二次創作 狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~ あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 その4
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二次創作 狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~ あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 その4

2019-07-19 16:52






    「確認するが、…現実…だよな?居るんだよな?」
    え?と再度のメンタル破壊砲を警戒したジョルノが言葉を捜す、
    「オレらか?ちゃんと居るぜ、いきなり何だよ。」
    休戦中だかんなッ、とテーブルに片手をつくとズイと乗り出す、
    差し出された手と膝の前の写真と遺品とを、三白眼が見比べた。
    視線が上がりきつい黒いミスタの目を見る。
    「ほら。」
    右手が上がり握手、しかけて引くが、ミスタの手が追い掴んだ。
    傷の多いごつごつ無骨ながっつり日焼けしたその手に比べれば、
    長く病室に篭っていた氷使いの手は思いのほか白く繊細だった。
    「おい凍らせんなよッ!」
    「しつっけえな、解った放せ、つかてめえワキガきっつ!」
    「やかましい手入れするヒマなかったんだよ今日はぁッ!」
    てめえのせいで叩き起こされたからと豪快にヘソ曲げる様子に、
    「ま…まあそうだな…こんな下品な幻覚あるか。」
    「どーゆー確認だッ!ちゃっちゃと話せ氷野郎!」
    「ああ…すまん。…話す…」
    お互い席に座り直す、ああミスタと一緒に来て良かったなあと
    最側近の獣臭を認識から追い出しながら金髪首領は独りごちた。
    漸く流れ出た声のトーンは、怒声でも狂笑でもなく押し殺した
    ものでもなく…柔らかさのある、たぶん彼本来の…ものだった。
    「嘘なんかついてねえ。あいつらがクッソ強かったのは本当だ。
     オレらはあいつらを…護れなかったし、護るべきだったのに、
     護るって発想は全然無かったんだよ、…少なくともオレには。」
    考え考え答える唇の端が震えた。
    「護ってくれてる側…そう認識してた。心配なんぞしなかった。
     あんなことになるとは、チームの誰も思っちゃあいなかった。
     オレらがどこで死んでもあいつらだけは残る…。
     みんなそう思ってた。…本当にそう信じてたんだ。」
    気持ちが入り過ぎた証拠に、両手に僅かにジェスチャーが入った。
    「本当…なんだよ。…嘘なもんか…」
    傲然と闊歩する猛虎の仮面がふいに割れ生々しい血肉が溢れ出た…
    そんな気がする気配の激変だった。
    これまでの豹変と別種、ごとんとステージが一つ変わった…

    きつい三白眼が目の前でなくどこか遠くへと泳ぎだす。
    視ているのは過去。
    切られた命綱…
    死にたい以外の意思の無かった彼がそう表現した時の哄笑が、
    おぞましい凶獣のそれから満身創痍の慟哭に色を換え蘇った。
    室内をぐるりと見渡す、仲間たちが座った筈のソファーには
    少年たちが座るのみでしんと静かだ、…やがて視線は落ちた。
    ジョルノもミスタも声も無く、ただ独白を待つしかなかった。

    「オレらが首輪つけられて…木偶みてーに黙って働いたのは…
     いま思えば…脅されたから…って理由だけじゃあなかった。
     …あんな奴ら…死なせちまうようなクズの、バカさ加減に…
     呆れたってか…気力…抜けちまったから…だった気がする。
     居なくなって困り果てて…やる事ばっか増えて疲れきって…
     意味がわかんねえ…そのまま時間だけ…たぶん…それから…
     ああそうだ…だんだん思い出してきたぞ、そうだったんだ。」

    右頬に手を当てるのは考えるときの癖だろうか。
    くく…と、目を見開いたまま咽喉の奥で嗤う。
    「ざまぁねー…こんな生業で…ガン首そろえてよ…」
    何かが突き抜けてしまった乾いた…
    けれど血を吐くよりも苦しい嗤いなのだった。

    ふいに思いきり息を吸う、
    「…違約金だッ!!」
    暗い瞳で嗤い怒鳴る、突き上げた激昂を歯噛みし喰い殺す。
    え、と、ジョルノが引く。
    真正面から銃のかたちの指が突きつけられる、
    「記録ってのは大事だぜぇ、だが嘘もある、数字はただの数字だッ!!
     上のヤツラがピンハネしたレンタル料は配当金に混ぜられてたッ!!
     無論配当の生じた賭けそのものにもタネも仕掛けもあるけどなァ!!
     でなけりゃポルポが賭場の片手間であんな収益上げられっかよッ!!
     脱税はあったんだよ、解るか!?解んなかっただろ、てめえでもよ!!」
    声を立て嗤う、空ろになり黙る、また激昂しそれを喰い殺す。
    「レ…レンタル…?何の…?賭けの仕掛け…脱税?詳しく…、」
    何かもうテンションの振れ幅があり過ぎて付き合う側がもたない。
    「詳しく…?ああ、…だな、そりゃあ…そうだ、」
    何度か深く息をつく、
    「それな、あいつらの…レンタル先に搾り取られた、違約金なんだよ。
     その、消えた機密費、ってやつ…パねぇ額だろ…聞かなくても解る。
     そんだけ高く貸してたんだからな、ピンハネ率だってパねえけどな!!
     …大赤字だと?当たり前だ…チームにとってだけじゃあねえ…
     あいつらがどんだけ組織の役に立ってたか、儲けさせてたか!!
     あいつらを切ったせいで、どんだけ金ヅルに逃げ出されたよ!?
     バカな親衛隊どもより、逃げた金ヅルどものほうがよっぽど、
     あいつらの価値を解っ…、いや…違うッ…それも…くそ…ッ!!」
    片手が邪魔くさげに伸びた癖毛を跳ね除ける。
    「は…便利…だったんだなアレ…
     はは…無理か、どのみち他のヤツじゃあ捌けるわけが、」
    血走った目を見開き激情を咬み殺しまた咬み殺し、呻く。
    「ちくしょう…何から話しゃいい?…全然まとまんねえ。
     イラつく…ッ…聞けよクソガキ…答えてやるよ何でも。
     とっとと聞け、話させろ、…話してえんだよ聞けよ早くッ!」
    「わ…解りました、…じゃあ…、」

    「声が小せええッ!!」

    キャビネットのガラスがビリビリ鳴った、
    雷食らったように薄い肩が跳ねた、
    「すみませんっ!!その…彼らはすごく強かったそうですけど、
     スタンドが気になりますっ、強力だったんだろうなってっ!!」

    「…ああッ!?てめえ思ったよりバカだな、全然解ってねえッ!!」

    必死で繰り出した質問に鉄拳的ダメ出し。
    「え」
    どうも幼少時のトラウマあたり直撃されたっぽいジョルノは
    ホワイトアルバム食らわされて凍ったぐらいその場で固まり、
    そんなレアすぎる光景を初めて見たミスタも一緒に固まった。
    冷や汗がつーっと、…や…やっぱこの男やば…マジモンだ、
    スタンドじゃあない中身だッ、本体がいろいろ強烈すぎるゥ!!

    「ちっ…まあいい、オレは絵心はねーがこれだけは、
     …ジェラートがすげー喜んだんだ、…出来るようになった。」
    右手がガッとテーブルの上のポットを鷲掴みしビクゥとさせられる。
    牙剥いた口が閉じた途端に端正に戻るのも、ものすごく心臓に悪い。
    空のカップの上でツゥ…と…細糸のように、湯が落とされる。
    パキ、と、テーブルマジックよろしく左手指が鳴る、と同時。
    流れ落ちた湯はカップの上空でチリと微かな音を立て凍った。
    透き通った氷が見る間に大きくなり形になる。
    遊びのようだが繊細極まる操作、氷使いの本領発揮だ。
    眼が…すごい…過集中する眼というのはこんななのか、
    吼え狂ったかと思えばこれかよ…違う意味で化けモン…
    と、凝視していた四つの大きな瞳が見開かれた。

    「ジェラートの「ドリーム・シアター」だ。」

    それは非常に華奢な…ヘッドフォンに見えた。
    ヘッドバンド部分は折れそうに薄く細く、細かい文様が浮く。
    まあるい貝殻のようなパッド部分の内側に、小さな唇の意匠。
    外側には透明な翼が三枚ずつ、ふんわりと広がっていた。

    「ドリーム・シアター…?…スタンド…これが?」
    「ドリシアと呼んでた。この形だけは忘れねー。」
    会心の出来なのだろう、懐かしげな優しい声だ。
    「え、綺麗…というか、」
    思わず感想が毀れる。
    「おおお!?癒し系かよ!!こう来る!?」
    顔を寄せ目を丸くし夢中で、二人で見入る。
    効果音をつけるなら、ふわん、キラン♪、といったところ。
    凍傷になると解ってるのに触りたくて手がムズつく可愛さ。
    スタンドというと不可思議で奇怪な造形していがちなのに、
    氷の模型からはその手の異形感が微塵も感じられなかった。
    「す…スタンド萌えとかよォ…開発されたわ今!」
    「こんなスタンドあるのか…系統が違う気が…。」
    「Pokemonだろ!飛ぶだろ?なっPokemonじゃん!」
    「それだ!これは…飾りたい、いや飼いたいっ!」

    その上空数センチに、更に何かが現れた。
    繊細な編み込みか彫刻に見える…幅広のリング。
    「…腕輪?」
    「ソルベの「バングルス」。これは「ジェラートの形」だ。
     白…いや真珠色でうっすら光ってた。」
    「アクセサリータイプ!初めて見たッ!」

    ため息が漏れる…見れば見るほどそれらの造形は端整だった。
    実物は更に美しかったという、美術品のような二つの模型は、
    しかし思っていたイメージとは、あまりにもかけ離れていた。
    「これ実物大、ですよね?」
    「ああ。手首に浮き出る。」
    「つけるとステータスアップとか…」
    「違ぇ。バングルスは情報収集専用だ。
     標的の肌への接触で作れて記憶や感覚や意図を読み出す。
     人格によって形状は千差万別だ、ゲスいやつのはグロい。
     戦闘用じゃあねえ、二度言わせんな、寝てんのかよバカ。」
    「…う…だって…」
    強かったって言ったでしょうが…とぶすくれるジョルノ。
    えっちょっと待った、汎用性が…とかぶつぶつ考えだす。
    ミスタが眉を寄せ、更に氷のバングルスに顔を近づける。
    「じゃあこれ、ジェラートさんの読み出し用ってことか?
     それヘンだぜ、相棒だったんだろ?なんで傍いんのに
     わざわざ作る必要あんだよ、話せば済むじゃあねーか。」
    そりゃあ…と、ギアッチョはポットを置いた。
    美しい彫像はさらさらと融けて水になりカップに落ちて揺れた。
    模型の体積を合わせてもカップ一杯に満たない小さなスタンド。
    攻撃力とも防御力とも間違いなく無縁…「強さ」にどう繋がる?

    「必要だからだ。ジェラートは声出せねーヤツだったから。
     常在型スタンドが声とセットの超レア形態だったんだよ。
     ジェラートと組めるのは、だからソルベしか居なかった。」

    造形といいレアにもほどが!ソファーの並びで二人が呆気。
    こいつの「纏う」「見える」やつもレアだがその更に上を…
    あっ…と、ジョルノがカップの水を見て呟いたのは、
    沈黙からものの十秒やそこら経った時だった。
    無色透明…どんな形にでもなる水…汎用性…。
    「…解った。」
    スタンドの形状と声、名。
    優れたヒーラーにして暗殺者で、カネを生む得がたい諜者。
    多様過ぎる不可思議な現象、影響力、組織外へのレンタル。
    まるで生きたステルス機ででもあるかのように隠れた実像。
    全部が繋がり成立する条件、能力…やっと見つけた!!

    「催眠…じゃない、「暗示」ッ!!
     ドリーム・シアターは声で掛ける暗示のスタンドなんだ、
     そうとしか考えられないっ…、違いますか、ギアッチョ!?」
    机に手をつき頬を紅潮させ身を乗り出す、
    にいっ、と、三白眼が…細められた。
    「正解。…いい子だッ、よく解いた。」
    「やったッ!!ミスタやった、シンプルこそが最強って、ねえっ!!」
    今度は子供扱いを怒りもせずギュウと肩組んできて全身で喜ぶ。
    こんな歳相応すぎるジョルノ見たことない、なんて嬉しそうな…
    ブチャラティだってナランチャだってこんな顔させたことない、
    いつも大人びて冷静だった、あの中ではそれが求められていた、
    だからみんな助かってた、だけど少年のこの顔も…ジョルノだ。
    思い出したくもないおっかないばかりと感じていた嘗ての敵が、
    こんなにもこいつの心を躍らせ生き生きさせるとは、ヤラレた。
    ギアッチョ自身もすごく…ほんとにすごく嬉しい眼をしている。
    人たらしのジョルノが見事にたらされてるし、たらしてもいる。
    こいつらとびっきり相性いい…意外だけれど新鮮な驚きだった。

    「あいつらの強さは、スタンドのステータスじゃあはかれねー。
     桁外れの汎用性とマッチングと、生まれ持った素のチートだ。
     ジェラートはここの性能狂ってたし、ソルベは身体がそうだ。」
    拳でこめかみを示しトンと突く、口角が上がる。
    やっと落ち着いたらしい、さっきまでブッ壊れそうで怖かった。
    「ドリシアの暗示は強力でな。意思で動かす部分だけじゃあなく、
     反射や内分泌や代謝とかのレベルまで問答無用で作用してきた。
     ソルベがバングルスで苦痛だの不快だのを読み取って伝えると、
     ジェラートは適切に無理のねーように整えて回復させてくれた。
     負傷、疾病、メンタルケア、ケンカの仲裁まで何でもござれだ。
     神経ガス吸って死にかけから麻痺もなく回復したヤツまでいた。」
    「はぁ!?暗示って毒ガス消せんの!?魔法か!?」
    「違ぇって。気管の粘膜に吸着させといて片っぽを剥がしながら
     もう片っぽを回復させる、間で休ませながらそれ繰り返してく、
     排出できたら粘膜を完全に再生させて元通りに戻していくんだ。
     あいつの言葉で身体は機能を総動員する、最大限に最速で治る。
     肝機能と免疫力を強化して仕上げ、効果的なリハビリはソルベ。
     そういう使い方を瞬間的に発想するし、やっちまうヤツだった。
     だから言ってんだろ、オツムの性能狂ってたってよ。
     ジェラートの「仕事」はただの一件も暗殺とは認識されてねえ。
     当人まで納得しかねん自滅に持ち込むからだ、イカレてやがる。
     「神託に偽装したヘッドショット」、だとさ。リゾットいわく。」
    「な…なるほど…、」
    話したくて伝えたくて堪らない、声だけでなく総身が訴えている、
    どれだけ溜め込んでいたものか、熱く語る舌鋒の勢いが凄まじい。
    怒涛の新情報にジョルノが目をぱちぱちし、ふるふる首を振った。
    「使いかた無限だな…じゃあほら、戦闘になったら、
     バングルス経由でソルベさんに指示を出したりは?
     絶対そういう使い方してますよね、僕だってやる。」
    「おう解るか、行動予測オカシイんだ、「演算」だっつーんだが。
     いろいろ危な過ぎるんでジェラート本人は模擬戦はやらねーが。
     ただでさえソルベの旦那は単体でも手がつけらんねーのによぉ!」
    思っくそジェスチャー、普通に楽しげな若者のやんちゃな笑い方だ。
    おめーも大概…とミスタが呟いたが盛り上がり中の二人はガン無視。
    って、なんだよマトモに笑えたのか、やりゃあ出来るじゃあねーか!
    「さっき言った便利なアレって、バングルスのことだったんですね。」
    「え?ああ、言った…かもな。…まあ無理だ、旦那は別枠だ。」
    「身体チートって…何なんですか、細い人だと思いましたが。」
    「ああ、てめえ踊んねーのか…これ動画からだろ、出せるか?」
    と膝の前の写真を指す。
    持参したチップからモバイルで件の動画が再生された。
    なんで今まで見せろと言わなかったのかと不思議に感じたミスタが
    横目で見ると、気後れと期待が入り混じったえらく初々しい横顔が
    飛び込んできたから、気付かなかったふりしてそっと目を逸らした。

    明るい自然光の店内、クラップ、指笛に歓声。
    仲よく向き合い踊っていた二人を熱を増した演奏が包んだ。
    たんっ、と踵が床を打つ、
    「おあつらえ向けにタップだ。すげえ資料だ…。」
    見入りつつ氷使いの声に熱が込もった。
    機械のように正確な小気味良い靴音が響きだす。
    心得の無いジョルノには単に超巧いタップにしか見えない。
    楽しそうに踊っているだけの鞭のような細身の男はしかし、

    「巧っ…、…て、…んん?」
    自分もやるだけあってダンスにはうるさいミスタの口が開いた。
    「ちょ…待、…ええ、…」
    何度か足を動かす、首を傾げ二度見する。
    「…はあぁぁ??」
    液晶にぶつからんばかりに寄って、凝視。
    何ですか、と覗き込むジョルノ向いてモバイル指差す。

    「何コレ、どう踏んでんだ解んねーッ、両利きか…にしてもっ!?」
    違ぇ、と、唾飛ばされそうなモバイルを離させギアッチョが笑う。
    「両利きだと矯正してっから癖は残るんだよ、パターンもある。
     けど旦那は利き手利き足って感覚から解んねーっぼいんだよ。
     「両方あるから。」だもんな、使やいいだろって意味らしい。
     コントロールが神ってる上に、反応速度が狂ってる域だった。
     とにかく見な、ほんの遊びでこんなだ。」
    動画を少し戻しまた再生する、

    タップのリズムはそのままにのびのびと右に左に回る、
    ふいと相棒の手を掬い、甲にキスしてふわりと離れる。
    人でない、別の生き物の求愛の舞踏に見えなくもない。
    厳しい顔立ちだが、柔らかな表情、…空気は穏やかだ。
    上昇気流と戯れる海上の猛禽…、たとえるとすればそんなだろうか。
    「音が一緒なんだよぉ…オカシイだろーが…靴のドコ使ってもさあ…」
    「同じ音がするように当ててっから。」
    「なに極めてんだよアスリートかよ!!」
    「ああ変態さんなんですね…解った…」
    言われてみれば軸足すら時折同じ音で歌うというのもどうかしてる。
    真に何気なく無理なく、楽しく…精緻な人外の動作を実現している。
    息を乱す気配も無い、ごく無造作で明らかに我流、が優美に過ぎた。
    「こ、こんなん、タップとは言わねーよ…、…かっけぇ…すげーッ…」
    ミスタの語彙が消えて見入る、パブの客もいつか静まり返っていた。

    「これだよこれ…戦闘になるとどう動くか解るか?」
    興奮を抑えられない声が囁く。
    「筋肉も腱も…そりゃ柔らかくて、しなやかでな、歪みが全くねえ。
     見た目は細ぇが「合い」が全然違う、連動が作る速さとパワーだ。
     速ぇ上に読めねー。どっからどんな速さでクるかが全然判んねー。
     勘いい上に効果前にクるわ射程距離内入れても神回避しやがるわ、
     掠られでもしたらバングルスで手の内も泣き所も全部読まれるわ、
     そのうえジェラートが予測回避とトラップブッ込んでくるんだぜ?
     無理ゲーだっつーの…リゾットだけだ、ガチでやり合えたのは。
     何かを実体化して仕込むなり使い回すなりでやっと五分五分だ、
     ゼロからじゃあ発動も反応も攻撃についていけねー。
     イカレてる…スタンド殺しの一つの極みってやつか。」
    生え抜きの猛者が悔しがるどころかむしろ嬉しげに完敗を語る。
    澄みきった憧憬以外の何物でもない熱が、横顔を輝かせていた。
    「そう…か、スタンド操作だって本体の認識と反応速度でやる、
     もしそこが規格外だったら。スタンド自体が非力だとしても。」
    神速のソルベ、最弱にして最強。
    感応特化・アクセサリー型、本体の資質とのそれが最善の相性。
    伝達の速さは脳での情報処理においても発揮される…「別枠」!

    そういうことだ、と誇らしげな目がカップを見やる。
    「能力の応用は、ジェラートに援けてもらった。
     たかだか「冷やす」「融かす」って法則をここまで広げるのは
     オレ一人の発想じゃあ無理だった、他の仲間だってそうだった。
     あいつにヒントもらっちゃあ夢中で考えたもんだ。
     身体の作り方と使い方は、旦那に教えてもらった。
     鬼教官にも程があるが、何の惜しげもねえ…最高の師匠だった。」
    生き延びさせるため、護るため、すべての目的がそこに収束した。
    一人の脱落者も出すものか、筋金入りのヒーラーの矜持が伝わる。

    「誰も彼らを説明できなかった理由は、これですね。」
    ジョルノの指が上がり、映像の隣を指す。
    ちょっとハラハラするほど華奢な肢体に、人形めいた小さな顔。
    相方が超絶なせいで控えめに見えるが、こっちも達者なものだ、
    何やら羽でも生えていそうな、体重が無いかのようなステップ。
    蜂蜜色の髪の彼は甘く揺れながら歌うように唇を動かしていた。
    「ほら、ジェラートさん…スタンドを使っています、いま。
     お店の人やお客たち一人一人に、暗示をかけていってる。
     みんなの記憶から、自分たちの印象を削ってたんですね。
     警戒されたりあなたたちを巻き込むことを避けるためだ。
     姿が残ってなかったのは、映らなかったんじゃあなくて、
     管理者に干渉して、消去させてから、忘れさせてたんだ。
     このステルス性こそが彼らの流儀。…そうなんでしょう?」
    満足そのものの柔らかな笑みが気づきに応じた。
    「ああそうだ。覚えていてくれるのはオレらだけでいいと。
     ドリシア知って意味が解りゃあ誰だって疑心暗鬼になる。
     見るもの聞くもの考えること全部が本物か暗示の結果か
     その境目が自分じゃあ全く判断つかなくなるんだからな。
     絶対に警戒される、周りのモンも危ねえ、だから隠れた。
     そういうヤツなんだ。それがオレらのジェラートなんだ。」

    晴れ晴れと…氷使いが宣言する。
    彼は…どれだけこれを言いたかったのか、伝えたかったのか。
    迷いも探りも揺さぶりも総てこれを伝えるためだけに在った。
    こんなのただ言ったって誰も信じられやしない、当たり前だ、
    そういうヤツ、などとさらっと表現できる類いの話ではない。
    これほどの優秀性、特異性を持ちながら自らの意思で掩蔽し、
    ステルスの存在として裏方やる男など他にどこに居るものか。
    縦社会のギャング組織、みなのし上がることに夢中なのにだ。
    どんなに伝えたくても伝える手段が無い、証拠も証人も無い。
    見えぬことが最大の個性しかも達人だ「見せる」手など無い。
    嘘じゃあない本当なんだと何度繰り返しても意味が無かった、
    記憶を共有する友すら亡くした彼は孤室のカサンドラだった。
    けれど悲劇から三年近くを経て条件は漸く揃った。
    独自の証拠と強い興味とを携えた聡明な聞き手と、
    幼い目撃者が残してくれた動画という確かな証拠。
    生き証人である彼自身は間一髪で死の沈黙を免れ、
    諦念の壁を突き破り、堰を切った想いを吐き出す。

    「な…なんか、」
    姿を現した素顔の控えめだけれど確固たる彩が心を揺さぶる。
    超速の世界の住人たち、異次元の戦士、であるにも関わらず。
    その無私の在りようときたら、…スタンド戦士というよりは、
    「泣けてきちまった…なんだよ…カーチャンかよ…」
    じわ…と浮いてきた涙をミスタがこすり泣き笑いした。
    だろ、とギアッチョは目を細めた。
    「ジェラートはウチの女将…とか言ってたヤツも実際いたな。
     初見でリゾットか旦那の女かと思ったら稼ぎ頭、驚くわな。
     やりくりして、旨ぇ家料理出してさ、楽しそーに掃除して。
     ミスるとこっそりヘソクリでなんとかしてくれたりとかな。
     空き時間はいつもキッチンのカウチで…資料読み漁ったり、
     誰かの相談乗ったり、幹部の機嫌とったり…休みゃしねえ…」

    二人がいた間は、チームはけして暗殺専門のそれではなかったと、
    隣の席の肘掛を撫でながらギアッチョは続けた。
    配置的におそらくは大将…リゾットの定位置と思われた。
    Mago di Santa Chiara、当時はたしかそんな通称だった。
    諜報や脅迫、懐柔などで組織のために他者を操作したり、
    他組織からの襲撃者とやり合うときの頼りにされるなど、
    裏部隊ではあるが大きな組織ならどこでもあるいわば懐刀だった。
    スタンドで仕事するなど常人からしたらなるほど魔術師まがいだ。
    映画みたいに殺し専門の部署ができるほどには、パッショーネは
    まだ「歴史ある」組織ではなかった、考えてみればそれも当然か。
    殺し仕事もそりゃああるが、経費と危険の割りに報酬がショボい、
    他所の怠慢を引き合いに不公平だと日常的に文句はたれながらも、
    いずれは幹部に、とか軽口交わす程度の希望はあったのだという。
    調査に救出、運び屋、調停、全て完璧、他の奴等がトロく見えた。
    オレらが居なけりゃあどうなるか…威張った奴らも笑い飛ばせた。
    一番デカかったのが巨大賭博への介入だった、スポーツや選挙の
    結果を自然に操作することで組織に安全で莫大なカネを流すのだ。
    組織がよそのように脱税に血道上げなくても十二分に上り調子で、
    きっちりカネ関連の文書を残しても平気だったのはそのおかげだ。
    国内外で買いまくり「コレ勝たせとけ」の一言で「運用」が成る、
    本業の賭場よりよほどオイシイから賭博部門はデブの巣と化した。
    配当金は無税、レンタル料も隠し混ぜられ膨らむ、儲かりまくる。
    武闘派一本槍は存外リスクもコストも多い、カネと力を使い分け
    速やかに組織を拡大したディアボロはその点実に巧みではあった。

    「…ちょ待て。殺した数より助けたり食わした数のが多くねーか。」
    「そうだが?ジェラートが一番得意としてたのは人質奪還だしな。」
    「………。」
    そんなの記録にも数字にも…ジョルノの口が開いてる。
    経費や報酬だけ見ても解らない…数字はただの数字か。
    賭けそのものを動かす脱税?知りませんよイカレてる!
    「クチコミでレンタル増えてなー、断んねんだよガキ好きだから。
     つーかさ、オレらが出張るほどの殺しなんて数ねーのよ普通は。
     途上国のゲリラとかじゃあねーから!先進国のギャングだから!
     現場はどこも馴れ合うからな、待ってちゃあ食ってけませんて。
     お呼びとあらば何だってやるさ、九人だ!大所帯だぜ解んだろ!」
    唖然!固定観念ってやつは恐ろしい、
    発想しなかった、…けど全部、言われてみれば!

    鬼才ジェラートはその手の繊細な依頼にはまたとなく適していた、
    タペストリーの目のように緻密な作業を瞬時に組んで織り上げて
    シチュエーションを仕立てる手際は、魔術師の名に相応しかった。
    「立体的に並列計算的に思考してる感じですね。どんな人でした?」
    「カワイイぞ。周りゴツいんでちっこくてな、で声が、またイイ!!」
    ここ重要ッとばかりに力説されジョルノ多少困惑。
    「え、いや性格の話…ああスタンドに関係ある…どんな声ですか?」
    絶対違うぜおめー真面目ね、とあえて突っ込まない優しいミスタ。
    「治療でしか聞けねーんだが、朗読か歌でも聞いてるっぽい声だ。
     男にも女にも、大人にも子供にも聞こえる、けどキレイなんだ。
     本名も前の通り名も判んねえ、好きに呼べって名乗らなかった、
     声が甘ぇからってリゾットがジェラートと呼びだして定着した。
     じゃあツレはソルベかって話になった。オレが入るずっと前だ。」
    「ヘッドフォンで美声叩っ込んで昇天とかよ、それなんてエロゲ?」
    ついヘラついたら両側から睨まれた、真面目同士かよ悪かったよ。

    「そんな上玉さんどこでスカウトしてきたんですか、リゾットは。」
    「レンタル先で仲間全滅したとこに出くわして一目惚れ、だとさ。」
    「あぁ…何があったかなんとなく解りますよ。普通逃げ出します。」
    「そうだがリゾットだからな。遺体かき集めて埋葬してゲットだ。」
    「かっけえなソッチの大将もよ!!ブチャラティも負けねーけどな!!」
    「意思疎通は相棒通してだけ?さすがに不便ですよね、それだと。」
    「普通に筆談だ。ドリシア実体化させて書かせたりな、器用だろ。
     あとはこう…耳打ちだな、息だけで。内緒話の要領だよつまり。」
    「あぁ、…、…えぇ!?」

    ちみカワ保健のセンセだか若女将だかが、耳元ヒソヒソだと…ッ…

    「うわ勘違いするわそれ!惚れちゃわねえ?ぶっちゃけよ。」
    構図想像して大将が絶句したとこに下世話で側近割り込み。
    男所帯でそいつぁヤバいですよ…オレだってヤバいと思う!
    また冷線くるかと思いきや、まさかの溜息。
    「ん…まあ…あいつ身内には警戒しねーから「いろいろ」あった。
     セクハラしかしねーヤツいるし。後で旦那がシメるんだけどな。
     セクハラしてるって自覚がねー、後で旦那がシメるんだけどな。」
    「何やってんだおめーらwwウケるww」
    「あなたは?なんかしたんですか?」
    「死ぬ思いで阻止してたわボケェ!!」
    なんか知らんが鬼気迫る否定っぷりに一瞬置き吹く、楽しい。

    三人で話すには広いが野郎九人がひしめくのにはここは狭い、
    血気盛んな若い奴らの青くかまびすしい日常が伝わってくる。
    ジェラートは頭の使いすぎなのか偶に発熱し丈夫ではなかったが、
    寸刻を惜しんでちょこまかパタパタ何かしら頑張っていたらしい。
    口癖は「何とかする!」実際何だって「何とか」してしまってた。
    実体化ドリシアと手で偽手紙の同時清書とかは異次元だがザラだ。
    隣でソルベが両手で同時複製やってるだとかも異次元だがザラだ。
    うっかり大声出て静粛にとリゾットラリアット食らうのもザラだ。
    クソほどレンタル入れられて多忙を極めたが苦にする様子も無い。
    レンタル先で依頼とは別に要人たちの個人的な悩みの解決という
    旨いオマケをつけることで、金ヅルどもの歓気も掴みきっていた。
    それはたとえば冷えた夫婦仲の改善だの、EDなんとかしろだの、
    グレた孫を学校に戻せだの、若い愛人の浮気判定しろだのという、
    ごくプライベートな人に言えないみっともない内容が殆どだった。
    優秀だが人付き合いや事務仕事の苦手なリゾットの補佐として
    幹部たちや事務方の機嫌だけとりつつも警戒されるのを避ける
    まことに絶妙なバランスは、「女将」役たるジェラート個人の
    同情通り越し痛快なほどのマメさとやりくり適性の賜物だった。
    「地球の裏側にいたってリゾットは細かい相談はしてたからな。
     バカの「察しろ」ってやつが苦手なんだ、大抵それ尋いてた。
     なに話してんのか聞いてても解んねー、すげー世界だったぞ。
     幸い頭いいヤツがいて解説はしてくれてたが、感心してたな。」
    「助言貰える相手は少なかったんでしょう、頼りにしてたんだ…」
    死別が一番コタえてたのはリゾット…そう思うとしんみりする。
    僕だってブチャラティの声が聞きたいもの…
    今いる仲間も頼れるけど…だけど聞きたい…
    やっぱり…キツいな。

    途切れかけた会話をミスタの元気いっぱいの声がすぐに繋いだ。
    「で?で?相方どんなんだよ、ハードボイルド?それとも策士か!?」
    「旦那はなあ…別の意味で見てくれと中身が肌別れしてるってか。
     いやかっけえんだよ、頭もキレる、けどいろいろギャップがな。」
    寡黙なソルベはそんなツレにベタ甘で一切の否定なく寄り添い、
    その安全と意思実現とが命題の、猛禽じみた強者だったという。
    孤高の威風、無造作、揺らがない、素っ気無い、けれど暖かい。
    躍動は剽悍、変幻自在、神速の美技はそのまま芸術、そのくせ
    仲間にヘソクリつぎ込むツレの補填で金策には余念がなかった。
    異邦人なのだろう、ジェスチャーの無い佇まいがシンと気高い、
    キッチンで芋剥いてるだけでも絵になりずっと見ていたくなる。
    発想は大胆、殆どツレの声の代わりになってる口が策を語ると、
    キワモノ揃いの仲間たちも、キレっぷりにヒくか自失した。
    切れ過ぎるツレの思考の直通に独り言のように静かに応じ、
    誰よりも信頼されながらどこか引け目でもあるかのような
    独特の緊張ある距離感は、もどかしくも清楚なものだった。
    バングルスの通信精度のため華奢なツレに膝上に座られて
    鷹みたいな強面で真面目に作戦会議するシュールな様子に、
    デキてるだのそこ代われよだのネタにされまくっていたが、
    底抜けに明るく否定するツレの後で黙って笑うだけだった。

    ミスタが眉間に皺を寄せ神妙な顔で問う、
    「カワイイ。と思っちまったのはオレだけか?」
    氷使い爆発的歓喜…駄目だコイツ読めなすぎてもはや爽快。
    「それなんだよカワイイんだよ、かっけえし怖ぇくせによ!!
     旦那の可愛さが解るとはミスタ、てめえは見所があるッ!!」
    「渋イケメンで強くて健気!!つーかむしろ本体がスタンド!!」
    「あー思ったわ!!てめえはオレかコノヤロウ!!」
    「ケケ、そのDanna ってどこ語よ、あだ名か!?」
    「日本語だよジダイゲキ、頼れる漢の称号だ!!」
    「おお勉強になったぜ、あんた物知りだなぁ!!」
    テーブル越しにガシィと謎の共感握手しかもうるさい。
    ジョルノにはちょっとついてけない世界だ。
    カワイイってナランチャやドリシアみたいなのを…違うの?
    あと日本語間違えて覚えてますよ…雰囲気は伝わりますが。
    「ろくすっぽ喋んねーくせに煽ててノセんのが上手ぇのよ。
     何を言ってるのかわかんねーと思うが実際そうなんだよ。
     もう抱いてくれってレベルな!言うと締め落とすけどな!」
    「そ…そうですか。僕にはちょっと早い、かな…」
    アバッキオ…優しかったんですねあなた、知らなかったよ!
    はっ…と、身の毛もよだつ「可能性」に気付き声が震える。
    「あの…「涙目のルカ」事件の調査依頼…あなたたちには?」
    「は?ああ覚えてる、出払ってるうちによそへ回ったとか。」
    「…よ…よかった…幸運だった…」
    もしアレでブチャラティじゃあなくリゾットとかコイツとか
    来訪してたら冒険が始まる前にコッチが消えてた間違いない。
    来てくれてありがとうブチャラティ…あなたは命の恩人です!

    何がいいって、並びがたまんねえ。
    満ち足りた猛虎はそう言うと、毛繕うように瞼を閉じた。
    蜂蜜色の髪を陽に輝かす、陶人形めいた白いジェラート。
    影のように背後に寄り添う静かなる衛士、漆黒のソルベ。
    熟練の指揮さながら操る使い魔、言葉は詠唱、守護は疾風。
    おとぎ話から抜け出してきた、二人はそんな生き物だった。
    二人と出会わなければ仲間を持とうと思うような生き方は
    していなかったというリゾットだったが、巣を得た孤狼は
    世にも見事な父に化けた、というよりは本質が顔を出した。
    元からツテや家格のある奴等は親衛隊や幹部の側近になる、
    囲うならイイトコのツテもハクも有るに越したこたぁない、
    リゾットはじめそんなもん無い野郎どものここは城だった。
    若いはみ出し者の集まり、小さいながらファミリーだった。
    育てられ切磋琢磨し合い評価され癒され、満ちていられた。
    謹厳な父性を芯に二人が賢く回してくれていた幸福の円環。

    しかし…

    ひとしきり笑ってふざけて騒いだ後で、
    ふと…話が途切れた。
    在りし青春を語った笑みが空ろになりフッと消えた。
    「あいつら…居なくなったら、な…」
    美しかった環のどこもかしこも欠け崩れ、裏目に出たという。

    暗示と精神直読み、究極の汎用性に補填など利きようがない。
    以前なら殺さずに済んだものが、殺すしか手段がなくなった。
    そうしなければ求められた条件が満たせないからそうなった。
    血なまぐさい成果が増えるたび周囲からは恐れられ厭われて、
    安全で割の良かった殺し以外の依頼は、じき入らなくなった。
    二人の印象を薄められていた事務方も幹部らも金ヅルどもも
    同じチームだからと当然のように二人のやってきたレベルの
    余計で過分な成果をねだり、それが出来ないと露骨に忌避した。
    特に個人的な恥を明かし済みのジジイどもの多くに逃げられた、
    違約金が底をつきかけて悲鳴上げていた親衛隊のお坊ちゃまは
    それを全部チームのせいにしてこき使い事務方に苛めぬかせた。
    違約金が止まったのは、それを求めてきた相手を殺しまくって
    見せしめにしたからだ、危険で酸鼻な後始末に報酬は無かった。
    お前らが二人を叛かせなければ…反論の気力は悔恨に潰された。
    ヒーラーが居なくなったのに医療費削られて身体もメンタルも
    傷ついたまま傷を重ねる悪循環に陥る、それを罰と呼ばされた。
    疼きに耐えかねてつい思い出の場所や人など訪ねようものなら、
    二人を覚えている者が誰も居ない最悪の徒労が待ち構えていた。
    Squadra assassino 、そう呼ばれていると知ったのはその頃だ。
    損を取り返すのに薬の流通量が増え関係者が幅を利かせたため、
    暗殺屋の立場は相対的にも沈んで口をきく幹部は皆無になった。
    楽してピンハネしてのさばってた賭博部門からも逆恨みされた、
    不名誉な噂を流され侮辱される二人を庇う手段も金もなかった。
    プライドなんてものがあったことすら忘れてしまいそうだった。
    「魔術師どもの変節」が雪だるま式に流血を増やしてゆく皮肉、
    思い出の品を片端から処分しすっかり殺風景になった空ろな城、
    次から次へと舞い込む穢れた「仕事」を機械的に片付けながら、
    人としての部分がどんどん欠けて磨り減っていくのが解ったが、
    もう誰にも…誰よりも手を汚しながら庇い続けたリゾットにも…
    そんな泥底への沈没を止められず、疲れ果て…麻痺していった。

    「…命綱だったんだ…」
    まばたきすら殆どせず繰り返し繰り返し動画を眺め、
    人恋う獣の横顔が言う。
    それほど重い言葉と知らずに流した自身を、少年たちは恥じた。
    「オレはさ…拾われたの、後のほうだったからよ…。
     居た時間より、居ねー時間のほうが…じき長ぇ…。」
    動画の中の二人は明るく笑い踊りワインにほろ酔い、
    多忙の隙間のたまのサボりを満喫していた。

    「彼らは、どうして…」
    ジョルノが問う。
    強く賢かった彼らはなぜ叛き、なぜ死んだのか。
    指先が愛しげに液晶の中の短髪をなぞる。
    「…キレたんだよ。ジェラートが。」

    新入りのペッシが調査の大手柄を事務屋に横取りされたうえ、
    ガラス瓶で片目を潰されたのが発端だという。
    「あ…あの列車ん中の…釣り針のヤツか!!手こずった…」
    「あいつのビーチ・ボーイ…片目じゃあ間合いが…致命的だ。
     兄貴分のプロシュートもとんでもなくショック受けてたが、
     ジェラートもペッシには期待して、ずいぶん可愛がってた…
     旦那に二度も針を掠ったんだぜ…偶然じゃあねえ、才能だ。」
    兄ぃに捨てられる死にたいと泣かれて何とかすると請合った、
    一睡もせず丸三日、繊細な器官を少しずつ少しずつ回復させ、
    見事に元の視力に戻した、途中から高熱出しながらの突貫だった。
    怒り心頭のリゾットとプロシュートがワビ入れろと押しかけたが、
    猛者二人にビビった事務屋はツテのあるお坊ちゃまに泣きついて、
    あること無いこと告げ口しワイロも包んで被害者に成りすました。

    …犬ころの片目がどうしたと言うんです、治ったんでしょうに…

    形ばかりの謝罪とはした金で片付けられ、そう言い捨てられた。
    悔しいなんてもんじゃあなかったがイイ家のツテは厄介過ぎた。
    「歴史ある」風土の弊害だ、馴染みの業者らが忽ち背を向けた。
    特殊な消耗品や弾薬など定額で補充出来ない…これには困った。
    「ひどいな…嫌なやり口だ…」
    「性格スタンドまんまかよ…」
    「疲れてぶっ倒れて…目ぇ覚ましたジェラートは、それ聞いて…
     人形みてーな無表情になった…」
    小柄でかわいい、女と見間違えるほど華奢な優しいジェラートを、
    そのとき初めて怖く感じた、感応した半身は…正視できなかった。

    「次の日、ヤボ用だって二人で出かけて…夜になって戻ってきた。」
    ジェラートはリゾットたちの苦断をねぎらい見た目は平静だった。
    嫌がらせは業者らが切られぬ程度にとりあえず抑えてくれていた。
    仕入先が代わっても難儀する、その時点では最善の手当てだった。
    ペッシの件で何かやってるのではないか…口に出さず皆が思った。
    誰も何も問わなかった、悔しさはよく解ったし、正直…怖かった。
    精密な作業に口出してもバグにしか…格が違う…しかも怒ってる。
    処遇が不満で機嫌が悪い、ふて腐れてる、そう装って黙っていた。
    ソルベとドリシアを伴い、おやすみ、とジェラートは背を向けた。
    重い空気のまま皆で見送った、この部屋で二人を見た最後だった。

    「まだペッシは痛みがあって、二人のヤサで寝かしてもらってた。
     うとうとしながら、横で何か調べてるのを聞いてたと…」
    悔しいことは悔しいが眼が治る嬉しさが先に立っていた。
    美味しい夕飯食べて腹いっぱいで安心して、眠たかった…
    目を閉じたソルベがパソコンで、ヘッドフォンで何か聞いていた。
    ジェラートはその肩に手をかけ何かを次々再生していた。
    …違う。
    …違う、次。
    …次。
    いつもは愛らしく舞ってるドリシアが空に静止していた。
    ものすごく集中して、何かを聴き比べているようだった。
    張り詰めたその姿は美しい一対のロボットのようだった。
    忙しいなあ、すげーなあ、かっけぇなあ…と目を閉じた。
    うとうと眠って明け方に目を覚ますとまだ…続けていた。
    二人とも寝ねえの、大丈夫?…声を掛けようかと思った、
    …待て。もう一度。
    …もう一度。
    …もう一度。最初から。
    見てはいけないものを見た、そんな気がした。
    ジェラートの横顔がなぜか怖くて寝たままのふりをした。
    …見つけた。間違いない。
    ソルベが呟き、目を開く。
    濃い金茶色の、猛禽の眼。

    「サルディニア。」
    そのまま突っ伏したソルベの髪を白い小さな手が撫でた。

    「……!!」
    絶句。
    「さ…サルディニアと…ソルベさんは言った!? なぜっ…」
    三年近く前だ…まだトリッシュの存在など誰も知らず、
    ボスの故郷の手がかりは何一つ無かったはず、なのになぜ!?
    「後になって…ペッシから聞いてリゾットにだけ話した…
     二人とも何のことだか…解らなかった…だが…やっと…」
    てめえのおかげで思い当たった、とギアッチョは続けた。
    「ずっと引っかかってた「私的な謎」ってのは、これのことだ。
     サルディニアがボスの故郷だったと言っただろ、それなら…、
     ジェラート流の「作業」とペッシの証言を繋いで逆算すると、
     手順はこうなる…いつもこうだ、答え合わせで初めて、解る。
     コレをあいつは瞬間で組む、細かいトコまで丸ごと、完璧に。
     それ丸ごと飲み込めんのも旦那だけだ。言葉は…不自由だな。」

    ボスはデジタルのログを嫌い、伝言を繋いで通達を発する細心。
    メールは通達受けた幹部が使うが、そこまで至る人員は不特定。
    まず連絡役の幹部のところへ行き、そいつのバングルスを生成。
    それを使い記憶から連絡してきたボスの使いを読み出す。
    会った事実は忘却させる、記憶に残すのを暗示で脳に拒ませるのだ。
    使いのところへ行って同じ事を。
    繰り返せば終いにボスの肉声を聴いた側近に辿りつくからまた作る。
    記憶から肉声を読み出して、それをソルベの脳に強固に焼き付ける。
    次に言語学とくに方言学の権威に資料とのアクセス方法を喋らせる。
    ヤサに戻ったらイタリア語圏各地の言葉を聞き、徹底的に比較して、
    暗示で作った過集中下で肉声に含まれる僅かな「訛り」を抉り出す。

    想像を絶する負荷でもソルベはジェラートの望みはけして断らない。
    内通者・協力者・ハッキング無し、使うのはただ、二人の能力のみ。
    にも関わらず、秘中の秘たる連絡経路と出身地が白日に。

    「…す…」
    「…すごい…ッ…」
    僅か一晩でなんという…汎用性とマッチング…着想、集中、執念…
    そんなことが出来るのか…出来たのか、
    「サンタキアーラの魔術師…。」
    震えが走る、チャラけた通称だが伊達でなかった。
    「あいつらなら出来た。…オレが気付くんだぜ?リゾットなら、」
    護衛チームがジャックした飛行機が墜ちた先にその島はあった。
    同じく島育ちの彼は、おそらくはその墜落で島の意味を悟った。
    二人が何を調べ見つけたのか、なぜ死んだのか。
    部下たちがなぜ死ななければならなかったのか。
    溢れた万感を一身に抱えあの乾いた島へ馳せた。
    先陣の孤闘は率いた仔らへ捧げた孤狼のケジメ。
    二人の非業は友を導き、魔王の終わりへと道を繋げた。

    「仲間を護るための、交渉材料…考えるとしたらそれだけだ。
     クーデターなもんかよ…仲間が傷付く…死ぬかもしれねえ。
     あいつらはそれを…一番嫌った、そのためのステルスだろ?
     ただ堪忍袋の緒が切れたんだよ…このままじゃあ護れねえ、
     関係を変える…野心なんぞ一っ欠けらも、それだけなんだ。」
    二人は…ほんのちょっぴり、彼らの魔術を見せただけだった。
    チームはこれほど有能、よく仕えている、が「身分」が低い、
    どうか目を留め、才と経済効果に見合う待遇を与えてほしい。
    癒し手としての、ごく自然でささやかな望みが起こした行動。

    でもなあ…と、ギアッチョは動画を止めた。
    あの写真に切り出された眩しい瞬間だった。
    「…速すぎる。…オーバーキルだ…先方には。」

    ステルスの守護者であり続けるため搾取に甘んじてきた二人。
    報酬となるのは彼らの高額な貸出料金の、僅か数%であった。
    それまでノーマークでピンハネの道具にしてきた便利な駒だ、
    ソレらがふと牙剥いた途端、隠しぬいてきたものは暴かれた。
    二人を「どーってことないマヌケ」ぐらいに認識させられていた
    密告者ムーロロの「暗躍」は、事態の小さな欠片に過ぎなかった。
    解析の成果を報せ揺さぶりをかける小道具として使われただけだ。
    が、暴かれた側はパニックに陥った…過剰反応した、
    靭き二人の思慮の枠外でボスは身勝手で臆病だった。
    …否、超速の住人とそれ以外との「感覚のズレ」か。
    ボスから降りた苛烈な対処命令に親衛隊は困惑した、
    なぜノーマークだったのか、何かおかしい…訝った、
    自分も周りも暗示で印象操作されていた可能性を発想し愕然となる。
    裏切られた危機感に震え上がり怒り狂う、…後先構わぬ愚かな狂奔。
    なぜ隠れていたなぜ黙って搾取されてた、いったい何を企んでいる、
    二人の流儀も優先順位も理解し難い、疑念と恐怖が膨らむばかりだ、
    二人は少し手加減すべきだった、てこずってみせるべきだったのだ、
    けれど情の濃さゆえの怒りがそうすることを許さず急かした。
    ほんのそれだけの透き通った焦りが、二人の蟻の一穴となる。
    薄情なことに…分け前話で集まる二日後までリゾットの外は誰も
    二人との「連絡が付かないことにすら」気付いていなかったのだ。
    床上がりしたペッシを帰した朝、最後に会ったのはプロシュート。
    世話かけたのに根回しに負けた…礼は述べたものの話さず別れた。
    プライドの塊のような男がそう言い震える指は煙草を抓み損ねた。

    「あいつらは強ぇ…ガチで強ぇ。けど…
     弱点はあったんだよ…致命的な…」
    ジェラートのドリーム・シアターは全部で三体。
    真骨頂の並列思考で三体同時に自在に舞わせる、神業の使い手だった。
    射程範囲=声の届く範囲であり風向きによっては数十メートルと広い、
    見えづらく素早いから難しくはあるが、一体でもスタンドで捕えれば。
    あ…と、ジョルノが口を押さえた。
    巨大な射程範囲が裏目…さしもの神速もとてもカバーしきれない。
    戦闘では役に立たない弱いスタンド使いで構わない、数を揃えて
    犠牲覚悟の人海戦術で散開し、障害物の中、取り囲めば…!!
    「相手が多いときは…ジェラートは眠らせたり、同士討ちさせる。
     それ見越して…追っ手にガキを混ぜやがったと…」
    数多の子供を救った二人に子供を差し向ける。
    同士討ちなら子供たちは大人たちに殺される、
    眠らせれば役立たずとみなされて処分される。
    底意地の悪いダブルバインドだ…これも裏目。
    憤る声すら出てこない、少年たちは青ざめた。
    「…防御力は…皆無だ。一体破壊されたら…ジェラートは…。」
    スタンドが受けたダメージが逆流する、脆い儚いあの本体に。
    陶人形のような身体は一瞬で…身動きとれなくなっただろう。
    ドリシアは暗示の機軸である本体だけは癒すことが出来ない。
    皮肉な裏目。
    「痛みは…バングルス通して、旦那に伝わる…。」
    悲鳴を上げる自由すら無い愛しい半身が吹っ飛び崩れ落ちる、
    傷一つ無く護ってきたソルベにもツレの痛みへの耐性が絶無。
    致命的な裏目、否…とどめ。
    抱き上げて逃げようにも動かすだけで激痛の走る細い身体を
    どうしてやることも出来ない、おろおろとただ惑うしかない。
    コントロールできなくなった残り二体は捕まり、質にされる。
    そうなればソルベの選択肢は…投降一択。
    「捕獲戦の話はドリシア潰したクズの自慢で聞いた。
     そいつはオレらが叛く一年も前に粛清されたがな。
     発端の事務屋と一緒に損失の責任とらされたとさ。
     ここまでは…スタンド使いとしての普通の読みだ。」

    さあ、と、魔術師の最後の弟子が腕を広げる。
    哀しみを敷き詰め瞑い理智の瞳で。

    「ここからは…情報が限られる、「演算」の真似事といこう。
     親衛隊どもの虚勢や思い込みから「飾り」をこそげ落とす。
     こっちは二人とも…あの野郎もよく知ってる、情報がある。
     ジェラートはこれに関してだけは旦那以上の鬼教官だった。
     好奇心からうっかり習い始めたのを後悔しちまうほどな…。
     ありがとうよクソガキ、やっと「あの日」を掘り起こせた。
     上が何に「怯えて」あいつらとオレらを嬲ったかが解った。
     やっとピースが揃ったんだよ、…最後まで全部…繋がった。」
    答え合わせは自分たちが見たもの聞いたもの…味わった全部。
    聞いてもらうぞ逃げるなよ生かして「教えた」責任を果たせ。
    魔虎の爪牙に囲い込まれた少年たちが息を忘れる。
    その日その時の密室が、深泥の底から浮き上がる。
    イリュージョンの幕は開かれた…世にも美しくけれど無残に。

    捕獲された二人はそのまま自室に連れ込まれ家捜しを受けた。
    親衛隊は内通者と協力者を探るがそんなもの初めから居ない。
    ソルベの自白で解析方法を知った先方は自失したことだろう。
    そんなマネされるんじゃあ、この先、通達など出来やしない…
    凡庸を装うステルスのベールの下から、危険な怪物が現れた。
    隠れて隙を伺っていた…二人はそう認識された。

    「それでも…
     それでもまだ「詰み」じゃあなかったはず…なんだ。
     殺すには惜しい…あいつらはそれほど…カネを生む。
     取り扱い中の事案もレンタル待ちもまだまだ有った、
     クスリなんぞ使って性能を鈍らすわけにもいかねえ。
     売ろうと思えば大枚はたく相手だってごろごろ居る。
     だが…あの野郎…気位の高い陰険な、…ヤツなら…、」
    殺しては大損だが危険すぎる、なんとか御さねば親衛隊の立つ瀬が…
    いやそれより何より怖い、自分たちの恐怖を克服しないと堪らない。
    なにしろ何をする気か既にされてるか解らない、何も信用できない。
    浮き足立ち焦る部下どもの前、震えを隠し苛立った末、何をしたか。

    拘束したソルベの前でジェラートの口を塞ぎ危険な「声」を封じて
    苦しんでる姿を見せつけ、二度と逆らわないようにと執拗に脅した。
    失点は大きい、進退問題だが支配さえできれば手柄だ、逆点できる。
    巧くすれば管理の名目で個人所有に…これほど便利な奴隷は居ない。
    それがこいつらの為でもある、自分なら使いこなせるもっと有効に、
    隠して家事や回復屋に使ってた穴倉のイヌどもはなんと愚かなのか!
    親衛隊の立場をかさに、恐怖の反動で言い募る、調子に乗ってゆく。

    何でもするから手当てをとソルベは懇願しただろう、
    相手は聞かず罵り疑い難癖つけて責め立てただろう。

    「…一人で逃げろと…ジェラートは望んだはずだ…
     仲間が巻き込まれる、報せてすぐに隠せ、とか…
     手なずけた幹部を巻き込んで騒がせろ、とでも…
     それとバングルスの解除、あると動けねーから…
     けど旦那だ…怖ぇが…優しいんだよ、ほんとに…」
    失神寸前の苦痛と、逃げろという切実な指示が一緒に伝わる。
    傷一つ無くても身体の中はズタズタだったろう、それが解る。
    ソルベは指示を拒否した、両方とも、…間違いなく、初めて。

    「背中半分コゲてんのにオレ担いで走るような男だったからな…
     自分が痛ぇなら耐えるさ、けどツレが痛ぇのは我慢できねえ。
     どう頼んだって駄目ならもう、ブチギレる以外ねーだろうが…
     リミッター解除…てやつだ、拘束なんぞは吹っ飛ばしちまう。
     そういう身体なんだよ…周りのザコどももひとたまりもねえ。」
    我慢強いにも程があったが次段階で「殲滅」に直接繋がる男だった。
    人質あとは皆殺し、加療と時間稼ぎ、いとも自然にこう切り替える。
    性というよりは異邦の行動様式、その意味で最高に「キレて」いた。
    「首ぐらい素手でも飛ばす。ヤツらはパニクって、二体目を潰した。」
    組織も親衛隊も一顧だにせぬ屠殺を前に作戦ミスを悟るももう遅い。
    悪あがきだ、だが前にも増した激痛がジェラートを襲う、はや瀕死。
    衝撃はソルベを鼻先で後退らせた、最後の一体を砕かれれば…即死。
    身体が死にかけているのに折れぬ守護者の意思は逃げろと繰り返す、
    だが離れればバングルスが消えてジェラートの様態が判らなくなる。
    苦痛を読解するのは死ぬほど怖いが感じられなくなるのは更に怖い。
    拷問されるかも、売り飛ばされてしまうかも、放置されて死ぬかも。
    拘束は何も無いのにドリシアを潰されるのが怖くて傍へも寄れない。
    ソルベの足はその場からもう動かない…最悪のフリーズ。
    錯乱し襲う障壁は邪魔だから砕く、スタンド使いも他のヤツも。
    周りから見ればわけがわからない、犠牲の数だけが増えてゆく、
    壊れた人体と血臭が充満する室内、血だるまで立つ無傷の死神。
    怯え惑うだけの哀れな反射が、敵の目には怪物の弄りに映った。
    こんな状況を作ったキサマが憎い…猛禽の眼が血走る。
    静かなる影が初めて見せる本気、純粋無比の哀しき憎悪、

    その、形相。

    プライドも損得勘定も一緒くたに消し飛ばす、恐怖、…ただ恐怖!!
    護衛は壊滅、自身とドリシア掴む下僕の他が残っていたかどうか。
    歯の根も合わず電話を掴みティッツァーノが金切り声で泣き叫ぶ、

    化け物!!御せるものか駄目だッ、生かしておいては駄目だあぁッ!!

    ソルベは殺す怖いから、組織の方針はここで決まった。
    当時の親衛隊最高位、殺そうが逃がそうがもはや同じ。
    詰んだ、そのはず、が、ここに至っても。

    「…ジェラートは…諦めねえ。んな選択肢持ってねえ。」
    瀕死の身体、スタンドも声も封印、しかし頭を上げる。
    まだバングルスが健在…ソルベも仲間も…殺させない。

    真性のヒーラーだ、怯えきる半身を立て直そうとする。
    初めて指示を拒否したことを責めず整然と励まし説く。
    ソルベだけなら逃げられる誰よりも速く強いのだから。
    巻き込んだのは自分だから、彼は手伝っただけだから。
    逆らえない暗示で操られてやったと言えば辻褄は合う。
    操られてたこいつらも自己弁護のため必ずしがみ付く。
    どのみち帰れない、命一つをワビに使えば他が助かる。
    「ち…」
    ミスタが呻く、
    「違ぇ」
    …正しい、
    正しいが、
    「ジェラートは、だから、」
    「や…やめて」
    聞いていられずジョルノも震え声で遮った。
    「もう、いいです…いいから!」
    大きな目の縁に涙がいっぱい溜まっている。
    隣でミスタは手放しでボロ泣きしていた。

    「…口ん中…突っ込まれた布を…気管に…」
    後始末はおそらく辛い…仲間たちは怒るだろうか…
    短気など起こさないだろうか…生き延びてほしい…
    霞みゆく瞳が声無き声が、心残りの涙が、告げた。
    長き献身への感謝と謝罪と…半身への最後の願い。
    行け。逃げろ。仲間たちを…愛しい家族を…頼む。
    混乱の極みの敵は彼の異常になど気付けなかった。
    閃光の即断・突貫それが強みのジェラートだった。

    …けれど…

    「こんなことのためにさ…教わったんじゃあ…ねえんだよ…。
     けど解る…見えちまう。何を思ったかどうしたか…全部…。」
    致死のオセロの最後の白が裏目に…闇に。
    「旦那にだけ…疎いんだ。どういうわけか…」
    真珠色のバングルスが最後のドリシアと共に崩れて消えた。
    長く尾を引く声にならない苦鳴が劈き…絶えた。
    三年前、三月の終わり。
    最後の最後まで、護ることしか考えなかった癒し手たちは、
    一人は自死し、一人はその絶望と恐怖で、世界から消えた。

    ジェラートは棒切れのように硬直したヌケガラで見つかり。
    抵抗し部下を殺したから仕方なく殺したと言いつくろわれ、
    見せしめに使えと医者くずれのゲスに投げ渡されたせいで
    ソルベは見るも無残なホルマリン漬けのバラバラで戻った。
    叛逆・粛清、あたら功労者を消したそれがタテマエとなる。
    チームの安堵の象徴だった面影も小さな美しい分身たちも、
    呆気にとられるほど唐突に、幻のように…消えてしまった。

    「…泣くんだろうな…普通は…」
    わけがわからない…リアクションはそれだった。
    替え玉ではと疑ったが遺体の特徴はそうではないと訴える。
    が、変わり果てたこんなモノが彼らだなんて飲み込めない。
    ただただ呆然…、悲しむ余裕はすぐにはやって来なかった。
    リゾットも…涙は見せず、忘れろと、苦渋の選択を告げた。
    離れがたい「環境」だった組織は怖いだけのものになった。
    「あの」二人を「捕まえて殺す」怪物が上層部にいるだと…
    「あの」二人ですら逆らったら切り捨てられるというのか…
    深く追求する気にはならなかった、自信が潰れ震えていた。
    不自由と負担が重なるごとに喪失の実感が這い寄ってきた。
    怪我ってこんなに治りにくく痛い…そんなことも忘れてた。
    忘れさせてくれていた二人の優しさありがたさ…思い知る。
    寂しい…悲しい…二人が好きだった、それを漸く思い出す。

    名門出のティッツァーノがスクアーロの道具に降格された。
    腰に届く美髪の色が抜け、主人べったりの豹変で見違えた。
    扱うカネと権益が激減した輩の錯乱、八つ当たり、逆恨み。
    殺されもしない…思わぬ損失でボスもそれどこじゃあない?
    何だこれ…組織の印象が逆転した…バカなんじゃあないか?
    怖れが薄れた隙間を虚脱が埋めた、忠誠心も依存も失せた。
    なにが組織だ「こんなモノ」のせいで二人がここに居ない?

    無抵抗で連れて行かれた二人の場面を知ると愕然となった。
    自分らのために怒ってた二人は攫われた「戦えない」まま?
    暗示で二人に見せかけた躯…淡い可能性にまだ縋っていた、
    答え合わせはまだか…それさえ解ればきっと笑い飛ばせる…
    心のどこかで待ち続けていた連絡…もう来ない…理解した。
    そこからこそが…救いの全く見えぬ本物の生き地獄だった。

    護るべきだったと…痺れていた心が陰々と…、呻きだした。

    二人の背を横顔を遠巻きに見ていただけの自身を振り返る。
    完璧だからと野放しだった二人の作業に口を出せていれば?
    二人が事前相談できるだけの頼もしさを身に着けていれば?
    そのとき二人だけでなければ、もう一人でも傍にいたなら!?
    たったそれだけで二人をあんなざまにさせずに済んだのに!!
    己の不甲斐なさこそが元凶だった、気付いた者から壊れた。
    ちっぽけなプライドやビビりそんなもんと何を引き換えた…
    自責の怨嗟に比べれば外からの「迫害」などまだ生ぬるい。
    写真一つ無い…目に焼きついた死に顔が邪魔し二人の顔も
    思い出せなくなっていた、…彼らはここに確かに居たのに…
    殺し続けている人々のように消えた温もりは取り戻せない。
    気付くのが遅すぎた…悔やんでも悔やんでも…悔やんでも…
    ぽっかり開いた暗い穴の瞳が懐かしい笑顔を眺める。
    「…けどさ、…どーやるんだっけ…泣くってのはよ…」

    罰せられ続けた二年開で人としての何もかもが枯れ果てた。
    殺して殺して殺して疲れて…不浄の麻痺は逃げ場と化した。
    二人を亡くした経緯を本当に思い出せなくなった者も居た。
    時は過ぎる…感覚がおかしくなる…自分は…まだ正気か…?
    「ボスの娘」の一報が彼らの耳に届いたとき。
    恐怖は無く闇黒の歓喜に牙を研ぎ光を感じた。
    ボスは「愚か」な「仇」かつ「人間」だった。
    隠し子が出てくるようなただの人の男だった。
    爆笑した仲間らの顔こそ人でなく夜叉だった。
    攫おうぜ、と最初に言ったのは誰だったのか。
    二人が愛した若く覇気ある「魔術師」たちは、
    誰を殺しても何を壊しても一切心に届かぬ化け物の群れに、
    すっかり姿を変えていた。

    勝った後の具体案は特に無かった、ただ光に手を伸ばした。
    分は悪くとも勝つ目はゼロでない、浅い夢のように信じた。
    リゾットももう制めなかった、粛々と率い導くのみだった。
    喪装の道化の仮面の下、その怨念は誰よりも強く深かった。
    初めて得た仲間…孤狼を人へ還してくれた掛け替えの無い…
    あれほど世話になりあれほど美しかった宝を見る影も無く…
    亡骸までもを辱めた…そんな輩がのうのうと人ヅラをする!
    総てを奪え!悔いを教えろ!何も知らず忘れるクズどもに!!
    まだ気力があるうちにこの自責すら腐り果て忘れぬうちに!

    かつて魔術師の暮らした穴倉で、叛逆はこうして始まった。

    「手がかりがあろうが…なかろうが娘は…」

    差別と怨嗟の泥底から血みどろの牙剥き這い出した群れは、

    「同じ姿…に…」

    闇夜の花火のごとく爆ぜ狂い、一人また一人、

    「してやろうと…」

    誰知らず砕け散りそして、

    「…思った…。」




    消えていった…。





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