ノンシュガー漂流記に見る福田脚本の妙
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ノンシュガー漂流記に見る福田脚本の妙

2019-12-08 00:24
    (C) T-ARTS / syn Sophia / テレビ東京 / PP3製作委員会

    この記事は #プリッカソン Advent Calendar 2019 の8日目の記事です。
    (本記事はTVアニメ「プリパラ」視聴済であることを前提としています。まだ見てない人は面白いからみて)

    はじめに

    プリティシリーズの特徴の一つに、各話脚本家への注目度が高いことが挙げられます。
    それぞれの書く脚本に、それだけ特徴があるということでしょう。

    そんな個性豊かな脚本陣の一人として、福田裕子さんが挙げられます。
    福田さんの手掛ける脚本はバラエティーに富んでおり、担当回には高い人気を誇るエピソードもたくさんあります。

    福田脚本と言えば…?

    ところで、福田脚本と聞いて、あなたはどんなイメージが浮かびますか?
    (この記事を読まれる方はかなり詳しい方とお見受けします)

    1. シルクちゃんのような謎キャラ、マスコットのフレンチカンカンのように突然言及される要素(その後のフォローがないことも多々)
    2. ソラミ結成回のような締めるところはちゃんと締める脚本家の鑑
    3. まりあ転入回のような濃厚脚本

    人それぞれかとは思いますが、1.のようなシュール、カオスなイメージを持たれている方が多いのではないでしょうか。
    それもまた事実とは思いますが、今回は、3.の濃厚脚本要素に着目してみたいと思います。

    福田流濃厚圧縮脚本

    福田脚本の特徴の一つに、話の密度が恐ろしく濃いことが挙げられます。
    上の例で挙げたまりあ転入回のように、Aパートでまりあ転入からかわいい向上委員会の解散までやってのける手腕は尋常ではありません。
    この圧縮脚本の要素が一番わかりやすいと個人的に思っているのが「ノンシュガー漂流記」(のアバンタイトル)です。
    ということで、記事のタイトルにやや詐欺感もありますが、今回はこのアバンタイトル部分を詳細に見てみたいと思います。

    ノンシュガー漂流記(のアバンタイトル)を詳しく見てみよう!

    アバンタイトル。つまり、タイトルコールまでの描写、導入部分です。
    一話完結ものの作品において、アバンタイトルでいかにスタートラインに立たせるかはかなり重要なポイントです。
    最低限やるべきことは三つ。
    • その話における目標を登場人物および視聴者に提示する
    • 登場人物に動機を与える
    • 実際にその場に立たせる(向かわせる)
    「ノンシュガー漂流記」で言えばノンシュガー三人が無人島に到着するまで。
    その後の展開を考えるとその話に出てくる登場人物の紹介や、そもそもプリパラに海はなかった気がするので、その辺の整合性もとっておきたいところです。

    実際に話を見る前に、自分ならどう描くか、実際に脚本を書いて(あるいは頭の中で妄想して)みてください。

    (以下妄想…読み飛ばしOK)
    のんもちりも頭がよいので、怪しい無人島に行きそうにない…。
    そもそもちりに至っては二人と一緒に組む動機すら怪しい。
    のんはチームを組みたいという意思を持っているので、これはうまく利用できるかもしれません。のんが合宿を思い立って二人を誘うとか…。
    旅行ということならちりもついてきそうですし、向かう途中で事故が起こって遭難、とかは漂流記の導入の定番じゃないですかね。
    旅行の計画→旅行誘う→船か飛行機で旅立ち→途中で遭難、でAパート丸々使えばいけそうかな?
    どうでしょうか。いざ自分でやってみるとなかなか難しいものです。
    できたという方も、話の長さはそれなりにあるんじゃないでしょうか。

    さて、我らが福田さんがそこにかけた時間は…。


    1分50秒。


    なんと、1分50秒でそのすべてを成し遂げてます!無人島に到達するだけなら1分30秒です。

    これはもう無人島到達RTA世界記録と言ってもいいんじゃないでしょうか。
    実際に、文字に起こしてみます。

    No時間内容
    010:00-0:10のん「ウサチャの覚悟に負けないように、私もノンシュガーのために何かしないと」
    020:11-0:15チラシが空から降ってくる
    03
    0:16-0:31のん、チラシの内容を読み上げる。のん「何これ、恒例…?」
    040:32-0:37後ろで参加を決めるソラミスマイル
    05
    0:38-0:42のん「こっちだって負けないんだからー!」
    060:43-0:48背景描写(プリパラに海があった!)
    070:49-0:55大神田校長の開会宣言
    080:56-1:02
    めが姉ぇのダンス
    091:03-1:06
    らぁら「プリパラに海なんてあったんだ」そふぃ「あったよ」
    101:07-1:13
    校長の説明と並行して参加メンバーの描写
    111:14-1:22
    のん「ノンシュガーも参加しまーす」ペッパー「無人島、うまい?うまい?」ちり「私、お花を活ける時間が!」
    121:23-1:29
    舞台が落ち、皆海に放り込まれる
    131:30-1:37
    背景描写(無人島)
    141:38-1:40
    無人島に流れついたイカダの描写
    151:41-1:46
    真っ白になったちり、呆然とするのん
    161:47-1:50
    のん「えー!?」

    この短い時間に、なんと16カットも詰め込まれています。
    可能であれば映像を見返してみてください。



    どうでしょう。いきなり無人島!という強引さは否定しようもありませんが、キャラクターの動きとして不自然な様子は感じられません。
    むしろこれこそプリパラだよな、という感覚すら覚えます。

    となると、このわずか1分50秒の中には、様々な配慮や技が駆使されているはずです。
    ひとつひとつ立ち止まって、詳細に見てみましょう。

    細かく分解、やってみた!


    01 のん「ウサチャの覚悟に負けないように、私もノンシュガーのために何かしないと」
    まずはこの一言で、のんの動機を視聴者に提示しています。前回見逃し女児も安心。

    02 チラシが空から降ってくる

    わずか4秒で情報を与える力業。ヘリでばらまくことで全員に同時に情報を与えていることがポイントです。

    03 のん、チラシの内容を読み上げる。のん「何これ、恒例…?」
    のんに読み上げさせることで、視聴者への説明も兼ねています。
    「恒例プリパラジム主催、アイドル無人島サバイバルグロ。
     生き残ったチームには神アイドルグランプリで有利になる最高至高のプレゼントがあるグロ」
    神アイドルグランプリで有利になるプレゼントがある、と報酬も提示しているものの怪しさしかありません。
    当然のんは「何これ」と警戒します。ポイントはその後の「恒例…?」。
    プリパラジム、無人島サバイバル、最高至高のプレゼントなど、怪しい項目はたくさんあり、恒例かどうかは重要ではないはずです。
    しかしここで、あえてのんに「恒例」に着目させることで、他の怪しいポイントから視聴者の目もそらしています。巧みな小技です。
    無人島サバイバルやプレゼントに疑問を持たれると、その解消が大変になりますからね…。

    04 後ろで参加を決めるソラミスマイル
    そんなのんの後ろで、ソラミは楽しそうに参加を決めます。

    05 のん「こっちだって負けないんだからー!」
    冷静で頭の良いのんとはいえ、対お姉ちゃんとあっては穏やかにはいられません。
    怪しさは忘れて、このイベントへの参加を決めます!
      
    この04、05のシーンこそ、圧縮脚本の神髄です。
    まず、ヘリで同時に情報を与えたことでこの描写を可能にしています。また、のんはソラミの会話を後ろで耳にしただけで、らぁらとは直接会話をしていません。これにより会話にかかる時間をすべて削りながらも「姉への対抗意識から怪しさに目をつぶって参加を決める」流れを自然に実現しています。
    らぁらたちがこのイベントに疑問を持たないのはかつてグロササイズを経験したからで(これは視聴者も知っている情報)、過去の資産をうまく活用しています。
    ここの「負けないんだからー!」のんちゃんかわいい。

    08 めが姉ぇのダンス
    ここは完全に遊び要素です。技巧を凝らして捻出した時間に謎要素をぶち込むプリパラすき。

    09 らぁら「プリパラに海なんてあったんだ」そふぃ「あったよ」
    今まで存在を見せなかった高等部が存在していたり小学六年生が続いたりといった突っ込みポイントを「実はそうなのだ」とギャグにすることで押し通す演出がプリパラには多々存在しており、これもその一つです。
    この力業こそ、プリパラの強みと言えるでしょう。
      
    10 校長の説明と並行して参加メンバーの描写
    アバン以降の話なので今回は関係ないですが、サバイバルの参加者を視聴者向けに描写しています。まあいつもの面々ではありますが。

    11 のん「ノンシュガーも参加しまーす」ペッパー「無人島、うまい?うまい?」ちり「私、お花を活ける時間が!」
    ちりとペッパーはここで登場。それぞれの一言のセリフだけで、ペッパーはよくわかっていないこと、ちりは参加するつもりはないこと(=チームがバラバラなこと)を描写しています。

    12 舞台が落ち、皆海に放り込まれる
    ペッパーはともかく、今のちりを無人島に向かわせるとなると説得に相当な時間がかかることは容易に想像がつきます。
    ではどうすれば?答えは簡単、問答無用に海に放り込んでしまえばいいのです!

    14 無人島に流れついたイカダの描写
    浜辺にイカダがついている描写はベタですが、ここにたどり着いたことを示しています。漂流記ですからね!

    15 真っ白になったちり、呆然とするのん
    ペッパーがいないことがポイントです。この後にむけての描写も卒なくこなしてます。

    16 のん「えー!?」
    のんに「えーっ!?」と叫ばせることでこっちも強引だって分かってるんだよ、というエクスキューズで締め。



    こうして細かく見てみると、めが姉ぇのダンスを除いて無駄な要素はまったく存在していません。
    ちりが納得しないまま無人島に到達しているのはそれがこの後の話のキーになるからで、もしそうでないなら何かしら理由はつけていたことでしょう。
    総じて、動機はしっかり描いている一方、手段や過程はバッサリ省略していることがよくわかります。
    (これが逆だと冗長に感じたり、人物がなぜそう動くのか分からず視聴者は混乱したりします)

    おわりに

    創作において難しいことは、何を描写すべきかより何を描写しないかです。
    説明したいことは山ほどあり、全部を説明すると時間がいくらあっても足りませんし展開も冗長になります。
    そして脚本家はすべてを知っているので、そこから何を削っても視聴者に問題なく伝わるのか、なかなか客観的に見ることができません。
    福田さんの脚本は、この描写と省略の使い分けが実に巧みです。
    この緩急自在な構成こそが、福田脚本の妙と言えるのではないでしょうか。

    最初にあげたまりあ転入回にも、テクニックがぎっしり詰まっているはずです。
    そのシーンで何を語ろうとしているのか、そんなことを考えながら見てみると、また新しい発見があるかもしれません。

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