「補則」。
    「Mago di Santa Chiaraの矜持に反すまじきこと。
     これは前述のあらゆる項目に優先されるものである。」
    (意訳:リゾット配下のままで良いので就職ようこそ)

    組織最強「野良幹部」ここに爆誕。

    がしかしこれが無ければ彼が親衛隊に居つくことも無かったのだから、
    笑顔でちょこちょこっと書き足したフーゴの判断は間違ってもいない。
    『しかも蓋を開ければ最善の処遇だぞ。』
    「聞きました、マインドセットでしょ!」
    狂獣のようだった脳の癖を否定せず生存率を上げようとジェラートが
    彼に擦り込んだ「仕掛け」が多数あるため、優先順位が複雑だとの話。
    座標確定のフィンガースナップや要回復時の爆睡など単純なものから、
    (ある程度のセルフヒール可能→寝たきり時にも反復使用で筋骨維持)
    クールダウン遅延対策で敵を意識した時は無関係な事でキレとけとか
    ナゾなルールを抱えている、不用意な命令は下手すると命取りになる。
    内分泌いじると他に影響が出るから個性を削るよりは足し算でいこう、
    もっといい方法が見つかったら修正しようねーと掛けたまま施術者が
    居なくなったから、野放しで動かしてバックアップするのが最善策だ。
    「冗談抜きで「魔法で人にした獣」だったってわけさ!
     マナーの躾までこなすとか、女将さんがプロすぎる!」
    モノがボンクラならともかく超高性能の戦闘マシン、精密機器同然だ、
    優先順位の衝突の恐ろしさは思い知った、手を加える勇気は…無いッ!!
    「なんで気付くんですフーゴ、頭どうなってるんです?」
    「勘さ。キレるタイミングとネタがね、何かあるなと。
     順当な内容でなら、僕よりよほど沸点の高い人だよ。」
    「手綱をつけるのはお諦めを。無駄ですよ、無駄無駄。」
    「葬儀の時にもキレかけましたが、ミスタ様は普通に宥めてましたよ?」
    「ほんと!?どうやって!?」
    「漢同士のヒミツとか。」
    「何それ教えない返し!?」

    貯金ねーから借金返すまでは働く、と、ぶっきらぼうに言った氷使いは、
    今日も「同志」たる小さな部下二人と本部の内外でワル目立ちしている。
    幹部扱いで本部内にオフィスと私室を設けても、滅多にそこでは寝ない。
    サンタキアーラのあの古巣の鍵を交換し、大抵はそこへ戻って休んだ。
    部下のスタンド能力で合鍵の作れない錠を設けてしまったものだから、
    鍵の無いジョルノは入り口まで行っても立ち入らせてもらえなかった。
    「僕だけ露骨に避けといてあの馴染みよう、ちょっとないと思うんだ!」
    窓から庭園の隅を見下ろすと、盟友たちの和やかな様子に妬きまくる。
    ベンチに掛け長い脚を組んだギアッチョはカッサーティナに髪を預け、
    春の日差しの下で何かの文書をめくっていた。
    ミスタは息を切らし、シロッポが投げ上げる小石を追い続けている。
    地面へ落ちる前に拾うだけだが、一度に落ちてくる数が増えるほど
    加速度的に難しくなる。
    ソルベからの教えをギアッチョが伝え、今はミスタが没頭している。
    強力なスタンドがあろうがまずは素の地力、流儀に完全同意してだ。
    「いいなあ…混ざりたい。」
    頬杖ついてジョルノが呟き、側近達が笑みを堪えた。
    意外にも、一番懐かれてるのは誰が見てもミスタだ。
    師らの愛おしい本質を初めて解ってくれたスゲー奴。
    ポルナレフとフーゴが異口同音言ったから、それで正解なんだろう。

    「どーせ僕なんかタテマエやハッタリばっかりカマすヤなヤツだよ…
     鍵はくれないし相変わらずクソガキ呼ばわりさ…嫌われてるんだ。
     けどみんなの親になる為にはカッコつけることだって必要でしょ。
     僕の親ヅラしたがる幹部たちにナメられるわけにはいかないもの。
     可愛くなくて悪かったね回復ヘタだし。この世のクズさ僕なんか。」
    混ざりたいまでは微笑ましかったが、幼少の折のいじけモードまで
    顔出すとさすがにマズいとフーゴが焦った。
    「そ、そんなことはないぞジョルノ、考えすぎだって。なあみん…、」
    振り向いて同意を求めるとなんたることか美少女と帽子ギャングは
    揃って横向いてしまい、亀も甲羅に頭を引っ込め沈黙、影武者愕然。
    僕一人で対処しろというのか人でなしッとキレたいのをグッと堪え、
    滅多なことでは落ち込まない上司を慰める方法を必死で探り寄せる。
    「よ、呼び方はほら、愛称、親しみの表現なんだよきっとそうだよ!
     それに君、最後に二番目の動画をちゃんと見せたんじゃあないか!
     最悪の事態を防げたのは君だからこそ、大丈夫、自信も…って…、」
    言えば言うほどぐたーっと窓枠の上で脱力していくのに気付かされ、
    天才フーゴはナニカを間違えたのを悟った。
    「…違います…それ僕じゃあない…。」
    マジか、まだなんか隠してたの、それはさすがにカッコのつけすぎ…
    あー詰んだよどうしよこうなったら最終兵器バケツプリ…

    「おいクソガキ。」

    真後ろから空気読まない一言が全てをブッ壊して沈没は阻止された。
    えっえっ…あっ…と、窓から転げ落ちかけたジョルノが下を見ると、
    いい汗かいたミスタとおちびたちが三人でイチゴケーキ食べていて、
    今しがたそこに居たはずの声の主はかき消えていた。
    なバカな…、ショートカット?テレポート?日常がイリュージョン。
    「はい…移動速度オカシイです。」
    「オカシイのはてめえだボケが。」
    普通に…速度が普通でないだけで…非常階段ダッシュしてきた男は
    まっすぐ入ってくると丸めた書類でノーガードの首領を張っ倒した。
    「はぅ!?」
    巻き毛の頭が隣の影武者の胸にダイブ。
    「ちょ、ギアッチョ様、ぶたない!ダメっ!」
    制止するシーラ嬢の口調が猛獣使いっぽく聞こえるのは気のせいか。
    ムーロロおじさんはポルナレフおじさん片手にドア近くへ避難済み。
    「三日・前に・言った筈だが。」
    ぽこぽこぽこと巻き毛の上を書類ロールが跳ねる、声が低いコワい。
    一応ぶつのは止めてくれてる…猛獣使い有能…これが天敵パワーか。
    「す…進めてます…ジャンルッカさんと…調整中で、」
    頭ぽむぽむはものすごくされたいが断じてこういう意味じゃあない。
    何に怒ってるのか言う前に毎度こんなだが意味は解った。
    彼が唯一特に印象悪くないという幹部・小ペリーコロの名を出すが、
    「進めんじゃあねー「決定しろ」そんで「公表しろ」スットロいわ。
     いつまでオレとヤツに保育園やらせとく気だ。」
    えっ…と、金髪美形二人驚愕し、事情を悟った。
    「わざとやってたんですか。何かあったんですね。」
    フーゴが問う、当然だ、と三白眼が睨むとシーラの顔も曇る。
    見直せばケーキ食べつつミスタも油断なく目配りはしている。
    猛獣どものお気に入りをアピールしておちびたちを庇っていたのか?
    「ワル目立ちはオレの仕事だからガラじゃあねーがべつに構わねー。
     ウゼぇジジババがこっちまで寄ってきやがんのも我慢はしてやる。
     だがガキどもが直接接触されるまで待遇決めらんねーグズは別だ。」

    ぽいっと投げ出した書類が散らばる、
    養子縁組の陳情書に混じり意匠を凝らした紙に甘い言葉書き連ねた
    歯の浮くような「ラブレター」の数々。
    若ボスに恩売っておちびも取り込んで身内の輪に入ろうというのだ!
    「なんて掌返し!カッサーティナは売り飛ばされる寸前だったのに!」
    高価な香水の匂う一枚を拾って読んだシーラが吐き捨てた。
    その少女は現在九歳だが、三年前の「捕獲戦」でドリシアを捕らえた。
    わけもわからず連れて行かれて、物陰を通ってきたヘッドフォン型の
    小さな天使があまりに綺麗だったから、つい捕まえてしまったという。
    近くに居た怖いオジサンが幽霊の腕で取り上げてあっという間に壊し、
    可哀想で悲しくてわんわん泣いた…能力に弱い暗示が含まれるために
    それを忌み嫌った旧親衛隊に冷遇されていたのを、その悲しみだけで
    ギアッチョは赦し「シーラ姉さま」の下に就けた。
    「父親の捜索?…いまさら…」
    十二歳のシロッポ充ての誘いを見つけると、ジョルノも眉を寄せた。
    ジェラートがただ一人姿を残すことを許した、あの動画の撮影者だ。
    カメラの揺れはぶつかられたのでなくスタンドを追ったためだった。
    ドリーム・シアターの飛行の癖を知る者の外では有り得ない気付き。
    分身を天使と褒めてもらえたことを喜んだ二人が記憶を彼に託した。
    分け与えられた「特別」がその人生の支えとなることも計算済みで。
    この子は能力者だ、絶対に困っていて孤独…ギアッチョの読み通り
    見えないものを見る亡妻の連れ子が怖くなった父親に女と逃げられ、
    たらい回しでいたのを、組織の養い子として保護されていた。

    「すみません。…まさかここまで露骨だとは。」
    葬儀の件で心酔は得たものの、いい歳した大人たちが寵愛を巡って
    こうも早くからやらかすとは思わなかった、専横のイメージを避け
    非の打ち所の無い型どおりに事を進めるのだけでは駄目だと知った。
    目を上げると、組織の愚を嘗め尽くした男が深く静かに怒っている。
    素っ気無く表情も乏しいが見出してくれた恩人を子供たちは慕った。
    彼にとっても師らと分身とを慈しく覚えている、彼らは幼き同志だ。
    「あいつらは頭イイ。絶対役に立つ。天然モノってのは違ぇんだよ。
     ペリーコロに無理言え。どうとでもする、大人ナメんなクソガキ。」
    ポケットに片手突っ込んだままの叱咤は、冷たくもあり底熱かった。
    「解りました。彼らはジャンルッカさんの子供になってもらいます。
     せっかくあなたが見つけてくれた、大切な将来の側近ですからね。」

    目配せでフーゴがすぐ退室し、比喩でなく冷えていた空気が緩んだ。
    てめえらついててなんだとばかり亀抱いたままのムーロロ蹴倒すと、
    …繰り返すが「ぶってはいない」蹴倒しただけ、ここテストに出る…
    用は済んだとクルッと反転し、そのまま出て行こうとする広い背を、
    「…あの、待って、」
    と追っかけたジョルノの顔には笑みが戻っていた。
    剣呑過ぎる横目が振り向く、これだけ見たら誰だって二の足を踏む。
    いつ食いかかるか知れない猛獣の佇まいそのもの…ではあるのだが。
    「何がおかしい?」
    にっこにこ笑って迫る首領にヒきぎみに問うてくるのは、カワイイ。
    「あなたでよかった。頼もしいなあ…と。」
    「…ウチなら誰が残ろうがこんなモンだ。」
    その眼は一瞬の間、ここに立ったかもしれぬ師や友を視ただろうか。
    みな若く優れていた、組織に多大な功績あるステルスの英雄だった。
    隙あらば尊敬してた仲間たちを立てる、人恋う獣っぷりも堪んない。

    「かもしれないけど、僕はあなたがいいです。お茶に行きませんか?」
    近づくと同じだけ引いて距離を保つガード固すぎるトコもカワイイ。
    ミスタから漢の可愛さの熱弁講義とうとうと受け済みのせいなのか
    何やってもかっこカワイイ、この人も師らにはこんなだったろうか?
    「…、要らん。交代しねえと。」
    ほんのり汗かいてるカワイイ、ブチャラティなら嘗めてるところだ。
    発想がはっちゃけてる、ストレス溜まってるしシーラもからかうし。
    「イチゴケーキですか、僕も行こうかな、子煩悩なトコもカワイイ。
     襟足のブレイズ、カッサーティナですね、お洒落ですよカワイイ。
     器用な子だなあ、僕も編んでもらいたいです、頼んでくださいよ!」
    ずいずいずいずいコロネが迫る。

    「…~…」
    ごくり…と咽喉が動き、散らかった書類拾ってるシーラを見下ろす。
    しゃがんだまま見上げた美少女戦士は聖母の笑みで首を横に振った。
    「…!…」
    助け求めてる、黙認されて白くなってる、マンモーニ風味カワイイ!!
    軽いフリーズの隙、いつもチャージでするように胸に片掌を当てた。
    「捕まえた。ところで鍵ですが、」
    「オ…オレの傍に近寄るなぁッ!!」

    とうとう本音叫んでドアに飛び込…もうとした鼻先を、わらわらと
    回転するトランプの渦が、能天気な笑い声ケタケタ立てて封鎖した。
    ポルナレフ抱えたまま蹴倒されて右側にも青タン作ったムーロロが
    鼻血たれつつゾンビのごとく手を差し伸べて哀願。
    「ギ…ギアッチョ様、頼みます、いいかげんジョルノ様にも鍵を…、
     イチイチ落ち込まれちゃあ私ども…周りがタマランのです…よ…。」
    「~~断るッ!!」
    ひらっと卓を飛び越え開いた窓側へ逃げながらの返事は既に悲鳴だ。
    「ひどい、なんでですか!!」
    ものすっごい被害者目線で問われ、壁に背中押し付けて怒鳴り返す。

    「なんでもなにも、胸とか腿にいきなり手ぇ突っ込むのやめて言え!!
     チャージなんだろ、痛ぇの消すんじゃあねーだろ、なのになんで
     傷跡に直触りする必要あんだよ、どっから入れても一緒だろーが!!」

    ばらばらばらっ…と、シーラの手からせっかく拾った書類が落ちた。

    しーーーん…

    静寂の中、床方面から六つの目玉がボスを見上げた。
    絶世の美形がキョトンとなって、…にっこり笑った。

    「え…、まあ…気分で。補修したトコは気になるじゃあないですか。
     シーラの胸を触ったら問題ですけど。触って減るもんじゃあなし。
     もう触り心地スゴいんですよ筋肉柔らかくて。指が沈むんですよ!」

    明るい緑の眼をキラっキラさせて語る、使い込まれた脅威の速筋率…

    「あ…え、と…」
    ジョジョサーの姫にすら擁護もうムリ、アバッキオさんこの人です。
    筋肉神ジョースターの子だけに美麗筋肉へのこだわりハンパないッ!?
    『それはジョルノが悪いな!うん悪い!』
    「お、…お逃げ…を、ギアッチョ…様…」
    トランプがへろへろっと落ち、床っぺたのムーロロがガクと力尽きた。
    「あーー!ムーロロがまた裏切ったっ!!」
    違うし、怒ったってドア擦り抜けられてはもう誰にも追いつけない。
    捕まる心配無くなるとギアッチョは振り向き、フーフー言いながら
    ドアを盾にして伊達眼鏡を上げると、無自覚セクハラ上司を睨んだ。

    「い…言い忘れてたがなクソガキ…「アレ」は返しとけ。
     形見だからまあいいかとは思ったがやっぱ…やべーわ。
     いいか良く聞け、ウチのリゾットは…たまにヌケてた!
     アレに気付かなかったり、ジェラートのことを…その、
     胸ねーけどくそイイ女だとガチで思ってたりとかなっ!」

    えっ、と生き残り三人、絵面は二人と一匹が、静止した。
    ああ確かに見ても踊らせてもどっちなんだか…で、声も?
    体型に肌…ホルモン事情も特殊っぽい、髭など生えまい。
    動くトコを見て思ったが、ルックス超えの仕草の破壊力、
    さすが天使系ポケモンの本体様、ツレも甘やかしますわ。

    …ちょっと確認してもいいですか、とシーラ真顔で挙手。
    「ジェラートをウチの女将、と表現したのは誰なんです?
     セクハラしかしなかったって人と同一人物でしょうか?
     私、それメローネだろうと勝手に思っていたのですが。」
    「メローネ?ジェラートにはメシの催促しかしなかった。
     濡れ衣だぜ、つーか旦那ついててヤツに何ができるよ。」

    そのとき…
    三人の類稀に明晰な頭脳の中で、散りばめられた情報が
    一筋のタコ糸となりピーンと、繋がった。

    「「『え』」」

    ヒントは既に出揃っていた、それはもうエグいまでに。
    「リゾットか旦那の女かと」「この男でも阻止が決死」
    「ジェラート」「神託的ヘッドショット」「一目惚れ」
    「見ず知らずのバラバラ遺体をかき集めてまでゲット」
    「出会わなければ仲間を持とうと思うような生き方は」
    「地球の裏側に居ても相談電話高い通話料にもメゲず」
    かつ「格下にはお優しいソルベの旦那が直々にシメる」?

    プルプル震える指がドアの影から棒立ちの大将を指差した。
    「アレはな…ジェラートのイタズラだ、全員につけてくれたんだ。
     忘れろっつーからみんな仕方なく焼いたが、リゾットのだけは
     見つからなかったから、アレだけ残ったんだ。…て、てめえが
     触り魔になってんのは、…だから、ぜってー「そう」なんだよ!!」
    止めなかったからってオレにまで祟るこたねーだろうがよォーッ!!と
    震え声で怒鳴ると、野良幹部は無垢な同志たちのところへ今度こそ
    トップギアで逃げ去った。

    沈黙の中、無表情の新ボスはホテホテ歩き執務机の引き出しから
    あのガウンを取り出して広げ、左袖を大きく折り返した。
    そこに縫い付けられた白いタグ、刺繍。
    幸運の馬蹄の意匠に「R」の飾り文字。
    ジャストサイズなら袖を捲る必要が無いから気付かなかったのだ、
    理知的でありながらプリミティブな…それは手作りの護符だった。
    どこにつけたか教えないよ無事でお帰りよ、甘く歌うような祈り。
    あのとき偶然袖口に見えたこれこそが、最後の弟子の命を留めた。
    リゾットの受容とジェラートの感謝が響き合ったお洒落な護符を、
    御守りに最高だと持ち帰った、実に微笑ましく羨ましく、美…し…

    「…いやぁぁぁぁ!!」
    そんな感動をゲンコツで粉砕する、絹を裂くよな美少女の悲鳴。
    「たば…煙草…さっきから!!」
    窓側を指す、マジだ匂い…ここ三階…当然誰も吸ってはいない…、

    ズアッ!と亀が尾と二本足で立った、あせあせと前足を振り回す、
    『ジョルノぉぉ!!ソレはネコババしてはいけないモノだぞッ!
     はは早く元の場所に返してくるんだァーッ!』
    「あ…あ、ハイ、…でも僕…鍵が無い…ので…」
    若き首領の声と膝は生まれたての仔鹿状態。
    魔窟のラスボス、喪装のジョーカーのキャラ立ちよ…だからって
    強かろうがイケメンだろうが祟りダメ、ゼッタイ!!
    シーラを見る、半泣きで拒否される、ムーロロは床で死んでいる。
    『わ、私を連れて行けッ、一緒に行こうッ!!』
    「ありがとうございますポルナレフさんっ!!」
    さすが歴戦の勇者そこにシビれる憧れるゥ、
    またまた影武者手当てが発生するのも構わず亀を小脇に走り出す。

    前任とはうって変わりアウトドア派のボスが出ていった執務室を
    爽やかな春風が吹き抜けた。
    お仕置きキックで完全にノビた情報エリートを医務室へ送った後、
    天を仰いだ美少女の手で、床の書類はまとめてダストボックスへ。
    前のボスではあるまいしジョルノ様は迂闊な幹部達をこれ理由に
    ブラックリスト送りにする小胆でない…どーせ野良が覚えてるし。
    いざとなれば私がシメる、家格がどうのといつまでも、甘いのよ。
    これは大切な戦略なんだ君は綺麗でなくちゃあいけないんだ、と
    ジョルノが丁寧に補修したから、歴戦の傷跡は跡形もなくなった、
    物騒な思考を巡らせながらも、その顔は人を振り向かす可憐さだ。
    若い娘としての見てくれにこだわる気はなかったつもりだったが、
    やっぱり嬉しい、…ジョルノ様は人の想いを汲み上げる「親」だ。
    魔術師たちの死が組織を麻薬に頼らせ腐らせてゆきはしたものの、
    魔術師たちの復権を成したジョルノ様が組織から麻薬を追い出す。
    我らが黄金の子には光が纏わる、見飽きない、その存在こそ冒険。

    「そうだ…鍵、」
    窓辺に立ったシーラは、ふと美術品めいたそれを掌に取る。
    カッサーティナの力で複製・紛失・貸与を「封じ」てあり、
    実体だが望んだときにどこからか出てくる、まさに魔道具。
    錠もあの子が「封じ」たのよね、大好きなセンセイの為に。
    ナメた真似するとあの子になんて呼ばれてるかバラすわよ。
    嵌め込まれた二色の貴石が午後の陽を弾き柔らかに光った。
    なんて綺麗なんだろう、おとぎ話から摘み取ったかのよう。
    高給いきなりコレにブッ込んで借金増やすあたりマゾかと…
    だけどあのキャラでこれを発想するだなんて、微笑ましい。
    美しいものを識る者は自らも美を分け与え得る存在となる。

    「…あそこには九人いた。」

    当時の仕事内容は知らない、物の受け渡しするだけの子供だった。
    癒し手の二人は見なかった、リゾットも他も隠し会わせなかった。
    三体の天使だけは見た、…不覚にも、場違いな置物だと思ってた。
    子供好きなのに会わせてもらえないから分身通して見ていたのか。
    彼らは二人を「護って」いたし、あれを「見た」私に野良は甘い。
    どこぞの金持ちに貸し出され、目撃者かどうかも解りかねる姉を
    殺させられたという仇が、納得出来ずにジェラートからメンテを
    受けていたと知ったのは、遺族だと野良上司に打ち明けた最近だ。
    軽んじられオモチャにされたという点でオレも殺した娘も同じだ、
    仕事とはいえ無性にムカつくどうしたらいい、そう怒っていたと。
    「普通の」ヤツらはオレらを何だと思ってる、そう嘆いていたと。
    赦せと言われたわけではない、無表情で淡々と事実だけ語られた。
    勝手に殺し勝手に死んだ仇を赦すでもない、ただ…人だと感じた。
    二人が消えて見るたび人でなくなる彼らは、けれど誰も座らない
    二人の席だけは、失念したかのように片付けようとはしなかった。
    彼らだけが二人を信じた、何故と理由を問うのは野暮なのだろう。

    席は九つのまま、ならば用意されたであろう鍵の数は。

    おちびたちがわけのわからないまま師を慰めてる風景を遠くに見、
    ふんふんと指折り数え頷く。
    「やっぱり!」
    くすっと笑う姿勢の良い背に、そこはかとなく漂う若女将の風情。
    わざわざ教えてさしあげることもあるまい、放っておけばいずれ。


    父なる孤狼が築き遺した魔術師たちの小さな城。
    ネアポリスの新米守護神、黄金の子の寛ぐ席は、
    その九番目に、鍵と共に空けてあるはずだった。







    二次創作
    狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~
    あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 (完)

    原作
    ジョジョの奇妙な冒険第五部「黄金の風」および
    公式外伝「恥知らずのパープルヘイズ」そして
    MMD職人様がたのお手作りの数々