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【東方二次創作】首吊り峠の怪 その四
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【東方二次創作】首吊り峠の怪 その四

2016-02-21 23:56
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    東方二次創作注意
    独自設定・解釈・妄想などが含まれます
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    語り部

     この時代では子供と言えど一家にとっては大切な労働力でした。とはいえ私の住む宿場町は交通の要所ということもあってか利用する人間も多く、私の家を含めほとんどの家が安定した暮らしを送っていました。そのため忙しい時期でもない限りは遊び回っている子供たちの方が多かったくらいです。隙を見つけて遊ぶことにかけては子供たちの方が上手だったということもあるのかもしれません。
     この日も何か所かある遊び場をまわると五人の子供たちを集めることができました。女の子が三人に男の子が二人。狭い町の中、既に馴染みのある顔ぶれです。
    「何々? 何するの?」
    「新しいお話だって」
    「俺怖い話がいい!」
    「えー怖いのやだー」
     まだ娯楽の少なかったこの頃では語り部から聞く物語も大きな楽しみの一つでした。かく言う私も人から聞くお話が大好きで、よく旅人に声をかけては各地の伝承やおとぎ話を聞かせてもらっていました。そうして聞き集めた物語はやがて私の口から妹や他の子たちに語り広まっていきました。その内聞いた説話を自分なりに改変したり新しい物語を一から作るようにもなり、気付いた頃には私は子供内での語り部として話をねだられるようになっていました。
     自分で言うのも憚られるのですが私の作るお話はまずまずの人気がありました。聞き手の心を読みながらなので相手の好みに即した話作りができるのが強みでしょうか。
     今回集まった五人も新作のお披露目ということで楽しみにしているようです。場所は家々の間の細い路地。人通りはまるでなく本通りの喧騒が遠くに聞こえるばかりです。
     欲を言えば完全に無音な暗闇の中というのが一番でした。そこにろうそくの火でも一本灯せば文句なしです。もっともそんな環境を用意できるとも思っていないので、今あるもので出来ることをするしかありません。
    「それじゃあ、始めるね。これはとある一家に起きた物語――」
     私が口火を切ると子供たちは息を飲んで話に聞き入りました。入り混じる期待と不安に心が揺れているのがわかります。以前に楽しげな前口上から怪談話に移行したことがあるのでいささか警戒されているようです。
     心の在り様というものは色に例えることができます。怒りを赤、悲しみを青、喜びを黄色という具合に想像すればわかりやすいでしょうか。これらの色が複雑に混ざり合ったものが一人の人間の心です。通常心の色模様は多様な感情が合わさって別の色になったり、独立して斑になったりと常に定まることがありません。物語を聞く子供たちの心も私の語り口や周囲の音、風の感触など様々な刺激によって絶えず色を変え続けています。
     そうして揺らぐ心の色に私は少しずつ介入していきました。声色を高くしたり低くしたり、声量を大きくしたり小さくしたり、話す速度を早くしたり遅くしたり、身ぶり手ぶりを加えたり、何かで音を立てたり。心の変化を探りながら気付かれないように余計な色を消していきます。余分な色が無くなり心が一色に染め上がると物語に聞き入っている状態です。もはや周りの雑音など彼らの耳に入っていないでしょう。
     そこから今度は心の色を薄めにかかります。話し口の中に無意味な間や関係ない言葉を織り交ぜて没頭した意識を切り離すのです。五人同時というのは今まで試したことがありませんでしたが、物語の佳境に入る頃には何とか全員分の意識を薄めることができました。失敗したら改めて個別にかけるつもりだったので手間が省けて助かりました。
     目の前にいるの五人は理性や常識を失い無防備な心をさらけ出していました。ぼんやりとした目は光を失くし、どこを見ているのか焦点も合っていません。今の彼らならどんなほら話でも頭から信じ込んでしまうでしょう。やろうと思えば意のままに操ることだって可能です。
     もちろん私はそんなことはしません。今やったところでそれほど利点がないからです。それよりもすべきことは彼らに新しい価値観を植え付けることでした。
    「このお話に出てきた母親は不倫をしていました」
    「不倫……」
    「それはとても悪いことです。とても汚らわしいことです」
    「悪いこと……汚らわしい……」
    「そんな人を許してはいけません。不倫を許してはいけません」
    「許してはいけない……」
     とりあえずはこんなところでしょうか。あまり堅牢に仕立て上げてもいけません。元の認識とぶつかって不具合を起こされても困ります。今のところは姦淫に嫌悪感を抱く程度に留めておけば十分だろうと判断しました。
    「――というお話でした。はい、おしまい」
     締めの言葉と一緒に大きく手を叩くと子供たちの瞳に光が戻りました。束の間は寝起きのような顔で意識にも靄がかかって見えましたがそれも数秒のことでした。すぐに目を覚ますと堰を切ったように次から次へ感想を述べ始めました。
    「おもしろかったー! すごくハラハラしちゃった!」
    「えー? 俺はもっと悪い奴やっつけるのがよかった」
    「悪い奴いたじゃん。あのお母さん」
    「あのお母さんひどいよね! 私嫌い!」
    「お父さん可哀そうだったよねー」
     物語の中の母親に対して皆口々に怒りの言葉を並べ立てています。刷り込みの成果は概ね良好と言えるでしょう。できれば個人ではなく行為そのものに反感を抱いてほしかったところですが、子供心には実体を持った相手の方がわかりやすかったようです。糾弾に燃える彼らの思念は正義に浸り、その感情が他人に用意されたものだとはつゆとも思っていませんでした。
    「それじゃあ私はもう行くね。また新しい話ができたら聞いてくれると嬉しいわ」
    「うん、次も楽しみにしてる」
    「今度は怖い話にしてよ」
    「怖いのはやだってば」
    「こいつの怪談、ほんと夢に出るくらい怖いんだぞ……」
     まず一つ、やるべきことが終わりました。
     この街にいる子供の数はそれほど多くありません。あと数人も引きこめば一つの多数派を作り上げることができます。これで今後妹の行いが広まったとしても、あの子が悪く言われることはないでしょう。
     悪いのは不倫をする人間なのですから。

     子供たちと別れ通りを歩いていると向こうから行商人が歩いてきました。近く市をする予定もないので売り歩いた帰りのようです。話しかけてみると案の定、麓の里を経由して自分の村に帰る途中とのことでした。ちょうどいいので私はこの方に手紙を託すことにしました。
     この当時紙はまだ貴重品で庶民の手が届くものではありませんでした。そこで私は手ごろな布の切れ端に墨を走らせ、字が消えないように折りたたんだものを男性に手渡しました。
     男性は気さくな方で子供である私の申し出を快く引き受けてくださいました。心を読む限り嘘をついている様子は見られません。予期せぬ事故にでも遭わない限りは約束を守っていただけそうです。それでも念のためこの方の心にも手を加えさせていただきました。文は必ず届けるよう刷り込ませ、ついでに私のことは忘れてもらいました。これで万全とまでは行きませんが、届けられる確率はいくらか上がったことでしょう。
     次に私は風説の流布に取り掛かりました。今のままではことが明るみになった際、一人事実を知っていた妹を母のように勘ぐる方が出てくるかもしれません。そうならないためにも件の母親の不実は誰もが知る公然の秘密にする必要がありました。
     話を広めるのは噂好きの主婦に任せるのが一番です。この時発信元になる人間が属している派閥や立ち位置を把握しておくとより効率的に広げることができます。今回のような下世話な話は特に好まれるものなので、殊更に脚色をする必要はありませんでした。過去に何度か試した経験からして、この街の中だけなら五日もすれば充分知れ渡るとものと思われます。
     これで一先ず打てる手は打ち終わりました。後は経過を見ながら対処していけばいいでしょう。結果的にあの母子の秘密を暴き、矢面に立たせてしまったことは心の底から申し訳なく思います。けれど彼女達には犠牲になってもらう必要がありました。
     物語には悪役というものがつきものだからです。


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