とんこつラーメン
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とんこつラーメン

2014-02-13 03:11

     浮かんだ油がキラキラと光を反射している。見るものの食欲に大きな揺さぶりを掛けてくる。
     立ち上る湯気に乗せられた、ネギとチャーシュの香ばしい香りが、鼻腔から伝わり脳を刺激、さらに食欲をかきたてる。
     これは、拷問だろうか?
     目の前に置かれた、トンコツラーメンが「さあ食べてくれ!」と言わんばかりの魅力を醸し出している。
     胃袋は限界が近いのか、大きな悲鳴を上げている。ここが学校のクラスなら、隣の席のクラスメイトだけでなく、周囲の全員にまで聞こえるのではないかという大きさだ。
     ゴクリと、喉を鳴らして生唾を飲み込む。しかし、目の前のどんぶりの中身を食べることは出来ないのだ。勢いをつけて視線を下に落とした。
     ダイエットを初めて三日目。
     夜食間食を徹底的に断絶している今、こんな深夜の時間帯にとんこつラーメンを口にするなど、自殺行為もいいところである。
     しかし、落とした視線の先には割りばしが置かれており、思う存分麺を啜って下せえ!と語りかけられているような気もする。しかし、耳を傾けてはいけない。ぶんぶんと首を横にして、耐える。
     割りばしの横には蓮華もあった。さあこの黄金のとんこつスープを気の済むまで飲み干してくだせえ!という幻聴さえも聞こえてくる。しかし、決して、決して屈してはいけないのだ。量の頬を二回ほど叩き、幻聴を追い払う。小気味の良い音と痛みが、意識を現実に引き戻してくれる。

     しかし、人間の我慢とは、そう長くはもたないものである。

     目の前のとんこつラーメンから、もう、目を背けることができないのだ。
     黄金のスープ。油が輝き、湯気が濃密なその匂いを伝える。食べたい。
     肉厚のチャーシュー。噛めば肉汁が口の中で広がり、たまらず舌鼓を打つだろう。食べたい。
     しなやかな麺。コシと弾力。噛み応えが見るだけでわかる。喉ごしなんて想像しただけで、ああ、食べたい!
     適量に振られたネギ。鮮やかな唯一の緑色。色彩のコントラストが絶妙である。ああ、食べたい!!

     唇の端から涎が垂れ始めていた。手首で拭うが、すぐにまた滲みでてくる。拭っても拭っても分泌は止まらない。
     目の前におかれているのは、ただの美味しそうなとんこつラーメンだ。しかし、その魅力は桁違いである。視界が歪み、頭がぐらぐらと地震もないのに揺れているのである。

     右に視線を逸らせばそこには胡椒が置かれていた。すこし振りかけるとさら風味、苦みがまして味覚を刺激する。適量をふりかけて、食べたい!

     ずるるっ、と後ろで麺を啜る音がした。振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべ麺を啜りスープをゴクゴクと飲んでいる人の姿があった。

     視覚、嗅覚、想像上の味覚。その全てに抗い、我慢を続けていたが。

     聴覚からの攻撃により、堤防は決壊した。

     右手を光速で繰り出し、胡椒の瓶を掴むと、どんぶりの中央に2、3回振りかける。
     そして瓶を瞬時に戻し、今度は割りばしをその手で掴んだ。勢いよく、割った。真ん中から綺麗に二つに分かたれた割りばし。良いことがありそうだった。
     それを、一気にどんぶりの中に突き刺す。そして、掴む。しなやかな麺を。スープ飛び散らせながら、持ち上げる。そして……口の中に。割りばしを引き抜いて咀嚼、咀嚼、咀嚼。

     ああ、うまい。予想以上の美味。天にも昇る味わいである。幸せ。

     次に蓮華を掴み、スープを掬う。引きあげ、口の中へ。舌の上で泳がせ、飲み込む。

     ああ、うまい。予想以上の美味。脳内に花畑が広がる。幸せ。

     そして、チャーシュー。蓮華から割りばしに持ち替え、一揆に距離を詰める。掴んだ。引き上げる。そして口の中へ放り込む。咀嚼。染みたスープとチャーシューそのものの肉汁が口の中いっぱいに広がる。

     ああ、うまい。予想以上の美味。三途の川が見えてきた、おじいちゃんが手を振っている。

     もう一度麺を掴む、今度はネギを乗せて。口の中へ。咀嚼、咀嚼、咀嚼。

     ああ、うまい。おじいちゃんとんこつラーメンおいしいよ。幸せだよぉぉぉぉぉ!!


     のち、5分で間食。
     このときを持って、ダイエット終了。
     明日は味噌ラーメンかな。

     おしまい。


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