アマレッティ美味しいよね
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

アマレッティ美味しいよね

2019-11-20 02:30







    あと一人なんですがその前にちょっと。
    書くのは次で終わりですけどちょっと。
    シスコン属性に見えるんですどうかな。
    で、あのチームはこのチームと相性悪!
    いや能力的に、性格的には…どうだろ。
    彼らの退場あっての厄介さ…というか。








    アマレッティ美味しいよね








    「能力者」の匂いがする。


    首をかしげる店主を背に今日も収穫無しで店を出た。


    この街に部屋を借りたのはつい先日のこと。
    仕事の依頼で半月ほど留まることになった。
    外出が憚られる家族らに評判のいいここの菓子をと
    閉店間際に何度も寄ったのだが未だに買えていない。
    アーモンドは髪にも肌にもいいと兄がよく言ってた。
    そのせいかは知らんがアマレッティは彼らの好物だ。

    最初に来たときは最後の一袋が売れたところだった。
    手作りだから多くは作れないが材料も腕も一級とか。
    売り切れでは仕方ないから取り置きを頼んでおいた。
    翌夕寄ると残しておいたが手違いでさっき売れたと。
    取り置きの念を押し今度は代金も先渡しして帰った。
    そして今日。

    「申し訳ない、最後の一袋が(以下略)」

    この俺を馬鹿にしてるのか、いい度胸じゃあないか。
    さすがにキレかけたが、暴れるのは得策でなかった。
    ここいらは組織のとある幹部が仕切っているシマだ。
    能力者ではないが能力者も何人かは飼っているため、
    何かやらかすと能力者の仕業という「発想」がある。
    自分だけならその面倒臭さも厭わないが仲間が居る。
    モメて慌しい移動を繰り返すのは今は避けたかった。
    可愛い「妹」は体力に難があり、ゆっくりさせたい。

    「おかしいなあ…なんで売っちまったんだろうな。」
    店主はまだ五十代後半、耄碌してるとも見えない。
    様子に「うっかり」とは違った匂いをふと感じた。
    「売ったのはあんただろうに。」
    「そうなんですがねえ、おかしいなあ。」
    「売った相手はどんなヤツだ?」
    「どんなって…どんな人だったかなあ。」
    「年齢性別ぐらい判るだろう。」
    「男の人…いや…どうだっけ。」
    それはさすがにおかし過ぎる。
    「売ったのはついさっきだな?」
    「ええほら五分ばかり前です。」
    レジを確認し愛想笑いで薄い頭を掻く。
    「顔を覚えるのは苦手か?」
    「まさか、客商売ですよ。」
    「じゃあなぜ忘れている?」
    「それが判らんのですよ。」
    これは同類だ、との発想は能力者だからこそ浮く。


    さすがに防犯カメラの映像を見せろとも言えず。
    同居人への土産の菓子を買いそびれたぐらいで。
    夕方は店主独りきり、誰もその客を見ていない。
    組織の本拠地だけに能力者は少なくはあるまい。
    仕事上の衝突ならボス直属の立場上強くも出る。
    だがまったくの私事かつ些事でのいざこざでは。
    しかも未だ伏せられたプロジェクトの準備中だ。


    とはいうものの。
    「…目障りな…。」
    私事だろうが腹は立つ。
    よくも「妹」の好物を。





    ムキになるなど君らしくないぞと大将は笑った。
    旨いアマレッティを売る店は他にあるだろうと。
    店主に融通きかさせるぐらい容易かろうにとも。
    それはまあそうなんだが…癇に障って仕方ない。
    会社員ではあるまいし朝も早くから仕事で拘束。
    ちまちまと面倒な調整して説明して説明聞いて。
    幹部の勝手な要望と無駄話と嫌味に付き合って。
    能力者にはなに求めたってやると思ってる輩だ。
    漸く解放されあの店に到着出来るのが閉店間際。
    そんなストレスも「妹」たちの喜ぶ顔で薄まる。

    正体不明の先客はそれを繰り返し邪魔したのだ。

    …との本音は言えないのでポーカーフェイスで。
    「俺を出し抜く能力者がウロついてるわけだが。」
    今関わってる上はあのシマの幹部と不仲らしい。
    まだ悪意は感じないが邪魔をしてくる前哨では?
    「存在を覚えさせない。方法と目的が気になる。」
    「代金は払ってるのが少々解せんが…なるほど。」
    進めている「計画」の妨げになるかもしれない。
    耄碌なんて言葉から最も遠い凛とした顔が頷く。
    「組織内にも利権の衝突はある。挑発…警告か。」
    「騒ぐのも店主を脅すのも得策ではないだろう?」
    相手が店に来なくなり手がかりが消えかねない。
    より有害な別の接触に移行されるかもしれない。
    「ならば留守中調べておくかな。ああついでに、」
    「買わなくていい!調査に集中してもらいたい。」
    俺が買う前に目的のものを持ち帰られては困る。
    苦労した挙句二番煎じの土産とか屈辱の上塗り。
    「…解ったよ。能力は使えまいがやってみよう。」
    強力でも今この街で使うには勝手の悪い能力だ。
    機嫌が悪いと誤解してくれたらしい、幸いにも。






    翌日。

    一発でハマるのでは困る、という。
     突然態度が変わると目立つからだ。
      早く目を付けられるのはまずいと。
       じんわり効果が出るが逃げられず。
      効果は強い方が良いが負担少なく。
     買い手を長持ちさせたいからだと。
    ぱっと見で判りやすいのも嫌とか。
    競合品との差別化があーだこーだ。
     加工のし易さがどうたらこうたら。
      立場上言えないが実に面倒くさい。
       調整の連続に分身がヨタつきだす。
      サンプルを幾つ作らされたことか。
     モニター不足?俺にぼやかれても。
    それぐらい用意しとけグズどもが。

    顔には出さないものの心身とも疲れが溜まり昼食に。
    昼休みぐらいマトモに欲しいが会社員程度しか無い。
    親父が正気ならさぞかし嘆き怒鳴り散らすだろうが。
    テイクアウトのパニーニ食べかけ「同僚」に気付く。
    見れば判ると話には聞いていたがなるほど…目立つ。
    「新規開拓は大変だルート作りも営業もこれからだ。」
    「ライバルも少なくねーのにコストに見合うのかね。」
    動くのが難儀になり牢名主始めた幹部の部下どもだ。
    嫌われ者の彼らは殿様商売らしく巨デブ揃いだった。

    本業の賭場はそこそこだが別口でウハウハだと聞く。
    国内外のくじで公営・民営とわず当てまくりだとか。
    経費の極小さもあって稼ぎはぶっちぎりで一番多い。
    勝ちの内容に不自然も無くオカルトが囁かれている。
    組織は幸運の天使を捕まえて囲っているとか何とか。
    「噂が事実なら製造と搬入コストの有利はあるがな。」
    「造ってんのはどこぞの「元」お貴族サマらしいぜ。」
    「落ちぶれたもんだ、さぞ世間を恨んでるんだろう!」
    何らかの仕掛けがあるんだろうが…いつまで続くか。
    弛んでるがその時になって吠え面かくなと無視した。

    なるほど組織内の主導権争いは露骨にあるようだが。
    仕掛けているのはこいつら賭博部門とは違うようだ。
    我が世の春を続けようと後発の妨害…疑いはしたが。
    芝居ではなくこっちのチームを把握できてもいない。
    何度も俺を出し抜けるほどには利口な連中でもない。
    誰が聞いてるか知れないのに…粛清されるぞお前ら。


        傾いた陽を背に足早に歩いた。
      まだ四日目だが今日もやたらと疲れた。
    このたびの「仕事」は組織の「新商品」の開発だ。
      やっすい材料を能力を駆使し加工する。
        農場も工場も不要の夢の新薬。

           ゲスどもは俺が世間を恨んでると推測したが。
             べつだん恨んでるってわけでもない。
               単純にどうでもいいだけだ。
             だからこそ自堕落な力が取り憑いた。
           悪い意味の「活性化」生き物も物も狂わせる。

        どうでもいいさ…面倒くさい。
      死ぬまで生きてりゃあそれで構わない。
    生きてるだけが重荷な妹には言えない台詞だが。
      それでも彼らが無軌道を抑えてくれる。
        こうして彼らのところへ帰る。


    さて首尾は、とあの菓子屋へ立ち寄った。
    ちょうど店主が店を閉めるところだった。
    「ああこんばんは、ええとその、今日は、」
    「取り置きは頼んでなかったから構わん。」
    謎の妨害者を捕えればいつだって買える。

    「今日は二人組が買いに来たんですがね。」
    「…覚えてるのか?別口の客だったのか。」
    「覚えてるのが普通なんですよ、先日は、」
    「解った、怒るなよ。で別口だったのか?」
    「若い男の人二人でしたがお仲間ですな。」

    最後の一袋を買い昨日のオマケを褒めた。
    ハンパな数の他の菓子をよく入れるとか。
    「日替わりですから間違いありませんよ。」
    「なるほど。近くに住んでる奴らなのか?」
    「通りで見かけたことはありますがねえ。」
    住まいは知らないし客情報だからと渋る。
    情報代を渡そうとしたら嫌な顔をされた。
    「勘弁してくださいよ、客商売ですから。」
    「ああ解ったよ。また寄らせてもらおう。」  
    旨いもの作るだけあって骨のある職人だ。
    嫌いじゃあない脅す気にもなれなかった。


    店を出たところで大将から電話が入った。
    『すまない、思いのほか手ごわい相手だ。』
    意外な第一声にらしくなく返事が遅れた。
    『尾行に気付いた。まかれてしまったよ。』
    「あんたを振り切るとは…怪我は無いか?」
    『無い。組織の能力者には違いないがね。』
    呼ばれて移動し近くの路地で落ち合った。
    高齢だが背筋の伸びた立ち姿に安堵する。
    「店近くで張ってここまで追ったのだが。」
    陽の落ちた暗い路地を示して白髪を拭う。



    客はものすごい癖毛の眼鏡とオサゲのノッポの二人。
    腹から出る大声でバカ笑いと軽口を振り撒いて歩く。
    人気の無いここなら能力を使っても問題はあるまい。
    気配を殺して路地に踏み込むと二人組が振り返った。
    「こんばんはお爺ちゃん、オレらになんか御用でも?」
    おそろしく端正な顔のオサゲがチャラく話しかけた。
    「こちらに用があるのはそちらではなかったのかな。」
    傘を握る手にやや力が入る…四つの目が凝視してる。
    「知るかよGGI。組織のモンかい?そうだよなァ。」
    癖毛が牙を剥き紙袋をオサゲに渡し肩の筋を伸ばす。
    「よそモンは怖がって近づかねーッ、強えほどなァ!」
    片腕を振り上げながらパキィと音高く指を鳴らした。
    いきなり攻撃か、気の荒いヤツ…と思った次の瞬間、

    バダダダダダッ、と傘が鳴り重くなり激しく揺れた。

    「…ぬうッ!」
    ばらばらばらっと傘に当たり落ちたものを確かめる、
    「こ…氷?雹か…ッ、」
    クルミ大の白い雹が「ここだけに」叩き付けていた、
    忽ち黒い傘は穴だらけになり頭や肩に雹がぶつかる、
    「…小僧がっ、」
    仕方なく退きながら前方へ「霧雨」を呼び出したが、
    「な!?」
    癖毛の若造は霧雨の中へ真っ直ぐに突っ込んできた。
    純白の氷の甲冑で全身を包んで、おそろしい速度で。
    これでは霧雨の効果は届かない、力の相性は最悪だ!
    退却の判断するより速く傘で打ち上げつつナイフを、
    ガキンと刃がぶつかり傘が落ちた後に笑顔が在った。
    「残念でしたあ~w」
    ぱきぱき…と甲冑の咽喉に当たったナイフが凍った。
    尖った犬歯剥き出しの至近距離の虎の笑顔が寄った。
    「傘が要るなら攻撃は上から降るの一択…だよなァ?」
    殺意は無い…が相当の策を弄さねば倒せない難敵だ…
    「団員は殺んなってキツく言われてるが次は…なっ♪」
    タンと地を蹴り反転すると霧雨を突き抜けて離れる、
    ばしゃあ、と水になった甲冑置き去りに走る後ろ姿、
    「ちいっ!」
    せめて手傷の一つも、と靴が足元の小石を蹴り出す、
    背の中心を狙った、よし当たる、と確信したものの、
    その寸前に…路地に詰まれたガラクタから腕が出た。
    ひゅん、と、癖毛の姿はその腕に引き込まれ消えた。
    なんだ今のは…目を疑い能力を解除し近付いて見た。

    ガラクタの中に一枚の割れ鏡…気配はもう無かった。



    「というわけだ、私では相性が悪すぎて無理らしい。」
    聡明と経験ゆえ気負いも見栄張りも無く正直に言う。
    「優秀な戦士だ。強すぎて美しさを感じる域だった。」
    部下を調達し調べて囲い込めばなんとか、と続くが、
    「じゃあさあー、オレ、とっ捕まえてやるよぉーッ。」
    調子っ外れの聞き慣れた声が夕闇に唐突に聞こえた。
    「…なぜ出てくる。」
    体調の悪い「姉」についていろと言い付けたはずだ。
    「心配だから見に行ってってよぉー。いいだろぉー?」
    ナイフでお手玉しながら「弟」はへらへらと笑った。
    指が傷付くが笑ってぺろぺろ血を嘗めてはまた弄ぶ。
    可愛らしい顔しているのだが傷だらけなのが惜しい。
    「親父と兄ちゃんにさあ、恥ぃかかせたんだぜぇー?」
    笑ってるがけっこう…いやかなり機嫌が悪いようだ。
    これは制めても制まらん…退屈もしているのだろう。
    「断っておくが目的は判らんし同じ組織の奴らだぞ。」
    「わーってるよー。殺したり外したりしねえよーっ。」
    物騒な台詞を吐きながら弟は無邪気に笑って跳ねた。





    翌日。

    モニターが半減した…量が難しいって?
     あんたらのテストの仕方が悪いんだろ。
      少量から始めるものだ素人でも解るぞ。
     新たなモニターからやり直し?知らん。
    複数の形で販売したい?勝手にしろよ。
     錠剤にカプセルにペーパーにクリーム。
      匂いと口内の感覚がうんぬんかんぬん。
     女向けにピンクの結晶?加工してくれ。
    モニターが集団脱走した?知った事か!

    ああ…イライラする…連日の拘束と酷使…奴隷か。
    まあ奴隷は奴隷なんだがな…家ごと身売りした身。
    郊外へシマを持たされ落ち着いたのもほんの一時。
    すぐに脅せの殺せので駆り出され飛び回っている。
    時々興奮剤を作らされたり増毛剤を作らされたり。
    一時のシマの施設へ置いてきた親父、死んだかな…
    看護つき、楽しい薬の夢の中、さぞ幸せだろうよ。
    遠い国で夢を叶えた兄は幸せでいるに違いないが。
    こっちが移動するし電話も換えるから連絡とれん。
    それもいいか…現状を知れば兄は…悲しいだろう。


    弟はどうしたか…切り刻んでないだろうな。
    妹には今日は大将が付き添ってて心配無い。
    店を閉める菓子屋の店主にまた声を掛けた。
    「お帰りなさい、お疲れのご様子ですなあ。」
    余りもんですがとラム酒の香り高いババを。
    「旨い。口当たりもいい、名人だなあんた。」
    「ははは。後は完売ですありがたいことに。」
    生家が健在ならお抱え職人にしたいとこだ。
    「今日は違う二人組が買っていきましてね。」
    「ほう、今度も最初の客の仲間たちなのか?」
    「ええ、教会の近くに職場があるとかでね。」
    職場な…同業者だよな…アジトのことだな。
    「いや惚れ惚れするほどの美男子でしたよ。」
    ああお客さんもいい男ですが、とにっこり。
    「それはそうと今日は変わった男の子がね。」
    通りで奇声発しては連続バク転してたとか。
    「…すまん。弟が、その、騒がせたようだ。」
    人目につくなと言い添えるのを忘れていた…
    「ははは。いやいや男の子は元気なほうが。」
    …気はいいがこれはこれでどっかズレてる。


    電話が鳴って出ると号泣の怒声が刺さった。
    『うわあああああくやしいよおおおおおお!』
    「落ち着け。怪我は無いか、交戦したのか。」
    大将に続いて弟まで…だと…強すぎないか?
    『今してるとこだよぉー!ちくしょおおー!』
    「解ったすぐ行くからダガーをしまえ頼む!」
    負けた悔しさで自傷スイッチが入ったかっ!
    場所を確信しあの路地へ全力疾走で向かう。
    路地の地べたで転げ回り悔しがる弟を発見。
    血と涙と泥だらけでひどい有様だが起こす。
    鼻水を拭いてやりながら聞き出したところ。



    客はド金髪と剃り込みのいずれも若い美男、二人組。
    通りで女も何故か男も振り向くが完全無視して歩く。
    人気の無いここなら能力使ってもいいやと踏み込む。
    先を歩いてた二人がクルと振り向きにやりと笑んだ。
    「おや爺さんじゃあねーな、どうしたよガキんちょ?」
    剃り込みの目力に生唾を飲んだが修羅場は大好きだ。
    「傷だらけじゃあねえか、手当てしとけ痕が遺るぜ。」
    目当ての紙袋持ったド金髪が呆れ半分哀れむように。
    「バカにすんなぁ、親父と兄貴に恥かかしてよぉー!」
    射程距離に入れたらこっちのもんその顔刻んでやる!
    ダッシュと同時顔にダガーを、…当てるその直前に、

    ばさあ、と黒い影が上から降って左足の甲に激痛が。

    「いって!」
    刺されたっ、と身を支えようとしたがのめって前転、
    それでも射程距離に入った、と思ったら金髪は後退、
    くそっ勘がいい…あれ…あれっ剃り込み野郎消えた?
    さっきのはあいつの分身だな…見回すが消えている、
    オレのダガーはどこだ…えっなんで…どこへ落ちた?
    周り何もねえ地べただぞ見つからねーわけねーのに!

    <わはははは、もーらいっww>

    ちっちゃい声がしたのはオレの帽子の上からだった。
    ぴんっと何かが飛ぶ感じがして目の前を落ちてく影。
    剃り込みオンブして舞う人型の分身の手にダガーが!
    針ぐらいにちっちゃくされたオレの大事なダガーが!
    「わあ待て、返せえー!」
    ちょ…分身ダッシュ速ぇ!足いてえッちくしょうー!
    伸ばした手の先にピっカピカの靴がズシンと下りた。
    「え」
    四つんばいで頭上げる、…あ…あれ…金髪…でけえ?
    見る見るでっかくなる…んじゃあなくてオレ…縮む?
    「あれーーーーーーっ!?」
    摘み上げられジタバタしてたら身体が重たくなった。
    「あえ…あひゃ???」
    オレ…の手…しなびて…しわだらけ…なっ…ちゃっ…
    「直は素早いんだぜ、ボーズ。」
    へちょりっと地べたへ下ろされたけど立てなかった。
    子猫ぐらいのヨイヨイになったオレ二人が見下ろす。
    「やれやれ、恨みの心当たりはねえんだがよおーッ。」
    「つーか、在り過ぎてわかんねーっつーかよおーッ。」
    にやにやしながら紙袋持ってスタスタ行っちまった。
    遠くで「解除」って聞こえたら、身体は元に戻った。



    「ううううー悔しいよううう仕返ししてくれようう!」
    ぐっちょぐちょの手放しで泣かれると通りから人が。
    「何が悔しいって…あいつら、カッコい…うええん、」
    「わ…解った、とにかく一旦帰ろう、相談しような。」
    ひそひそ…とあらぬ想像を囁く人ごみ掻き分け撤退。
    部屋へ連れて帰ったら可愛い妹に泣かれてしまった。
    足の甲に開いてた穴が思いのほかでかかったせいだ。
    誰がやったのあたしが仕返しすると怒るから慌てた。
    三人して宥め弟がバク転で平気アピールし乗り切る。
    体調も悪いし日差しも強い、火ぶくれたらどうする。
    現場が路地とはいえ妹の能力が広がるとヤバいしな。





    翌日。

    今度はモニター集めすぎ混乱してると!
     いちいち俺にぼやくな俺は製造担当だ!
      他のあれやこれやはそっちで解決しろ!
     急ごしらえの部署だとか関係なかろう!
    幹部に言え幹部に!寄るな!泣くなッ!
     泣きたいのはこっちだ休みをよこせよ!
      私事だが目を離すと怖い妹がいるんだ!
     可愛いが家族が絡むと何するか知れん!
    偉そうに言うなピンハネしてるくせに!

    …この苛立ちをぶつける先は件の先客しかない。
    …ヤツの出現からこっち不快な事ばかり起きる。


    しかし…相手はなぜ俺の目当てを狙うのだろう。
    夕陽を背に歩きながら考えてるのだが解らない。
    メッセージ一つ無くピンポイントで邪魔をする。
    メンタル揺さぶって微調整を狂わせてる…とか?
    だとしたら高度な嫌がらせすぎる…恐ろしい奴。
    ウチはボス除き上位に行くほどオツムがアレだ。
    この実力ではさぞ不遇をかこってることだろう…
    「やあ、今しがたいい男が買ってきましたよっ。」
    店を閉めながら店主が人畜無害な笑顔を向けた。
    「先日からウチの連中が世話になってるな、と。」
    「…いよいよリーダーのお出ましということか。」
    そんな口ぶりでしたねえ、と頷いて塵を集める。
    「若いんですがね、男が惚れる感じというかね。」
    「さもあらん、あんな連中をまとめているんだ。」
    ごくり…と我知らず咽喉が鳴る…俺が緊張だと?
    「それで一人で来たのか?仲間は一緒だったか?」
    ん?と、店主がほうきの手を止めて考え込んだ。
    「一人…、じゃあなかった…ですよ、たしかね。」
    ザワッと鳥肌が立った、この煮えきらない反応!
    「二人か!ツレはどんな奴だ、覚えてないのか!」
    「どんな…って、たしか男…、あれ、お客さん!」
    覚えられてないそれだけ聞けば充分だ、ヤツだ!
    とうとうヤツがリーダーと一緒に姿を現したっ!
    捕まえてやる正体暴いてやる…謎を解いてやる!


    全力疾走であの路地へ、追い付いた…ヤツらだ!
    体格がいい…黒のロングコートの後姿がデカい。
    横にもう一人、黒髪の細身…紙袋を持っている。
    あれがヤツだ…アジア系か…きびきびした動き…
    何か話しかけられつつ並んで路地へ消えていく…
    手ごわい連中なのは承知だ、少し…距離を置く、
    あらかじめ分身を傍らへ呼び出してから…追う。

    「!」

    暗い路地へと踏み込んだ瞬間、呼吸が止まった。
    入り口と出口のちょうど中間辺りに立つ…長身。
    一緒にいま入ったもう一人はどうした…消えた?
    「おまえがリーダーか。」
    舞台役者ばりに低く通る美声が地を這い届いた。
    「老人や子供に先払いさせるとは気に食わんな。」
    そういうわけではないが…まあそうも見えるか。
    消える能力をもつ者が他にもいたと…ヤツもか?
    「オレたちを尾行してる理由を話してもらおう。」
    「心当たりがあるのはそっち側じゃあないのか。」
    とぼけるなツレに身を隠させ臨戦態勢だろうが。
    知らんふりでごまかす気か探りを入れてるのか。
    素のままでは危なそうだ…密かに分身を使った。
    反応速度と筋力を僅かに上げる…反動はくるが…
    古代の彫像じみた峻厳な美貌がギラリと尖った。

    「無い。貴様ごとき知らん。オレの宝に触るな!」

    真っ黒な巨大な狼が吼えたそんな怒り方だった、
    ナイフを抜いたのは激突不可避を悟ったからだ、
    この反応速度についてこられまい動きを止める!
    と、

    ばがんっ、と前方足元が鳴り石畳がはね起きた、
    「う」
    横一列に飛び上がったそれらの下から黒い物が、
    反射的に薙ぎ払う、金属音がしそれらが転がる、
    …これは…釘?…あらかじめ仕込ん…まさかっ!
    この古い石畳の下にトラップだと、在り得ない、
    「ふ、避けたか、避けなくても殺しはせんがな。」
    仕込みでなければ…造った?のか?砂鉄…から?
    「うお…ッ、」
    ナイフが手から逃げてガキイと石畳に張り付く。
    拾えはするが…重い…石の下に磁石を造ったか!
    こいつ磁力と鉄分子を操る、効果の発動も速い!
    「それ以上動くなら関節に釘を打って停めるぞ。」
    筋力を更に上げて素手で…との考えを読まれた?
    「それとも体内の鉄を釣り針に変えてみようか。」
    「ちいっ、」
    どう攻める…判らん…組織にはまだこんな奴が!
    「矛を収めろ。ああそうだ、言い忘れていたが、」
    真っ黒な巨狼の寒気のする美貌がニイと笑んだ。
    「もう一人いる。」

    視線…

    を感じた、身体を突き抜けるほどの鋭さだった。
    上…っ!
    まだ頭を上げ終わるかどうかで…衝撃を感じた。
    上空…斜め上から舞い降りた鷹が額を掴んでた。
    ぎりとこめかみに指が食い込む…頭蓋が…軋む、
    「…く…」
    いったい何なんだこいつも速度をいじれるのか…
    反応速度を二倍にした俺でも対応出来なかった…
    ガンと肩を蹴られ後ろへ数メートルも押された。
    筋力強化してなければ無様に転がった筈だった。
    ひらりと長身を翻した細身が音も無く着地した。
    僅かな壁の引っ掛かりを登り上へ潜んでたのか?
    人間じゃあない…こいつらまるで物語の狼と鷹。
    人の形はしているが…美しい漆黒の…獣の魔物。
    「わ」
    握り締めていた拳を緩め…分身を…引っ込めた。

    「…解った。話そう。」

    参ったと言わずとも魔物らは笑み殺気を消した。
    こいつらとは…能力の相性が悪すぎる…らしい…
    頭に浮いた考えを負け惜しみかと認めて笑った。











    「おいっ…しいいいいーっ////////////♪」

    全開の花のような笑顔で妹がアマレッティを頬張る。
    血色の悪い頬が上機嫌でピンクになってる、可愛い。
    「うんめえええー、こんなん食ったことねえよーッ!」
    「実に出来のいい菓子だな、いやコーヒーが進むよ。」
    気まぐれな弟もなかなか笑わない大将も機嫌がいい。
    あの店主はやはり天才職人、俺の家族を幸せにした。
    「お互い疑心暗鬼、偶々そうなっただけだとはなあ。」
    蓋を開けてみればなんてことは、というやつだった。

    「ウチの女将が、あの菓子屋の熱烈なファンなんだ。」

    黒狼は頬骨あたりをいじりながら街灯の下で言った。
    黒鷹は手首に浮かんだ淡く光る腕輪と俺を見比べた。
    「最後の一袋にこだわったのは、オマケが目当てだ。」
    袋を少し開けると一番上の小袋を抓み上げて見せる。
    「そうそうこれがよく入っているんだ、綺麗だろう。」
    ステンドグラスのようなカラフルなフルーツの飴だ。
    「凄まじく頭を使う担当だから甘いものが欠かせん。
     腰を落ち着けられる時間も短い…忙しい奴なんだ。
     この飴は売り物じゃあない、孫へのまかないでな。」
    「…そうか。俺も…妹への土産で買おうとしていた。
     身体が弱いし陽にも弱いから買いにも出られない。」
    黒い鷹の「腕輪」は相手の感情や記憶を読むという。
    嘘も見栄も無駄だとぶっちゃけたら魔物らは笑った。
    「明日から二人で留守にする、遠慮なく買うといい。」
    鷹が漸く口をきく、少しザラつくこれも美声だった。

    「店主があんたを覚えられないのはどうしてなんだ?」
    一番気になってた案件をストレートにぶつけてみる。
    「記憶に残さない暗示がかけてある。安全のためだ。」
    少し辛そうに黙る鷹に代わり静かな声で狼が答えた。
    誰の安全…誰が何のため…訊きたいが訊かなかった。
    鷹も今のこちらの「仕事」を詮索しなかったからだ。
    穏やかな猛禽の瞳がじいっと眺め、また口を開いた。

    「楽しかったか。」

    言われて…暫く考えて、我知らず笑みが浮いてきた。
    最悪な仕事にイラつく狭間で怒り慌て興奮した数日。
    返事はしなかったが顔を見れば伝わったはずだった。
    「俺や家族にも、忘却の暗示を掛けるつもりなのか?」
    これもストレートに問うと魔物らは顔を見合わせた。
    「そうしても構わんが…お前たちには必要あるまい。」
    別れを告げるでなく二つの背は宵闇に溶けていった。







    それから一年を経ずして上に呼び出され街に戻った。
    あの時の「仕事」を今後の組織の主力にと言われた。
    賭博部門が前ほど稼げなくなり大赤字が出たという。
    黒い鷹の惨たらしい粛清を聞いてきたのは弟だった。
    賭博部門の儲けのカラクリがそれで解った気がした。
    狼の群れの立場は変わり殺し犬として飼われている。
    あれらを軽んずる愚かな組織に未来などあるものか。
    静かに呟く大将の横で思い出す邂逅は懐かしかった。
    弟の情緒は殆ど壊れ、妹はもう俺から離れられない。
    間近に迫る終わりの気配を感じながら菓子を頬張る。
    『楽しかったか。』
    耳に残る声に今更応える、ああ本当に楽しかったさ。
    今度こそさよならだ、血みどろだが気高き魔物たち。





    今日から俺は家族のため…地獄の薬の母体に変わる。









    (完)









    アクションシーン書きたかったので。
    メロンの人は…使い勝手悪すぎるゥ!




    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。