前回の号で、クマムシ研究グループごとに扱っているクマムシの種類が異なることをお伝えしました。今回からもう少し掘り下げて、クマムシの乾眠や極限環境耐性に関わる研究をしている各グループについて紹介していきます。今回は、イタリアのグループについて。
1. イタリアグループ
イタリアのモデナ大学のグループです。チョウメイムシを飼育して研究に使っています。ここは非常に古くからクマムシ全般についての研究を行っており、次回の第13回国際クマムシシンポジウムを主催することが決まっています。
このグループのボスは世界のクマムシ学コミュニティでもTop 3に入るであろうクマムシ学の権威、ロベルト・ベルトラーニ教授です。
ベルトラーニ教授はクマムシの生殖生物学における業績が目立つのですが、実際にはクマムシについては何でもやりたいようです。9年前のフロリダでの国際クマムシシンポジウムの時、僕が彼にクマムシについて何に一番関心があるのか尋ねたところ、全部だ、と答えてくれました。
で、このグループではロレーナ・レベッキ教授が中心となり、ここ10年くらい乾眠や極限環境耐性に関する研究を進めています。宇宙実験もしています。
研究手法は主に個体レベルでストレスに対する反応を見るというものですが、最近では分子生物学の手法も取り入れつつあります。乾眠と酸化ストレス防護の関係について注目した研究を進めているため、現在僕が取り組んでいるテーマとかぶっています。そういう意味では、こちらのライバルといえます。
この研究グループ、派手さは無いですが、研究論文のアウトプット頻度はそこそこ高く、安定感があります。今回のシンポジウムの発表を見ていても、相変わらずの研究アクティビティの高さを感じました。今後もしばらく、この調子で研究継続していきそうです。
クマムシトリビア その17
読者からのクマムシにまつわる様々な疑問に対して堀川が回答...の予定だったのですが、前回からクマムシさんとクマムシ助手のゆうさんにバトンタッチしています。
☆クマムシさん
【プロフィール】
ヨコヅナクマムシの女の子。のんびりしている。
☆ゆうさん
【プロフィール】
クマムシの世話をしているちょっと不器用な助手。好物はゆでたまご。
http://www.kumamushisan.net/labo.html
◆ 質問:
クマムシはどれくらいの低温や高温の範囲に耐えられるんでしょうか(その2)。
◇ 回答:
・クマムシさん→ク
・ゆうさん→ゆ
ゆ「やっと1週間たったね。乾眠クマムシでも100度以上の高温になると辛くなってしまうのは体の構造がゆがんでしまうから、ということだったけど、もうひとつの理由をおしえて」
ク「うん。これは、高温にすると、ある化学反応がすごく進んでしまうことによってクマムシが死んでしまうと思われているんだ」
ゆ「化学反応?どんな?」
ク「ずばり、酸化反応さ」
ゆ「酸化反応...どっかで似たような話を聞いたことがあるような......」
ク「そう、むしマガvol.30のクマムシトリビアに出てきた話だね。乾眠クマムシを何年も置いておくと、体が酸化して復活できなくなってしまうという話だったね」
ゆ「そうそう、それそれ」
ク「あれは室温で乾眠クマムシを置いておいた場合だったね。で、実は高温になればなるほど酸化反応が速く起きると考えられるんだ」
ゆ「ということは...」
ク「乾眠クマムシを高温にさらすと、体がものすごい速さで酸化されてしまうんだろうね。だから、死んでしまう、と」
ゆ「そっかー」
ク「数時間、100度ちょっとの温度で熱することで進む酸化反応は、常温で数年置いておく間に進む酸化反応に匹敵するということだね」
ゆ「クマムシが高温にはあまり強くない理由は、そういうことなのね~」
ク「ゆうさん、クマムシって意外と弱いと思ったでしょ?」