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むしマガ Vol.33【乾燥クマムシは記憶を保持できるか】
2012-07-08 16:30220ptこんにちは。さきほどJAPAN EXPOからクマムシさんとともに帰って参りました。クマムシさん at JAPAN EXPO JAPAN EXPOのレポートについては明日詳しく書きたいと思いますが、とりあえずはクマムシさんが国境を越えて人々からKAWAIIと思われる存在である、という手応えを得ました。これは大きな収穫。 ということで、今号はクマムシトリビアをお届けします。クマムシトリビア その14 読者からのクマムシにまつわる様々な疑問に対して堀川が回答します。◆ 質問: クマムシには何らかの形で学習や記憶が成立するんでしょうか? 学習できるとすると、乾眠の後でその記憶がどうなるか興味深いんですが・・・難しいでしょうね。◇ 回答: 今回はプロの研究者の方からの質問をいただきました。 実はこのトピックは僕もだいぶ前から興味があり、ちょこちょこと遊び半分で実験していました。 この研究テーマは、自分のテーマの本筋からは若干ずれるため、本腰を入れて研究してきませんでしたが、もし共同研究案件が来たり弟子が来たりジャンボ宝くじの一頭にでも当たれば、ぜひとも取りかかりたい魅力的なトピックです。 もしクマムシに学習が成立し、その記憶が乾眠状態でもずっと保持されていれば、これはすごいことです。なにせ、記憶を何年も、場合によっては半永久的に保持することができるわけですから。 それではまず、クマムシに学習や記憶が成立するかどうかについて、お答えします。 今までに、クマムシで学習が成立したり、記憶が保持されていたことが報告されたことはありません。 とはいえ、これは別にクマムシがバカだから、というわけではなくて、単にクマムシを使ってこの類いの研究をした人がほとんどいないからだと思われます。 というのも、単純な神経回路しかもたないセンチュウ(C. elegans)でも学習行動が見られることが報告されており、これと同等あるいはより複雑な神経ネットワークをもったクマムシでも学習能力があってもおかしくないと思われるからです。 ここで念のために学習という用語の定義を述べると、ある経験をした後に別の行動を示すようになることといえます。 例えばセンチュウC. elegansでは、通常ではNaClに向かっていくクセがあります(これを正の走性という)。 ところが、NaClがある条件でかつC. elegansに絶食を経験させると、NaClに向かっていくクセが無くなり、むしろNaClから遠ざかるクセ(負の走性)が身に付きます。 この場合、C. elegansが絶食経験によって異なる行動をとるようになり、学習が成立しているわけですね。 僕は、これと同じ実験系を使ってヨコヅナクマムシがNaClに向かっていくかを試したのですが、 -
むしマガ Vol.32【背中に深く突き刺さるナイフのような視線】
2012-07-05 16:18220ptいつもよりも遅れましたが、本日のむしマガをお送りします。・てぬぐい クマムシさんてぬぐいプレゼントにたくさんの方々からのご応募、誠に有り難うございました。当選者の方々には来週お送りする予定ですので、もうしばらくお待ちください。・Tシャツとバッグ クマムシさんのTシャツとバッグも、ロゴ制作でお世話になった山崎綾さんにデザインしていただきました。クマムシさんTシャツクマムシさんバッグ これらのグッズもてぬぐいやぬいぐるみと同様、大変好評です。売ってほしいとの声も多く聞かれました。 年末あたりにはグッズを数十種類ほど制作し、ネットショップをオープンできればと思っています。が、なにせこのようなことには馴染みが無いので、もしどなたかアドバイスくださる方がいらっしゃいましたらご連絡いただけると幸いです。・むしマガ読者特典 クマムシさんグッズ販売はまだまだ先になりますが、今回もむしマガ読者のみの特典として、3名様に上のバッグをプレゼントいたします。 ご希望の方は住所・氏名・電話番号を明記の上、horikawadd@gmail.comまでご応募ください。 みなさまからのご応募、楽しみにお待ちしています。★クマムシ研究日誌「背中に深く突き刺さるナイフのような視線」 東研究室に配属されたものの、どんなテーマでクマムシの研究をすれば良いかなかなか思いつかなかった。 学部の時もそうだったが、学生の自主性を重んじるタイプ(言い換えれば放任主義)の指導教官が主催する研究室では、学生の自由が保証されている分、研究計画を一から自分で考える必要があるのだ。 そして、東教授はもちろん、この研究室にはクマムシを研究していた先輩も一人もいなかった。 とりあえず研究室のパワーエコロジーの教えに従い、札幌市内にクマムシを探しに行くことにした。 まずは北海道大学の構内。コケはあまり生えていなかったが、街路樹の表面には地衣類がびっしり生えていた。そこで、ほぼ片っ端から樹表の断片とともに地衣類を採取した。 そして、札幌市を流れる豊平川沿いを自転車で移動しながら、道路に生えるコケを見つけてはそれを採取して封筒に入れた。1地点で採取するコケは、せいぜい数十グラム程度だったが、数十地点から採取するとコケの重量は相当なものになった。 大量のコケが入ったリュックを背負いながらの自転車による野外採集は、思いのほか重労働であった。まさに、パワーエコロジーを地で行っていた。秋頃までには、札幌市内でのべ200地点ほどからコケを採取していた。 ところで以前にも書いたが、市街地でコケや地衣類を採取する姿は、どうしても人目を引いてしまう。 川沿いなどはあまり人がいなかったが、札幌駅周辺などでコケ採取をしていたときは、通行人からの投げられた好奇の視線が背中にグサグサと刺さった。 とくに一度、北海道庁前でコケの採取をしていた時には、相当アヤシイ人間に思われた。 -
むしマガ Vol.31【森山和道インタビューその4「サイエンスコミュニケーションと大学のポジション」】
2012-07-02 16:09220ptこんにちは。パリでは今週末からJAPAN EXPOが開催されます。JAPAN EXPO このJAPAN EXPO、ざっくりいうとヨーロッパでのオタクの祭典とでも言いましょうか。日本のアニメやポップカルチャー好きのヨーロッパ人が集まる超大規模イベントです。 去年の来場者数は4日間で19万人以上。私も行ってきましたが、いやはや驚いたのなんの。 行く前は、外国人のオタクは日本の本場のオタクに比べてちょっと甘い「なんちゃってオタク」だと思っていたのですが、とんでもない勘違いでした。 コスプレのレベルからめちゃくちゃ高く、体から溢れ出すオタクオーラも僕のスカウターガ振り切れるほどでした。みんな、間違いなく一流のオタクでした。恐れ入りました。 今年のJAPAN EXPOには坂本龍一、浦沢直樹、そしてきゃりーぱみゅぱみゅなど豪華なゲストが参戦します。過去最大の盛り上がりを見せることは間違いないでしょう。 そして、我らがクマムシさんもJAPAN EXPOに初参戦しちゃいます。 来週はクマムシさんによるJAPAN EXPOレポートをお届けする予定ですので、どうぞお楽しみに。★むしコラム「森山和道インタビュー(第4回)」 森山さんと初めてお会いしたのは、2006年12月に東京大学で開催された「第1回クマムシ研究会」でした。僕が発表を終えた後に、名刺をいただいたのを覚えています。 その時はそれっきりで終わったのですが、後に慶応大のクマムシ研究者、鈴木忠さんと共著でクマムシ本を出すなど、クマムシ周りでは有名なサイエンスライターさんでした。「クマムシを飼うには」鈴木忠/森山和道 著 僕がブログやtwitterを始めてからもたまに絡んだり、こちらのブログ記事を紹介してくださったりと、ネット上でゆるい交流をしていましたが、今年の3月に久々にお会いして今回の対談となりました。 森山さんはサイエンスメールというメルマガに、研究者へのインタビューをコンテンツとして載せているのですが、今回は研究者である僕からインタビューを受けるというユニークな形になっています。サイエンスメール それでは、どうぞお楽しみください。☆プロフィール☆森山和道(もりやま・かずみち)http://moriyama.com/ フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。 1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。メールマガジン「サイエンス・メール」、http://www.mag2.com/m/P0003148.html「ポピュラー・サイエンス・ノード」編集発行人。http://www.mag2.com/m/0000014382.html共著書に『クマムシを飼うには 博物学から始めるクマムシ研究』(鈴木忠、森山和道 /地人書館)。第4回「サイエンスコミュニケーションと大学のポジション」森→森山堀→堀川森: サイエンス関係でアルファブロガーっていないと思うんですけど、それこそ堀川さんはそれに近いじゃないですか。エントリー書くたびにいっぱい集まってくるでしょ?堀: それは集めようと意識してやっています。ふつう、いま有名になっているブロガーって、もともと何か書くのが好きで、好きでずーっと書いていたらたくさんの人に読まれるようになって、知らない間に有名になっちゃった、というパターンが多いと思います。 でも、自分の場合は、なるべく多くの人に読んでもらえるように始めから狙っていました。そうやって人に読まれるような文章を書けるようになれば、大学などでポジションが得られなくてもゆくゆくは生きていけるんじゃないか、という思いもありました。森: それは放浪しながら、ノマドみたいな?堀: そうですね、ノマドですね。ノマド研究者。森山さんはフリーライターじゃないですか。私もフリーサイエンティスト。それを狙ってるところもあるんです(笑)。森: それはある意味、理想的ではありますよね。雑事に追われることなく、好きに研究することができる。堀: それは理想ですね。僕は教授とかの肩書きとかは、どうでもいいんで。まあ、そんなきっかけもあってブログを始めたので、注目されるにはどうしたら良いか、というのも考えながら書いてるんです。森: いや、でも、注目されようと思って注目される記事を書けるというのは、それはそれで才能でしょう。それって、なかなかできることじゃない。堀: そういうものなんですかね?森: どうなんですか?堀: うーん、どうなんですかねえ。森: 結構楽勝でしたか? -
むしマガ Vol. 30【乾燥クマムシは何年生きられるか?その2】
2012-07-01 14:59220ptこんにちは。7月最初のむしマガをお届けします。・ロンサム・ジョージ死去 1972年にガラパゴス諸島のピンタ島で発見された、ピンタゾウガメのロンサム・ジョージが死去しました。推定享年100歳以上です。ガラパゴス諸島の「ロンサム・ジョージ」死す、ピンタゾウガメ絶滅 ピンタゾウガメはロンサムジョージが最後の一頭として確認されており、他亜種ゾウガメのメスを一緒に飼育して繁殖させようと試みられていましたが、結局子孫を残すことはできませんでした。 死因は心臓疾患によるものだと思われていますが、これを特定するために解剖されたとのこと。 で、気になるのは、その後の死体の処理です。遺伝子工学技術、つまりクローン技術でピンタゾウガメを将来復活させるために、ロンサム・ジョージの組織を凍結保存しているのかどうなのか。 そうなんです。クローン技術は、絶滅危惧種の保護にも応用できるんですね。 意外と数年後には、ロンサム・ジョージのクローンがひょっこり登場するかもしれません。 ところで、ロンサム・ジョージが死んでいるのを発見したのは、このカメが捕獲された1972年から40年間にわたって飼育を担当してきたというファウスト・ジェレナさん。ロンサム・ジョージとファウスト・ジェレナさん ジェレナさんさんの胸中を想像すると、切ない気分になります。ちょっとしんみりした話題から入りましたが、クマムシトリビアをどうぞ。★クマムシトリビア その13 読者からのクマムシにまつわる様々な疑問に対して堀川が回答します。◆ 質問: クマムシは乾燥した仮死状態で何年くらい生きられるんですか?永久に生きられるんでしょうか?(その2)◇ 回答: 今回は、乾眠状態のクマムシが果たして半永久的に生き続けられるかは可能かどうかを論じていきたいと思います。 結論から言うと、これは条件次第では可能です。 では、なぜ可能と言えるのか。この理由を説明するためにはまず、乾眠状態のクマムシが時間経過とともに生存率が下がっていく理由を考える必要があります。・酸化ダメージ 乾眠状態のクマムシは、代謝がほぼゼロであると考えられています。つまり、通常の老化もおきていないとみなせます。 それではなぜ、乾眠状態のクマムシは時間の経過とともに復活することが難しくなっていくのでしょうか。 それは、クマムシの周りの空気中の酸素が悪さをすためだと考えられているからです。 むしマガ Vol.26のクマムシ研究日誌でも書きましたが、乾眠クマムシは周囲の酸素によって酸化ダメージ受けて死んでしまうと推察されます。 クマムシを構成する生体分子が酸化されると、これらの分子が生命活動を営む上で必要な本来の機能を失ってしまうために、ダメージが蓄積して死に至る。そう考えられるのです。 ということは、逆に考えればクマムシに酸化ダメージが起きないようにしてやれば、半永久的に生きることが可能になるはずです。理論では。 つまり、クマムシの周りから酸素を取り除いてやれば良いのですね。通常、動物にとって酸素は無くてはならない元素ですが、この場合は無酸素状態にすることで永遠の生命体になれるというわけです。とってもSFチック。 実際、クマムシと同様に乾眠能力をもつブラインシュリンプ(シーモンキー)の乾燥卵は真空で保存した方が、酸素のある条件よりも長く生存したという研究報告があります。
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