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むしマガ Vol.395【クマムシの橋本聖子仮説その1】
こんばんは。今月最後のむしマガをお送りします。えー、今月はいつもよりもボリュームが少なめで申し訳ありません。ただ、次号では久しぶりとなる対談記事をお送りします。あ、対談というよりも、インタビューか。
まあ、どちらでも良いのですが、インタビューをした方は、ここでもたびたび名前の出てくる人物です。これについては、またのちほど・・・。・国内初のヒアリ被害ヒアリの報告がが止まりません。先日は、コンテナで作業をしていた作業員の方がヒアリに刺される事故が、ついに発生しました。
今のところはヒアリ定着の確認はなく、水際で食い止められている状況ですが、内陸部のどこかに成長中のコロニーがあってもおかしくありません。ところで、こういう外来種の話が出ると「アリには罪がない、一番悪いのは人間だ」という声が聞こえてくるようになります。それはその通りなんです。なにせ、どの生きものを保護し、どの生きものを駆除するかは、人間が決めていることですから。よく、生態系や在来種の保全は生物多様性を維持するためにしなければならない、といいますが、これも突き詰めれば人間のエゴです。誤解を恐れずに言えば、保全生態学は純粋な科学というよりは政策、つまりエゴといえる。エゴが発端になっているものを「地球の病気を治すため」とかいい出すものだから、変な誤解をされるわけです。これは研究者やエバンジェリストにもちょっとは責任があるな、と。この辺りのテーマはなかなか深いので、少し時間が経ってから、まとまった論考を書こうと思います。・師匠と弟子 -
むしマガ Vol.394【VALUは真の評価経済社会をもたらすか】
こんばんは。まただいぶ間が空いてしまいました。27日から鶴岡の慶應大先端生命研で開かれている「高校生バイオサミット」に審査員として参加しています。
・高校生バイオサミット
「高校生バイオサミット」は、高校生が個人やグループで生物学の研究成果や研究計画を発表する場です。
高校生バイオサミット
最近は子どもの頃から専門的な研究に取り組む子どもも増えているようで、今回も5歳くらいから研究を継続しているツワモノ高校生が参加するようです。甲子園の怪物ならぬ、バイオサミットの怪物といったところでしょうか。
ぶっちゃけて言えば、このようなコンペで入賞するとAO入試でも有利になるなど、実質的なメリットもあるにはあるのですが、実際にこういう研究活動をしている高校生はモチベーションが高いし、それはそれで良いと思うのです。スポーツを頑張って大学に入る人もたくさんいるわけだし、いろんなルートがあっても別にいいよね。と。
ただ、あまりにも中学生や高校生の頃からこの手のコンペに出まくって賞をたくさんとっていると、大学に入ったあとにアイデンティティ・クライシスを迎えることもあるから要注意です。
島国限定の中学や高校の「枠」の中でいくらチヤホヤされても、それは所詮、すごく狭いアマチュアの中でもてはやされているだけ。一方で、研究は世界が舞台で、しかも無差別級。学生だろうがなんだろうが、それで下駄を履かせてくれることはありません。
中学高校時代に評価された子は、どうしても「日本国内」の「学生」の中で評価されたい、という意識が強い傾向が見られ、「世界」の壁にちょっとぶつかると意気消沈しやすい。
だから、小さい頃から賞をもらうために頑張る、というモチベーションを否定はしないけれど、研究者を目指すのであれば、あまり同世代を意識せずに、ノーベル賞級の研究者をライバルにするくらいの意気込みでよい。これを見ている中高生はあまりいないだろうけど。
というわけで、各発表者の発表には遠慮せずにビシビシとツッコミを浴びせてきました。頭に何かが乗っかっている審査員がやって来たとたん、半笑いになる高校生たち。そして、その5分後には顔面蒼白、涙目になっている高校生たち。
いろんな意味で忘れられない経験になったのではないでしょうか。
★むしコラム「VALUは真の評価経済社会をもたらすか」
むしマガVol.390でもちょっと触れた、VALUというウェブサービス。個人が上場して株ならぬ「VA」とよばれる単位を売買することができる仕組みが実装されています。
VALU
VAは日本円で買うことはできず、仮想通貨のビットコインに紐づけられています。日本円で売買すると法的にアウトなので、ビットコインを仲介させているのでしょう。 -
むしマガ Vol.393【「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」を検証する】
こんばんは。九州の大雨被害はひどかったですね。むしマガの読者には福岡や大分の方もいらっしゃると思うのですが、大丈夫でしょうか。・東京でヒアリついに東京でもヒアリが発見されました。
コンテナの中からヒアリが見つかったということですが、このコンテナは中国から運ばれてきた後に日本国内のどこかの送り主に運ばれ、コンテナ内の荷物を降ろした後にまた大井に戻された後で、そこからヒアリが見つかったというものです。このようなケースは全国各地であるでしょうから、もう港だけでなく、内陸部にもヒアリが人知れずコロニーを作っている可能性もそれなりにありそうです。さて、前回の『ヒアリの生物学』の紹介の中で、「アメリカ国内でのヒアリによる年間死亡者数は100」という説明をしました。これは『ヒアリの生物学』に書いてあったことをそのままお伝えしたのですが、この数字の根拠については謎が多いことがわかってきました。今回は、このヒアリによる死亡者100人説を検証していきます。そして、それなりの結論が得られましたので、これをみなさんと共有したいと思います。★むしコラム「「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」を検証する」
2017年になって、神戸、名古屋、大阪、そして東京で相次いで発見されている、侵略的外来種のヒアリ(Solenopsis invicta)。ヒアリは人を刺し、確率はきわめて低いものの、ときに死に至らしめることもある。このことから、連日のように報道されるヒアリ発見のニュースは、少なくない人々を不安にさせている。
前回の記事で紹介した、日本語で書かれた唯一のヒアリ書籍『ヒアリの生物学』には、アメリカでは1年間で1400万人ほどがヒアリに刺され、そのうち100人ほどが死亡していると書かれている。((『ヒアリの生物学』には、年間死亡者が80人いるとする説も紹介している。この部分は、Kemp氏らの論文を引用したものだ。そして、このKemp氏らの論文では上に挙げたRhoades氏らの論文を引用したものだ。上述のように、Rhoades氏らの論文で述べている80人という数は重複したケースを含むものであり、Kemp氏は正確に引用していない。))ヒアリに対して不安を感じる源の大きな部分は、この「ヒアリで年間100人死亡説」に依るところも大きいのではないだろうか。だが、よく調べてみると、この説は、はっきりとしたデータを元にしているわけではないことが、分かってきた。
・「100人説」はどこからこの部分は『ヒアリの生物学』の著者らによる調査が元になっているわけではなく、Taber氏により2000年に出版された別の書籍『Fire ants』を引用したものである。
たしかに、『Fire ants』には以下のような一文がある。------The number of deaths per year has been estimated at one hundred but is probably underestimated because the possibility of fire ant attack is rarely investigated when the cause of death is unknown.(クマムシ博士による訳)ヒアリに刺されて死亡する人数は年間100以上と推定されてきたが、死因不明の場合には、死因がヒアリの可能性かどうかが調査されることは少なく、おそらくこの数字は少なめに見積もられている。------このように、『Fire ants』にはたしかに「ヒアリで年間100人死亡」と書かれているわけだが、この部分にはどの文献も引用されていない。つまり、これは著者であるTaber氏の見解のようだ。だが、この「100人説」の根拠となるようなデータや説明は、『Fire ants』の中には見られなかった。・文献をたどるそこで、他にヒアリによる死亡者数のデータを示している文献がないかを探したところ、1989年に出版された、Rhoades氏らによる論文に行き着いた。Rhoades氏らは、29,300人の医者(救急医、小児科医、アレルギー専門医、かかりつけ医など)にアンケート用紙を郵送し、過去にヒアリに刺されたことによりアナフィラキシーショックを起こした人を知っているかどうかを問い合わせた。その結果、29,300人のうち8.6パーセントにあたる2,506人の医者から回答があった。回答により得られたケースのうち、84例が死亡したケースで、2例が重篤なケースだった。これらの84例の報告のうち、重複しているケースを省くと、最終的には致死的なケースは32例となった。このうち少なくとも2例は最終的に回復したとされ、実際に死亡したケースは、30例と見積もられた。ところで、科学論文やWikipedia(英語版)を含めた少なくない文献に、このRhoades氏らの論文を引用して「ヒアリによる死亡例は年間80ほど」と書かれているが、上述のようにこれは重複したケースを含むものであり、正確な引用がなされていない。おそらく、Abstract(要旨)のみの情報が拾われて記述され、拡散しているのだろう。話を戻そう。つまり、ヒアリに刺されて死亡した例は、1989年までに、累計ではっきりと判明しているのが30例ということになる。もちろん、このアンケートに未回答のままの医者の中に、ヒアリが原因で死亡した人を知っている人がいるかもしれないし、ヒアリに刺されて死んだのに、死因が心臓発作や原因不明とされているケースもあると考えられる。この30例というのは、あくまでも「最低でもこの数字」というものだ。また、Prahlow氏とBarnard氏は、1998年までの50年間で、ヒアリに刺されて死亡した人数を、過去の文献調査により見積もった。調査された文献には、Rhoades氏らの論文も含まれる。その結果、累計で少なくとも44人が死亡していたことが判明した。これらの結果から、少なくとも1998年までは、ヒアリに刺されたことが原因で死亡した例は、年間で1〜2人が記録されていたことになる。これ以降で、ヒアリによる死亡数をきちんと調査した文献は、見つからなかった。・ヒアリの危険度はヒアリによる正確な死亡数ははっきりと分かっていないが、同じように死に至らしめるハチなどと比べることで、その危険性を相対的に推定することはできる。アメリカ合衆国労働省は、2003年から2010年の8年間で、労働者が作業中に昆虫やクモに刺されたことにより死亡した人数が、累計で83人、年間平均で10人程度だと発表している。この83人のうち、52人(64パーセント)はハナバチ、11人(13パーセント)はスズメバチやアシナガバチ(6パーセント)、7人はクモ、そして3人(4パーセント)はヒアリを含むアリが死亡原因としている。この結果を見ると、ハナバチなどに比べて、ヒアリによる被害の割合が、思ったよりも低いように感じる。だが、このデータの解釈の仕方には、注意が必要だ。このデータは労働者を対象にしたものであるため、死亡事案が発生した場所が、農場などに偏っている。つまり、このデータには、農場などの環境を好むハナバチに高頻度で遭遇した結果が反映されているかもしれない。たとえば、公園や自宅の庭が主な行動範囲の子どもの場合では、また別の結果になるかもしれないのだ。・まとめ今回の調査からは、「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」を裏付ける文献は見つからなかった。また、1年の間にヒアリに刺されて死亡する実際の人数についても、知ることはできなかった。しかし、だからといって、「ヒアリに刺されて年間100人死亡説」をデマとするのも早計だろう。もしかすると、アメリカ国内の専門家の中には、公表されたない何らかの情報を根拠とし、この「100人説」を支持する人が一定数いるのかもしれない。また、「100人説」を根拠とする公開データが見つからないからといって、「安心してよい」と言うこともできないだろう。いずれにせよ、仮に「100人説」が真実だとして、ヒアリに刺されて死ぬ確率は0.001パーセント以下であり、そこまで神経質になりすぎる必要はないと思われる。アメリカでは、ヒアリ被害の対策や啓蒙も盛んになされており、以前よりも人々がヒアリに対して警戒するようになっている面もあるだろう。ただ、その一方で、アメリカではヒアリの生息域が拡大するだけでなく、その生息密度も増加している。アメリカの人口も増えており、ヒアリに遭遇する人が増えていない、とも言い切れない。国際社会性昆虫学会日本地区会のウェブサイトによると、現在、この死亡者数について調査中とのことなので、そのうち、より正確な数字が出てくるかもしれない。【参考資料】
Rhoades et al. (1989) Survey of fatal anaphylactic reactions to imported fire ant stings. J. Allergy Clin. Immunol. 84:159-62.Prahlow and Barnard (1998) Fatal Anaphylaxis due to fire ant stings. Am J Forensic Med Pathol. 19: 137-142.Pegula and Kato (2014) Fatal injuries and nonfatal occupational injuries and illnesses involving insects, arachnids, and mites. Beyond the Numbers 3: 1-13.Kemp et al. (2000) Expanding habitat of the imported fire ant (<i>Solenopsis invicta</i>): A public health concern. J. Allergy Clin. Immunol. 105:683-691.
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