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【東方二次創作】首吊り峠の怪 その終
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【東方二次創作】首吊り峠の怪 その終

2016-02-22 00:52
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東方二次創作注意
独自設定・解釈・妄想などが含まれます
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首吊り峠の怪

 あれから一週間ほどで私の住む宿場町は大きく様変わりしました。有体に言うならば全住民が町を捨て、他の土地へ移り住みました。中には家財もそのままに着の身着のままで逃げ出した方もいたようです。
 私はというと変わらず生家に住み続けていました。家という家が空き家なのでどこを使っても咎められることはありませんが、やはり住み慣れた我が家が一番落ち着くものです。
 父母の死体はまだ住人が残っている内に手ごろな人を捕まえて片付けさせました。埋葬先は色々と考えて日当たりのよい庭の一角に決めました。せめて生前暮らした土の下で眠ってもらおうという想いもありましたし、単純に後々の手入れを楽にするためでもありました。これまた人に頼んで穴を掘ってもらい、二人並べて土をかぶせました。墓石代わりに適当な石を置いただけでも存外様になったように思います。
 結局両親は最後までお互いが抱えた秘密を知ることがありませんでした。父が一人苦悩したのも、母があのような凶行に走ったのも全ては私から血脈を辿り自身の血が暴かれるのを恐れた故のことでした。愛する者から素生を隠し通した二人の想いは果たして報われたと言えるのでしょうか。私にはわかりません。とりあえずどちらの怨念も見ていないことからして、少なくとも成仏はしてくれたようです。
 両親の墓前には絶やさぬように花を手向け、いつしか数年の月日が経ちました。人の住まない空き家はすぐに荒れていくもので、多くの家々に痛みが目立ち始めました。またこの頃になると町人が逃げ出した曰くも各所に広まっていたようです。寂れ果てた宿場など好んで利用されることもなく、峠を越える人も気味悪がり足早に通り抜けていきました。そんな人たちもある年の大風で峠道が崩れ、麓に新しい街道が作られると全く見なくなりました。
 峠を渡る足が途絶えてからも時折訪ねてくる者はいました。道に迷っただけの遭難者もいましたが、そのほとんどは野盗や流れてきた山の民、妖怪の一団など新たな根城を求める方たちばかりでした。そういった方々は私を見つけるなり皆一様に暴力的な対応をされるので、私としても追い返さざるをえませんでした。
 ある時、お帰りいただいた山賊の心を読んでここが首吊り峠と呼ばれていることを知りました。噂によると恐ろしい化け物の呪いで一夜にして全住民が首を括って死んだということにされているそうです。恐らく父の死体を下ろすのに使った人の話が混ざったものと思われます。その風説に則るならば私は差し詰め首吊り峠の怪とでもいったところでしょうか。人でなくなった身にはお似合いの呼び名かもしれません。
 あの日以来私は空腹を覚えることが無くなりました。習慣で食事を摂ってはいるものの、数日抜いてみてもどうということもありませんでした。年齢的な成長も止まり、背が伸びたり老けるといったことがなくなりました。爪や髪が伸びるところを見るに、どうやら自分で知覚できないような小さな変化は身体に反映されなくなったようです。
 あの日、第三の目が実体を持った瞬間に私は妖怪として完成したのだと思います。それまでの人の身を捨て、私はただの覚妖怪に生まれ変わりました。それを悲しむべきか喜ぶべきかというのはどうでもいいというのが正直な感想でした。
 妖になったことで私の持つ読心の力も格段に強くなりました。山の動物や麓に降りて人間の心を読む度にその鮮明さを実感しました。おかげで心を御する術も随分と手軽にできるようになりました。もっとも実際に意識を操ることはせず、私は専ら相手の記憶を呼び覚ますために使っていました。
 理性を外した想起から私はその人の知識と経験だけでなく、人格を形作る思想や価値観まで取り込むことができました。それは妖として生まれて間もない私にとって何より有用な情報でした。
 もしくはそんな理由を建前に私は自分の記憶を上書きしたかったのかもしれません。あの地獄のような光景を少しでも薄めるために他人の記憶に縋りついたのかもしれません。もちろんそんな自分勝手な願いは叶うはずもありません。私に根付いたあの日の記憶は消えることなく毎夜悪夢となって私を苛みました。

 妖怪として目覚めてから十年程過ぎた頃、周りで物騒な話を目にするようになりました。何でも妖怪が徒党を組んで月を攻撃するのだそうです。以前から剣呑な雰囲気のあった一帯は見る間にこの噂で持ち切りになっていました。その広まり方には薄々と意図的な気配を感じていましたが、見て見ぬふりを通しました。
 一度だけどこかの妖怪に声をかけられたことがありました。その方自体もそれほど力のある妖怪ではなかったため誰彼構わず仲間を集めていたそうです。私を誘ったのも目についたからついでにと言った具合で、私が何の妖怪かもよくわかっていないようでした。
 せっかくのお誘いではありましたが、あいにくと厄介事に関わる気は毛頭ありません。向こうにしても私が加わったところで士気が下がるだけでしょう。その場で丁重にお断りさせていただきました。けれど相手方はそれが気に入らなかったらしく、名を上げる機会をみすみす棒に振るのかと言い募ってきました。
「妹がいるのでここを離れるわけにはまいりません」
 と私は答えました。
 それを聞いた相手は私を腑抜けと評し不機嫌に帰っていきました。私の言葉を誘いを断るための作り話と判断したのです。それならそれで構わないかと、私は黙って見送りました。
 けれど妹がいるのは本当のことでした。目には見えず心は読めなくても妹の存在は確かにここにありました。父母の墓前に私のものでない花が供えてあったり、閉めたはずの戸が開けられていたり、作った食事が知らずに減っていたり、片付けた部屋が散らかっていたり、生活の中の端々に妹の痕跡が見受けられました。
 心を閉ざし誰にも気づかれなくなった妹を私は感じることができました。それが姉妹の繋がりの賜物か覚の力のおかげかは些事にすぎません。
 私にとって何より大切なのはあの子が側にいるということでした。
 私は今度こそあの子を守りたいのです。
 例えこの目で見えなくても、想いが届かなくても、私にその資格が無かったとしても。
 かつての失態を機に私は自分の身の程を知りました。他人の心を見透かして知った風な気になっていても、私はその実ただ卑小なだけの小物でしかありませんでした。驕った私は小賢しくも策を練り、その挙句自らの策に溺れました。私のせいで大勢の人が傷つき、父母が死に、そして妹が心を閉ざしました。
 何をなそうとしたところで私はどうせ仕損じます。私の思い描いた筋書きなど破綻しないはずがありません。
 だから私はあらゆる結末に備えることにしました。思いつく限りの懸念に手を打って、その全てが外れることさえ想定しました。ただひたすらに自分を疑い、あらゆる罠を張り巡らしました。
 私はまたそうして多くの方を苦しめるのでしょう。恨みも嫌悪も恐怖も侮蔑もあらゆる敵意を背負うことになるでしょう。それが外道に通じるならば私は進んで泥をかぶります。
 けれど妹は救われなければなりません。私がどうなろうとあの子は幸せにならなければいけません。罪を犯したのが私なら罰を受けるのも私です。被害者であるあの子がこれ以上苦しむ謂れなどどこにもありはしないのです。
 あの子は悪くありません。
 あの子はおかしくありません。
 あの子は間違っていません。
 あの子はしくじっていません。
 あの子は愚かしくありません。
 あの子は狂っていません。
 あの子は壊れていません。
 あの子は歪んでいません。
 あの子は病んでいません。
 あの子は汚れていません。
 悪いのは、おかしいのは、間違っているのは、しくじったのは、愚かしいのは、狂っているのは、壊れているのは、歪んでいるのは、病んでいるのは、汚れているのは。

 この物語の悪役は他ならぬこの私なのです。


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他5件のコメントを表示
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あっという間に読み終わってしまいました。ガガンボさんの心理描写がとても好きです。大変面白かったです!
67ヶ月前
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猜疑心とか、いろいろ。ダークな心理描写が生々しいですね。
小野不由美さんのホラー小説を思い出しました。
次の物語は、だあれ?
67ヶ月前
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これから月面戦争があり、地霊殿の主になったんですね
やはりストーリーが良いですが、ギャグも見たいですね
67ヶ月前
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怖いと言うのもあるかもしれませんが、それよりも、実に悲しい話でした。
そして動画のあのエピソードに、こいしが登場しない理由もよく判りました。
ガガンボさんのストーリーの作り方は、やっぱりすごいです。
67ヶ月前
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全体的に読み易くまとまっており、楽しめました。
地の文が一人称なのに他人の心情も正確に描写できるという点が、さとりならではの面白いところなのかな~と、読んでいて思いました。
過去作と整合性のとれたストーリーにも感心しました。
こいしがたまにでも姿を現すに至った過程が気になります。心を閉ざしたことで辛い記憶を忘れたのか、はたまたさとりの真意を理解し納得したのか・・・。

読みづらい感想でした。
今後も何某かの活動を楽しみにしております!
67ヶ月前
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何で今までここのSSに気が付かなかったし俺・・・
ここ読んだ後に地霊殿動画見ると味わいが増しますね。
ギャグ要素だと思ってた寝たがらないところとか自分を信じてない発言やらが、重み深みのある描写に見えてきて凄く良い。
64ヶ月前
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やはりガガンボさんのさとり様は最高ですな・・・
ところで過去作品の再販はなさるのですか?
地霊殿物を買いたいのですがどこも品切れで・・・
61ヶ月前
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ガガンボさんのブロマガにこんなに引き込まれる読み物があったなんて知りませんでした。キノコの記事を遡っていて思わぬ拾い物をして嬉しい限りです。

>>10
心を閉ざしたからなのか、両親の墓に花を供え続けるさとりの姿を見て察したのか。こいしのキャラクターが以前よりグッと深く見えますね・・・!
53ヶ月前
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絶対に自分を信じず、常に休むことなく後悔し続け、全ては失敗すると確信し、なおも備え続ける…
妖怪でなければできないこと、そうし続けることはさらに深く妖怪と成る道そのもの。
ガガンボさんのさとりの徹底・絶対の起源のお話、身震いしつつ読ませていただきました。
こうありつづける事がそれでもさとりの唯一の安寧なのだと、信じようと思います。
53ヶ月前
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長文失礼いたします。
今作、大変楽しく読ませて頂きました。
ガガンボさんの作品はどれも楽しく拝見させていただいております。
その度、どうしたらこんな風に物語を創造ないし想像することができるのだろうと、考えることがありました。
作中の人の、心を深く数多く取り込むことで、物語を作る糧としたさとりと、
人の心情・利害までもを色濃く描く、深く構成された物語を描くガガンボさんが、どこか重なりました。
先の疑問に勝手に得心いった思いです(笑)
これからもコミカルなのにどこか薄気味悪い作品を期待しております。
すばらしい作品をありがとうございました。
52ヶ月前
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