二次創作 狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~ あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 その5
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二次創作 狼の城と魔法使いの話~史上最強のソルジェラ~ あるいは、暗殺者チーム練成法、その一例 その5

2019-07-20 06:54







    時刻は…正午を回っていた。
    室内はしんと静かで古びた空調の音だけが続く。
    魔虎の結界は消えていたが動き出すものは未だ無い。
    ジョルノは身を硬くし座り膝の上で拳を握ったまま。
    ミスタは声を殺したまま、止まらない涙を持て余す。

    …モバイルを撫でた指が、ぷつりと電源を落とした。
    ほう、と一つ、息をつく。
    疲れた獣の横顔が上がり何気ない所作で手を伸ばした。
    写真をニットの胸のポケットに、
    飾り珠をジーンズのポケットに。
    ビクッとジョルノが肩を震わせミスタが顔を歪めた。

    「よっ…と。」
    大儀そうに…ソファーから立ち上がり、背の筋を伸ばす。
    所作も体躯も目を奪う…乾いた癖毛がくるりと背で巻く。
    見てくれも武器…か、誰の言葉だったかが、今なら解る。
    我が「銘作」よ傷など負うな…教えの形の優しい護符だ。

    「なあクソガキ。
     …未来のために、あいつらの話を聞くんだと言ったな。」
    暗い瞳が薄く笑って、青ざめているジョルノを見つめた。
    極地の海に似た色の眼は、どんな想いで写真を見たのか…
    思うとまた一筋、緑の眼から雫が毀れた。
    「…はいっ…」
    答える声は掠れている。
    「護る、てのがどういう事だか解ったか。」
    「…はいっ…」
    「護れねえのがどういう事だか解ったか。」
    「…はいっ…」
    「抱え込んだモン丸ごと、護る覚悟はできてるか。」
    「…はいっ…!!」
    聡い大きな瞳を見開き血の気の無い顔が見上げる。
    唇が震えてはいるが返答に迷いは無い。
    よし、と三白眼が細まり見下ろす。
    「てめえの役に立ってくれるモンを、よーく見極めろよ。
     扱いは絶対に間違えんな、…気ぃ張って見ていてやれ。
     組織預かるならてめえはみんなの「親」だ。
     親として、包んで、躾けて、育てろ…安心させてやれ。」
    「…はいっ…」
    合格だクソガキ、と、優しい悪態。
    「いい大将になる。変わってくれるなよ。
     聞いてくれたのがてめえらで…あいつらは喜んだろう。」
    手を伸ばし頭に触れかけ、少し残念そうに笑って引いた。
    壁に片手をつき身を支えながら、上がらない足を引きずって、
    ギアッチョはキッチンの方へ身を向けた。

    「ちょ…ちょっと…待てよ…待ってくれ…」
    袖でごしごし顔を拭いミスタは立ち、先回りし立ちはだかる。
    「何の真似だ。」
    傲然と顎を上げ睨まれる、コワい。
    ビビりながらもドアに背をつけ行かせまいと腕を広げる。
    「オレぁ…やだぜっ…まっぴらだ、…なんでだよ、せっかく、」
    せっかく助かったのに生き延びたのに、
    怨みなんか無いと言っただろう、こっちだってそうだ、
    言いたくない事まで誠実に話してくれて感謝したし感動した、
    一緒に笑った…いい男じゃあねーか…オレら話合うじゃんよ、
    なのに今更、
    「一番好きなトコで死なせろって言うんだろ!!
     つか死にてーからあそこ居たんだなあんた!!
     あのまま眠ったら出血多量で死ねたからな!!
     オレに撃てっつーんだろ!!嫌だっ、断るっ!!」
    勇気を絞る、肩を掴もうとして前へ踏み出す、
    パキと指が鳴る、室内なのにヒュッと追い風、
    鼻先に浮かんだ氷の小粒、攻撃…いや、威嚇。
    「ゲホ!!がはッ、げほ、」
    すぐ消えたが咳き込む、ジョルノも真っ青で見てる。

    「…っ、ぜは、」
    空気の凝集…減圧で肺が刺激されたのか、目も痛い、
    口を押さえた掌は噴き出た鼻血で真っ赤に染まった。
    「てめえ何しについて来た?」
    ギラと獣の威が顔を出し比喩でなく空気が冷える。
    いつでも殺せたいつでも殺せる、そう言っている。
    全然脅しじゃあない事実…本当に強い、恐ろしい。
    「何を護れなかったか…忘れたのか?」
    堰を切ったように語ってくれた彼とは別の何かだ。
    くっ、とミスタは詰まるが伏せた目をすぐ上げる、
    あんなに笑ってたのに…反動これじゃあ怖ぇよな…
    苦しいんだな…可哀想にな…顔も心も固まるよな…
    出会いがしらの嫌味…解ったよ…うん…解ったよ…
    そりゃあ…そうだよ…そうだったんだが今はもう、
    「こ、怖ぇカオしたって無駄だぞ!!オレぁあんたが気に入った!!
     撃つ気で来たけどもう撃てねー…無理言うんじゃあねーよッ!!
     おいッジョルノ、おめーもなんとか言え、いいのかよォーッ!!」
    鼻血を拭う、小手先の威嚇だけでガラガラの声が搾り出される。
    怒鳴られたジョルノは固まっていたものの、立ち上がると
    おぼつかない足取りでおどおどとやって来た。
    こんなに自信の無い顔をするやつじゃあない、躊躇って躊躇って、
    おずおずと同じように腕を広げ、ミスタの横で通せんぼした。
    どくんどくんどくん、取り乱したひどい動悸が響いてる、
    冷えた瞳が約束守らないヘタレなガキどもをねめ付けた。

    「使えねぇ。」

    侮蔑の激怒は順当、
    何もかも話してもらって死への渇望の切実さは刺さりまくっている。
    それに信用は最優先…約束破りなどもってのほか…でも、
    「か…関係ないそんなの、だって、僕は、」
    せっかくシャワー浴びたのにまた汗びっしょりかいて目を泳がせる、
    「まだ「お願い」を聞いてもらってませんよ…それに…、
     …っ、…そうだ、あんた正式に退団したわけじゃあないんだから!!
     僕が今のボスなんだからっ、僕の言うことを聞くべきなんですよ!!」
    ひねり出したのは斜め上の屁理屈。

    氷使いの眉間に皺が寄った、…腹案じゃあないなコレ、アホすぎる。
    「チームぐるみ造反したんだが?」
    「そんな記録どこにあるんですっ!?出してみなよ、ほら出せないっ!!
     記録ってすっごく大事なんだ、あんたさっき僕の見せた書類見て
     感心してくれてたじゃあないですかっ、忘れちゃったんですかっ!!」
    マジで押すか何だその詭弁、それとこれとは、
    「ふざけんな、どけ。」
    ジェラートの気配の残るあの場所がいいんだ早く行きたい行かせろ、
    仲間も目的も消えうせた、情けねーのはもうまっぴらだ飽き飽きだ、
    さっさとあいつらに詫びいれてえんだよ手伝えねーなら邪魔すんな、
    イラついたこめかみに青筋が浮き形相が変わるが、
    「ふざけてないっ!!退団願の写しと受理証出してみせてよ決済済の!!
     そ、それと…あんたの入院費は僕個人の小遣いなんですからねっ!!
     ボスだって無限に小遣いとか貰えないんだよ、このビルだってっ、
     買おうと思ったけどスッカラカンでっ…管理人雇うぐらいしかっ!!
     チャージに行くときフーゴに影武者手当ても払わなきゃあだしっ!!
     フーゴは…いいよって言うけど…契約だから仕方ないんだからっ…
     借金返してよっ…保険きかないから実費…それと、そ、それとっ、」
    恥も外聞もボスの威厳もあらばこそだ。
    退団願って何だよお役所かよ、あー新米ギャングだったっけ、
    様式はあると聞くが使われたことねーぞ出す前に死ぬからな。
    眩暈がするほど所帯じみた言い分並べた早口で喚くだけ喚き、
    言いよどんだらばかでかい目から大粒の涙がぼろぼろ零れた。
    マジギレしかけていたギアッチョが鼻白みドン引く、
    「こ…子供扱いばっか…しといて…クソガキクソガキってっ…」
    古代ギリシャの彫像みたいな綺麗な顔が、くしゃっと…歪んだ。

    「あんた大人なんだからっ!!ガキのワガママぐらい聞けよっ!!
     ジェラートさんだって、子供は見逃したんじゃあないかっ!!
     おかげで動画が残ったんじゃあないか、良かったでしょう!!
     すごく嬉しかったくせにっ…なんであんたは聞けないのさ、
     あんた心が狭いよ、ケツの穴が小さいっ!!最低な大人だっ!!」

    よくぞまあこう次々…オツム回り過ぎるクソガキも考え物だ。
    どー見てもむちゃくちゃだがそーだそーだとミスタは全肯定。
    ピストルズまでがぞろぞろ出てきてソーダソーダと指を指す。
    な…んだこれ…なんだこの…シュール…
    「…ちっ…」
    かなり痛いトコ突かれ焦る、しかもこいつらガチのガキ…
    勝手に助けられて協定結んでちゃんと情報提供したのに
    約束破られた被害者こっち…のはず…なんでこうなるッ!?
    「めんどくせえっ…これだからガキは…
     だから何だよ「お願い」とやらはよ!!」

    言われると通せんぼしてたジョルノがハッとした顔して、
    だだだだだッと席に戻りバッグの底持って逆さに振った。
    ばらばらっと中身が全部ソファーに散らばる。
    落ちた四角いものとペン引っ掴みまただだだだッと戻る。
    「こ、これ…ここに」
    オレいったい何見てんだいま、と年長二人自問、
    ルックスと動きが究極的に分離してる…

    「サイン」
    「は?」

    …色紙??、
    に見えた。
    チームの皆のクソかっけぇ写真編集しデジタルプリント。

    リゾットよなんで防犯カメラでまで立ち姿そんなキマっ…

    違ぇうっかり惚れ直してる場合か、
    お…ねがい、…て、…それかあぁ??
    「…や…え…」
    激しく困惑、基本真面目。

    「ここに!!」
    下の空白部分バンバン叩いてペン突きつける、
    「書いて!!」
    「危ねっ…よこせバカ!!」
    コイツの「補修」のせいで先端恐怖を発症しそうだ、
    切実にいろいろと危険を感じペン取り上げカリカリ、
    「こ…これで…いいか?」
    もう帰れいや帰ってくれ後生だからよ…と少々震える手が返す。

    と、パアァァァ//////と空気に手描き効果音がついた、

    …気がした。

    「はっ。」
    短い気合と一緒にジョルノは色紙の両端をぱきんっと
    小気味良く折り曲げた。
    ペリッと裏表を剥がすと長方形の中身が現れる、
    ぱかんっ、とミスタとピストルズの顎がまとめて落ちた。
    「な」
    正面で氷使いフリーズ。
    色紙の中から出てきたのは…
    ばららっ、と華麗にそれをめくりジョルノがキッと見上げた。
    「チェック完了、サインよしッ、」
    壁にパシィと押し付けていつの間にか握ってた判を叩き付ける、

    「決済完了ッ!これであんたはッ!!パッショーネ親衛隊だ…ッ!!」

    箔押しと地模様のびっしり入った豪奢な紙。
    無駄にでかでかと記された「親衛隊加入契約書」の題の下には、
    前もって記されていたジョルノ・ジョバァーナ直筆のサインと判と、
    たった今書かされたサインとががっつり…入っていた。
    「…何…だっ…て、」
    コーティングのそこだけ窓に?しまった写真に気ぃ取られてッ、
    は…
    ハメられ…た?

    立ちすくむ横でミスタの顔面がヒクつく、
    「ジョ…ジョルノ、…さん?」
    「フーゴですッ、契約文も全部…っと、」
    取り上げようと伸ばした手をかわし部屋の反対隅へ逃げられる。
    「て…てめぇ…よ」
    ダッシュの足がもつれガクンとのめる左脚が焼け付く、
    「危ねえっ!!」
    ミスタが腕を掴みキャビネットに突っ込むのを防いだ。
    そのままがっしり抱え支える、胸元の激痛も背まで突き抜けて、
    一瞬視界が暗くなったが頭を持ち上げ睨み付けた。
    ジョルノはガウンの胸元に契約書抱えて身構える。
    「渡しませんよ、目を開けてくれた時から用意してたんだっ!!
     あんたが僕を信用出来なくて壊れたフリしてた間もずっと、
     話を聞いてもらえるようになるのを、僕は待ってたんだよ!!
     どうせ普通の方法じゃああんたは契約なんかしてくれない、
     煮詰まってたらフーゴが考えてくれたんだ!!
     僕が、どうしてもあんたと組みたい、雇いたいと言ったから!!」
    「…はあぁ!?」
    大将が大将なら影武者も影武者かッ!!
    ソレが病室に通ってきてた「他の理由」…ってか?
    組みたいだって??何言って…なんで、わからんがそれより、

    「泣いたのは芝居か…汚ぇ…」
    諦めていた二人の姿と大将の遺品、心遣いに感謝していた、
    思い出話など出来る相手がまた現れるとも思ってなかった、
    楽しかった、疑われず真実を伝えられたことが嬉しかった。
    何も解らず逝くよりマシと「助け」られたことに納得した、
    干からびていた心が漸く動いて心残り無く逝けると思えた、
    好もしく感じ信じただけに本当に…本当に幻滅し傷付いた。
    「違いますッ!!けど「お願い」聞かずに死のうとしたのは
     そっちじゃあないですかっ!!約束破りはあんたが先だっ!!」
    一歩も引かぬ緑の瞳が涙目のまま睨み返した。
    「…っ…」

    返事が出ない。
    んなこた解ってんよ…が…情報はちゃんと…ありのまま、
    抱え込み閉じ込めてた狂うほどの悔いも恥も総て晒した、
    おかげで全部…全部思い出してしまった苦しい…苦しい、
    詫びたい逢いたい惨めだいつまでこんなところに独りで、
    やっと終わるはずだったのにそのために戻ってきたのに、
    思い出せば出すだけ…何も取り戻せないその事実までが!!
    「い…い加減に」
    視界が赤く染まる、刺激するだけしといてまだ茶番をっ!!
    空気読めやクソガキが何のための極上の脳みそだ、
    この場所にすら!!、もう誰も居ないというのにッ!!
    「危ねえって!!ジョルノの修復が痛ぇのは知ってるっ、
     あの程度の鎮痛剤じゃあろくすっぽ利いてねーだろ!!
     病み上がりが死ぬほど刺されたんだぞ、動くなよォ!!」
    抱えた腕を振り解こうとするが筋力の落ちた今は
    転ばせまいと踏ん張るミスタの方が強く離れない、
    脅かしても詰ってもクソガキは食い下がってくる、
    その影武者の手口ときたらまるで…まるで誰かの、
    付き合いきれるか、何の恨みでこんな…屈辱…ッ、

    「余計な世話だクソがあああああ!!」

    あまりのままならなさに遂にブチギレる。

    「ざけんじゃあねえぇッ!どいつもこいつもコケにしやがって!!
     誰が助けてくれと言ったッ…なんでそう構いやがるウゼぇッ!!
     オレの大将はリゾットだ、誰がクソガキにくれてやるかあぁ!!」

    漸く痛みの薄れた咽喉の傷がまた爆ぜるほどの咆哮。
    歯噛みして開いた右掌が胸に押し当てられた。
    あ、とジョルノが喘いだ、

    「んなでけぇモン取りこぼしててめえならどう生きるッ!?
     これ以上腐っちまったらッ…オレが誰だか…
     あいつらわかんなくなっちまうだろーがあああああ!?」

    絆と未来に溢れかえるお綺麗なツラに本音の本音を叩き付けた、
    目を見開いたクソガキがまた泣きそうになったが知ったことか!!
    話したいのに思い出したくないこうなると心の底で知っていた、
    だから話しだすまでがあんなにキツかったんだそうだったんだ、
    後からこんなに苦しいのなら麻痺したままで死ねれば良かった!!
    大将には悪いがなにも撃たれなくたって手はある、
    一番好きな場所でなくてもすぐ傍だ許容範囲内だ、
    意識さえあれば能力は使える脳だけ残してこの身体全部凍らせる、
    細胞全部ブッ壊せばクソガキがどう頑張っても蘇生は出来ないッ!!
    「待って!!話を聞いて一つだけッ…あと一つだけ!!」
    「え…何…やめろ!!」
    やかましいざまあみろもう誰も何も信じねえ、
    死人を利用するなと言ったのによくも二度も、
    もし出血が少なければこうするつもりだった、
    胸の皮膚から静かに…凍りだすまずは…心臓、

    「待ってよ動画はまだッ…あるんだッ!!見つかったんだッ!!」

    え、



    …と、
    空白。



    「…、」
    顔を上げた前でジョルノが座り込んだ。
    膝ががくがく震えてる芝居でこんな動かし方できない、
    止まってくれたことに安堵し膝が崩れた…そう見えた。
    「せ…正確には、あの動画の、…消されてた部分、」

    何…、
    何だって…

    ジェラート…が、そこだけはと隠した…核心?
    ステルスに徹していたあいつは…姿を残すのをなぜ…許した?
    都合も気持ちも話さなかった、問えば笑ってばっかりだった、
    …もしかしたら、

    けど、

    怖気づく震えが走る、
    …今更…だ、何か知ればまた…もっと…

    秒で殺されるのが解ってるくせに離さねえ腕、
    怖ぇくせに勝算ねえのに絡みやがるクソガキ、
    顔泣き腫らして見苦しいんだよイライラする、
    こうすべきだった、
    でもやらなかった、
    たった一言言えてたら誰も黙り続けはしなかった、
    今も世界のどこかで一緒に魔術師やっていられた、
    たった一言…誰かが…、…オレが。

    「心配だ」と。

    やめ…て…くれ…キツい…解れよいっぱいいっぱいだ…
    ムリなんだ押し潰される…もうこれ以上…背負えねー…

    大きすぎるガウンの袖が、見下ろす色白の顔を拭った。
    どくん、と、
    チラと一瞬だけ袖口に見えた見覚えのあるものに胸が鳴った。

    ああ…、
    そんなとこに…あったのか、…他はみんな…焼いてしまった。

    「僕も…見てません…見せてもらえなかった。
     どうしても、…ほんとにどうしてもダメで、
     詰んじゃったら、その時は一緒にごらんよって。
     駆け引きなんか考えずにただ見てごらん、って。
     逆効果かも…これでダメなら、仕方が無いって。」
    信じられるかよと撥ね付けたかったが…能力が働かなかった。
    心の半分が怯え、残る半分と身体とが「知りたい」と訴えた。
    縋り付く少年の眼。
    信じてほしいのに疑われる痛みは骨の髄まで沁みていた。
    「フーゴが…そう伝えてほしい、と。
     一緒に…見て。…それだけ…お願いします。
     もう僕には手が無い…カードは全部使った。
     あんた…手ごわすぎだ…小細工は通じない。」
    笑おうとして泣きそうになり唇を引き結ぶ顔。
    お願いします、と床に手をつき…力の抜けた声が認めた。

    「…あんたの、勝ちだ。」





    打ちっぱなしの床の上で、壁に立てかけられたモバイルが、
    「その動画」を再生した。
    ジョルノは本当に立てなかったから、そこで見ることになった。
    ジェラートは撮影した男の子でなく、同行した父親を操作していた。
    父親は帰宅し指示された箇所を切って消し、それを忘却させられた。
    もらいたての新しいチップはその後何かを上書きされることもなく、
    少年の宝物として大切に保管されていた。
    フーゴはデジタルビデオのメモリーチップを少年から借りていたが、
    ふと思い立ち、消された可能性のある他のファイルの復元を試みた。
    幸い前述のとても幸運なコンディションのチップであったがために、
    まるで小さなタイムカプセルを掘り起こすかのように、
    残されていた消去部分は、完全に復元されたのだった。

    それは短い動画だった。
    美しい舞踏を誰もが忘れ去り、てんでに踊りさざめく店内で、
    ほんのちょっぴりだけ寂しげに懐かしい二人が寄り添い佇む。
    通った誰かにぶつかられたのか少年のカメラは大きく揺れた。
    天井、壁、人々の顔…でたらめになぞり構え直したその前で、
    陶人形じみた小さな顔がひっそりと覗き込んでいた。
    凛とした顔立ちの中、印象的なのは眼。
    目頭と目尻がくっきりし猫を思わせる。
    瞳孔だけ目立って一瞬ギョッとするが、
    よく見れば淡い淡い水色の大きな黒目。
    氷の破片をはめ込んだような、吸い込まれそうな綺麗な眼だ。
    性別ばかりか年齢すらも定かでない造作と色香、滑らかな肌。

    唇が開き何か言いかけ。
    けれど閉じ、人恋しげにまばたきをした。
    『天使なの?』
    少年が問う。
    『ちがうよ。』
    ふいとその顔は画面から消え、息だけの囁きが答えた。
    『声が出ないの?』
    『今はね。』
    厳しい顔立ちの黒髪の男が後ろから来て隣にしゃがむ。
    東洋の顔、鷹の色の眼が複雑な血を語る。
    画面の端で蜂蜜色の短髪が軽く揺られた。
    『そうか。』
    僅かにざらつく低い美声が独り言のように。
    そっと手を伸ばす、カメラが揺れた、頭を撫でた?

    身を起こし、小さな顔がまた現れ、仲よく並んだ。
    二人ともとても優しい顔だった。
    『君は覚えていてくれる?』
    耳を澄ましてもよくは聞こえないけれど唇が囁く。
    『忘れないよ。』
    幼い返事。
    『ありがとう。』
    息だけの囁きと、アイスブルーの瞳の潤み。
    『うれしいな。』

    氷菓の名をもつ声を出せない彼が、笑った。







    震える息が…モバイルに掛かる。
    「…、…を、」
    伸ばされた指が液晶の中の短髪を撫でた。
    ミスタは肩の背後で両手でしっかり支えていた。
    床に座り込んだままのジョルノが目を上げ、見遣った。

    「…礼を…、…言う…。」

    ぐらり、と…、傾き、頭が落ちた。
    「!!」
    血の気を引かせたジョルノが手を伸ばすが、
    「…、大丈夫だ、」
    引き起こしたミスタが確認しほっと息をつき言った。
    「眠ってる。…大丈夫だ、もう…。」
    規則的な寝息にジョルノもほうっと息をつき天を仰いだ。
    「よ…よかった…。」
    どっちに転んでもおかしくなかった諸刃の剣。
    古巣も自身も彼らが最も望まぬ姿となった今。
    自責が先走れば瞬時の発狂か自死が有り得た。
    「よくやったぜ。頑張った。」
    「いえ、僕じゃあなくて…フーゴと、この人…」
    ミスタにもたれ深く眠り込む寝顔を見る。
    「ああ。まいったな。…強ぇ。」
    あれほどの理不尽の泥底…何重にも殺され続けたというのに、
    遺されたものを正しく受け取る感覚まで喪くしていなかった。

    二人が本当は覚えていてほしかったこと。
    忘れられるのが辛いと言えなかったこと。

    少年に向けた言葉を通し、彼は「生きろ」と師らから望まれた。
    底知れぬ悔いや哀しみの深さに挑む覚悟を決め、迷わなかった。
    ここまで運び殺してくれる相手だからと、あんな変質者にまで
    感謝するほど死にたがってたくせに、即断と気力には舌を巻く。
    いい男だッ、と、目を細めたミスタが惚れ惚れと寝顔を評した。
    悪い意味でも良い意味でもどこまでも彼は果敢な獣なのだった。

    「護るって発想無かったとか言うけどよー、護ってたんだよな。
     二人を見て聞いていろいろ教わって覚えてる、そんだけでさ。
     二人とも、そうしてくれる相手が欲しいからこいつらのこと
     命削るくらい大事にした…そうなんだろ?」
    そうでしょうね、とジョルノが頷く。
    この上なくシンプルな使い勝手の良い、しかし見方によっては
    本体たる二人にとって、これほど残酷な能力もないものだろう。
    信じてほしい、忘れないでほしい、死なないでほしい、そんな
    人であれば抱いて当然の欲求を叶えるハードルが並大抵でない、
    カタギの世界に居場所など無い、裏の社会に来るほかなかった。
    類稀な癒しの声をそのまま形に顕した「ドリーム・シアター」、
    無私の献身と秘めやかな心遣いそのものである「バングルス」。
    敵対すれば恐ろしいが、二人の人恋しさと明るさは分身が語る。
    忘れられると知っても人波に遊ぶ、仲間に依頼にがむしゃらだ。

    なのに仲間たちを巻き込むまいとする執念の苛烈さを鑑みれば、
    リゾットに拾われる前の「家族の全滅」はたぶん一度ではない。
    亡くした家族に呼ばれた名を捨てるほど深く酷く傷付いていた。

    「安住の地が手に入らない、作るしかない人達だったんだもの。
     流儀を決めるまでどれだけ試行錯誤と絶望を繰り返したのか…
     受け入れたリゾット・ネェロの懐の深さだって規格外ですよ、
     この人も言ったけど、僕らのブチャラティと近いものがある。
     絶対に何かある筈だとは思ってたけど、まさかここまでとは…
     フーゴはどこまで予想してたのか…僕では勝てないことまで?」
    少し悔しそうに手を伸ばし、寝息で上下している胸に触れると、
    右掌のかたちの凍傷になってしまったところを補修しにかかる。
    凍結で破壊されモノになった組織を元の生身に造り変えながら、
    損傷のひどさにため息が漏れた。
    「ああ、深いな…こんなのお医者さんじゃあ助けられないよ。
     油断も隙も無いのはどっちさ。死人を利用するなったって、
     僕はリゾットから二度も、バトンを受けちゃったんだから。」
    存在を掛けた叛逆と、彼の命と。
    大将や師匠の言うことしか聞かない超難物相手の無理ゲーだ、
    無断で手伝わせたことを怒る小物だとは断じて思えなかった。
    折り重なった不幸によりただ一人しか遺せなかったとはいえ、
    リゾット、ジェラート、ソルベ、とりどりに見事な「親」だ。
    地の底の寒い城跡…こんなところで習えるとは思わなかった。

    せこ過ぎる反則でサイン取った契約書を見て微笑む。
    「こんなのは周りを納得させるための形式的なものです。
     彼は僕の命令なんかきかない、納得した事しかしない。
     だけど役回りなら必ず解ってくれる、それだけで充分。」
    ジョルノが落とした毛布を引き寄せながら、ずっと気になってたのに
    はぐらかされ続けたことを、ミスタはまた問うてみた。
    「なあ、そろそろ教えてくんねーか?お前こいつに何させる気だ?
     こんだけ協力したんだからよー、オレにもいっちょ噛ませろよ。」
    なんにも知らずに組織ぐるみでこいつらに乗っかっていた、
    こいつの大好きな師たちのことも噂を信じバカにしていた、
    解ったからには何かしてやりたい、訴える黒い瞳を見上げ、
    明るい緑の瞳が爽やかに笑った。
    「僕に出来なくて、彼にしか出来ないことです、いろんな意味で。
     でなくちゃあフーゴも応援なんかしてくれるもんですか。」
    「何かってえとフーゴ。オレ最近、仲間はずれなってねぇ?」
    毛布で肩を覆ってやりながらジト目。
    「ミスタも頼りにしてますよ、ただ傾向が別ってだけです。
     一番頼りにしてるから一緒に来たんです、解るでしょう?
     何事も適材適所。それだけの話です。」
    はてさて…、なんでこうもったいつける、言いにくいのか、
    怪しいな…やべぇニオイがしてきたぞ…とミスタは笑った。
    「わーったよォ。もういい、見てりゃあいずれ解るんだろ。
     さ、帰ろうぜ、…みんなでな。腹減ったし咽喉も痛ぇや。」
    よいせ、と抱えた身体を抱き上げる、体重落ちててくれて幸いだ。
    よく寝てるいつから熟睡してなかった?つか睫!長っ!ざけんな!!
    「はい!」
    膝を撫でてジョルノは立ち、ビジネスバッグに書類だのペンだの
    モバイルだのを手早く詰める。
    コートと手袋を掬いタタッとランドリーのある風呂場へ駆け込む、
    大急ぎで着替え…だすかと思ったら、

    「…ええっ!?」

    突然聞こえた声が裏返ってたから、どした?と声を掛けたら、
    返事もせず、すぐに着替えて顔を出した。
    フーゴの手袋しっかり嵌めて、小脇にはガウンを抱えている。
    「…持って帰んの?」
    サイズ合わねーのに、つか誰んだよソレ。
    「もらうんですよ。お護りです、…悔しいけど。
     いいですよね、家賃と管理料、僕なんだもの。」
    とか言いながらも悪戯っぽい子供っぽい顔して笑っていた。

    殺風景な室内を晴れやかに、明るい緑の瞳が見渡す。
    「ここはこのまま残しましょう。彼がいいと言うまで。」
    訪れたときの陰鬱はもう感じられなかった。
    殺風景な部屋はただ静かで、ただ広い。
    ああ、とミスタも頷く。
    「魔術師たちの帰る家、か。」
    ジョルノが答えた、

    「リゾット・ネェロの城、ですよ。」

     *
     *
     *

    ああ…

    誰もいねえ…いなくなった…
    行っちまったんだな…置いてきぼりか…

    空っぽだ…何すりゃあいい…わかんねえぞ…
    人間になって過ごしたのは…ずっとここだっただろ…
    所在無く歩いてみる、動物園の獣かよオレ。

    ん…?

    何だ…これ…
    手に取った。

    また場違い…
    でもねえか…
    あいつの忘れモンだな…
    魔法使いだったからな…

    悪くねえな…キレイだ…
    なんか…似てるし…
    うん…
    いい…

    とはいうものの…

    ………

    ち…しょうがねえなぁ…
    時間できたことだしな…


    しげしげ眺めて形を頭に焼き付けた。
    辛くない夢だって…あるものらしい。










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    お疲れ様でした、次で最後です。
    趣味炸裂で大変なことになっておりますのでご注意ください。

    こんこん
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