翌朝六時に起床すると、二組の両親は既に身支度を整えて、珈琲を飲んでいた。
真由ちゃん一家は、札幌観光をしてから東京に帰るため、午前中の飛行機で千歳空港を発つことになっている。この朝食が、真由ちゃんと最後の食事なのだなと思うと、寂しさがこみ上げてきた。最後のジャスミンティーを飲みながら、それぞれが、しんみりと一昨日からの出来事を振り返り話していた。皆、名残り惜しい気持ちで胸がいっぱいになっていた。
国内唯一の木造のターミナル空港に着いてから、三人は搭乗手続きをし、二階の売店で夕張メロンゼリーと、まりも羊羹をお土産に買っていた。
どうしてマルセイバターサンドを買わないのだろうか。本当は美味しいと思っていなかったのかもしれないな。いやいや、賞味期限もあるし、溶けたら困るから、札幌観光した後に千歳空港で買うのかなと、私は一人で思いを巡らした。
一階のレストランに八人で入った。
「荷物になるかもしれないけれど、銘菓だから」
と、父が長谷川の『標津羊羹』を真由ちゃんのお父さんに手渡した。母は、真由ちゃんに「飛行機の中で読んでね」と、絵本を贈った。
真由ちゃんのお母さんは、弟には木製のミニカーを。私と妹には銀座の和光の紙に包装された小箱を贈ってくれた。中には、天使のモチーフに金のチェーンが付いたスワロフスキーのペンダントが入っていた。妹は早速首にかけて「キラキラ光っている」と喜んでいる。
「三人でお揃いなのよ。ずっと私達の宝物にしましょうね」と、真由ちゃんが言った。
手荷物と身体検査を受ける人々の列に並ぶ真由ちゃん達は、千歳行きの便に乗る他の人とは、明らかに違う雰囲気に包まれていた。父は、真由ちゃんのお父さんと握手をし「また会おう」と言い、真由ちゃんのお父さんは「東京にも遊びに来てくれよ」と抱擁した。
真由ちゃんのお父さんの右手が、父の背中を優しく数回叩いていた。こんな別れの光景を見たことがなかった私はびっくりして、体を硬くしていたら、真由ちゃんのお母さんが、私の手を握った。