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サエズリ双月譚
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サエズリ双月譚

2014-05-20 20:00

    太陽を追っていた──


    ──ボクにとっての太陽を。


     キミを知ったのが何時だったのか、ボクはもう覚えていない。

     そんな考えが浮かんだ頃には、キミはもうボクにとって当たり前の存在になっていた。

     居ないことがおかしい、居るのがあたりまえ、という感覚はおそらく誰にとっても理解できるものだと思う。

     それが存在しない日常など、ありえない。

     そういった感覚に浸っていたボクにとって、そうでなくなるというのは受け入れがたいことだった


     何気なく語るキミの事に、キミの名前に、いつものように星一つと通知音。

     何を気に入ったのかもわからない。

     あるいは別の理由かもしれないけれど、キミは欠かさず星を穿つ。

     気づいた時には日常〈いつも〉の事になっていて、それを気に留めることもせず、それに理由があると考えすらしなかった。

     刻まれた星は、君を中心に散ってゆく。

     キミを知る人達の時の流れに散らばるそれは、一体どこまで巡ってゆくのか。


     ボクにとっての日常のように、それがキミにとっての日常なのだろう。

     そう、思っていた。


     *   *   *


    「つまり、死の概念には二通りの解釈があると考えられる。一つは生者の死。もう一つは忘却と──」

     つまらない講義の合間に、手元の端末から時の流れを追い続ける。

     めまぐるしく流れていく言葉の中に、キミのことが一つ、それを追うように星が一つ。

     そして星がキミを中心に散るまでがキミを見るボクの日常。

     ボクが知るキミの日常だった。

     いつもと変わることなく繰り返される事の中に、それは混じっていた。


     言葉と共に添えられた自撮り写真の片隅、白い服の袖から覗く、ほんの僅かな違和感。


     講義なんて聞こえない。

     耳から入る雑音の処理をボクの脳は放棄した。

     拡大された写真、それでも足りず顔を近づける。

     荒くなった画素の向こうに、微かに映る赤と黒。

     それが傷跡だと理解して、血の赤色だと理解して、巷で話題になっている病のことを思い出した。

     赤黒い斑の呼ぶ結末を。


     それは──あとどれぐらいでキミを蝕み終えるのか。


     それにずっと気を取られて、気づけば講義は終わっていた。

     時の流れだけが過ぎ去った時間を淡々と刻んでいる。

     無常にも、時の流れがキミを押し流してゆくかのように。

     キミのつぶやきはもう、遥か彼方のものとなっていた。

     ふと浮かぶ思考。

     行動するには目的があり、目的があるから行動するという人間の普遍のロジック。

     であるのなら──


     キミが星を刻む理由、消えない記録を作る理由は、つまりそういうことなのか……?

     それは、キミの生存を証明するためのものだから?


     *   *   *


    ──十四

     キミの行動は変わらない。

    ──十三

     増え続けるキミの星。

    ──十二

    ──十一

     それが声なき叫びなのか。

    ──十

    ──九

    ──八

     絶望から逃れる術なのか。

    ──七

     あるいは麻痺した日常なのか。

    ──六

     生きるための行為なのか。

    ──五

     ボクたちの流す言葉に──

    ──四

     星を──

    ──三

     証を──

    ──ニ

     世界〈デジタル〉が継続する限り残る証を──

    ──一

     刻み、拡散し──そして。


     *   *   *


     キミの習性が途絶えた日。

     キミの終生が途絶えた日。

     消えゆくキミの存在を、キミの存在が当然であったボクが受け入れられる訳がない。


     どうすればいい?

     どうなればいい?

     どうあればいい?

     

     ボクの思考は今までの生で得たすべての知識と記録を検索し、そうして一つの可能性へと帰結した。


    ──死の概念というものは二通り解釈が──


    そうだ──


     生命の停止がひとつの死であるのと同じように、記憶と記録の消滅がひとつの死の概念であるのなら──




     キミを継続しよう。




     ボクはキミを知っている、ボクが知っているキミを知っている、キミの習性を知っている、キミの記録を知っている。

     記録の中に、もう一人のキミが居る。

     キミが連ねた星の中に、もう一人のキミが居る。


     キミの存在を継承するべく。

     キミの記録を続行しよう。

     キミを存続させるべく。

     キミを持続させるため。

     キミを踏襲し続投し、維持し継続しつづけよう。


     ボクはキミを続けよう。

     キミが終わるなんて──認めない。

     ボクがキミを継続する限り、ここにもう一人のキミが居る。


     *   *   *


     キミを呼ぶ声に星を穿ち、それを拡散しよう。

     継続された習性は、変わることなく続行される。

     キミと同じ事をしよう、キミが記録してきたことを、ボクが同じく記録しつづけよう。


     ここで生きていたという記録を残そう。

     ここで生きていたという記憶を残そう。

     積み上げられていくのはただの痕跡で、そんなことはわかっていてもなお止まらない、止まれない。

     継続する以外の方法などありはしないのだから──。

     そうしなければ、キミが失われてしまう。


     それをいくら続けても──

     

     内なる声に耳をふさぎ、望み続けて、すがり続けて、ボクは"キミ"を続ける。


     *   *   *


     キミを継続し続けたボクに訪れた──赤黒い斑のそれ。


     キミを継承したためのものだったかもしれない。

     あるいはそれは咎なのか。

     あるいはそれは運命〈サダメ〉なのか。


     腕に現れたそれに爪を立て──掻き毟る。

     ──同じように?


     赤が溢れる。

     ──同じように。


     キミと同じ病に至る。

     キミと同じ結末に至る。

     キミに──至る。


    ──十四

     ボクの行動は変わらない。

    ──十三

     増え続ける記録の星々。

    ──十二

    ──十一

     それはボクの意思だから。

    ──十

    ──九

    ──八

     残された唯一の望み。

    ──七

     ボクとキミをつなぐ日常。

    ──六

     キミに至るための行為だから。

    ──五

     流れてくる言葉に──

    ──四

     星を──

    ──三

     証を──

    ──ニ

     世界〈デジタル〉が継続する限り残るキミを──

    ──一

     穿ち、拡散し──そして。




     薄れていく意識の中で、赤く滲んでゆく視界。

     キミの世界も最後はこんなだったのかい?

     刹那、流れてゆく言葉と共に聞こえてきた、耳に焼き付いた愛しい音。


     通知欄に現れた、あの日と変わらぬキミの姿。


     何事もなかったかのように刻まれる星。

     拡散されてゆく言葉。


     君はいったい誰なんだ──


     ──ボクは一体何をした?


     その答えに浮かぶ疑問は、瞬く間にボクの思考を塗りつぶした。


     ねぇ、ボクが追ったキミは──


     本当に、太陽だったのかい?







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    こちらの作品は親方Pさん作の「サエズリ双月譚」を元にした小説となります。
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