月の表面が粗いことの証明
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月の表面が粗いことの証明

2018-12-25 00:00

    この記事は、
    好きな証明 Advent Calendar 2018 (https://adventar.org/calendars/3655)
    の25日目の記事です。

    こちらではお久しぶりです、キグロです。
    このアドベントカレンダーは、エレガントな証明や思い出の証明を語る企画です。
    企画の説明では「数学でなくても構いません」とのことですが、今日までほぼ全て数学ネタのようです。

    さて、私のこの記事では、物理の話をしたいと思います。
    物理といっても難しいレベルの話ではなく、17世紀に行われた古典的な証明です。

    ずばり、「月の表面はどうなっているか?」という話です。

    現代の我々は、月の表面が砂漠であることを知っています。
    それは、実際に月に行った人達がいて、月の砂や石を持って帰ってきているからです。

    しかし、月の表面が砂漠であることは、人類が月へ行く300年以上も前に、ガリレオ・ガリレイによって証明されているのです!

    今回お話したいのは、その証明です。


    この証明は、ガリレオの有名な著作『天文対話』に登場します。先に、『天文対話』について少し紹介しましょう。

    この本は、三人の対話形式で書かれています。三人はそれぞれ立場が異なります。
    一人目のシムプリチオは、アリストテレス派の科学者です。彼はアリストテレスの著作に書かれていることはすべて正しいと信じており、「月や太陽は、地球とは異なる物質でできており、完全な存在である」と主張します。
    二人目のサルヴィアチは、ガリレオ派の科学者です。彼はガリレオの知り合いという設定で、アリストテレスの著作の内容を疑っており、実験と観察によってその内容が誤っていることを示そうとしています。
    そして三人目のサグレドは、中立の立場を取る司会者です。シムプリチオとサルヴィアチの話を聞き、どちらがより正しそうか判断を下します。

    この三人が議論し、アリストテレスの著作の内容、特に「天と地は異なる原理で動いている」という主張が正しいかどうか検討します。それが『天文対話』です。


    では本題。
    月の表面についての議論は、『天文対話』第1日目(第1章)に登場します。シムプリチオ(アリストテレス派)はこう主張します。

    「神は天を完全なものとして作られました。したがって、月も完全なものです。
    完全なものであるから、月は完全な球です。
    すなわち、月の表面は鏡のように滑らかであり、山や砂などありません」

    本当はもっと証拠を挙げ、長々と滔々と語っているのですが、要点としてはこのようなことです。
    証拠のひとつは後で述べましょう。

    これに反論するには、どうしたらよいでしょうか?
    現代の我々(特に現代の日本人)なら、例えば「神なんていねえ!」と突っぱねることも可能です。

    しかし、それは反論ではありません。神がいないと主張するなら、それを証明する必要があります。
    なによりサルヴィアチ(ガリレオ)は、神の存在を信じています!
    彼は「神はこの宇宙を完全なものとして作った」という前提を認めたうえで、月は完全な球ではないことを証明しなくてはいけません。

    さて、どうしたらよいでしょう?


    反論するには、相手の挙げた証拠に、ムジュンを突き付けるのが手っ取り早いでしょう。
    先程後回しにした証拠を、ここで挙げます。

    その証拠は、「月は太陽の光を反射して輝いている」ということです。
    このことは、月の満ち欠けの観察により、シムプリチオもサルヴィアチも認めていました。
    (正確にはシムプリチオは「月は反射もするし、自らも光っている」と考えていますが、ここでは無視しましょう)

    この証拠を持って、シムプリチオはこう主張します。

    「月は太陽の光を反射して光っています。
    光を反射して輝くのは鏡であり、砂場は光りません。
    従って、月の表面は鏡のように滑らかなのです」

    見事な三段論法です。たしかに砂場は光らないし、鏡は光ります。

    では、これに対するサルヴィアチの反論を見ていきましょう。


    サルヴィアチは、ごく簡単な実験をしてみせます。

    「では君たち、一緒に外へ来てください。そしてこの鏡を、壁にかけてみましょう」

    時刻は昼間。壁には日光が当たっています。そしてその壁は、誰の目にも明らかなようにザラザラしています。
    ここに鏡をかけ、サルヴィアチはこう言います。

    「あの陽の当っている壁と鏡との二つの表面をご覧なさい。さあどちらがより明るく見えるかいって下さい。壁の表面ですか、鏡の表面ですか」
    (岩波文庫『天文対話(上)』P.114)

    シムプリチオは答えません。サルヴィアチは畳みかけます。

    「さあいって下さい、シムプリチオ君。もし君があの鏡をかけたあの壁を画くとすれば、壁と鏡と、どちらにより暗い色を使いますか」(同)

    ようやくシムプリチオは答えました。

    「鏡を画くのにずっと暗い色を使います」(同)

    鏡の方が暗いということは、表面が滑らかな方が暗いということです!
    中立の立場を取るサグレドも、この実験を見て「月の表面はあまり滑らかでない」と確信しました。

    しかし、なぜ鏡の方が暗くなるのでしょうか。普通に考えれば、鏡の方が強く光を反射するはずです。
    その理由は、シムプリチオが主張します。

    「この角度から見れば鏡は暗い。しかし、鏡が光を反射している場所に立てば、鏡は壁より明るく見えるはずです」

    サグレドもサルヴィアチも、この説明には納得します。それを見て、シムプリチオは主張を続けます。

    「鏡は入射光線に対し、一定の場所にのみ反射光線を送ります。
    しかしこれは、鏡が平面である場合のみです。
    鏡が球面であれば、鏡はあらゆる場所に光を送ります。なぜなら、球の表面には無限の傾斜があるからです。
    そして月は球体であるから、月は太陽光線をあらゆる場所に送ります。
    従って、地球上のどこから見ても、月は明るく輝くのです」

    この実験は平面鏡で行われました。なので一定の場所でしか明るく見えませんが、球体の月であればあらゆる場所で明るく見えるはずです。

    このシムプリチオの主張には、中立のはずのサグレドが反論します。
    (サグレドは中立と言い張るくせに、かなりサルヴィアチの肩を持ちます)

    「対象が輝いて見えるためには、その対象が光を反射するだけでなく、その反射光が我々の眼に入ることも必要です。
    そこで鏡が球面であればどうなるか、考えてみましょう。
    そうするとすぐに、反射光のうち、ごく一部だけが我々の眼に達することがわかります。
    なぜなら、全球面のうちごくわずかな部分のみが、光を眼のある場所に送り届ける傾斜を持っているからです」

    シムプリチオは勘違いしていたのです。
    月があらゆる場所に光を届けますが、全表面の光があらゆる場所に届くわけではありません。全表面のうちごく一部ずつを、あらゆる場所に届けるのです。

    シムプリチオの主張するように、月が鏡のようになっていたとしましょう。
    すると我々は、ごく一部だけが光り、他の部分は真っ暗な月を見ることになるはずなのです。
    しかし、現実はそうではありません。
    よって、月の表面は鏡のように滑らかではなく、粗雑になっているとわかるのです!


    このあと、シムプリチオはさらに反論し、サルヴィアチはさらなる実験をしてみせます。
    が、私が好きなのはこの部分です。

    シムプリチオは、「月は太陽の光を反射して光っている。だから、月の表面は滑らかである」と主張しました。
    それに対し、サルヴィアチは「月は太陽の光を反射して光っている。だからこそ、月の表面は滑らかではない」と示しました。

    相手が根拠とした事柄を使って、相手の主張をひっくり返すのです!!

    カッコいい。まじカッコいい。


    『天文対話』は、とてもカッコいい証明がたくさん出てくる、とても熱い本です。
    シムプリチオの主張は、他にもたくさんあります。
    「月と地球は違う物質でできている」「黒点は太陽表面ではなく、地球の上空で起こっている現象である」「望遠鏡で見た像は歪んでおり、正しい天の姿を見せていない」などなど……。
    それも、ただ主張するだけでなく、きちんと論拠を持って主張します。
    これらに対し、サルヴィアチもまた、実験と観察の結果をもって、反論していくのです。

    熱いでしょう!?

    何より驚くべきは、これが今から400年近くも前になされたということです。
    このとき、人類は月へはおろか、宇宙へも、それどころかほんの数百メートルも空を飛んでいません。
    地べたにいながらにして、宇宙の仕組みを解き明かしてしまうのです。やばい。
    (これは現代の天文学、宇宙物理学などについても言えることです。やばい)


    というわけで、私の「好きな証明」は以上です。
    また、これで「好きな証明 Advent Calendar 2018」は、25日分すべて終了です。
    あとは、鯵坂もっちょ氏による26日目の記事を待ちましょう。

    では。


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