★むしコラム「既得権益と日本人」

 フランスにもアメリカにも、数多くの移民が暮らしています。多数の異なる人種が混在しているー日本に住んでいるとあまりにかけはなれた世界がそこにはあります。

 2ヶ月ほど前、パリのチャイナタウンに行った時のことです。50歳前後くらいのアラブ系の女性が、警察官によって地面に押さえつけられていました。女性は聞き慣れない言葉で叫び、泣いていました。どうやら、不法滞在で捕まったようでした。

 警官たちはひとつも表情を変えることなく、女性の両手を背中側に回して手錠をかけ足にも錠をかけました。そして、担架に乗せて護送車の中に押し込みました。警官たちのその一連の動作は、まるで荷物を仕分けている運送業のお兄さんたちのように事務的でした。

 このように、世界にはリスクを冒してまで他の国に移動する人たちがたくさんいます。不法滞在で捕まったり、ホームレスになる可能性が高いのに、それでも自分の国に絶望して祖国を捨てた人たちです。それとは対照的に、私たち日本人は、ここまでして自分の国を脱出する人はいません。それは、日本という国の豊かさを物語っています。

 それに加え、日本人に与えられた日本国発行のパスポートを持っていれば、世界中の国に行くことが可能です。このような権利を与えられた国民は、アジアでも日本くらいのものです。

 つまり、日本人は、日本人として生まれた時からこのような特権をもっており、言い方を変えれば既得権益層の人間なのです。

 私も外国に住み始め、様々な国の人々と出会い、自分がたまたま日本人であるが故に受けている恩恵に気付きました。もしもずっと日本にいたら、このようなこと、つまり自分が既得権益層側の人間ということに気付かなかったかもしれません。

 実際、大半の既得権益層というのは、自らが既得権益層の中にいるという自覚がありません。