• このエントリーをはてなブックマークに追加
礼讃・第43回「事件」②
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

礼讃・第43回「事件」②

2014-11-03 13:00

    前回、郵便局を利用したのは大学の受験料を払い込み、願書を郵送したときだ。私は私立を三校併願し、どこも一回の受験料は三万五千円だった。合計十万五千円を支払ったときも、大金だと感じたけれど、現実味のある金額だった。百万円を超えると、紙の束としか思えない。田舎の高校生には、途方もない金額だった。

     繁子先生の旦那さんがどんな用途で現金を必要としているのかは、私の想像の範疇を超えている。大人には色々な事情があり、子供にはわからない世界のことだと思っていた。

     先月、七百万円以上のお金を下ろしたときに、

    「こんな大金、宏志先生は一体何に使うんでしょうねえ」と、私は彼に言ったことがある。

    「大人の世界は複雑なのさ。誰でも秘密のひとつやふたつ抱えて生きている。子供にはわからない色んな事情があるんだよ」と、彼は含みのある返事をした。

    その通りだろう、と思った。徹さんが言うのだから間違いない。

    私の彼への信頼感は絶大だった。彼が私に正しくないことを言ったことがあるだろうか。彼は私にとって絶対の王様だった。完璧な男性だったと今でも思う。

     前回より長く待たされた。郵便局の窓口で、ちょっとこちらに来て頂けますかと、年配の男性局員に声を掛けられた。私に話があるという。

    もしかして局員の中に河合先生の知り合いがいて、私との関係を訊かれるのだろうか。金額の大きさは、先月に倍以上引き出せたのだから問題ないはずだ。理由に心当たりはないけれど、奥の部屋に呼ばれたので私は付いて行った。

    応接室のような部屋に通され、しばらく待つように言われた。お茶一つ出されない。随分ぞんざいな扱いを受けている気がしてならない。先程尋ねられた年齢のせいだろうか。郵便局にとって貯金の出し入れをする人間は、お客様のはずなのに、十代だからといって応対に差をつけるとは失礼だと思った。

     まさか、子供が取り引きできる金額の上限が決まっているのだろうか。その規則に抵触したのかもしれない。私の年齢を聞いたときに、局員の表情が一瞬強張ったのはそのせいだったのだろうか。

     
    この記事は有料です。記事を購読すると、続きをお読みいただけます。
    ニコニコポイントで購入

    続きを読みたい方は、ニコニコポイントで記事を購入できます。

    入会して購読

    この記事は過去記事の為、今入会しても読めません。ニコニコポイントでご購入下さい。

    コメントを書く
    コメントをするにはログインして下さい。