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  • まれびとと(終)

    2019-12-10 07:09



    終わったはずだった物語をなんとなしに繋げて。
    どこまで風呂敷いや話拡げるかがお題でしたが。
    タグ無し宣伝無しでも訪れてくれる方がおられ。
    固有名詞ゼロの謎文章までもアクセスがあって。
    短い間ですがなんとも嬉しく楽しい時間でした。
    言うに言われぬ愛おしさや取り返しのつかなさ。
    そんなものが文章で書けていたらいいのだけど。
    これ取られたら絶対に叛く存在感というやつも。

    最後の一人です、わちゃわちゃが向きそうかな。
    不思議な子でした、二年以上も一緒な筈なのに。
    ひどく不安げに初歩的な指導を受け続けていた。
    あれほど聡明で果断な指導者は居ない筈なのに。
    いざとなったら教えを心で受け取れる漢なのに。
    兄貴には何かしら思うところがあったはず…と…
    んな些事はともかくシメは軽いモンが美味なり。

    ネタ上等、1人1ジャンルの色モノ異端も上等!
    いやはや我ながら謎ジャンルに手を染めたもの。
    そんじゃまアンカーくん、ゴールまで走れーっ♪








    まれびとと-B-終わりの冬の話








    (頑張れペッシ、あと一件だ。)
    「は…はい、向かってますゥ!」

    はぁこんなに走るの初めてかもしんねえ!
    リュック重てえ梱包ゲル詰まってるから!
    けど急がなきゃ、オレしか居ねえもんよ!
    あー待って閉まるな!ま…間に合ったぁ!

    ふう危機一髪だったぜ無事バスに乗れた。
    カサコソとメモ広げる、五つ先の停留所。
    そこでこのブツと報酬交換したら帰れる。
    お遣いも責任重大だけどみんなが心配だ。
    なんせさあ…と、息切れ堪えて天を仰ぐ。
    悪いタイミングでやべえ事になったなあ…





       「お、恐ろしい能力者もいたもんだぜぇ…ッ。」
       劇画調に片手で冷や汗を拭うホルマジオ。
       「おお…オレ様たちを軽くあしらうとはよぉ…」
       蒼白で背後の片隅を気にするイルーゾォ。
       「旦那あぁいやだよぉオレを見てくれよおぉ!」
       両肩掴んで思っくそ揺さぶるギアッチョ。
       誤解しか招かねえセリフに無反応な旦那。
       虚ろな瞳のシリアス顔で沈黙したまんま。
       「躾ナシか、揺らぎ難いと思ってたんだがな。」
       敵?よりなんでだか珍景が気になる兄貴。
       「ツレ相手だとそうでもない、可愛い男だぞ。」
       付き合い長い強みで軽くバラすリーダー。
       「はいはいどいてくださいねぇ、はいどーぞ。」
       フリーズ中のソルベの旦那に茶運ぶオレ。

       氷を浮かべたカモミールティーで息をつくと、
       精神の読解を絶対的に得意とするヒーラーは、
       1ダースの目玉を見渡しすまなそうに言った。

                    「俺には無理だ。」

       1ダース+2個の目玉が一斉に下座へ向いた。
       ダブダブのセーターを着た小さいおっさんが、
       まぐまぐと肉のせポレンタをかっ込んでいた。


       …おっさん拾ってきちまったのはイルーゾォ。
       最近目障りなライバル組織を依頼で狙い中に。
       今季はアガリ少ねえんでカネかけんなってよ。
       奴ら欧州に渡る難民や何やを売り買いしてた。
       ハデに晒し上げ国際社会に追わせる案に決定。
       鏡を行き来しながらコマたちをそれぞれ誘導。
       警察マスコミ商品コンテナの劇的な鉢合わせ。
       絵になるおちびや美人の組を狙いすましてね。
       たちまち世界中に拡散スクープ美女効果抜群。
       これで奴らは孤立無援シラミ潰しって寸法さ。
       演出は大成功と撤収しかけたら非常事態発生。
       マンミラが消えねえ、言うこと全然きかねえ。
       よく見るとビーズみたいな変な蛇が絡んでる。
       居合わせたおっさんの首飾りにそっくりな蛇。
       スタンド使い?らしい?ものの言葉通じねえ。
       おっさんが動くとマンミラもついて移動する。
       おっさん一緒でなきゃ微動だにしてくれねえ。
       仕方なくそのまま拉致ってきたって話だった。

       「だが厄介だぜ、スタンド使えねえし消耗が…」
       ホルマジオが刈り上げた頭掻きながら呻いた。
       留守組全員集まってるアジトに連れてきたら!
       スタンドたちみんな同じ状態になっちまった!
       増殖したビーズ蛇を飾りみてえに巻いて沈黙。

       バングルスとビーチボだけ特に影響なかった。

       おっさんの意図を探ろうとアクセスはしたが…
       「言語が全く解らない。ただ敵意は感じない。」
       音の種類が多すぎて倒れそうになったらしい。
       仲間や元いた所の事ばっか頭ん中にあるって。
       「情景は砂漠と森とコンテナの中の物だけだ。」
       移動と狩りの記憶ばっか故郷の特徴掴めねえ。
       詳細も見たことねえ植物や獣や虫でお手上げ。
       あんま深く探るとその、プライベート見えて…
       堅物の旦那にはダメージでか過ぎる…たはは…
       「拉致には間違いない。殴られた打撲もある。」
       その後はしばらく空白、麻酔されたっぽいと。
       「難民たちと一緒に運ばれてきたんだろうな。」
       大将のどでかさに小さい目パチパチさせてら。
       「一番肝心な「蛇」についての情報はどうだ?」
       それが…と旦那はバングルス眺め声を落とす。
       「自動型らしい。本体だが操作はしていない。」
       結局、能力も目的も判らず謎だけが深まった。

       「しかし…困ったな、これでは身動きとれん。」
       大将が頬に指当て考え込むけど解決策は無い。
       「…リゾット、時間が…」
       旦那の小声に大将が小型スーツケースを机に。
       「これを渡して追加経費の請求をするんだが。」
       何が入ってるのかと見てたら皆がこっち向く。

                   「頼んだぞペッシ。」
                       「…へい?」

       …い…いま何て?頼まれた?何をですかねえ?
       「このサンプルの引渡しと経費のもぎ取りを。」
       「…はぁ、……、…はぁあぃ!?」
       「運搬費用や袖の下で出費嵩んじまってよ~。」
       ごめんな~とニギニギしつつ笑うホルマジオ。
       「わわわ待って無理ですよぉいきなりそんな!」
       作戦に関わってすらねえのに交渉!オレがぁ?
       や関わった…のかな電話やパシリやメモでも。
       「動けるのはお前たちだけだが女将が不在だ。」
       兄貴に言われて気付いた暗示が掛けられねえ!
       「ソルベは「交渉向きじゃあない」…解るな?」
       自信皆無でもとても断れる話でなくなし崩し。




    「そうなんだよなあ、ジェラートさえ居れば。」
    汗を拭き拭き小声でぼやく、腹が減ったよぅ。
    旦那は本体もスタンドも使い勝手良すぎてさ…
    暗示で記憶を飛ばせる相手にしか会えねえの。
    ツレの女将も使い勝手の権化の似たもん同士。
    強制勧誘と暗殺未遂の二択、ハードな人生よ。
    (疲れたかペッシ。)
    ヘッドフォン通して聴こえるイケボが優しい。
    「なは、ちょっと。ところで今どこですかい?」
    (近くだ。)
    近く?移動するバスん中だけど…まあいいや。
    一応連絡はしたんだジェラート頭いいからな。
    絶対なんかいいヒントか作戦くれる筈なんだ。
    けどろくでもねえ電話番が間に入っちまって…




       (なんだか知らんがそっちでなんとかしろよ。)
       メローネが機嫌悪くなるのが電話越しに解る。
       (こっちはお楽し…いや忙しいとこなんだぞ。)
       「真面目に聞いてくださいよやべえんですよ。」
       某権威あるミスコンの結果を動かす任務中だ。
       色と金が絡む出来レース承知それでも動かす。
       不自然も証拠残しも絶対ご法度の鬼的難易度。
       なにしろ各国の同業連中が密接に絡んでいる。
       組織の賭博部門を稼がせる為の操作なのだが、
       その手の曲芸はジェラートの得意分野だった。
       メローネに関係者の関係者たちを探り出させ、
       暗示と行動予測を駆使し操作するこれが凄い。
       (操作してる横顔!解るか?クールにも程が♪)
       「つまりどうあっても電話は取り次がねえと。」
       (美女たちもいいがウチの女将…おい聞いて…)

                     …………はあ。

       呪い目で溜息ついて地球の裏との電話を切る。
       高い通話料無駄になっちまったもったいねえ。
       首を横に振ると皆はがっくりと肩を落とした。
       「ま、まあしょうがねえなあ…報酬が報酬だ。」
       「敵地で変態の子守つき、邪魔は酷だわなあ。」
       「なんせ作戦中の横顔マジたまんねーからよ。」
       会話が噛み合ってねえですが納得したんすね。
       なんで大将や兄ぃたちが電話しねえのかって?
       そりゃやっぱアレだろ…きまり悪ぃじゃんか。
       本拠地で小さいおっさん一人に…だもんよお。




    …てな具合で女将の必殺技は発動しなかった。
    技名は<なんとかする>っていうんだけどさ。
    足痛えーっ…ずっと走りづめだったからよお…
    今日は予定が立て込んでたんだよりによって…
    あのスーツケースの相手は気の毒だったなあ…
    いやろくでなしだけどさすがにアレはねえや…
    その後もあれ届けろとかこれ訊きに行けとか…
    オレしか表で動けねえんだから仕方ねえけど…
    寝ちゃあダメだ寝過ごしたらおおごとだもん…
    進まねえなと思ったら事故かよ…迷惑だなあ…
    停留所あと2つ…ああ女将のメシが食いてえ…




       とりあえず腹は鳴ったんでメシだけ食わせた。
       「ハムに牛に干鱈に貝な、心得てるよお前は。」
       兄貴が慰めると旦那は少しほっとした顔した。
       タブー食材出して手がかり探るあたりさすが。
       「まだメジャー宗教が入ってねえ所の住人か。」
       ド金髪と大きい青い眼に近付かれてヒいてる。
       思い出したようにバンダナ?でマスクをする。
       なんか早口の小さい声の合間に舌打ちもする。
       質問しまくってるように見えるが言葉がなあ。
       「はん。…どうやらオレは嫌われてるようだ。」
       ムッとした顔で離れるとグレフルの傍へ行く。
       「おい。いいかげん引っ込めよ、疲れちまう。」
       たくさんある目玉がじとーっと主を見上げる。
       ビーズ蛇は首元へ首飾りみたく巻き付いてた。

       「スタンドにスト起こさせるスタンドとはな。」
       「めんどくせえ、本体ぶっ頃しゃ消えるだろ。」
       鬼畜メガネが痺れ切らしパキポキ指を鳴らす。
       見上げたおっさん早口の合間に盛んに舌打ち。
       「のヤロー…いい態度じゃあねーか首よこせ!」
       「ちょ、可哀想ですぜ、拉致られたカタギを、」
       「せーなどけよ!こちとら死活問題なんだよ!」
       ガルガルされたけど黒ずくめの壁が間に入る。
       「消えなかった場合の責任の取り方を聞こう。」
       大将の低音に表情が消え旦那の後ろへ隠れる。
       「怨念スタンドとやらもあるって聞くからな。」
       マジっすか!ホルマジオの情報網はすげえや!
       怖えなあ親衛隊のダチに教えてあげなくちゃ。
       「とにかく落ち着け。誰も助けてはくれんぞ。」
       という大将も女将がいればな~って顔してた。




    あとひとつ…あとひとつ…くそう…睡魔めぇ…
    昨夜は兄貴が旦那に絡んで遅くなっちまって…
    ジェラート留守だと毎度あれだ既に恒例行事…
    兄貴はお説教好きだし旦那は聞き上手だしよ…
    なんで付き合ったんだろ逃げときゃよかった…
    寝不足のとここんな状況だもんたまんねーな…
    あの後アジトはさんざんな事になったんだが…
    みんな大丈夫かなあ…マジなピンチじゃんよ…




       「だんだん身体が重くなってきた…のんびり出来ねえ。」
       手がかりがあるとすれば…と、兄貴が旦那の腕を掴む。
       おっさん撫でて生成したバングルスが手首に浮いてる。
       木のビーズみたいな素朴な…わりと綺麗かもしんねえ。
       「条件を見つけようぜ。なんでこれには影響ねえんだ?」
       ぐいぐい引っ張って蛇に近づけてみたらプイッされた。
       「プイッて。」
       「ちょ待てやぁ旦那いま何つった!今の言葉!も1回!」
       さすがギアッチョ変人だが賢い早くも手がかり発見か!
       「プイッて?」
       「ちがあぁうさっきの言い方じゃあねえとダメだあぁ!」
       「プイッて。」
       「くあああああかわいいいいいッ!もおおお1回イィ!」
       大将と旦那のツインパンチがアホメガネを吹き飛ばした。

       静かになったトコで仕切り直しだと兄貴が汗を拭った。
       みんなずいぶん顔色悪くなって肩で息ついたりしてる。
       「まずいぜ…見ろ、本体ノビてもスタンドが消えねえ。」
       空っぽの猫耳甲冑が体育座りのままこっちを見ている。
       「消してる間におっさん連れ出して貰えばと思ったが…」
       悲惨な状況でも兄貴は頭が回るなあ見習わなくちゃな。
       「気絶した程度では無理か…仮死状態ならどうだろう…」
       「ちょ…大将…なんでこっち見てそれを言うんだよぉ!」
       「連れて帰った当人で…試すのがスジ…と思わないか…」
       にじっと足を一歩踏み出す、冗談か本気かは判んねえ。
       「全然思わねえ許可しねえ痛えのはまっぴらごめんだ!」
       「心配するな…痛いのは起きた後…ほんのちょっぴり…」
       鏡に逃げ込みたくても能力封じられて手足と口が頼り。
       勝てる要素ねえ漸く事の重大性を心で理解したっぽい。
       「うわああちくしょうGGIオレの力を返せうわああ!」
       号泣掴みかかりの横面に鎮静ツインパンチが炸裂した。

       「さすがに仮死状態は勘弁しとけ…つかたぶん無駄だ…」
       マンミラもホワルバも本体の惨状無視ヌボーとしてる。
       また静かになったトコで兄貴が頭を振りながら続けた。
       「蛇はバングルスとビーチボは受けつけん…共通点は?」
       蛇の鼻先で針プラつかせてみたがやっぱプイッされる。
       「はは…両方とも心に邪念がねえからじゃあねえの~…」
       半ばヤケのホルマジオがリトフィと睨めっこし茶化す。
       「確かにそうだが…他が邪念まみれのように聞こえる…」
       言いながら肩組んでクイッと引き寄せる親友アピール。
       「ちょっと…待ってくれリゾット。それ…ビンゴかも…」
       それを逆サイドからクイッと引き剥がす賢友アピール。
       ああなんか解るわー鎮静剤みたいなんだよな旦那って。
       二人の間でされるがままでわりと可哀想なんだけどね。

                       「どういう意味だ…」
                       「だから…自我だ…」

       あ!、と、4人が顔を見合わせた、さすがオレの兄貴!
       「バングルスもビーチボも装備品型だ…自動性がねえ…」
       「待て待てホワルバ…どうなんだよ自動性…つっても…」
       指差された猫耳スーツがムッとした様子で頭を上げる。
       「のわ!睨んだっ!」
       なるほど、と大将が腰に手を当てホワルバを指差した。
       「この形態の時は…本体の補助を相当やってる筈…だ…」
       「そう…その為のAIみてえなもんだ…自動性はある…」
       「なる…ただのヨロイじゃあ重ぇし…動きの…妨げか…」
       息の荒い3人が納得し合う後でホワルバが親指立てた。
       ファンキーな自我をお持ちで…ご苦労多いっしょーね。




    オレは大将の指示であっち出たりこっち行ったり…
     交渉は怖ぇんでグラサンで目ぇ隠してイヤホンで…
       ついて来た旦那の台詞をそのまんま棒読みしてた…
        交渉向かねえって意味すげえ解ったいきなり謝る…
        相手の都合聞いて譲歩しまくっていきなりキレる…
       キレたら怖えのなんの脅す脅す骨まで凍るぐらい…
     相手は終いは真っ青よ経費倍額上乗せして脱兎な…
    逆に女将は口車が神ってると聞くがどんなんだよ…
    同じ作業量で倍額むしり取る点じゃあ同じだけど…
     も…もうすぐ着く…ねむ…ね…寝ちゃあダメ…だ…
                      寝る…も…んか…

                         …ね…



       こっくりこっくり小さいおっさんは居眠りしてた。
       悪いヤツには見えねえよな…はた迷惑な力だけど。
       鉄拳で寝かされた二人はそのへんに転がしてある。
       「ひかひこう猛烈に腹が減りやがふと堪らねえは…」
       がふがふパニーノを噛みながらホルマジオが嘆く。
       「肉はおっさんだけかよソルベ物足りねえんだが…」
       「金曜だから買ってないあれしか残ってなかった。」
       「干鱈は嫌いかプロシュート…旨いじゃあないか…」
       「腹もちが悪…文句言ってるわけじゃあねえから!」
       セルフフォローに解ってると頷く旦那マジ癒し系。

       「そ…それはともかくこの消耗は…ヤバいと思う…」
       「アフォどもも起きねー…見ろよクマが出来てる…」
       転がされた二人は重病人みたいな顔になっていた。
       「そういや常在型のスタンドって小せえですよね。」
       女将のドリシアも噂に聞く銃弾の妖精ってやつも。
       「大きいとパワー使うからちっこい奴らなんすか。」
       「ああ…しかしコイツラの…出しっぱなしは相当…」
       メタリカも軍隊蟻の巣みたく固まると案外デカい。
       「腹減るし疲れるし…このうえ依頼でも来たらよ…」

       ホルマジオがそう言い掛けたとき着信音が響いた。

       ぎくぅッ、と全員がテーブルの大将の携帯を凝視。
       旦那がササッとそれを取りに行き大将に手渡した。
       無表情でぴっぴとメール確認する血の気が失せる。
       「…港でローマの残党が暴れてる…すぐに来いと…」
       「「「ちょ!?」」」
       みんな本体も充分強えけどスタンドから離れたら!
       消滅でもされたらいったいどうなるんだやべーよ!

                          …ぽむ。

       肩を叩かれ見上げた先で旦那がエプロンを外した。
       ここんとこ愛用の特注サムライソードを肩に担ぐ。
       「行くぞ相棒。」
       「にゃあぁあ!」
       待ってせめて心の準備ひ引っ張んないで嫌ああぁ!




       誓って言うがオレは兄貴と名ユニットになりてえの。
       女将が言ってた、兄貴のMAPと組めば最強だって。
       兄貴が状態異常起こす、オレがその外側から攻める。
       速攻精密ノーダメの一方的な必勝パターンになると。
       大将がオレを兄貴に任せたのはそれ期待してだって。
       そりゃそうなんだが旦那!何者なんだよあの人はよ!
       後が面倒なんで闘うトコ身内しか見せねえんだよね…
       だからオレ味方釣っちゃコンテナに放り込んだわけ…
       スタンド対決の巻き添え防止の為ってのがタテマエ…
       その後がイカレてたッ…ビーチボ使って空中戦すか!
       お前のセンスで吊って飛ばせ?完璧使いこなされた!
       飛ぶんだよビュンビュン!もともと動線三次元だが!
       まさかワイヤーアクションてやつリアルに拝むとか!
       「いいサポートだった。」
       いかついスタンド使い2人混じってたけどもう瞬殺!
       そのくせこれだギアッチョでなくてもヤラレますわ…
       「お、オレもっと強くなりてえっす…なれますかね…」
       「無論。プロシュートも俺も信じている。」
       半秒と置かずに超澄んだ眼で請合う!このノセ上手!




            (ペッシ!降りろ!ペッシ!!!!)
            「…んに…んあふぁ、…はあっ!?」

    んぎゃああああ寝てたっ熟睡してたやべええええッ!
    目の前でドアが閉まるバスが発車しちまったあああ!
    「お…降ります降ろしてくだせえお願いしますうう!」
    大声出したが周りの乗客が一斉に睨んで怒り出した。
    「ただでさえ事故のせいで遅れまくりなんだがねぇ!」
    たぶん同業のニィちゃんが前の席から怒鳴ってくる。
    それこっちの客も待たしたって事だよマジヤバだよ!
    「そうだそうだ、乗り過ごしたのはあんたの責任だ!」
    「次で降りて引き返しなさいよ、当たり前でしょう!」
    カタギの衆も正論ぶつけてくるよ運転手は無視だよ!
    「すんませぇん今の停留所で人が待ってるんですぅ!」
    あああ離れてくどうしようどうしよう兄貴助けてえ!


      と。
        ギキキキキキキキイィィィィィッ
              「どわああああああ!?」


    急ブレーキで前へつんのめり運転席横まで腹で滑る!
    バスん中は悲鳴の渦で大混乱辛うじて怪我人はナシ!
    「な、なんだゴルァ!何が起きたまた事故かよーッ!」
    帽子が吹っ飛んだ同業(推定)ニイちゃん怒鳴った!
    いててと起きて、目ぇ剥いて固まってる運転手見て。
    ガラスを見たら…喩えじゃあなく口ポカンとなった。

    フロントガラスにお札がベッタベタと貼り付いてた。
    な…何これ…どっから出た…周り家すらねえんだが…
    (怪我は無いかペッシ。)
    イヤフォンからすんげえ冷静なイケボが問いかける。
    「えっあっ…ねえです一応…」
    (そうか。この隙に下車を。)
    「了解…。あのぅ…オレここでいいっす。降ろして…」
    「あ…ハイ…」
    運転手は呆然と追加料金も取らずキップ受け取った。
    道が塞がってクラクションが響き次々車が避けてく。
    すんげえ何もねえトコ…2kmぐらい…行き過ぎた? 

                        (走れ。)
                        「…は?」

    頭の中が疑問符で一杯で虚脱とゆーか眩暈とゆーか。
    何があった…ってかどこに居て何やったんすか旦那…
    訊こうとしたトコで例の唐突キレイケボが絶叫した!
    (受け子が撤収するぞ逃がすな全力以外許さんッ!!)
    「鬼教官モードきたあぁ了解っすうわあぁあん!!!」
    何もねえ郊外・向かい風…逆らう選択肢…あるかよ!




    「は…はひ…任務完了っす…ペッシ…帰りましたっ…」
    に…2km近くガチ全力疾走したぜレぬかと思った…
    報酬無事受け取ったよ後なんでか買い物寄らされた…
    初めて行く店だオレ行くしかねえ暗示かけられねえ…
    蜂蜜にレモンにワイン?行きよかリュック重てえよ…
    やっとアジト帰れたよやっと休めるよ兄貴ぃ兄貴ぃ…
    フラっフラんなってミーティングルームのドア開け…
    「ギャアアアちょっとどうしたんすかみんなあああ!」

    土気色の顔になったみんなで部屋は死屍累々だった。

    「あ…ああ二人とも…無事だった…か。よかっ…た…」
    「兄貴ーっ!美形キャラの死に際じゃああるまいし!」
    旦那がササッと蜂蜜湯こさえ抱き起こして飲ませる。
    そ、それ用の蜂蜜ぅ?さすがヒーラー保健室の先生…
    無駄にエロく震える唇が飲むとふーっと大息ついた。
    「た…助かったぜ…消耗がだんだん速まっちまって…」
    「消化吸収が追いつかないようだな。それで進展は?」
    「あった…さ。あの後…、」




       同じに起きてるなら体積?ある方が消耗するらしい。
       必死で食べても体力が保ちきれないのに気付き焦る。
       「だ…だめっぽい…んだが、もう起きて…られねぇ…」
       ホルマジオがぐらぐらし始めソファーに崩れ落ちた。
       「ホルマジオ!しっかりしろ眠るとレぬぞ起きろっ!」
       2人眠らせたくせに揺するが時既に遅く完全に白目。
       「や、やべえ…考えなくちゃあいけねえのにオレも…」
       「プロシュート!なんてことだ…くそ…頭が回らん…」
       兄貴が倒れそうになったとこで大将の電話が鳴った。

       (リゾットー?朝方連絡したよねえ?なんかあった?)
       「「じぇ…ジェラートおおおおおおお!!!♪♪♪」」
       2人の雄たけびで寝てたおっさん驚いて飛び起きた。


       (メローネの様子が怪しいんでくすぐったんだけど。)
       仕置だか褒美だかの拷問で握り潰しがバレたらしい。
       (話はだいたい聞いた。小柄で舌打ちする人だって?)
       息だけで囁く声が笑ってたんで大将ホワアァと笑顔。
       (で、操作されたのは自我のあるコだけ…だよねえ?)
       やっぱ兄貴はすげえや目の付け所は正しかったんだ。
       (それさたぶん「いわゆる」スタンドじゃあないよ。)
       「…そ…そうなのか?なぜそう思う…それに目的は…」
       相棒に対策は伝えるから寝てなよ♪と電話は切れた。
       まんま最後2人もぱったり倒れてあの地獄絵図っと。




          ★ ★ ★ ★ ★




    ざっしゃざっしゃくるくる、すーーいすーーい♪
    冬の陽が降り注ぐ屋上でホワルバがフィギュア。
    「…そろそろなんじゃあねーか、満足そうだぜ。」
    半眼で蜂蜜レモンふーふーしながら兄貴が言う。
    明るいお日様の下でビーズ蛇がフワァと光った。
    きらきらきらーーと光の粒になって消えていく。
    「う…うーーん…、…あれ??」
    「喜べギアッチョ、お前のホワルバが戻ったぞ。」
    蜂蜜たっぷりホットワイン渡されて大将が乾杯。
    毛布の上に寝かされてたギアッチョが起きると、
    猫耳甲冑が満足げに水になり中からメタリカが。
    人型に固まったメタリカからも蛇が光って消え、
    大将の身体に吸い込まれて場は人だけになった。
    「はぁ旨ぇペッシおかわり!グリッシーニもな!」
    「動いてくださいよオレだってヘトヘトっすよ!」
    蜂蜜って吸収が速えんだね身体に沁みる感じよ。
    「点滴が早えが今月は医療費に回す金ねーから。」
    「変態がまたやらかしたからな幹部の娘によお。」
    お手手ペロペロの悪癖は治らねえもんですかね…

    とんとことんとこ楽しげな太鼓の音が響いてる。
    もっふもふに厚着したおっさんの声も響いてる。
    元気が出たんだなあよく通るいい声してやんの。
    不思議なリズムの間に舌を鳴らす音が混じった。
    「舌打ちじゃあなくああいう音を含む言語…か。」
    クスと微笑んだ兄貴が大将の電話を取り上げる。
    「女将は博識だな。礼の電話はいい経費考えろ。」
    「うるさい。…いい、後で自分の電話で掛ける。」
    処置なしのご執心に回復したみんな大笑いした。
    (シャーマン的な人だと思う、たぶん南半球の。)
    昔はアフリカ全土に住んでた人たちの言語だと。
    南下した大柄な人たちに押されて少なくなった。
    とても旧い人類の特徴を伝える人たちなんだと。
    (視えないものを招いて意思を聴く役割の人さ。)
    スタンドに限らず視えなくても居る者との仲介。
    おっさんと「蛇」はそんな役割なんだろうって。
    スタンドたちもおっさんに招かれて傍に現れた。
    招いて意思や望みを聞く筈が、祭器が無かった。
    ツレの指示で旦那が記憶から探し速攻で作った。
    樹と革の小さな楽器、記憶の中と同じ音のやつ。
    蛇は太陽神の化身の一つなんで屋上へ出ろとも。
    ボロのエレベーター直ってる時でああ良かった。
    自我のある分身たちの「望み」がそれで知れた。
    言葉じゃあなく、本体にイメージで伝えてきた。

    マンミラは鏡に囲まれてみたかったんだってさ。
      丸く並べた鏡を行き来しはしゃぎ回って消えた。
    グレフルは二本の足で歩いてみたかったらしい。
      メタリカが下半身を演じて踊って走ると消えた。
    リトフィは一度でっかくなってみたかったとか。
      メタリカが凸面鏡こさえて映すと喜んで消えた。
    ホワルバは本体の補助の他で暴れてみたかった。
    メタリカは自分たちで身体動かしてみたかった。
      ちょうど良く望みを叶え合い滑り回って消えた。
    一度きり、望みを叶えみんな元どおりに戻った。
      やっぱ大将は偉大だぜメタリカ有能過ぎじゃん。


    「で、おっさんどうすんだよ故郷は判んねーぜ?」
    蜂蜜湯片手に棒パン噛み砕くギアッチョが訊く。
    「ああ心配ねえ買い手は限られるらしいんでな。」
    他の「商品」とは明確に違うトコから攫われた、
    攫わせて買うとしたら彼らの研究者しかないと。
    該当者の数は多くないから戻ったら突き止める、
    締め上げて現地まで送っていく暗示を叩き込む。
    ジェラートはそう請合い息だけの囁きで笑った。
    それまで匿ってあげてよもう心配ないからねと。
    免疫の関係でマスク必須、人ごみもダメだよと。
    向こうの大仕事もうまくいった明後日帰るって。




    一仕事したおっさんに旦那が蜂蜜湯を勧めてる。
    おっさん上機嫌で飲んでさかんに何か訊いてる。
    手すりについてる飾りもんが気になるらしいな。
    言葉通じなくても旦那はやっぱ聞き上手なんだ。
    ぱんぱん肩叩かれてハグとかされてお気に入り。
    「しかしジェラートはなんでまたそんな知識が?」
    兄貴が訊くと大将がワイン飲み干して空を見た。
    「スタンドについて深く調べてた時期があった。
     前いた所には図書館もネットも無かったんだ。
     その一環で視えざるものの事も調べたらしい。
     最古の祭司に興味を持っても不思議は無いさ。
     そのシャーマンと同じくあれらも異邦の者だ。
     覚束なさを薄める為には識ること…たぶんな。」
    ふうん…、と、兄貴はそれ以上は訊かなかった。

    「それはそうとペッシよ、今日は世話になった。」
    「えっ…ええ、そそそそんな…」
    ちょ、なに急に、みんな一斉にこっち見たああ!
    オレしか動けなかったんだもん仕方ねえですよ…
    「ああずいぶん無理を聞かせた、すまなかった。」
    両側から兄貴と大将に肩組まれた心臓止まるゥ!
    「おお、見直したぜなかなかやるじゃんペッシ!」
    「オレ様の後始末とか貴重な体験だぜ感謝しな!」
    「てめえオレ差し置いて旦那と仲良くケンカか!」
    もみくちゃこづき回される!わぁやめてやめて!
    ひーっと旦那の後ろへ走ってって隠れた痛ぇよ!
    「よく頑張った、相棒。」
    すかさず頭ポムポムされたらもう茹っちまった。
    旦那あの時バスのトランクルーム入ってたとか…
    開閉センサーとロック壊して…ニンジャっすわ…
    札束のトラップは常に持ち歩いてるとか何とか。
    フロントガラスの上へ貼り付けてたんだってさ。
    もちろんニセだが騒ぎ起こすには一番いいとか。
    オレが走るの見守りながら木立の中を伴走とか!
    「おいおい、乗り換えたくなったのかよペッシ?」
    兄貴が少し乱れた前髪かき上げながらからかう。
    「なワケねえや旦那はオレには早えですよおー!」

    みんな爆笑しオレもおっさんもつられて笑った。
    見渡す屋上の光景はまるっきり冬のハイキング!





    2日経ってジェラートとメローネが帰ってきた。
    巨大ミスコンの番狂わせで賭博部門は大儲けよ!
    ピンハネひでえがそれでも報酬は桁違いに多い。
    分け前も嬉しいが女将のメシはもっと嬉しいや。
    女将の隣で幸せそうに働いてる旦那見るのもね。
    うん、やっぱ旦那には女将、オレには兄貴だよ。


    2人して屋上でおっさんに対面したんだってさ。
    女将のちびの分身はどんな望みを叶えたんだろ?
    菓子でもおごって訊いてみよう絶対カワイイぜ♪









    (完)








    軽いのと重いの二本書いて軽い方にしました。
    チーム円熟しまくり時代のオンオフはきっと…
    オフ時の落差すんごかったのではないかなと。
    敵だと認識してないからブッたるんでるの図。
    やっぱソルベさんは日本刀が似合うと思うっ。
    ペッシくんの能力見れば見るほど美味しいし。

    書き終わってしまうとやっぱり寂しいけれど。
    キリが良いので実験レポはここで〆とします。
    読んでくださった方ありがとうございました。
    また別ジャンルで他の場で何か書こうかなあ。








    笑って終わりたい方はここまでで。
    全部を読んでくださった方どうぞ。






    まれびとと-A-風吹く間際





    優しい声が聞こえた気がした。
    いつも聞いてた声だと思った。



    獣のオレは人にしてもらった。
    戦える強いモノにも育ててもらった。

    賢いことと思い遣るってこと。
    アンタらを知るまで解んなかったね。

    お袋を想っていていいんだと。
    化け物の俺だがアンタたちは赦した。

    お前たちは安堵の象徴だった。
    その無私の有りように甘ったれてた。

    優しい勘違いをさせてくれた。
    掃きだめの蟲に護れるものがあると。

    可愛いピエタと律儀な使い魔。
    亡くした宝の代わりを演じてくれた。

    なんでかな思い出せねえんだ。
    思い出せねえのに忘れられもしねえ。



    ありがとうすまなかったありがとう。



    オレたちはもう死ぬことはできない。
    看取る眼差しを両手を声を手放した。
    死ぬという人の特権はもう手放した。
    モノのように壊れて消えてゆくのみ。

    優しい声が聞こえる気がする。
    在って当たり前だったその声。

    杯を干せもう頭を垂れ続けはしない。
    まれびとたちと在った誇りを今こそ。




    ソシテ、モノガタリノハジマリヘト


















    (シリーズ完)














    まれびと:異郷からの来訪神、転じ異郷からの客人。
         福を呼ぶと考えられ、歓待を受けて去る。

    B=BEFORE、A=AFTER
    まれびとの歓待と、家族と、祝宴と、乾杯つながり。






    ここまで読んでくださってありがとうございました。



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  • アマレッティ美味しいよね

    2019-11-20 02:30







    あと一人なんですがその前にちょっと。
    書くのは次で終わりですけどちょっと。
    シスコン属性に見えるんですどうかな。

    で、あのチームはこのチームと相性悪!
    いや能力的に、性格的には…どうだろ。
    彼らの退場あっての厄介さ…というか。
    この頃は21歳?護チぐらいのお年頃。
    ましてや下のお二人はまだあどけない。

    かの地のアーモンド菓子は粉から自作。
    材料の吟味と挽き加減も工夫次第とか。
    焼きたてをいただいてみたいとこです。








    アマレッティ美味しいよね








    「能力者」の匂いがする。


    首をかしげる店主を背に今日も収穫無しで店を出た。


    この街に部屋を借りたのはつい先日のこと。
    仕事の依頼で半月ほど留まることになった。
    外出が憚られる家族らに評判のいいここの菓子をと
    閉店間際に何度も寄ったのだが未だに買えていない。
    アーモンドは髪にも肌にもいいと兄がよく言ってた。
    そのせいかは知らんがアマレッティは彼らの好物だ。

    最初に来たときは最後の一袋が売れたところだった。
    手作りだから多くは作れないが材料も腕も一級とか。
    売り切れでは仕方ないから取り置きを頼んでおいた。
    翌夕寄ると残しておいたが手違いでさっき売れたと。
    取り置きの念を押し今度は代金も先渡しして帰った。
    そして今日。

    「申し訳ない、最後の一袋が(以下略)」

    この俺を馬鹿にしてるのか、いい度胸じゃあないか。
    さすがにキレかけたが、暴れるのは得策でなかった。
    ここいらは組織のとある幹部が仕切っているシマだ。
    能力者ではないが能力者も何人かは飼っているため、
    何かやらかすと能力者の仕業という「発想」がある。
    自分だけならその面倒臭さも厭わないが仲間が居る。
    モメて慌しい移動を繰り返すのは今は避けたかった。
    可愛い「妹」は体力に難があり、ゆっくりさせたい。

    「おかしいなあ…なんで売っちまったんだろうな。」
    店主はまだ五十代後半、耄碌してるとも見えない。
    様子に「うっかり」とは違った匂いをふと感じた。
    「売ったのはあんただろうに。」
    「そうなんですがねえ、おかしいなあ。」
    「売った相手はどんなヤツだ?」
    「どんなって…どんな人だったかなあ。」
    「年齢性別ぐらい判るだろう。」
    「男の人…いや…どうだっけ。」
    それはさすがにおかし過ぎる。
    「売ったのはついさっきだな?」
    「ええほら五分ばかり前です。」
    レジを確認し愛想笑いで薄い頭を掻く。
    「顔を覚えるのは苦手か?」
    「まさか、客商売ですよ。」
    「じゃあなぜ忘れている?」
    「それが判らんのですよ。」
    これは同類だ、との発想は能力者だからこそ浮く。


    さすがに防犯カメラの映像を見せろとも言えず。
    同居人への土産の菓子を買いそびれたぐらいで。
    夕方は店主独りきり、誰もその客を見ていない。
    組織の本拠地だけに能力者は少なくはあるまい。
    仕事上の衝突ならボス直属の立場上強くも出る。
    だがまったくの私事かつ些事でのいざこざでは。
    しかも未だ伏せられたプロジェクトの準備中だ。


    とはいうものの。
    「…目障りな…。」
    私事だろうが腹は立つ。
    よくも「妹」の好物を。





    ムキになるなど君らしくないぞと大将は笑った。
    旨いアマレッティを売る店は他にあるだろうと。
    店主に融通きかさせるぐらい容易かろうにとも。
    それはまあそうなんだが…癇に障って仕方ない。
    会社員ではあるまいし朝も早くから仕事で拘束。
    ちまちまと面倒な調整して説明して説明聞いて。
    幹部の勝手な要望と無駄話と嫌味に付き合って。
    能力者にはなに求めたってやると思ってる輩だ。
    漸く解放されあの店に到着出来るのが閉店間際。
    そんなストレスも「妹」たちの喜ぶ顔で薄まる。

    正体不明の先客はそれを繰り返し邪魔したのだ。

    …との本音は言えないのでポーカーフェイスで。
    「俺を出し抜く能力者がウロついてるわけだが。」
    今関わってる上はあのシマの幹部と不仲らしい。
    まだ悪意は感じないが邪魔をしてくる前哨では?
    「存在を覚えさせない。方法と目的が気になる。」
    「代金は払ってるのが少々解せんが…なるほど。」
    進めている「計画」の妨げになるかもしれない。
    耄碌なんて言葉から最も遠い凛とした顔が頷く。
    「組織内にも利権の衝突はある。挑発…警告か。」
    「騒ぐのも店主を脅すのも得策ではないだろう?」
    相手が店に来なくなり手がかりが消えかねない。
    より有害な別の接触に移行されるかもしれない。
    「ならば留守中調べておくかな。ああついでに、」
    「買わなくていい!調査に集中してもらいたい。」
    俺が買う前に目的のものを持ち帰られては困る。
    苦労した挙句二番煎じの土産とか屈辱の上塗り。
    「…解ったよ。能力は使えまいがやってみよう。」
    強力でも今この街で使うには勝手の悪い能力だ。
    機嫌が悪いと誤解してくれたらしい、幸いにも。






    翌日。

    一発でハマるのでは困る、という。
     突然態度が変わると目立つからだ。
      早く目を付けられるのはまずいと。
       じんわり効果が出るが逃げられず。
      効果は強い方が良いが負担少なく。
     買い手を長持ちさせたいからだと。
    ぱっと見で判りやすいのも嫌とか。
    競合品との差別化があーだこーだ。
     加工のし易さがどうたらこうたら。
      立場上言えないが実に面倒くさい。
       調整の連続に分身がヨタつきだす。
      サンプルを幾つ作らされたことか。
     モニター不足?俺にぼやかれても。
    それぐらい用意しとけグズどもが。

    顔には出さないものの心身とも疲れが溜まり昼食に。
    昼休みぐらいマトモに欲しいが会社員程度しか無い。
    親父が正気ならさぞかし嘆き怒鳴り散らすだろうが。
    テイクアウトのパニーニ食べかけ「同僚」に気付く。
    見れば判ると話には聞いていたがなるほど…目立つ。
    「新規開拓は大変だルート作りも営業もこれからだ。」
    「ライバルも少なくねーのにコストに見合うのかね。」
    動くのが難儀になり牢名主始めた幹部の部下どもだ。
    嫌われ者の彼らは殿様商売らしく巨デブ揃いだった。

    本業の賭場はそこそこだが別口でウハウハだと聞く。
    国内外のくじで公営・民営とわず当てまくりだとか。
    経費の極小さもあって稼ぎはぶっちぎりで一番多い。
    勝ちの内容に不自然も無くオカルトが囁かれている。
    組織は幸運の天使を捕まえて囲っているとか何とか。
    「噂が事実なら製造と搬入コストの有利はあるがな。」
    「造ってんのはどこぞの「元」お貴族サマらしいぜ。」
    「落ちぶれたもんだ、さぞ世間を恨んでるんだろう!」
    何らかの仕掛けがあるんだろうが…いつまで続くか。
    弛んでるがその時になって吠え面かくなと無視した。

    なるほど組織内の主導権争いは露骨にあるようだが。
    仕掛けているのはこいつら賭博部門とは違うようだ。
    我が世の春を続けようと後発の妨害…疑いはしたが。
    芝居ではなくこっちのチームを把握できてもいない。
    何度も俺を出し抜けるほどには利口な連中でもない。
    誰が聞いてるか知れないのに…粛清されるぞお前ら。


        傾いた陽を背に足早に歩いた。
      まだ四日目だが今日もやたらと疲れた。
    このたびの「仕事」は組織の「新商品」の開発だ。
      やっすい材料を能力を駆使し加工する。
        農場も工場も不要の夢の新薬。

           ゲスどもは俺が世間を恨んでると推測したが。
             べつだん恨んでるってわけでもない。
               単純にどうでもいいだけだ。
             だからこそ自堕落な力が取り憑いた。
           悪い意味の「活性化」生き物も物も狂わせる。

        どうでもいいさ…面倒くさい。
      死ぬまで生きてりゃあそれで構わない。
    生きてるだけが重荷な妹には言えない台詞だが。
      それでも彼らが無軌道を抑えてくれる。
        こうして彼らのところへ帰る。


    さて首尾は、とあの菓子屋へ立ち寄った。
    ちょうど店主が店を閉めるところだった。
    「ああこんばんは、ええとその、今日は、」
    「取り置きは頼んでなかったから構わん。」
    謎の妨害者を捕えればいつだって買える。

    「今日は二人組が買いに来たんですがね。」
    「…覚えてるのか?別口の客だったのか。」
    「覚えてるのが普通なんですよ、先日は、」
    「解った、怒るなよ。で別口だったのか?」
    「若い男の人二人でしたがお仲間ですな。」

    最後の一袋を買い昨日のオマケを褒めた。
    ハンパな数の他の菓子をよく入れるとか。
    「日替わりですから間違いありませんよ。」
    「なるほど。近くに住んでる奴らなのか?」
    「通りで見かけたことはありますがねえ。」
    住まいは知らないし客情報だからと渋る。
    情報代を渡そうとしたら嫌な顔をされた。
    「勘弁してくださいよ、客商売ですから。」
    「ああ解ったよ。また寄らせてもらおう。」  
    旨いもの作るだけあって骨のある職人だ。
    嫌いじゃあない脅す気にもなれなかった。


    店を出たところで大将から電話が入った。
    『すまない、思いのほか手ごわい相手だ。』
    意外な第一声にらしくなく返事が遅れた。
    『尾行に気付いた。まかれてしまったよ。』
    「あんたを振り切るとは…怪我は無いか?」
    『無い。組織の能力者には違いないがね。』
    呼ばれて移動し近くの路地で落ち合った。
    高齢だが背筋の伸びた立ち姿に安堵する。
    「店近くで張ってここまで追ったのだが。」
    陽の落ちた暗い路地を示して白髪を拭う。



    客はものすごい癖毛の眼鏡とオサゲのノッポの二人。
    腹から出る大声でバカ笑いと軽口を振り撒いて歩く。
    人気の無いここなら能力を使っても問題はあるまい。
    気配を殺して路地に踏み込むと二人組が振り返った。
    「こんばんはお爺ちゃん、オレらになんか御用でも?」
    おそろしく端正な顔のオサゲがチャラく話しかけた。
    「こちらに用があるのはそちらではなかったのかな。」
    傘を握る手にやや力が入る…四つの目が凝視してる。
    「知るかよGGI。組織のモンかい?そうだよなァ。」
    癖毛が牙を剥き紙袋をオサゲに渡し肩の筋を伸ばす。
    「よそモンは怖がって近づかねーッ、強えほどなァ!」
    片腕を振り上げながらパキィと音高く指を鳴らした。
    いきなり攻撃か、気の荒いヤツ…と思った次の瞬間、

    バダダダダダッ、と傘が鳴り重くなり激しく揺れた。

    「…ぬうッ!」
    ばらばらばらっと傘に当たり落ちたものを確かめる、
    「こ…氷?雹か…ッ、」
    クルミ大の白い雹が「ここだけに」叩き付けていた、
    忽ち黒い傘は穴だらけになり頭や肩に雹がぶつかる、
    「…小僧がっ、」
    仕方なく退きながら前方へ「霧雨」を呼び出したが、
    「な!?」
    癖毛の若造は霧雨の中へ真っ直ぐに突っ込んできた。
    純白の氷の甲冑で全身を包んで、おそろしい速度で。
    これでは霧雨の効果は届かない、力の相性は最悪だ!
    退却の判断するより速く傘で打ち上げつつナイフを、
    ガキンと刃がぶつかり傘が落ちた後に笑顔が在った。
    「残念でしたあ~w」
    ぱきぱき…と甲冑の咽喉に当たったナイフが凍った。
    尖った犬歯剥き出しの至近距離の虎の笑顔が寄った。
    「傘が要るなら攻撃は上から降るの一択…だよなァ?」
    殺意は無い…が相当の策を弄さねば倒せない難敵だ…
    「団員は殺んなってキツく言われてるが次は…なっ♪」
    タンと地を蹴り反転すると霧雨を突き抜けて離れる、
    ばしゃあ、と水になった甲冑置き去りに走る後ろ姿、
    「ちいっ!」
    せめて手傷の一つも、と靴が足元の小石を蹴り出す、
    背の中心を狙った、よし当たる、と確信したものの、
    その寸前に…路地に詰まれたガラクタから腕が出た。
    ひゅん、と、癖毛の姿はその腕に引き込まれ消えた。
    なんだ今のは…目を疑い能力を解除し近付いて見た。

    ガラクタの中に一枚の割れ鏡…気配はもう無かった。



    「というわけだ、私では相性が悪すぎて無理らしい。」
    聡明と経験ゆえ気負いも見栄張りも無く正直に言う。
    「優秀な戦士だ。強すぎて美しさを感じる域だった。」
    部下を調達し調べて囲い込めばなんとか、と続くが、
    「じゃあさあー、オレ、とっ捕まえてやるよぉーッ。」
    調子っ外れの聞き慣れた声が夕闇に唐突に聞こえた。
    「…なぜ出てくる。」
    体調の悪い「姉」についていろと言い付けたはずだ。
    「心配だから見に行ってってよぉー。いいだろぉー?」
    ナイフでお手玉しながら「弟」はへらへらと笑った。
    指が傷付くが笑ってぺろぺろ血を嘗めてはまた弄ぶ。
    可愛らしい顔しているのだが傷だらけなのが惜しい。
    「親父と兄ちゃんにさあ、恥ぃかかせたんだぜぇー?」
    笑ってるがけっこう…いやかなり機嫌が悪いようだ。
    これは制めても制まらん…退屈もしているのだろう。
    「断っておくが目的は判らんし同じ組織の奴らだぞ。」
    「わーってるよー。殺したり外したりしねえよーっ。」
    物騒な台詞を吐きながら弟は無邪気に笑って跳ねた。





    翌日。

    モニターが半減した…量が難しいって?
     あんたらのテストの仕方が悪いんだろ。
      少量から始めるものだ素人でも解るぞ。
     新たなモニターからやり直し?知らん。
    複数の形で販売したい?勝手にしろよ。
     錠剤にカプセルにペーパーにクリーム。
      匂いと口内の感覚がうんぬんかんぬん。
     女向けにピンクの結晶?加工してくれ。
    モニターが集団脱走した?知った事か!

    ああ…イライラする…連日の拘束と酷使…奴隷か。
    まあ奴隷は奴隷なんだがな…家ごと身売りした身。
    郊外へシマを持たされ落ち着いたのもほんの一時。
    すぐに脅せの殺せので駆り出され飛び回っている。
    時々興奮剤を作らされたり増毛剤を作らされたり。
    一時のシマの施設へ置いてきた親父、死んだかな…
    看護つき、楽しい薬の夢の中、さぞ幸せだろうよ。
    遠い国で夢を叶えた兄は幸せでいるに違いないが。
    こっちが移動するし電話も換えるから連絡とれん。
    それもいいか…現状を知れば兄は…悲しいだろう。


    弟はどうしたか…切り刻んでないだろうな。
    妹には今日は大将が付き添ってて心配無い。
    店を閉める菓子屋の店主にまた声を掛けた。
    「お帰りなさい、お疲れのご様子ですなあ。」
    余りもんですがとラム酒の香り高いババを。
    「旨い。口当たりもいい、名人だなあんた。」
    「ははは。後は完売ですありがたいことに。」
    生家が健在ならお抱え職人にしたいとこだ。
    「今日は違う二人組が買っていきましてね。」
    「ほう、今度も最初の客の仲間たちなのか?」
    「ええ、教会の近くに職場があるとかでね。」
    職場な…同業者だよな…アジトのことだな。
    「いや惚れ惚れするほどの美男子でしたよ。」
    ああお客さんもいい男ですが、とにっこり。
    「それはそうと今日は変わった男の子がね。」
    通りで奇声発しては連続バク転してたとか。
    「…すまん。弟が、その、騒がせたようだ。」
    人目につくなと言い添えるのを忘れていた…
    「ははは。いやいや男の子は元気なほうが。」
    …気はいいがこれはこれでどっかズレてる。


    電話が鳴って出ると号泣の怒声が刺さった。
    『うわあああああくやしいよおおおおおお!』
    「落ち着け。交戦したのか、怪我は無いか。」
    大将に続いて弟まで…だと…強すぎないか?
    『今してるとこだよぉー!ちくしょおおー!』
    「解ったすぐ行くからダガーをしまえ頼む!」
    負けた悔しさで自傷スイッチが入ったかっ!
    場所を確信しあの路地へ全力疾走で向かう。
    路地の地べたで転げ回り悔しがる弟を発見。
    血と涙と泥だらけでひどい有様だが起こす。
    鼻水を拭いてやりながら聞き出したところ。



    客はド金髪と剃り込みのいずれも若い美男、二人組。
    通りで女も何故か男も振り向くが完全無視して歩く。
    人気の無いここなら能力使ってもいいやと踏み込む。
    先を歩いてた二人がクルと振り向きにやりと笑んだ。
    「おや爺さんじゃあねーな、どうしたよガキんちょ?」
    剃り込みの目力に生唾を飲んだが修羅場は大好きだ。
    「傷だらけじゃあねえか、手当てしとけ痕が遺るぜ。」
    目当ての紙袋持ったド金髪が呆れ半分哀れむように。
    「バカにすんなぁ、親父と兄貴に恥かかしてよぉー!」
    射程距離に入れたらこっちのもんその顔刻んでやる!
    ダッシュと同時顔にダガーを、…当てるその直前に、

    ばさあ、と黒い影が上から降って左足の甲に激痛が。

    「いって!」
    刺されたっ、と身を支えようとしたがのめって前転、
    それでも射程距離に入った、と思ったら金髪は後退、
    くそっ勘がいい…あれ…あれっ剃り込み野郎消えた?
    さっきのはあいつの分身だな…見回すが消えている、
    オレのダガーはどこだ…えっなんで…どこへ落ちた?
    周り何もねえ地べただぞ見つからねーわけねーのに!

    <わはははは、もーらいっww>

    ちっちゃい声がしたのはオレの帽子の上からだった。
    ぴんっと何かが飛ぶ感じがして目の前を落ちてく影。
    剃り込みオンブして舞う人型の分身の手にダガーが!
    針ぐらいにちっちゃくされたオレの大事なダガーが!
    「わあ待て、返せえー!」
    ちょ…分身ダッシュ速ぇ!足いてえッちくしょうー!
    伸ばした手の先にピっカピカの靴がズシンと下りた。
    「え」
    四つんばいで頭上げる、…あ…あれ…金髪…でけえ?
    見る見るでっかくなる…んじゃあなくてオレ…縮む?
    「あれーーーーーーっ!?」
    摘み上げられジタバタしてたら身体が重たくなった。
    「あえ…あひゃ???」
    オレ…の手…しなびて…しわだらけ…なっ…ちゃっ…
    「直は素早いんだぜ、ボーズ。」
    へちょりっと地べたへ下ろされたけど立てなかった。
    子猫ぐらいのヨイヨイになったオレ二人が見下ろす。
    「やれやれ、恨みの心当たりはねえんだがよおーッ。」
    「つーか、在り過ぎてわかんねーっつーかよおーッ。」
    にやにやしながら紙袋持ってスタスタ行っちまった。

    遠くで「解除」って聞こえたら、身体は元に戻った。
    石畳に菓子のリボンちょうちょ結びのダガーぽつり。



    「ううううー悔しいよううう仕返ししてくれようう!」
    ぐっちょぐちょの手放しで泣かれると通りから人が。
    「何が悔しいって…あいつら、カッコい…うええん、」
    「わ…解った、とにかく一旦帰ろう、相談しような。」
    ひそひそ…とあらぬ想像を囁く人ごみ掻き分け撤退。
    部屋へ連れて帰ったら可愛い妹に泣かれてしまった。
    足の甲に開いてた穴が思いのほかでかかったせいだ。
    誰がやったのあたしが仕返しすると怒るから慌てた。
    三人して宥め弟がバク転で平気アピールし乗り切る。
    体調も悪いし日差しも強い、火ぶくれたらどうする。
    現場が路地とはいえ妹の能力が広がるとヤバいしな。





    翌日。

    今度はモニター集めすぎ混乱してると!
     いちいち俺にぼやくな俺は製造担当だ!
      他のあれやこれやはそっちで解決しろ!
     急ごしらえの部署だとか関係なかろう!
    幹部に言え幹部に!寄るな!泣くなッ!
     泣きたいのはこっちだ休みをよこせよ!
      私事だが目を離すと怖い妹がいるんだ!
     可愛いが家族が絡むと何するか知れん!
    偉そうに言うなピンハネしてるくせに!

    …この苛立ちをぶつける先は件の先客しかない。
    …ヤツの出現からこっち不快な事ばかり起きる。


    しかし…相手はなぜ俺の目当てを狙うのだろう。
    夕陽を背に歩きながら考えてるのだが解らない。
    メッセージ一つ無くピンポイントで邪魔をする。
    メンタル揺さぶって微調整を狂わせてる…とか?
    だとしたら高度な嫌がらせすぎる…恐ろしい奴。
    ウチはボス除き上位に行くほどオツムがアレだ。
    この実力ではさぞ不遇をかこってることだろう…
    「やあ、今しがたいい男が買ってきましたよっ。」
    店を閉めながら店主が人畜無害な笑顔を向けた。
    「先日からウチの連中が世話になってるな、と。」
    「…いよいよリーダーのお出ましということか。」
    そんな口ぶりでしたねえ、と頷いて塵を集める。
    「若いんですがね、男が惚れる感じというかね。」
    「さもあらん、あんな連中をまとめているんだ。」
    ごくり…と我知らず咽喉が鳴る…俺が緊張だと?
    「それで一人で来たのか?仲間は一緒だったか?」
    ん?と、店主がほうきの手を止めて考え込んだ。
    「一人…、じゃあなかった…ですよ、たしかね。」
    ザワッと鳥肌が立った、この煮えきらない反応!
    「二人か!ツレはどんな奴だ、覚えてないのか!」
    「どんな…って、たしか男…、あれ、お客さん!」
    覚えられてないそれだけ聞けば充分だ、ヤツだ!
    とうとうヤツがリーダーと一緒に姿を現したっ!
    捕まえてやる正体暴いてやる…謎を解いてやる!


    全力疾走であの路地へ、追い付いた…ヤツらだ!
    体格がいい…黒のロングコートの後姿がデカい。
    横にもう一人、黒髪の細身…紙袋を持っている。
    あれがヤツだ…アジア系か…きびきびした動き…
    何か話しかけられつつ並んで路地へ消えていく…
    手ごわい連中なのは承知だ、少し…距離を置く、
    あらかじめ分身を傍らへ呼び出してから…追う。

    「!」

    暗い路地へと踏み込んだ瞬間、呼吸が止まった。
    入り口と出口のちょうど中間辺りに立つ…長身。
    一緒にいま入ったもう一人はどうした…消えた?
    「おまえがリーダーか。」
    舞台役者ばりに低く通る美声が地を這い届いた。
    「老人や子供に先払いさせるとは気に食わんな。」
    そういうわけではないが…まあそうも見えるか。
    消える能力をもつ者が他にもいたと…ヤツもか?
    「オレたちを尾行してる理由を話してもらおう。」
    「心当たりがあるのはそっち側じゃあないのか。」
    とぼけるなツレに身を隠させ臨戦態勢だろうが。
    知らんふりでごまかす気か探りを入れてるのか。
    素のままでは危なそうだ…密かに分身を使った。
    反応速度と筋力を僅かに上げる…反動はくるが…
    古代の彫像じみた峻厳な美貌がギラリと尖った。

    「無い。貴様ごとき知らん。オレの宝に触るな!」

    真っ黒な巨大な狼が吼えたそんな怒り方だった、
    ナイフを抜いたのは激突不可避を悟ったからだ、
    この反応速度についてこられまい動きを止める!
    と、

    ばがんっ、と前方足元が鳴り石畳がはね起きた、
    「う」
    横一列に飛び上がったそれらの下から黒い物が、
    反射的に薙ぎ払う、金属音がしそれらが転がる、
    …これは…釘?…あらかじめ仕込ん…まさかっ!
    この古い石畳の下にトラップだと、在り得ない、
    「ふ、避けたか、避けなくても殺しはせんがな。」
    仕込みでなければ…造った?のか?砂鉄…から?
    「うお…ッ、」
    ナイフが手から逃げてガキイと石畳に張り付く。
    拾えはするが…重い…石の下に磁石を造ったか!
    こいつ磁力と鉄分子を操る、効果の発動も速い!
    「それ以上動くなら関節に釘を打って停めるぞ。」
    筋力を更に上げて素手で…との考えを読まれた?
    「それとも体内の鉄を釣り針に変えてみようか。」
    「くうっ、」
    どう攻める…判らん…組織にはまだこんな奴が!
    「矛を収めろ。ああそうだ、言い忘れていたが、」
    真っ黒な巨狼の寒気のする美貌がニイと笑んだ。
    「もう一人いる。」

    視線…

    を感じた、身体を突き抜けるほどの鋭さだった。
    上…っ!
    まだ頭を上げ終わるかどうかで…衝撃を感じた。
    上空…斜め上から舞い降りた鷹が額を掴んでた。
    ぎりとこめかみに指が食い込む…頭蓋が…軋む、
    「…え…」
    いったい何なんだこいつも速度をいじれるのか…
    反応速度を二倍にした俺でも対応出来なかった…
    ガンと肩を蹴られ後ろへ数メートルも押された。
    筋力強化してなければ吹き飛ばされた筈だった。
    ひらりと長身を翻した細身が音も無く着地した。
    僅かな壁の引っ掛かりを登り上へ潜んでたのか?
    いや待て…片手に皴一つ無い紙袋…て…ことは…
    ツウと冷や汗が伝い壁の間隔と高さを目で計る。
    樹脂の焦げた匂い…摩擦で焼けた俺の靴の踵の。
    黒ずくめの男二人は無造作に…ただ立っていた。
    殺気も敵意もみせず平静のままただ悠然と居た。

    「…わ」

    先に彼らと戦った二人の感じたことを理解する。
    人間じゃあない…こいつらまるで物語の狼と鷹。
    人の形はしているが…美しい漆黒の…獣の魔物。
    握り締めていた拳を緩め…分身を…引っ込めた。

    「解った。…話そう。」

    参ったと言わずとも魔物らは笑み空気を緩めた。
    こいつらとは…能力の相性が悪すぎる…らしい…
    頭に浮いた考えを負け惜しみかと認めて笑った。










    「おいっ…しいいいいーっ////////////♪」

    全開の花のような笑顔で妹がアマレッティを頬張る。
    血色の悪い頬が上機嫌でピンクになってる、可愛い。
    「うんめえええー、こんなん食ったことねえよーッ!」
    「実に出来のいい菓子だな、いやコーヒーが進むよ。」
    気まぐれな弟もなかなか笑わない大将も機嫌がいい。
    あの店主はやはり天才職人、俺の家族を幸せにした。
    「お互い疑心暗鬼、偶々そうなっただけだとはなあ。」
    蓋を開けてみればなんてことは、というやつだった。

    「ウチの女将が、あの菓子屋の熱烈なファンなんだ。」

    黒狼は頬骨あたりをいじりながら街灯の下で言った。
    黒鷹は手首に浮かんだ淡く光る腕輪と俺を見比べた。
    「最後の一袋にこだわったのは、オマケが目当てだ。」
    袋を少し開けると一番上の小袋を抓み上げて見せる。
    「そうそうこれが気に入っているんだ、綺麗だろう。」
    ステンドグラスのようなカラフルなフルーツの飴だ。
    「凄まじく頭を使う担当だから甘いものが欠かせん。
     腰を落ち着けられる時間も短い…忙しい奴なんだ。
     この飴は売り物じゃあない、孫へのまかないでな。」
    「…そうか。俺も…妹への土産で買おうとしていた。
     身体が弱いし陽にも弱いから買いにも出られない。」
    黒い鷹の「腕輪」は相手の感情や記憶を読むという。
    嘘も見栄も無駄だとぶっちゃけたら魔物らは笑った。
    「明日からツレと留守にする、遠慮なく買うといい。」
    鷹が漸く口をきく、少しザラつくこれも美声だった。
    掴んだまま頭を潰すなり頸を折るのは容易かったな…
    蹴りと手を放すタイミングの調節…あれも狂ってる…
    あんた達は一人も、俺達を敵扱いなどしてなかった…
    殺意が無かった…いや、その域に届かなかったから…

    「店主があんたを覚えられないのはどうしてなんだ?」
    一番気になってた案件をストレートにぶつけてみる。
    「記憶に残さない暗示がかけてある。安全のためだ。」
    少し辛そうに黙る鷹に代わり静かな声で狼が答えた。
    誰の安全…何を護るため…訊きたいが訊かなかった。
    鷹も今のこちらの「仕事」を詮索しなかったからだ。
    穏やかな猛禽の瞳がじいっと眺め、また口を開いた。

    「楽しかったか。」

    言われて…暫く考えて、我知らず笑みが浮いてきた。
    最悪な仕事にイラつく狭間で怒り慌て興奮した数日。
    返事はしなかったが顔を見れば伝わったはずだった。
    「俺や家族にも、忘却の暗示を掛けるつもりなのか?」
    これもストレートに問うと魔物らは顔を見合わせた。
    「そうしても構わんが…お前たちには必要あるまい。」
    別れを告げるでなく二つの背は宵闇に溶けていった。







    それから一年を経ずして上に呼び出され街に戻った。
    あの時の「仕事」を今後の組織の主力にと言われた。
    賭博部門が前ほど稼げなくなり大赤字が出たという。
    黒い鷹の惨たらしい粛清を聞いてきたのは弟だった。
    賭博部門の儲けのカラクリがそれで解った気がした。
    狼の群れの立場は変わり殺し犬として飼われている。
    あれらを軽んずる愚かな組織に未来などあるものか。
    静かに呟く大将の横で思い出す邂逅は懐かしかった。
    弟の情緒は殆ど壊れ、妹はもう俺から離れられない。
    間近に迫る終わりの気配を感じながら菓子を頬張る。

    『楽しかったか。』

    耳に残る声に今更応える、ああ本当に楽しかったさ。

    今度こそさよならだ、血みどろだが気高き魔物たち。





    今日から俺は家族のため…地獄の薬の母体に変わる。









    (完)









    アクションシーン書きたかったので。
    メロンの人は…使い勝手悪すぎるゥ!

    銀色狼の人は肌の露出が少ないから、
    情報収集のため触れるのは顔面だけ。
    伏兵に敗れた大将に伏兵使わせたい。
    てなわけでこんな作戦になりました。
    片手じゃ登れないから足使ってます。
    三角飛び→反転の繰り返しで屋根へ。
    人類には無理ですがニンジャなので。



    オレはオレの家族のため死力を尽くす
    お前もお前と家族のため死力を尽くせ
    その選択を裁く権利をオレは持たない
    征く道に灯あらんことを白銀の狼の仔


  • 黄昏の悍馬

    2019-11-07 19:30



    ほーずき式さんは爽やかで可愛いし♪
    うさこ式さんは鋭くてかっこいいし♪
    原作では渋くきっと速い人と思った♪
    観察記が欲しい気配りの人の目線で♪

    我が民族千年の十八番・判官びいき。
    というわけでもなく原作をまた反芻。
    殺し犬と呼ぶにはあまりに強く賢い。
    が造反者出した群れに留まる非合理。
    手がかりという漠然に執着し叛逆へ。
    考えたら不可思議な判断かもなあと。
    利権と栄光なる目的が別々の口から。
    描写では源泉は薄給と二年前の屈辱。
    この世界観は連載時の疑問符の末裔。
    後者の比重を上げに上げて肉付けを。
    職人各位の綺麗なMMDがその契機。

    凄惨に世を去った二人しかしあれは。
    もし弱者なら彼らへの脅しに…なる?
    取られるはずの無い人らが取られた。
    だから怯えた、なら整合しないかと。
    それぐらい彼らは酷く強く賢かった。
    あとしつこいけど新入り君の未実習。
    辻褄を合わせてみたかった、だから。

    前回に続き護ろうとした人も居た話。
    こんなこともあった…かもしれない。









    黄昏の悍馬









    何を…
    していた…のだったか…。







    黄金色の中に居た。







    夕陽を背にした逆光の中、裸馬が駆けゆく。
    手綱を付けさせない気位の荒馬だと聞いた。
    砂漠の馬の血だろうか短毛が金属のようだ。
    光る馬の走る背の上にソルベが立っていた。

    膝を柔らかく使い上半身は僅かも傾かない。
    厳しい顔立ちの横顔は穏やかに前を見据え。
    素足に黒のジーンズのみの鞭のような体躯。
    ふいと膝を折ると跨りタテガミを掴み伏す。
    「Ha!」
    捨て置かれた馬場の倒木を越え高々と跳ぶ。
    速度がぐんぐん上がり悍馬の筋骨がしなる。
    馬具を置き従える見知った乗馬とは別物だ。
    人馬一体、溶け合い補い合い共に風と化す。
    ソルベの鍛錬は徹頭徹尾異人のそれだった。
    誰とも似ない唯一無二の孤高のそれだった。



    柵を越えふわりと馬場の外の草へ飛び降りる。
    靴下を履き靴を履きシャツを肩に引っ掛ける。
    少しだけ汗をかいた背中が黄昏に染まり光る。
    こいつこそ競走馬じみた均整をしてると思う。
    「綺麗な馬だな。」
    「ん。」
    「もういいのか。」
    「ん。」
    たったいまの超絶が噓のような平時の気配だ。
    ぶるると鼻を鳴らし寄せてくる横面を撫でる。
    軽く首を抱き囁く、祝福を呟いたようだった。
    もう振り向きもせず車のある方向へ歩き出す。
    背後で振り返ると、若駒は既に荒ぶっていた。


    組織の達しでタテつく富豪を「説得」に来た。
    大枚はたき集めた護衛も能力者の敵ではない。
    警備を軽々と剥ぎ実年齢と百歳を往復させた。
    今後の便宜と服従を誓わせアジトへ戻る帰路。
    寄りたいところが有ると言うから一緒に来た。

    この男はよく生活の隙間にすら鍛錬を挟んだ。
    接触一つで対象の精神を直読みするスタンド。
    手首を飾る小さな腕輪、名は「バングルス」。
    本体の超絶あればこその最強の分身いや器官。

    若駒を見かけてから時々こうしていたという。
    誰も乗れないからと調教を諦め殺される馬だ。
    荒れた馬場に一頭、給餌の他は省みられない。
    調教師を二人潰し先日盗人を蹴り殺したとか。
    アジアのどこかの成金が買って皮にするとか。
    「もったいねえ話だな。いい馬なんだろうに。」
    どうもこの男相手だと自分は余計ごとを言う。
    「お前は乗せるんだぜ。扱い方の問題じゃあ、」
    「規格の外だ。」
    少しザラつく低い声がぶっきらぼうに応じる。
    なるほど、「悪い」のではなく「規格外」か。
    「ああいう乗り方をされたかったのかもなあ。」
    鞍を置かれハミや手綱や拍車に縛られるより。
    「ツレは知ってんのか?」
    魔法使いだ、何とか助けてしまいそうだがな?
    「いや。」
    応えはやはり素っ気無く黄昏は宵闇に遷った。
    馴染みでも助けたいというのでもない…のか…
    ツレに教えぬ友をオレに?自惚れか…偶々か。

    だったとしても真似できる乗り手は…無いか。
    居るかもしれないが探すよりは処分が容易い。
    飼い慣らせぬ天賦は逆に殺処分を要する脅威。
    こうなる資質と解ったから通い別れに来たか?

    何の変哲も無い古着を羽織る背を眺めて思う。
    異邦の感覚、死生観…何の因果で修羅の巣に…
    翼でもあるようなその背は、オレにとっては…







    そう…
    そうだ…背を見ていた…
    歴戦だが…傷ひとつなかった…あの…







    「オレの両腕だ。」

    ソルベというのはリゾットがつけた名だとか。
    ツレと対の氷菓の名が似合わぬようで似合う。

    何年も経つのに紹介時の衝撃は生々しく残る。
    峻厳な彫像さながらの盟主の脇、影のように。
    リゾットより少しだけ低いそこそこ長身だが、
    アスリートじみた細身の軽量…歳は判り難い。
    長い両腕が二人の背を実に大切そうに抱えた。
    「お前たちを身内と認めよう。だから見せる。」
    猫目で華奢で中性的な白いやつはジェラート。
    こっちはソルベだと、誇らしげに紹介された。
    笑顔で握手を求めるツレと対照的な無表情で、
    声を掛け手を伸べて漸く応じる無愛想だった。

    目が合った途端怖くはないのに肌が粟立った。
    顔を動かさず眼だけを向けた、それだけだが。
    隣のホルマジオも不敵を装いきれてなかった。
    極東の顔に猛禽の瞳、…ありふれてはいまい。
    破格がゆえの静けさ…確実にそうと伝わった。

    オレの宝だから他言はしてくれるな、と言う。
    団員ではないのかと問うと、そうだが違うと。
    バラしたらどうなる?とホルマジオが茶化す。
    「隠す得があるなら暴く得も…参考までにさ。」
    なにしろ皆、今よりもよっぽど若かったのだ。
    盟主の鋭い黒い瞳がじいっと見据え、答えた。
    「その時まだ喋れたなら。」
    剣呑な笑みを含む声は完全無欠に本気だった。
    「が…オレがそんな愚者に宝を見せたとでも?」
    若年だが歴戦の強者のおどけは美しくも怖い。
    「ようこそ共有者ども。お前たちを歓迎する。」
    ジェラートはくすくす笑いソルベも薄く笑み。
    なんだ喜んでいたのかとそこで漸く息をつき。
    盟主も実は内心では緊張してたと後々吐いた。


    上からすれば狗の管理法が変わる程度の話だろうが。
    アジトに集い彼らと依頼を分け合うチームとなった。
    ジェラートとソルベは興味をそそるユニットだった。
    不思議だが組織からも地域からも認識されていない。
    見てくれも気性も才気も目立つ筈にも関わらず、だ。
    否、関心が「居る」止まりの景色のような存在…か。
    「仕事」に同行するとその理由はすぐに理解出来た。
    依頼主が奪いたがるか消したがるかの両極端なのだ。
    よって暗示で個の認識を妨げ記憶も記録も消去する。
    特殊な性質と品質をもつ能力者ゆえの自衛策だった。

    密着過ぎてソレかと思いきや関係はいっそ主従的だ。
    が並びの絵面さることながら性能抜群のマッチング。
    ユニットとはこうあるものかと逸れ者の目を驚かす。
    間近で眺めるリゾットとの関係もまた睦まじかった。
    美丈夫らしからぬツレ相手のカラ廻りも見ものだが。
    興味を引くのは寡黙なソルベとの関わりの方だった。
    通り一遍の絆ではない言うに言われぬというやつだ。
    リゾットほどの男が完全に気を許し頼り時に甘える。
    軽口を投げ僅かな反応に機微を見ては楽しげに笑う。
    惚れてるのかと訊けば惚れ込んでるとおどけて言う。
    ソレでは全く無くただもう仲が良いとそこで解った。

    ジェスチャーの無い佇まいの静謐が初め緊張を促す。
    言葉は少なく素っ気無いが足りなくも冷たくもない。
    時に周囲が退避するほど激突するがカラッとしてる。
    感覚も心情も読む能力を持つためか何一つ繕わない。
    そのぶん稀なほどの誉め上手、琴線を抉る感謝上手。
    必要とあらば見透かされるからリゾットも繕わない。
    偽りの無い清清しい無二の関係をリゾットは愛した。
    多感な時期を組織の暗渠で泥を啜り生きた闘士には、
    ソルベの澄明はツレとはまた違った憩泉だったのか。
    凍る静謐の下の信頼の甘やかさ…なるほど、氷菓だ。
    抱え信を交わす、盟主にはその為の慈しい背だった。







    綺麗な背だった…
    見事なシンメトリーに鍛え上げられた…
    飾り気など…無くても…そのうえ…







    「痺れでも?」
    ふいに声を掛けられ右手を凝視していたと気付く。
    「え…いや、」
    何度か握っては開く、見てたのは無意識だったが。

    「なんでもねえよ。あれから癖になってるだけだ。」
    その右掌を伸びた片手で棒を掴むように掴まれた。
    「握れ。」
    ぐ、と力を込める、何度これを繰り返しただろう。
    「全力で。」
    握力計を握るように力いっぱいソルベの手を握る。
    「上へ…押せ。下へ。」
    筋力に変化が無いか確かめてくれているのだった。
    「問題無いな。」
    顔を動かさずに安堵の目だけを上げる、鷹の仕草。

    素っ気無く手を離される刹那の追いたさに戸惑う。
    ソッチの趣味は無いどころか敬遠してる…のだが。
    そういうのではない…そういうのではなく、ただ。
    「当たり前だ。…ツイてた、療法士が腕っこきで。」
    押し流すために冗談めかすのまで癖になっていた。
    「ツレに言え。」
    感謝上手が感謝され下手なのはどういうワケだよ。
    そんなソルベは稀有な戦士であり癒し手でもある。
    また右手を見る、黙って背を向け新聞を読みだす。
    あの日々も病床の横でよく…そうしていたものだ。


    彼らと組むことにまあ慣れてきた頃だったと思う。
    組織の船を勝手に使い密貿易した幹部を粛清した。
    取引相手はスタンド使いでない「普通の」兵ども。
    銃とスタンドで難なく追い詰めると動けなくした。
    手を引かせるため送り返す一人を選ぼうと近付き。
    異変を感じ窓ぎわへ逃れたところで力尽き落ちた。
    敵の一人が隠し持ってた毒ガス兵器のせいだった。
    優れたスタンド戦士ゆえのミスだと今では認める。
    常人の反撃など笑止…驕りとしか言いようが無い。

    よりによって「触れた」のでなく「吸って」いた。
    身体が硬直し体孔の全てが中身をぶちまける悶絶。
    声一つ立てられず防弾スーツの中で死を意識した。
    ガスを操る自分がガスで死ぬ笑い話にもならない。
    能力解除で回復した奴らも殺しに来る…詰んでる。
    何も視えない聴こえない息がつけなくなる…絶望。
                     そんな中で。
    汚濁に塗れたグラブの右手を強く握る手が在った。
    続いて頭の中に直に呼びかける美しい声が在った。


    稀代の癒し手ユニットの処置は手早く完璧だった。
    汚染は顔と呼吸器、他はゴーグルとスーツが遮断。
    汚れた防弾スーツを剥がし表皮への付着分は清掃。
    暗示がガスで潰された酵素を強制的に補充させた。
    筋肉も臓器も侵した神経伝達物質の過剰を削った。
    表面粘膜を犠牲に片側ずつ呼吸器を清浄に戻した。
    反動や負担に気を配りつつ慎重だが迷わず確実に。
    免疫や肝機能を強め深刻な危機をひとまず退けた。
    声さえ届けば内分泌すら操るジェラートの暗示と、
    意思のみならず記憶や感覚にも及ぶソルベの読解。
    実にシンプル、だけに使い手の手腕がものを言う。
    瞬時に組み合わせ自在に使う…驚嘆するしかない。

    オレに報復しかけた敵はソルベに殲滅されていた。
    解放を促す低姿勢を嗤いオレを蹴り逆鱗に触れた。
    十秒程で全員の頚髄切断並んで即死キレれば鬼神。
    だが鷹は汚れを厭わずオレを背に負い連れ帰った。
    弱り鈍った耳よりも背の振動で聴く励ましは甘く。

    すぐに専門医を見つけ解毒剤を使わせ治療させた。
    入院費は重くミスが知れ渡れば今後買い叩かれる。
    暗示で別人と思い込ませ最低限の加療のみで退院。
    リハビリの世話は殆ど全てソルベがやってくれた。
    何せ言葉でも表せぬ不調まで読解し人体に明るい。
    有り得ない短期間で快癒したのは二人のおかげだ。

    回復し余裕が戻るほどに気恥ずかしさに戸惑った。
    なにしろ、その…醜態も身体も丸ごと晒している。
    ソルベの「バングルス」はそんな羞心も主へ流す。
    「その余裕を喜べ。しかし美しいな、お前の形は。」
    手首に浮いた分身をしげしげ眺めシレッと誉める。
    読む相手の人格が形状を決める珍しいスタンドだ。
    銀一色のそれは自賛でもなるほど悪くなかったが…
    やばい台詞吐いてることを気にしない素朴は罪だ!
    やめろソレを消せ喋るなこのバカ!とブチ切れた。
    そういうんじゃあないのにまるで…みたいだろう!

    「誰も見てない、事実でもない。病人が何を言う。」
    「絵面と言葉選びが最悪だっつってんだよボケが!」

    枕ぶん投げた手に投げてから投げた当人が驚いた。
    最後まで麻痺し気を揉ませてた右手が動いたのだ。
    恩知らずの照れ隠しをわざと除けずに受けて笑む。
    言われるまま解除しこれでいいかと穏やかに問う。
    元気になってくれたことをただ喜んで笑っていた。
    生臭い情でないのを真に解るからこそ気にしない。
    リゾットが惚れ込んだ理由が解り過ぎ目が潤んだ。
    仲間が居ることそれがこの男であること…奇跡だ。
    陽に当たれと屋上へ運んでくれる背は温かかった。







    そう…、そんなだから…
    オレだけ…じゃあなかった…
    あの背中…追ったのは…







    リゾットとジェラートは群れの指揮の両輪だった。
    新たに寄ってきた鏡使いも含めみな頭は切れたが。
    なにしろ思考の速度と層とがイカレてる域だった。
    ジェラートは解析と構築、リゾットは差配が別格。
    対しソルベは実行よりも更に補佐に才を発揮した。
    能動の鬼才二人を受動の鬼才で受け進める完成度。
    鏡使いが「プロの使い魔」と呆れるがそのものだ。
    閃光の解析・構築・差配・総員の実行とその補佐。
    流れるようにというがまさに教科書のようなそれ。
    若い群れは「魔術師」を囁かれ組織の懐刀となる。

    依頼が増え大掛かりにもなり、手足らずになった。
    能力を得ても消耗品止まりの不遇者は少なくない。
    使えないレベルのみならず使いこなせてない原石。
    拾われたのは妙な性癖のヒネた捨て犬っぽいガキ。
    それと噛み癖がひどすぎて駆除されかけてた山猫。
    リゾットが小指でひねりその両腕が飼い慣らした。
    僅かな期間にめきめきと使い手に育った…ものの。

    「構い過ぎんなよ、ガキはすぐ勘違いするからな!」
    白目むいてノビてる癖毛の山猫を診る背に怒鳴る。
    「ツレに付き纏うんでリゾットの機嫌もやべえし。」
    構い魔が新入りの変態に割り込まれ欲求不満気味。
    ジェラートちゃん呼び、沽券で言わんがキレ間際。
    鏡野郎まで親衛隊気取りで秘かに防衛してるしな。
    「構わん。」
    振り向きもせずやけに楽しそうでなぜかムカつく。
    上裸でかからせて痣一つ無しだ、触れさせてねえ。
    利き手利き足が判らん程のコントロールじゃあな…
    「眼鏡なんぞかけてたっけな、近眼かよ?」
    ついつい背を凝視…やっぱ見違いじゃあなかった。
    背負われたとき首筋見て気付いたんだが…マジか。
    「これを壊さずに立ち回るように言った。
     無駄に傷を負う癖がある。…直したい。」
    拾った伊達眼を陽に翳し、壊さなくなったと笑む。
    「眼を塞がせたら立て直しは至難になる。
     与えたのは三つめだが飲み込みは早い。」
    そいつ関連だと説明長くねえかやっぱ気に入らん。
    本体を鍛えるほど有利になる特殊な能力者同士だ。
    素早くて力も気も強い、磨き甲斐があるのだろう。
    「ご執心ってか。」
    「いい原石だぞ。」
    なにがいいもんか空気読まねえわドやかましいわ。
    すぐムキになる限界無視してまた落ちてやがるし。
    会話にならぬほどの癇気だけはツレが矯正したが。
    ソルベのダンナとか変な呼び方定着させやがって。
    「振り回されて大火傷しても知らねえぞ、ソルベ!」
    そんなダサいあだ名お前には断じて似合わねえッ。
    オレを小姑呼ばわりしてんのもどーせそいつだろ。

    とか言ってたら程無く…本当に大火傷しやがった!

    報せを聞いて駆け付けたら仮眠室で昏睡していた。
    髪が焦げ真っ青なガキが震えながら座り込んでた。
    奪取対象の箱を取りに行き火に囲まれたとほざく。
    氷を纏えるからと余裕ぶっこいててガス欠状態に。
    持久力がまだ足りない、冷却の微調整も覚束ない。
    装甲作り直すにもスプリンクラーは壊れ水は無い。
    冷気で炎よけながら逃げて低体温症…セルフ遭難?
    それを助けに入ってガキ担ぎ上げ脱出した、だと?
    焼け落ちるケーブルで焦げるほどの火傷…背中に…

    殴りたいと思うよりも先に本気で拳を振るってた。
    周りは制めたし相手は無抵抗で泣いてたが殴った。
    言わんことじゃあない…よりによって火傷…背中!
    あの背に傷が…こんなバカのヘマで…あの背中に!
    能力まで使いかける寸前、ソルベが起きて制めた。

    「それでも…おかげで…依頼は…遂げられたろう?」
    動けないはずの身体起こしてクソガキの頭を抱き。
    「よく…やった。次はもっと…巧くやれる…よな?」
    クッソ生意気な山猫がわんわん泣き絶叫で詫びた。
    鼻血つけんなバカと引っぺがしたのは意趣返しだ。
    凍傷の指が元に戻るころ山猫は明猛な虎に化けた。
    強い賢い諦めない敵に回したくない仲間に化けた。
    ツレが一ヶ月を費やし傷は淡い痣を残し消えたが。
    化けさせたのはズタボロに傷付いてたあの背中だ。
    包帯に血と漿が沁み惨たらしくても美しい、あの。







    もし治らなかったら…
    殺らねえまでも叩き出してたが…
    お前はガキにとことん甘ぇ…







    「新入りをオレに預かれ?向いてねえ、なんでまた。」
    気の弱そーな面白えツラのしょんぼりしたガキをか?
    「あいつの親に世話になったことがあると聞いたが。」
    リゾットに言われてやっと思い出す程度の縁だった。
    前に船とカネ融通してくれた船主だ、まあ助かった。
    どっかで見たツラだと思えば親父そっくりでやんの。
    それが他組織とウチとの抗争の巻き添えになったと。
    「先方の殺し屋を撃ったらしい、急所は外れたがな。」
    復讐を怖がったから入団試験受けさせたら…ビンゴ!
    スタンド体質と判れば組織からはもう逃げ出せない。
    取り込めないなら他所が取る前に消すそれが鉄板だ。
    「…、モノになりそうなのか?」
    頂点がスタンド使いってのはそういう事よご愁傷様。
    振り向いたソルベが示す腕に絆創膏が貼られていた。
    「針を当てた。」
    「…マジかよ。」
    オレは拳当てるどころか掠ったことすらねえんだが!
    系統も戦法も別だ比べるなとは言うがそういう話か!

    「素質は充分、一撃必殺だ。ただメンタルが…その。」
    「…あー…そりゃまあ、見りゃあ解る。だからって。」
    じゃあ担当はコイツだろとソルベを見たら笑ってた。
    「お前を覚えていたそうだ。カッコいい人だったと。」
    お前が言うと嫌味に聞こえるああ解ってるよ僻みだ。
    「利子まで返す立派なギャングだから師事したいと。」
    次からボロ船やダメ船員回されたら命取りだ返すさ。
    「戻っても生きられない。裏社会とも縁は無かった。」
    「ゼロからの仕込みだ。お前はサラブレッドだろう。」
    ステレオでたたみかけるな断らす気ねえだろお前ら。
    由緒正しいそのスジの隠し女房の家系ではあるがな!
    「や勘弁しろよ。オレはああいうのは、」
    「ソルベに預けると妬くだろうアレが。」
    「…解ったよ預かりゃあいいんだろッ!」
    暴走されてまた尻拭いで怪我でもされたら…笑うな!

    体よくハメられ新入りの教育係をやることになった。

    てヲイ…この世にこんな頼りねえ生きモン居るのか!
    危機感ってモンがまるっきりねえ目が離せねえ怖え!
    軽くカルチャーショック…頭悪かねえ能力も強えが…
    カタギ歴ゼロのオレにこのザ・カタギを仕込めとか…
    アレみたいな荒療治向きにはまったく見えんしなあ…
    仕方ねえから業界作法や護身あたりから細々教える。
    力の工夫だけは仕事とアレと雑事の隙間で魔法組と。
    とにかく連れ歩く、痴漢やらんトコは変態よかマシ。
    修羅場は…少しずつ見せて順次慣れさせるしかねえ。
    合間に仕事中の親父の話とか訊いてくるから答える。
    よくよく思い出してみりゃデキたオッサンだったわ。
    カタギはカタギで命も身体も張る決断の積み重ねか…
    こんな話出来るのオレしか居ねえな…なるほどなあ。

    実戦も怪我も経験無いんでソルベの凄さが解んねえ。
    旦那は怖くて強えけどやっぱ兄貴が一番すげえとか。
    兄貴兄貴と慕われるのは…思ったより…ウザくねえ。
    トチ狂ったラブコール叫ばねえトコもアレよかマシ。
    「案外堂に入ってんぞ。一皮剥けましたって感じな。」
    ホルマジオがにやにや笑って言うから変化に気付く。
    「気の回しも一段階、深くなったよな。惚れ直すぜ?」
    くすぐったいが手前だけの命でもなくなったからな…
    物の見方もそりゃあ変わる…ソルベもこんなふうに…
    「…のヤロー…。」
    クソ大将…新入りもだがオレ仕上げたかったってか。
    ああ忘れてたぜアンタの得意技は差配だったよなあ!
    目論見どおりオレはまたあの背中を追っかけてるよ!







    はは…ざまあねー…
    いや…可愛いもんだよなヒヨコってのは…
    だが…頼られるってのも時には…







    瀑布と渦を巻く水とその轟音。
    見下ろしてる白い人形の横顔。
    その意思を読み服を脱ぐ背中。
    陽は傾き水底はろくに見えず。

    「ちょっと待てジェラート、いくらなんでも、」
    踏み出す背に黙っていられず魔法使いを睨む。
    この底から「名簿」のケースを回収しろって?
    あるのは判ってる急ぐのも解ってる、しかし!
    アイコンタクトを遮り肩を掴み振り向かせる。
    放たれる寸前の猛禽のガラスのようなその眼。
    「無茶だ!イルーゾォを呼べ、鏡を沈めれば、」
    最短距離でもっと安全に回収出来るだろうが!
    「細かい位置は記憶を読んだオレしか判らん。」
    言い返そうとしたらメールが入り電話を見る。
    <イルーゾォは急かしたらまずい。慌て易い。>
    振り向くと魔法使いがメールをまた送信した。
    <集中を切っちゃいけない。早く済ませよう。>
    白い姿が振り向き怜悧な猫眼がオレを捉える。
    (行けると言ってる。落ち着け。余計危ない。)
    三体の使い魔を従えて唇がそのかたちに動く。
    お前の王様はブレねえな…倣うべきだろうさ。
    オレには歯に衣着せぬ同志に徹してくれてる。
    間違いは全然ねえんだいつも正しい…解るが。
    拳を握りまた睨むと軽く肩を叩き背を向ける。
    一瞬見たソルベの口角が上がってた気がした。
    鷹の急降下のようなダイブ潜水は三回だった。

    名簿は無事入手、上に提出すれば依頼は達成。
    運転するホルマジオ、イルーゾォも合流した。
    報酬はいい部類の仕事だ、空気が浮かれてる。
    さすが旦那だと笑い飛ばす大声にイラついた。
    黙々と髪を拭くソルベにスキットル差し出す。
    飲まねえのは知ってるよ、要らねえなら断れ。

    右手で渡したスキットルを左手が受け取った。
    きゅ、と蓋を開け一口だけグラッパを含んだ。
    口つけたとこを拭いて蓋をする、細けえヤツ。
    スクーズィ、と黙って唇だけで言い添え返却。
    そらやっぱキツかったんだろ…なんで詫びる。
    平気なツラしても背中…鳥肌立ってたろうが。

    お前にはよく、くどくど説教たれたっけなあ…
    当たり前の事だろうが返事はしろ誤解される…
    いきなり譲歩すんな詫びるな相手が頭に乗る…
    いきなり殲滅率上がんだよ厳しさも慈悲だぜ…
    目立ちたくねえの知ってるがマトモな服着ろ…
    下に示しがつかねえしいい男がもったいねえ…
    洗濯物増えるからってシャツや上裸で戦うな…
    屋上の手すりに立つな万が一ってことがある…
    仕置きに踵落としはやめろ死ぬからアレ以外…
    無理っぽい時はちゃんと言え黙って抱えるな…
    ツレに口答えたまにはしろ尻拭いはお前だろ…
    気が付いたら小姑が定着してるお前のせいだ…
    至極当たり前の事しか要求してねえんだがな…
    お前はいつも終いまで聞いちゃ律儀に謝って…
    こっちは謝らせたいわけじゃあねえってのに…
    それでもツレが呼んだらあっさり行っちまう…
    かなわねーよな…嬉しそうな背中しやがって…







    お前の最優先はツレ…決まりきったことだ…
    オレが言うのもなんだが人に代わりなんてモンは…
    その…代えのねえものに…手を出されたら…







    息が切れてぶっ倒れそうだが足を止めずに走った。

    ドアはね開け飛び込んだら弟分が顔を押さえてた。
    顔を上げさせた…タオルの下の右目が裂けていた。
    間合いを掴む命を繋ぐ…絶対無くせねえ利き目が!

    持ち前の勘でいい仕事した調書を事務方に預けた…
    その手柄を横取りされたから抗議したらモメたと…
    手当たり次第にそのへんの物を投げてきやがって…
    床に落ちて割れたガラス瓶まで…それを避け損ね…

    痛いし怖いだろうにヘマを詫びて泣かれてキレた。
    ジェラートが立ち塞がり何とかするからと制した。
    それすら押しのけかけてソルベに吹っ飛ばされた。
    仲間といえどツレへの手出しだけは絶対許さない。
    見下ろす鷹の眼の恐怖にほんの僅か頭が冷えたが…
    それでも…それでもやはり我慢はしきれなかった…
    リゾットが抗議に行くぞとオレを引きずったのは…
    そうしねえとオレが何するか判らなかったからだ…
     知らなかったよ…あんなに悔しいんだなあ…
      あんなに…痛くて…我慢出来ねえんだなあ…
     お前が火の中へ飛び込んだ気持ちが解った…
      ガキへの手出しはダメだな理屈が吹っ飛ぶ…
    事務方へ怒鳴り込んだがクズ野郎はもう逃げてた。
    行き先吐かすのに全員三十ほど老けさせてやった。
    親衛隊の誰だかが縁者だから頼ったとか呻いてた。
    リゾットの顔色が変わり一旦戻ると引きずられた。
    胸倉掴まれて嫌々老化を解除してやり引き上げた。

    酷かった傷は癒し手たちが奇跡的に完治させたが。








        「…!…」
        急な悪寒。

               目を開く。
               ここ…は?








                世界が悲鳴を上げていた。
           ひどい揺れとひどい痛み。
        反射的にあの手を求めた。
             「…ソ…」
                苦し…い…痛え…怪我か…
                   全然動けねえ…どうした…
                  ど…どこにいる…ソルベ…
            右手を…伸ばそうとして…


       それが喪くなってることに気づいた。


    「…ソ…ル…?」
    声…ろくに出ねえ…咽喉が…焼ける…
    そうか…そうだったな…お前はもう…
    片眼に映るのは稜線に墜ちてゆく陽…
    夢を…見てたのか?
    数瞬の夢…



    腕…



    腕を見る。
    漸く我に還る。
    叩き付ける轟音と風。       
    機械油と鉄の匂い土埃と振動。
    雄叫びを上げ身体の下で回り続ける列車の車輪。
    ああそうかそうだここは戦場。
    オレは敗れたがまだ。
    あいつはまだ。
    敵の前に。    「グレイト……フル・デッド…」
          分身を片眼で…  …探した…    …いた、
        片腕か…無様に崩れ…消えかけてる…   …使えるか、
        能力が解除されてる…多勢相手に独り…   …まずい、
        何やってる…動け役立たず…あいつが…  危ねえ時に、
         再起動しろ…  …急げ…そうだ…  …休むなッ…
    罪…     これだけの罪を犯しておいて…休む資格は…
    オレの罪…      「?…あ………あ…?」
    これは…罰か…?
    お前が返してくれた右手…
    お前たちが返してくれたあいつの右目…
    符号のように喪われたこれはオレへの罰なのか?



    千切れた腕がガタガタ震えだし止まらなくなった。
    あいつの傷は癒えたお前たちが元に戻した、だが。
    オレのしくじりだけは…取り返しがつかなかった。
    魔術師どもは弁えぬ狂犬…植えつけたその先入観。
    組織の上とよろしくツルんでる旧い家々との敵対。

    ■ヤツラとの付き合い方には厳然たるルールが■
    ■けして牙を見せすぎず順を追い慎重に慎重に■
    ■ツテを使い落とし処と逃げ場を必ず用意して■

    リゾットが長年堪えに堪え守り続けてたルールを…
    オレの短慮が一瞬で…たった一瞬で…ぶっ壊した…
    賄賂包んだクズの嘘八百にだから誰も彼も倣った…
    あいつは先に手を出した加害者ってことにされた…
    はした金で片付けられおまけに…犬ころ呼ばわり…
    出入りの業者どもは一斉に嫌がらせ始めやがった…
    味方は誰もおらず話は終わらされ敵だけが増えた…
          それを聞いたジェラートは…
       それを横で聞いたソルベは…
    その背をオレは二度までも何も出来ずに見送って…




         お前たちを…見殺しにした




    オレのしくじりがお前たちのステルスの結界を破った。
    オレたちを巻き込まないために隠れていたお前たちを。
    欲深いゲスどもに自分から…接触せざるを得なくした。
    額に入り戻ってきたお前を前に浮かんだのは黄金の馬。
    飼い慣らせぬ天賦に呪われ皮にされたあの黄昏の悍馬。
    ツレや盟主やオレたちだけを見ていた唯一無二のお前…
    あれは飼い慣らせぬお前を手に入れ損ねた誰かの業か…
       お前もツレも誰にも見せてはならなかったのに。
                      一つ目の大罪。

    逃げたエンバーマーに代わりお前を棺に入れるために…
    ガラスを切り…取り出した…一つ一つを見て確かめた…
    こんなものがとリゾットは呟いたが…信じなかったが…
    リゾットもツレもお前自身すら知り得ない事だろうが…
    細かな血管が翼のようにシンメトリーに広がる背の肌…
    何度も何度も背負われて見たオレだけが気付いていた…
    縮んで固まり変形していようがゴーグル越しだろうが…
    眼に耳に魂に焼き付けたお前のあの背…間違うものか!
    言え…なかった…誰にも。
    お前の死を信じない皆に。
    替え玉と信じたがる皆に。
    逃げ遅れると解っていて。
    二つ目の大罪。

    両腕をもがれた黒衣の道化は二度とはおどけなかった。
    美しい連動は砕け失せ魔術師は群れた殺し犬に戻った。
    元凶のクズどもが粛清されても戻る物は何も無かった。
    自責のあまりあいつはお前たちが消えた経緯を忘れた。
    血みどろの罰の二年を経て泥底で叛いたオレたちだが。
    その理由を忘れたあいつに与えられる目的が無かった。
    勝利と栄光…具体性の無いそんなありふれた概念しか。
    メンタルへの不安で死闘を経験出来なかったあいつを…
           逃がさずにおいてリタイヤ…敵は六人…
                      三つ目の大罪。

    「考えてみりゃあお前だけだ。」
    二度と聞けぬ声がまた力無く。

    魔法使いのか細いヌケガラが見つかった翌日…
    ヤサから消えたままの使い魔を皆で探してた。
    ホルマジオはあの荒れ馬の牧場へついて来た。
    若駒はとうに居らず伊達男は憔悴しきってた。
    「オレだけが…どうしたって?」
    骸を見つけてからずっと飲まず食わずだった。
    ビジネスライクとか言いながら仲が良かった。
    「誰も旦那を心配しなかった。」
    火の消えた葉巻を咥えた横顔が小さく続けた。
    「強えし不安無かったからな。」
    ごそ…と、ポケットから取り出した黒い携帯。
    「だからだろうな。失くすな。」
    受け取る手が震えた…ソルベの携帯…だった。
    マットレスとベッドの隙間で見つけたのだと。
    血塗れのあの部屋で見つけたが黙っていたと。
    「お前のだよ。見りゃあ解る。」
    促され電源を入れ未送信のメールを見つけた。

    < Non posso muovermi >

    作成日時はツレの死亡推定時刻の少しだけ前。
    送れなかったメール「動けない」それだけの。
    あれほど親しかったリゾットではなくオレに。
    一番居てほしい時に…傍に居てやれなかった。
              四つ目の…オレの大罪。



    残された左目を見開くがよく見えない…
    途切れそうになる意識を辛うじて繋ぐ…

    いつまでバックアップを続けてやれる…
    決断がトラウマになりオレに頼りきり…
    そうなったあいつには相手が悪すぎる…
    もう動けねえもう傍へ行ってやれねえ…
    どうすれば助けられる…
    どう償えばいい…
    すまねえ…
    すま…





                      唐突な衝撃。

               「―――…ッ…―――」
         息が止まる
             世界がまた悲鳴を


                  全身に加重
              傷口が血と命を吐き出す

           身体が鉄の隙間へ沈む
     振り落とされて…堪るか
         ブレーキ…掛かった?
           敵にそうするメリットはねえ
                     あ…あいつが?


      戦ってる戦えてるまだ…
      負けてねえ諦めてねえ…



                  「あ。」




    爆走した巨大な鉄の塊は泣き叫び軋んで静まった。
    静止した車輪の上、暗い視界にあの黄金を感じた。
    激痛を感じた筈だったがそれに気を取られ忘れた。

    すとん…と。
    腑に落ちた。
    ソルベお前。

    この二年間、オレの悔いの精髄だったあのメール。
    助けを求めようとして出来なかったと思っていた。
    だが違った…たったいま解ったんだ…その意味が。


    「動けない」から戻れなくなってしまったすまん。


    お前…そう言いたかったのか…詫びたかったのか?
    たった今オレが置き去りのあいつに詫びたように。




    「…ちょ…」
    いや…いやいやまさか…ってそれだと…合うよな?
    傷は手首の掠り傷だけだ戦えてただろうその最中。
    敵の目を盗んでメール打つ…なんで送らなかった?
    隠すより送るほうが早いに決まってるってのによ?
    ああ!アレかよ怒ると思ったからかまたくどくど!
    だからオレだったのか!だから送らず隠したのか!
    ガミガミ絡む小姑が無理な時は言えと怒ったから!
    耳にタコが出来るほど聞いたお前の「スクーズィ。」
    だから謝らせたいんじゃあねえと…何度言ったら!

    するすると…お前という男が解った、今になって。
    ただ美しい馬だから乗りに通ったオレにも見せた。
        ただもう気が合うからリゾットと睦んだ。
            生きてほしいからオレを癒して。
               可愛い弟子だから護って。
                  似合うから奨めて。
                潜れそうだから潜って。

             許せないから、許さなかった。

    振り回され潰された犠牲者なんかじゃあなかった。
    その破格ゆえの素直さで素朴に律儀にあるがまま。
    メールでオレへの義理を果たし、区切りをつけて。
    最後はおそらく…王の選択の責任を共に受け止め…
    護れなかった絶望とその先に待つ恐怖を拒みぬき…
    誰の手にも飼い慣らせぬままその魂が望んだまま…


    「…は…」


    現金なもんだ…見えなくなってた目…少し見える…
    そうかい…地上のオレたちがどうあがこうがお前…
    素直すぎて解んなかったよなんて野郎だまったく…
    笑えるじゃあねーか…なんかいろいろ吹っ飛んだ…

    そういうことなら…と左手が携帯を引っ張り出す。

    充電だけは続けてて良かったぜやっと役に立った。
    一面の黄金色の中リゾットに敵の情報と行き先を。
    ソルベの携帯からだ驚いたろうすまねえな大将よ。
    なんか叫んでたが伝えたいことだけ伝えて切った。
    自慢の弟子がオレ目指して走ってきやがるんでな。
    度を越えた荒療治だが一発逆転…だったようだぜ。

              幸せ…だったんだな、お前。
              解るんだよ今ならオレにも。
              オレの愛弟子が漢に育った。
              こんな嬉しい報酬があるか。
              お前もこれを受け取ってた。
              オレ達を援け続けた時間中。

    そこに居たのかよブチャラテイ…さすがしぶとい…
    オレのペッシを制めようってか…さて出来るかな…
    やるべき事を理解した本物の戦士今度は手強いぜ…
    ボスと娘に尾を振る輩に簡単に殺れると思うなよ…
    無駄死になどしてやるかボスの終わりへ必ず繋ぐ…
    仮初めの目的だから何だ…勝って生きた証を刻め…





    頭を上げ左目を見開く。
    闘いに臨む愛弟子に激励を投げる。

    鮮血混じりの激情は咽喉元まで熱くせり上がった。
    シンメトリーのあの背には見えぬ翼が生えていた。
    何度そう思わされたかいっそ言葉にしたかったか。
    神速と勝負勘、翔ぶように駆せ、瞬く間に喰らう。
    迷いも気負いも奢りも無く澄み切ったただ強き者。
    どうせバレてるしプライドが抗い言えずにいたが。


    ただもうお前と居ると安らぎその背に惚れ込んだ。






    夜ごとの死に向かう夕陽に光る悍馬の群れを視る。
    傲然と地を蹴り駆け往く誰にも飼い慣らせぬ群れ。
    オレも愛弟子も斯在ろうお前がそうだったように。






    血の紅と失血の闇が陽を隠す安息のその刹那まで。








    (完)









    観察記おしまい、名場面の借用お許しを。
    兄貴には悔いなく旅立っていてほしいし。
    アハルテケ美しいカッコいい兄貴みたい。
    ソルベさん服装無頓着って気がしすぎる。
    ギアさん眼鏡は伊達眼説も強く推します。

    最後の一息まで安堵と誇りを齎す癒し手。
    そんな人がチームに居てくれたらいいと。
    彼らが友と呼び憩える人が誰か居たらと。

    踊っていただきました、が、
    演じていただきました、に。
    だから「MMD」二次創作。






    …初めてあれを見たときお前みたいだと思った…
    …最後にお前と共に見て別れを言う気になれた…
    …許してくれ細やかな友よ言い訳を遺して逝く…
    …気遣われるのはくすぐったいが…嬉しかった…