私は真由ちゃんを可愛いと思わない少年はいないと思い込んでいたので、雅也君が真由ちゃんに好意を寄せない素振りをすることと、そのことを俄かには信じられず動揺を隠せない真由ちゃんの心情の間で、どぎまぎした。東京から来た雅也君という中二の男の子が、真由ちゃんより私のことを気に入っているらしいということだけは間違いなさそうだ。
アメリカに住み、お父さんは大きな法律事務所の弁護士で、お母さんは女優みたいに美人で優しくて、そんな両親の一人娘として育てられている可愛いお嬢様。英語が話せて、バレエが踊れて、ピアノも弾ける。勉強もできて信仰が篤く、熱心に教会へ通い、貧しい人々の役に立ちたいと考える心優しい少女。麻雀でいうところの満貫みたいな真由ちゃんに、私は勝ったのだ。
カッコ良くて賢い年上の男の子が、私のことを認めてくれたという確信は、私の心を熱くした。
どちらかというとおとなしく、目立たないタイプの私を、どうして選んだのかわからないのだが、雅也君は私に話しかけてくる。もっと、「花菜ちゃんのことが知りたいんだ」と、雅也君は言う。
私達は、大自然の中にある建物の、子供達の遊ぶ喧騒に満ちた部屋の一角で、静かに対話した。
雅也君は、私より背が高くてほっそりとしていた。痩せっぽちに見えないのは、肩幅が広く、筋肉がバランス良くついているからだろう。細く通った鼻梁、薄く小振りな唇、よく見ると二重瞼だと確認できる涼しげな瞳。さっぱりした癖のない顔立ちで、その風貌は見る人誰もに好感を与えずにはいられないものだった。
話し方やちょっとした動作から、育ちの良さが窺われる。でも、真由ちゃんのように誰に対しても平等に愛想を振り撒くタイプではない。自分の意見をきちんと言葉で表現できるということだけで、私は雅也君に敬服した。
雅也君と初めて話をしたとき、なんて知的で自由な少年なのだろうと思った。生理的に、この人となら私は自然体で打ち解けられると感じた初めての人だった。
異性という意識は特になかった。人として、良いなと感じたのだ。雅也君とは、私にとって、そういう意味で特別な人だった。
「花菜ちゃんはヤマザトが好きなの?」
雅也君が尋ねてきた。