二次創作 狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~ あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 その3
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二次創作 狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~ あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 その3

2019-07-18 21:29






    誰もそっちを見ようとしない…
    誰もなんにも言おうとしない…

    なんてザマだ…情けねー…
    人のことは言えねー…オレも…
    ふて腐れて…頬杖ついて…
    嘘ついてんなよ…ビビりやがって…
    知ってんだろ…あいつ…言えねえ…

    顔を上げろよ…
    なんとか言えよ…
    恩知らず…クズ野郎…
    誰のために怒ってるって…
    それが怖ぇ?ふざけんな…

    翼が生えてるような背中…
    白と黒の…綺麗な使い魔…
    行かせるな…
    消えちまう…
    待ってくれ…
    待ってくれ…

    ドア…
    が…
    閉…




    言葉がどこにも届かねえのは…
    ああして黙ってた罰…だろう…




    疲れと寒さと痛みの隙間で夢を見た。
    何回何十回何百回見たか知れない罰。

     *
     *
     *

    ほわほわとカップから花や果実の香りの湯気が立つ。
    テーブルの上の熱いハーブティーは管理人に持ってきてもらった。
    酒しか無い、飲むものよこせと大将がダダこねたせいだ。
    煙草の匂いの残る無機質の部屋には不似合い過ぎるがお構いない。
    「ああ…生き返った。こんなに疲れることになると思わなかった。」
    汗吸った下着をランドリーに放り込んだから借りたガウンと毛布。
    仕立てたてコートとフーゴの手袋だけは畳んで傍らに置いている。
    コートはフーゴからのプレゼントか…小遣いねーもんなお前いま。
    「合うサイズ…は、ねーか、ここじゃあ。」
    「着心地はいいんですよ。しっくり来る。」
    程よい洗いざらしの長い袖をまくった腕が白い。

    「警戒するのも解りますけど、チャージより先に言ってくれないと。」
    横向いたままの洗い髪のギアッチョをしげしげ観察しミスタがヒく。
    すんげー不機嫌…解るわー…悪ぃけどちょっとした拷問だよなアレ。
    襟の高いニットが上半身の線をくっきり出してるがなんか…やべぇ。
    かなり筋肉は落ちてるはずだが元が元だから細めの細マッチョ程度。
    むしろ長く寝てたのに崩れが無い…ジョルノのチャージのおかげか?
    剣呑な三白眼でもクソでけえ目、睫ばっさばさ、賢しげなデコに口…
    なんですぐ目とか歯とか剥くんだよ元のツラがわかんねぇっつーの。
    つーかよ…違和感ハンパねー…無表情と極端な表情だけが早変わる、
    表情筋使えてなくねーか、整ってはいるんだよ認めたかねーけどな。
    なんでか知らんがジョルノが切らせなかった癖毛がタテガミっぽい。
    こんなだから最初に寄ってきたド変態なんぞを足にする羽目になる…
    魔法で人の形させた獣…んな感じだ…ハンター気分にもなんだろよ。

    「活性化したぶん余計血が出ちゃったでしょ。
     そもそも致命傷ですよ。よく歩けましたね。」
    クズは「切りつけた」とほざいたそうだがありゃ「刺した」という。
    左の乳下と腿の内側とか…ガチガチに凍らせて止血していたのだが、
    そこ刺される状況て何だよ…そーゆー作品じゃあねーぞ何のこった。
    罪の無い運ちゃん脅して痛めつけたとか誤解して正直すまんかった、
    よく生かしといたなオレなら蜂の巣にする自信あるわ。
    チャージ中まどろんだと思ったら急にドバァと血が噴き出たとかで、
    戻ったときジョルノは珍しいほど慌ててこいつの傷を補修していた。
    引き出しのカトラリー引っつかんでなんとか塞いだら今度は喀血だ、
    出口塞げば溜まってたぶんが逆流するのは当然だがなにぶん量が…、
    ビビりもスッ飛んで久々のフルパワーでくたびれてしまったらしい。

    「もう少しで借りた手袋汚すとこでした。」
    「てめえの治し方、下の下だぞ。…痛ぇ。」
    「治すんじゃあなくて部品交換ですから。」
    「難点あんなら創意工夫しろやクソガキ。」

    しかしながらやっぱり口は悪い…これが暗殺屋クオリティか…。
    血まみれ同士でも手袋とコートと写真は汚さねー執念は…アホかと。
    上目線でボロクソ言う相手がいない状況のせいか、会った頃よりは
    そーとー我侭が漏れるようになったジョルノが、やや膨れながらも
    まんざらでもなさげな顔しているのが印象的だった。
    「ここは顔採用ですかっつーの。」
    テーブルの上にジョルノが並べた写真どいつも押しが強ぇ強ぇ。
    大将からして…奇天烈ファッションなのに何だよこの色気はよ。
    「見てくれも武器。だ、そーだぜ。」
    「どっちなんだよガチかよまさか。」
    「さーな。」
    冗談で言ったんですがコノヤロウ。

    「…天然モノか。」
    「天然…何です?」
    「三人目だ、…いや、何でもねえ。」
    自己完結されジョルノが訝ってる。
    なんつーか…思ってたおどろおどろしいヤツラと違う…ような…
    殺し合ってた当時は一杯一杯でそれどこじゃあなかったが、
    忌避感が抜けた目で見ると、皆ちゃんと…若者なのだった。
    最年長で28だっけ…そんなに年も変わらない。
    ハーブティーで鎮痛剤飲むがカップ持つ手つきが堂にいってる、
    スラム育ちとかじゃあない、普通にマシな躾を受けてる感じだ。
    あんな遭いかたではなく、話す機会があれば…と、つい思えた。
    いや騙されるな、と踏み留まる、見かけがどうあれこいつらは
    目的のためなら無関係な列車の乗客全員巻き添えにするような
    おぞましいテロリスト…あの地獄絵図の光景を忘れてたまるか。
    というかまともな躾受けたヤツがなんで専業の暗殺屋になんか
    なるというのだこの先進国で、そこ考えたら余計に気味が悪い。

    ジョルノがチロと斜めのジト目で見やる。
    仕掛ける気だ、行け大将、必殺の口車でヤっちまえ…ッ!!
    「ブチャラティのことを知ってたってことは、かなり以前から
     意識は戻っていて情報を集めてたんでしょう、用心深い人だ。
     目は開けてるのに反応が無いから、脳の方はダメだったかと、
     正直諦めかけたりしてたんですよ。僕のこと騙したんですね。
     してやられましたよ、僕はともかく医療スタッフは気の毒だ。
     様態に説明つかず空回りしてるところ、可笑しかったですか?」
    見透かすイヤミに微動だにせぬ上から目線がド正面から応じた。
    「リサーチは基本だろうが。身体だってすぐには動かねー。
     とはいえ、一月以上我慢してんのはなかなかキツかった。
     あのアマ下の世話するフリして人のモン触りたおすしな。」

    一瞬間が空き緑のジト目が泳いだ。

    「…凍傷の看護師さん…のことでしょうか。」
    「確認してみな…刺激的な話が聞けるぜぇ?」

    ニッと口角を上げ目をそらさず凄絶なエロ気が嗤う、
    そうエロ怖ぇんだってこいつネコ科の猛獣と一緒で、
    見てくれも武器にせよとの前言を地で行く説得力ッ!?

    「てめえのシマの病院じゃあ患者をオトナの玩具にするってか?
     タチ悪ぃぞシメとけやボケがァァ!!」
    「すみません管理不行き届きでした!!」
    「理学療法士は優秀だ。給料上げろ。」
    「ありがとうございます善処します!!」

    競り負けたーーッすげえモン見たーーーーッ!?
    ジョルノを赤面させた挙句平謝りさせる…だと…ッ、
    なんか海外ドラマの日本のサラリーマンぽかったぞ、
    いやいやいや待て…このパターンだと…と、確認してみる。
    「…もしかして、警備のオッチャンにもなんか恨みあんの?」
    ギッと睨み、ちっ、と嫌っそーーにハーブティー継ぎ足す、
    「オレんトコの病室来ちゃあノロケ電話ばっかしやがって。
     キモイし動けねー。こっちは早くリハビリしてーんだよ。
     はッ、逃げられたのアイツの責任だよなー使えねーなー。
     どーせ治したんだろソッチのおせっかいなクソガキがよ。」
    「…お、…おう。…はぁ。」

    全然無差別攻撃ではなかった…色眼鏡で見てこいつを誤解してた、
    考えたら当たり前かも…プロだからこその最低限の暴力行使、か。
    待て待て…考えてみたらあの列車テロも、こっちだって…
    追っ手がいるの解ってて公共の乗り物使った…だったら…
    乗客を盾にした…巻き込んだのは一緒…かもしれねーっ…
    「……っ、」
    どうやら自分は彼らを…こういうのを「差別」って言わねーか?
    普通に銃持って殺し合いもやるチンピラだったオレたちなのに、
    なんてこいつらの事だけキモくてコワいもんだと思い込んでた?
    冷遇してたっていう旧上層部もこんな感じ…だったんだろうか…
    思いついたらものすごく…嫌な気分になった。

    「僕たちに対しては?怨みはありますか?」

    何気なく、だが核心に触れるジョルノに心臓が跳ねる。
    そうそれだって、お互いガチの殺し合いを経た間柄だ、
    この男に辛勝し、瀕死に追いやったのは自分たちだし、
    仲間たちを手にかけた以上は…そりゃあ、
    と思いきや、

    「ナメてんのかクソガキ。てめえはオレらの何を見てた?」
    平手で張っ倒すようなぶっきらぼうな声が探りをはね付け、
    傲然と見下すやッばい目つきで真っ向から斬り下ろされた。

    「負けてうだうだ抜かす程度の覚悟しかねー敵に見えたか?
     侮辱してるって自覚はあるか?」
    「愚問でした。忘れてください。」
    微笑んだジョルノを睨みギアッチョもニィと不敵に笑んだ。
    「てめえが組織を乗っ取ったのも承知してんぜクソガキ。
     なんだっけ、若すぎるから混乱を避けて素性を隠してた、とか?
     組織運営の失敗や麻薬に手ぇ出す暴走は全部、旧上層部のせい?
     見るに見かねて直接改革します、だと?設定が無理すぎねーか?
     てめえいつから裏切ってた、ガキのくせにとんだ食わせ物だな。」
    「あなたほんと頭いい人ですね。説明しなくて済むの助かります。
     言ってはナンだけど幹部のオジサンたちはいちいち頭カタくて。」

    おお…なんか火花散ってんぞすげー会話聞いてんなかっけえ…と、
    密かな興奮が顔に出そうになり口を引き締める。
    ジョルノはめちゃめちゃニコニコしてる、始めからフラットなのだ。
    レベルが合うからか知らんが…懐いてねーか…いいのかこれで?

    「…で。何から話せばいい。」
    ソファーに背を沈め頭を預ける、体調が良いわけじゃあない。
    傷口にカトラリーブッ刺されたはず、よく我慢してるもんだ…
    ジョルノの補修は…言っちゃあ悪いけどクソ痛ぇ…当分辛い。
    一旦進化(?)してしまった「レクイエム」から四苦八苦して
    生命を操作する元の力を引っ張り出したもののそこは同じだ。
    その四苦八苦した理由が、病院で植物状態だったと判明した
    コイツを治すためだって話だったから、驚いたのなんのって…
    膝の前のテーブルにあの写真、よほど気に入ってるのだろう。

    その前に…と、ジョルノはバッグから小箱を出し差し出した。
    「僕が今回の調べごとを始めた理由を話します。
     親友が、あなたには先制押し貸しスタンスでいくようにと。」
    「ダチもダチかよ。…どっかで聞いたセリフだぜ、ムカツク…」
    悪態ついたが、箱を開けたギアッチョの三白眼はじき揺れた。

    「これが「返したかったもの」です。」
    銀色の球にRの浮き彫り。
    「あなたの大将の遺品ですね。」
    「…ああ。」
    リゾット・ネェロを喪装の道化に見せていた特徴的なフード、
    その飾り珠の一つだった。

    見つめた後、小さく咽喉を鳴らし、掌に取る。
    目を伏せじいっと眺め、…軽く転がす。
    作り物のように、やっぱり顔は動かなかった。
    「本丸に届いてた…とはな。ああ…そういうヤツだよあんた。
     泥臭ぇようでいつも…オレらと次元の違うとこで闘ってた。」
    ごく静かに…語りかける。
    「…おかえり。…お疲れさん。」
    短いねぎらい。
    仲が良かったのだろう…表情には出なくとも伝わる。

    ブチャラティの死を知ったときのことを思う。
    あんなに泣いてキレて取り乱したことはない。
    裏社会での死などそんなもの…なんて納得は全く出来なかった、
    なんで言わなかったなんで治せないとジョルノをひっぱたいた。
    生きてれば自分で担ぎ込んだあの病院に来ないわけがないから、
    リゾットがもう来られないことはとっくに理解していただろう。
    それでも最後のメッセージ確認しに弱った身体でここまで来た…
    胸が締め付けられる、一月考えて心の準備はあったのだろうが、
    大人の静かな哀しみようはミスタには泣き喚かれるより響いた。

    「…この…傷は。被弾したのか。
     顔やったなこれじゃあ…男前…だったのにな。くそ…」
    飾り珠の表面の痕に目を留め嘆息。
    「僕の親友ナランチャの「エアロスミス」の弾の痕です。
     …彼もボスに…その後の戦いで。半数…連れて行かれました。」
    そうか、と、返事は淡々としていた。

    戦い方があまりにしぶとかったからねちっこい男かと思いきや、
    存外のさっぱりさ加減を見てミスタはちょっと感動すら覚えた。
    双方覚悟してのぶつかり合いだった、割り切っているというか、
    死力を尽くしやるだけやった結果をただ尊重しろと示している。
    そういえば闘ったときも褒めるところはきっちり褒めてきた…、
    そういうトコには敬意払っていい…いや払うべきだ。
    だんだん見え方が変わってくる…弱ったな、どうしたもんか…。
    ただ、さっき感じた「怨み」は本物…いったい誰をあんなにも?
    流れ的にやっぱボスか…けど…なんかしっくり来ない…ような。

    「リゾット・ネェロの最後の戦いは、誰も見ていません。
     なので、情報を整理し繋ぎ合わせて解析するしかありません。
     あの日、分かれて索敵中だったブチャラティとナランチャは
     離れた場所からの突然の攻撃を受けて、戦闘に突入しました。
     崖の上から数本のメスが飛んでくるという単純な攻撃でした。」
    ピクと吊り眉が反応する、
    「…何だって?」
    「違和感があるんですね?」
    憤懣を押さえ頷くのを確認しジョルノは続ける。
    「ナランチャは敵を彼一人だと認識し追尾、狙撃し倒しました。
     ブチャラティが見つけたとき、傍には誰もいなかったけれど、
     遺体にはエアロスミスのものでない負傷の痕跡がありました。
     ナランチャは敵に利用されたとブチャラティは言ってました。
     リゾットと戦いダメージを受けた別の敵が、エアロスミスを
     利用することでリゾットに辛勝し、行方をくらましたんだと。」
    「同感だな。リゾットの戦術は執拗でエグいうえに計算づくだ。
     射程距離外にメス飛ばすようなチャチな真似してたまるかよ。
     敵が再利用して、敵の敵を引き込む小道具にしたんだろうよ。」
    「安心しました。あなたが保障するんだ、間違いないでしょう。」
    頷いて微笑む、けれどすぐ悲しい顔になりそれでも続ける。
    「その直後、僕のチームのアバッキオがその敵に殺されました。
     慎重なとても強い人でしたが、…出会いがしらの瞬殺でした。」
    「アバッキオ…というと、…過去を再現するとかいう?」
    「ええ。過去を隠したかったボスが最も嫌がる力です。
     逆に僕たちにとってはかけがえの無い命綱でしたが。」

    きつい眼が逸らされたのは大切なヒーラーを殺された辛さからの
    感情移入らしい、「ボス」はいつも、一番大切な泣き所ばかりを
    わざわざ狙っては、あざ笑うように破壊していったのだ。
    別れの言葉すら無く三人も…駄目だ今は考えるな…考えるな。

    「その段階で僕たちとトリッシュは既に、ボスと敵対する立場でした。
     サンタルチア駅であなたと奪い合ったディスク…
     あれで指示された場所で、ボスはトリッシュを消そうとしたんです。
     ブチャラティはそれが許せず彼女を奪還し、僕らはそれに同意した。
     僕らもあなたたちも、ボスの不実に振り回されていただけなんです。
     そのブチャラティも、そのときの負傷で、先に逝ってしまいました。
     …悔しいです。あなたたちと敵対して良いことなんか何もなかった。
     むしろ…トリッシュぐるみ、双方を消そうとしてたと考えた方が…。」

    まあな…と、ギアッチョは呟き、飾り珠に祝福を呟くと小箱に戻した。
    写真の横に並べてそっと置く、美しい弔いの仕草だった。
    「…ウチのみてーな大将だ。そっちも…ご苦労なこった。」
    同じ本丸を目指しながらも潰し合い敵の思うツボだった。
    ディスクを得ていたとしてもボスに殺されるだけだった。
    後続に勝利を託して逝った仲間たちになんて言えばいい…
    瞬く間に空しさを理解した聡い瞳の静けさが、逆に惨い。

    「敵がボス本人だったと判ったのは?…トリッシュか。」
    メゲねえし…すげーヤツと戦ったんだな…ミスタは素直に感嘆する。
    話が終わったら…か、…仕方ねーが撃ち難くなっただろクソッタレ。
    「そのとおりですギアッチョ。それが解ったとき、僕たちにとって、
     リゾットが戦ったことの意味がどれだけ大きかったかも解った…、
     ボスは初見殺しの危険な能力者で、まだ情報なんて全く無かった、
     リゾットがあのとき戦い、足止めしダメージを与えていなければ、
     僕たちはサルディニア島から出られず各個撃破で全滅してました。
     敵に余力が無かったからこそ犠牲はアバッキオ一人だったんです。
     リゾットがどうやってボスの故郷の島を探り当てたのか判らない、
     ボスと一騎討ちすることになった経緯も判らない、
     それでも、結果的にですがその時、彼と僕たちは共闘したんです。
     僕たちとあなたたちはリゾットの番で漸く同じ正しい敵に挑んだ。
     僕たちが生き伸びなんとか勝てたのは、彼の先陣あればこそです。」
    大粒の宝石のような緑の目の輝きが熱い。

    「リゾット・ネェロは尊敬すべき戦友。そう思っています。
     彼ほど、腹を割って話してみたかった人はいません。
     こんなに賢いあなた達が叛乱を起こすなんてよっぽどのことだ、
     なぜ叛いたのか対戦時に訊かなかった…後で思えば痛恨でした。
     共闘の目はあったんですよ、…あなたを見舞うたび思いました。
     …あなたの読みどおり、僕はボスを憎む裏切り者でした。
     僕がお世話になったギャングは恩義や信頼を大切にしていました、
     だけどボスは薬から護ると嘘をついて自分が街に薬をばら撒いて、
     僕らを食い物にし始めた、イラついてる時に僕らは出会いました。
     僕が起こした揉め事を彼が調べて争った後、意気投合したんです。
     僕とブチャラティがトリッシュを護りあなたたちと闘った目的は
     ボスに会って倒すことだったんです。初めからそのつもりでした。」
    無謀に過ぎる少年の覇気を少し眩しげに氷使いが見る。
    なんと青い…が果敢…裏社会の「先輩」はそう感じたことだろう。
    「先陣…な。オレを治したのは、リゾットへの返礼か。」
    「はい。…外せないステントが食い込んで炎症起こしていて、
     タイムリミットぎりぎりでした。一週間経っていたので…。
     あなたにはよけいなお世話だろうけど、僕だって怖かった。
     いつ起きて凍らされるかとか、深刻な禍根を残すかもとか。
     正しいかどうか相談できたはずの人も居ない…心細かった。
     なぜ隣にいないのかと、彼を少し…恨んでしまうくらいに。
     怒ってくれる人も、茶化して励ましてくれる人も…居ない。」
    膝の上で両手の指が毛布をギュウと握り締める。
    ブチャラティ達が居なくて心細いなんて一度も言わなかったくせに…
    「ブチャラティはね…ほんといい人でした、カッコよくって…
     ナランチャは可愛いしアバッキオは…すごい叱り方するし、
     仲間とか初めてで、…嬉しくて、何かもう、がむしゃらで。
     冒険のノリで始めた…と思います。…ああ、笑ってますね。
     …僕はもっと、自分に力が有るつもりでいた。…驕りです。」

    ミスタは目を赤くし、若すぎるボスの不休の頑張りを心でねぎらう。
    正直に率直にそうぶっちゃけられると、クッと三白眼が細められた。
    先制押し貸しスタンスでいけとのフーゴの助言は実に的を得ていた。
    皮肉には皮肉、本音には本音の等価で返す相手だとだんだん解った。
    「結果論を思い込みすぎるのもどうかとは思うがな…
     勝負は勝負だが、こっち的にはてめえらは「ボスの手先」だ。
     忠誠で戦う相手じゃあねーのは、オレも戦って初めて解った。
     リゾットがてめえらを怨んだとは思わんが助けたかったって
     わけでもあるまい、先に顔合わせてればどう転んだか判らん。
     が…まあ一応そうか。犬死にってわけじゃあなかったんだな。
     別件の私的な謎もおかげで一つ解けて、幾らかスッキリした。
     うん…、よく掘り起こしてくれたな。ありがとうよクソガキ。」

    すいと手が伸びたと思うと、巻き毛がくるくる盛り上がる頭を
    ぽむぽむと軽く叩いた。

    「!!」

    目をまん丸にしたジョルノは一瞬置いてぶわっと赤くなった。

    「なな何!?何なんです!?」
    ずざあッとヒいてソファーに食い込む、
    「あ?ガキに礼言うときはこうするもんだろ。」
    おぉ貴重!我らがジョジョが照れまくりすげえすげえすげえ!!
    「ふん…確かに、お綺麗な手じゃあねぇわな。」
    汚れ仕事に使い尽くされた手を眺める伏し目。
    おい誤解されてんぞ大将、フォローしと…く余裕はねーか。
    「いい嫌とか言ってませんよべつにっ、子供じゃあないし!!
     僕はこっちで話しますっ、ミスタつめて、そっちつめて!!」
    「おう、ヒヒ…おぐっ!?」
    毛布にくるまったまま手が届かない向かいの席に来て座る、
    何そのツラ子猫がフーとかシャーとか言ってるみてえだぞ、
    思わず笑ったミスタの脇腹に八つ当たり的に肘打ちが来た。
    「いっ、つっ…。そ、そっから、こいつらのチームのこと、
     調べなくちゃあって話になったってワケか、なるほどな。
     組めてりゃあお互いラクだったな、こいつら強ぇもんな。」
    そのエロ怖ぇご面相で褒め上手とかーっ…
    ちゃんと褒められた経験なきゃそんな褒め方できねー…
    ややこしい環境で育ってきたジョルノには衝撃だろう、
    この男、面白ぇッ、隙あらば攻めるぜシビれるゥーッ!!

    「コホン。…ええそんなとこです。
     殺し屋集団なのに回復系がいないのは変だと思ったのも
     わりと早い時期で、その段階で興味はあったんだけれど。」
    吊り眉がまたピクリと、ヒーラーの話題には敏感なようだ。
    左腿に触れてる手…痛むんだろう、そいつらがいたらとか
    思ってるのか、痛みも癒せる回復系なら…正直羨ましいぞ。
    肘掛に右頬杖つき少し考える、揺れる視線に逡巡が透ける。
    キロと横目が向いた。
    「他にもなんか理由がねーか?どうして「あの二人」なんだ?
     こっちは…べつに何かを隠したいとかじゃあねえんだ…が、
     ただ、そう発想した理由が気になる、詳しく聞いていいか。
     …そっちの予備知識として…だ、…言ってる意味、解るか?」
    値踏みされているのだと悟ったジョルノは僅かに身を乗り出し、
    ミスタは相手が今までになく下手に出ていることを感じ取った。

    「あります、聞いてほしかった。これ、見てください。
     ボス…ディアボロは人間不信の極みな男だったので、
     こと記録に関してはずいぶん厳しかったようですよ。
     主に懲罰や粛清の根拠とするためでしょうけれどね。
     自身の過去はあれほど消そうとしたにもかかわらず。」
    ペース取り戻すと姿勢を改め、またバッグ開きファイルを
    取り出して広げた。
    数字まみれの会計表、ミスタには頭痛を催す類いのものだ。
    フーゴが戻る前に一人で調べだして、戻ってからは一緒に、
    あーだこーだ言いながら調べまくってたのは知っているが…
    て、手伝えなかったんじゃあねーぞこっちは人事あれこれ、
    …思わず自分に言い訳したのは内緒だ。
    「組織を掌握してから、親友と二人して過去の組織運営の
     問題点を洗い出していたんです、事業とか付き合いとか。
     あなたたちのチームの扱いがひど過ぎるのが先に解って、
     こういう不公平というか不実は今後絶対避けないと、と。
     内紛の元になるし、能率も上がりようがありませんから。
     それで過去に遡って決算や経費の申請を調べていったら、
     ある時期の、非常に不自然な変化が見つかりました。」
    機嫌がいいと目を細め黙って眺めるのが猛獣の癖らしいと
    チラ見したミスタは悟った、…ボスがディアボロみたいな
    冷たいサイコ野郎でなく、こんな賢い優しいやつだったら…
    彼も自分らも、掛け替えのない大事なものたちを奪われて
    こんなに辛い思いしたり、叛く必要だって無かったものを。
    目から鼻へ抜けるジョルノの気づきは聞いてて気持ちいい、
    ぽんぽんぽんと次に何が飛び出すか楽しみでしょうがない、
    心が刺激されつい見入って期待する、その感じ、よく解る。
    ロクデナシにはそれが逆に、やたらとムカツクもんらしい、
    要するにあれだ、この男とはどうやら…ウマは合うんだな。

    「ほらここです、三年前の三月。これはいわゆる裏帳簿ですが。
     ここまでは、あなたたちのチームにも、豊富とはいかないまでも、
     経費も報酬も相応に出てはいるんです。申請はほぼ通っているし、
     報酬はまあ相場…っていうのもアレですが。医療費もごく少ない。
     この頃まではそこそこ安全に、やっていけたんじゃあないですか?
     当時の事務の上役達が何かやらかしてまとめて粛清されたとかで、
     事務方はろくな情報は持ってませんでしたが。」
    「……。」
    ギアッチョの口の端の薄い笑みがそこで消えた。

    「しかし翌月からはうってかわって…
     報酬は絞られ経費の申請は半分も通っていない、
     入れ替わりに医療費が増えています、それすら全額には程遠い…
     単に厳しくなったというより、事務方からの嫌がらせみたいな。
     今の部下…旧親衛隊所属の連絡役からも証言が取れましたけど、
     申請は何度も却下され直させられてます、…辛いですよ、これ。
     チームから造反者を出せば立場は悪くなる、けど変な扱いです。
     僕ならチームの解体なり再編で再利用する、禊だけ済ませてね。」
    フーゴの帰還やムーロロ、シーラの重用はまさにその「再利用」、
    その成功を見るほど、前ボスは頭は良いか賢くはない、と感じる。
    「こうなるとイジメというか…目的があるようにしか見えません。」
    「…続けろ。」
    言外に肯定する眼に熾火じみた暗い情念がまた灯る。
    どうやら及第点…ここまでは、

    って何だそれ…ジョルノたちが興味もつだけあって本当に何かある。
    考えてみたらこいつら…殺し犬と呼ぶにはあまりに「使え」すぎる、
    なんでああも長いこと我慢してた、一人も叛きも逃げ出しもせずに?
    パッショーネは確かに大きな組織だが世界組織ってわけじゃあない…
    高飛びして売り込めば欲しがるところはいくらでもあっただろうに。
    二人の表情を見比べミスタの目が忙しく往復した。
    ごく、と咽喉を鳴らしたジョルノが別の表を示す。
    「…他にも、おかしなことが…こっちは…執行部機密費です。
     三年前の三月まではそれほどの支出は無くて、あっても支出先は
     簡単に追えました、不明な点はべつだん見つからなかったんです。
     しかし四月ぶんから先、急にすごい勢いで機密費は減っています。
     十二月の時点でとうとう空になり、繰越金と予備費を全額流用し、
     次年度の予算が組まれるまでにそれでも足りず特別会計から流用。
     次年度にはこの不可思議で大きな支出はなぜか無くなっています。
     支出先の記録はされておらず、全く追えませんでした。
     当然内部の横領を疑い、旧親衛隊や事務方の資産を当たったけど、
     不審な形跡も無く、終いにボスの個人資産まで洗ってもみました。
     でも、結局のところ、支出の経緯も支出先も判らなかったんです。
     判ったのは扱ったのが旧親衛隊のティッツアーノ、という事だけ。
     そしてこの年の収支決算は、組織が始まって以来の大赤字でした。
     スポーツくじなどの収益がガタ落ちしたのが一番大きいんですが、
     担当部署の人事異動があったわけでもなく、これも原因不明です。」
    親衛隊の名を聞いた途端、ギアッチョの睫が伏せられた。
    効きの悪い暖房でやっと温まった空気がまた冷えてゆくような…
    名状しがたい重たい気配が静かにじわじわと滲み出る。

    「…まだあります。」
    注意深く様子を観察しながらジョルノは続けた。
    「この三月を境に…組織は得意先企業や資産家の多くと切れてる。
     特に事業で損させたとかでもないのに、逃げられているんです。
     何があったのか部下が探ると、要人たちの個人的な決定だとか。
     理由はばらばらで要領を得ない、べつだん統一性もありません。
     しかし彼らは一様に、パッショーネに見切りをつけてしまった。
     麻薬の扱い量が増えたのは、これらの損の補填と見ていいかと。
     どれも境目は三年前の三月末なんです。
     …僕がなぜ「彼ら」のことを調べなければと思ったのか、
     ギアッチョ、あなたには、もう解ってもらえましたよね?」

    頬杖を外しこちらへ向き直った眉間には深い縦皺が刻まれていた。
    人の色を取り戻しつつあった瞳は、また暗い穴じみたものに戻り、
    だが今度は激すでもなく静かに答えた。
    「三年前の三月末、…オレらのジェラートとソルベが死んだ。
     組織でそのころ起きた変わったことといえばそれくらいだ。
     ウチのチームの異常な冷遇とも合わせどうにも引っかかる、
     今後の組織運営のため詳細を知りたい、…ということだな。
     未来のために、というのは、そういう意味で言ったんだな。
     過ちがあったなら、それを繰り返さねえために。」
    こくりと頷いたジョルノがソファーに背を戻した。

    これは…えらい話になってきた…ミスタはごくんと唾を飲む。
    造反と粛清、組織にとってはとりたてて大きな事件ではない。
    が、死んだ仲間を語るその言い回しは引っかかるものだった。
    無名の団員二人の死が彼らと組織にそれほど深刻な影響を…、
    二人の存在とそれにまつわる出来事は、隠蔽されていたのか?
    いったい何者で本当は何やったんだそいつら…解らん!!

    姿勢を正したギアッチョは向かいの二人の目を順に見、
    なんとも妙な薄笑いを、動かない顔の口元に浮かべた。
    「合格だクソガキ、そのオツムと執念、答える甲斐がある。
     とはいえその気で調べ始めたらあいつらの特殊性が解る。
     調べれば調べるほど、捕まらねーことに気付く。
     どう聞き込んでもあいつらを知ってる「はず」の誰からも
     要領を得た話は聞けなかったんじゃあねーか?
     困ったよな、…悔しかったんだな?そら、顔に書いてある。」
    え、とミスタは隣へ目を向ける、
    図星を指され唇を噛む少年の横顔がそこにあった。
    見られていると気付きチラとミスタを見、言葉を探し、目を上げる。
    「…正直、お手上げでした。偶然から動画ひとつ手に入れて、
     その後はほんとに何も。…手ごわいです。余計気になって。
     当初は造反者との関わりを避けてスッとぼけているのかと…
     だけど違う、誰ひとり彼らを説明できないのは逆に変です。
     能力や性格について尋いたけど、気に留めていなかったと。
     密告者だったムーロロですらそうなんです、有り得ません。
     どうってことない連中だから覚えてない、そう言うんです。
     それを変だと思わないかと訊いたら初めて、確かに変だと。」
    そうだろうよ、とギアッチョは目を逸らさないまま頷いた。

    「あいつらとぶつからずに済んだことを幸いに思え。
     総がかりで単体相手でもキツいが組まれたら詰む。
     オレもウチの連中も模擬戦でボコられてたもんだ。
     戦闘用スタンドですらねえってのが笑うしかねえ。」

    「いや嘘だろ、ねーよ!?」
    思わずミスタが突っ込む、
    怜悧なジョルノと楽観的な自分とにトラウマを残すほど恐ろしかった、
    速く賢く死ぬほどしぶとく一点の曇りすらも無い正統派の強さだった、
    殺し合いでなく情報の探り合いという制約つきだからこそ辛勝できた、
    そんなこいつがボコられてただと…どんな怪獣の話ですかねそりゃあ!?
    しかも何だ、戦闘用スタンドじゃあない??
    いや大前提としてそいつら、回復系…オカシイだろからかってんのか!!
    またさっきの奇妙な薄笑いが応じる。
    そのツラやめろよ、似合わねーし、なんか…ザワつく。

    「嘘っぽいか?ヒントはほぼ出揃ってるが。」
    「解るかそんなもん!!」
    逆ギレ。
    「あの、…もう少し、ちょっぴりでいいので、ヒントを。」
    降参。
    見下ろし冷笑、…ではなく、目を細めている。
    「それがてめえの「教えてほしいこと」なんだな?
     だからオレにチャージしに来る回数を増やしたんだな?
     当初の義理が興味に変わり、終いに必要性に変わった。
     オレの生死に干渉する「権利」?…笑うトコか、うん?」
    「あ、あなただってそれ利用して逃げ、…いえ、…はい。」
    たたみかけられたジョルノがこっくりした。
    「あれは方便ですごめんなさい。もう勘弁してください。
     でもあの…通ってた理由はそれだけじゃあ…他にも…、」
    語尾ぼそぼそ、しょんぼり。
    「承知した。お互い嘘もハッタリもこっから先はナシだ。」
    ほっ、と並んで息をつく…駄目だこれ、適わない。

    調子が狂う…この男相手だと二人してなんだか…
    歳相応の、フツーの学生にでもなったみたいな…
    しかしそれは不思議に、少しも嫌な感じではなかった。
    心地よい振り回されかた…二人とも同じにそう感じている。
    ちょっと目を合わせた少年らを見つめ、氷使いの笑みが消えた。





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