ちょっとした小説書いてみました。
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ちょっとした小説書いてみました。

2017-07-08 04:51
    お久しぶりです、突然ですが小説らしいものを書いてみました。
    よかったらちょっと長いかもしれないですけどどうぞ。

    「一つの玉」

    …少年は、生まれながらにして一つの玉を持っていた。
    大きさはボーリングの玉と同じくらいであった。
    最初は疑問も無くただ部屋の何処かに押し込んでしまった。

    ある時、少年は好きな女の子に告白をしてみた。
    本当は好きでもなんでもない、理由はただいつも傍に居たからというだけだった。
    「それはなんか違う」とフラレてしまい、悔しくもないが嫌な気分に少年はなってしまった。
    嫌な気分を取り除くために、なにか趣味を見つけようと子供ながらに必死で部屋の棚やタンスの中をグチャグチャに漁ってみた。
    すると、生まれながらに何故か持っていた玉を偶然見つけた。
    確信は無いが、子供だった少年でも玉を持っていれば何かが見つかるのではないかと感じ、これからは傍に置いておこうと心に決めたのだった。


    少年は中学生になった。
    少年はどうでもいいと感じ始めた玉をまだ持っているだけ。
    玉は少し削れていて、汚らしく濁っているだけだった。
    少年の周りでは思春期が流行る時期だった。
    ただ、反抗期というものは訪れず…過ぎていく時間だけを感じる子であった。
    何も楽しくない、友達と遊んでいても心から湧いてくる楽しさは感じてこない。
    少年は恵まれていたのか女の子との距離はいつも近かった。
    女の子が居ながらも好きという感情は湧いてこずに、話しやすいだけの友達となっていた。
    相談相手にもなって、言われたことに対してなんの根拠もないような簡単で気持ちのない言葉でコミュニケーションを取っていた。

    ある日、女の子から告白された。

    けれど、少年は女の子が好きではない…ましてや好きという感情もわからないし、なんで告白されたのかもわからなかった。
    少年に思春期はまだ来ていなかったようだ…。
    結局、返事待ちという形で消滅し、ただの友達に戻ってしまったようだ。


    彼は高校生になった。
    彼は玉を磨くことにワクワクを感じていた。
    磨く度に、自信が湧いてくる気がしていた。
    少しずつ、磨かれた玉は小さくなっていった。
    大きさは赤子の頭くらいに削られていた。
    反抗期も殆ど終わり、周りの男子はモテようとワックスやスプレーを使い始めた。
    その頃彼はモテたくもないので、ワックスなんて面倒だしスプレーは臭いからやだ。と言い
    シャンプーだけの香りが香る男になっていた。
    相変わらず女子には人気で「マスコットキャラクターのような存在」として扱われ
    恋愛相談や、頼み事を任されるようになっていた。
    先生からの評価も良い、しかし、目指したい道など彼には無く
    やりたいこともないので、ただ流れる日々を感じるだけであった。

    そんなある日、文化祭の後に女子から呼び出され 2人からダブル告白をされることになった。
    こんな最高なチャンスでありながらも、彼は全く興味もなく…ただ女子らを困らせるだけであった。

    ふと…数日たって翌日、彼はある女の子が気になった。
    顔がとびきり可愛いとは言えない。
    みんなのアイドル的存在でもなく、彼女はただ本を読んでいるだけだった。
    そんな子のどこが気になったのかもわからず、勝手に身体が動いていた彼は彼女に話しかけ始めた。
    最初は何の発展もない駄べりが繰り広げられるだけだったが
    日を跨ぐにつれて、友達を越えた存在になりつつあった。

    彼は高校生を卒業した。
    それと同時に、気になっていた彼女とは付き合うことになった。
    今では気になっているというよりかは、何処かで守ってあげたいと思えるところまで来ていた。
    彼女もまんざらでない顔をしていた。
    玉は日々磨かれていて、少しだけ小さくなっていた。

    彼は仕事をするのが嫌いだった。
    高校生の頃にバイトをしていたが、本当は部屋で過ごしていたかったくらいだ。
    仕事をするのが嫌で、バイトを始めた。
    彼女は就職し、切磋琢磨と働いていた。


    それから2年
    少年はまだ玉を磨いている、サボりながらも好きである趣味として玉を磨いていたのであった。
    ただ、その玉は薄く濁っていて、綺麗ではなかった。
    彼女は彼が仕事をしないことにイライラの限界まで来ていた。
    「仕事しないなら別れる」そう言われた彼は焦って仕事を探した。
    なんだかんだで、滑り込みで社員になることが出来た彼は別れる件を見逃してもらえた。
    でも、今でも仕事はしたくない…
    ダラダラと仕事を続ける彼に未来は見えぬままだった。

    それから数ヶ月
    彼女が倒れた…。
    貧血で病院に搬送されてしまったようだ。
    診断の結果、彼女は頑張り過ぎて鬱病になってしまったようだ。
    追い込んで疲れきった彼女の身体はボロボロで 見えないところに、引っ掻いた傷や髪を抜く癖があったのか少し髪の毛が薄くなってしまっていた。
    それを気付かずに生活していた彼は、ショックで仕事を辞めそうになった。
    …すると目の前に置いてあった玉が少し震えて割れそうになっていた。
    彼は大事に抱え、抱きしめるように「ごめん」と何度も呟いた。
    次は彼が頑張る番だと、気付いたのだ。

    彼女は治療の為、休職をすることになった。
    貰える手当は、満足に行かないものであり
    殆どは彼が支払う形になっていた。
    その頃には同棲をしていて、仕事から帰ってきては彼女の呟きを聞き、うんうんと頷く毎日だった。
    その時も欠かさず玉を磨く彼であったが…。
    彼女にその玉は見えないようだった。
    「彼女には生まれながらに玉は持っていなかったの?」そう聞くと
    「ある訳ない」とキッパリ言われてしまい、彼は何年も傍に置いていたこの玉は何物なんだと悩んでしまった。

    それから数年
    彼女が鬱病と戦った結果、治療に成功した。
    まだ病み上がりの為無理はできないが
    仕事を辞め、内職をすることになった。
    彼は安心とやる気に満ちて、仕事を頑張るようになっていた。
    「無理しないでね」と彼女に言われながらも
    無理をするしか今の俺にはできないと張り切って仕事に望んでいた。
    その頃も玉を磨いており、その大きさは野球ボール程になっていた。

    それからまた数年
    彼女のお腹に、子が居ることが発覚した。
    彼は喜び、彼女も実感を感じられないまま喜びに浸っていた。
    彼は若いながらに課長まで昇格し、1人でも家族を賄える程に成長していた。
    そして、お互いを信じきった2人は婚約を結び 子を待つだけとなった。


    出産の時
    彼は仕事が忙しく、子が生まれる瞬間を見ることが出来なかった。
    悔しくもあったが、無事生まれてくれたことに涙が止まらなかった。
    女の子が生まれ、幸せな家庭が完成した彼らは 毎日を大切に思いながら、日々を過ごしていた。
    その頃の彼の玉は、自然と削れていき
    気がついた頃にはビー玉程になっていた。


    とある日。
    彼はいつもと変わらず、出勤をしようと玄関に出た。
    嫁と娘を背に感じながら「いってくる」と言った。
    嫁は「行ってらっしゃい、気を付けてね。」と
    娘は「はやくかえってきてねパパ」と残した。
    彼が微笑みながらドアに触れた瞬間…


    彼は倒れた。





    それから数日後、
    彼は周りには見えていない玉を眺めながら病院のベッドに横たわっていた。
    疲れが限界に達したのか、仕事前に倒れてしまったようだ。
    癌などではなく、医師もただのストレスだと。

    昼も過ぎ…面会の時間になり、嫁と娘が急ぐように彼の元へ
    娘が心配して「パパだいじょうぶ?」と声を掛けてくれた。
    嫁は涙ぐむも、堪えて「あなた、もう無理はしなくていいのよ。」と優しく話してくれた。
    彼は安心したのか、涙が自然と零れた。
    「ありがとう、ありがとうな」と娘と嫁を抱き寄せ頭を撫でた。
    嫁は恥ずかしながらも嬉しそうに「何よ急に、私は我慢してたのに…もうダメね」と安心からか涙を流していた。
    娘も「パパなきむしだー!…いつもありがとー」と抱き返してくれた。

    こんなにもない幸せが永遠に続く…
    そう思った彼は無理をするのをやめた

    「…」

    彼は一番楽しそうな笑顔で嫁と娘を送った。

    面会も過ぎ、彼は一人になった。
    ビービー玉位に小さくなった玉を見つめ彼は…




    「そうだったのか、これは」




    そう言った彼は、消灯時間と共に目を瞑り…
    嫁と娘を想いながら眠りについた。



    翌日、彼の元に嫁と娘が面会に来た。

    彼は、ただ目覚めずに、幸せそうに微笑んでいるだけであった。

    それを見た嫁は「…満足出来たのね、私達の為にありがとう…」そう彼の顔を撫でながら
    理解出来ていない娘をそっと…強く抱きながら静かに泣いた。


    玉は、形も残さず彼の元から消え去った。



    • END
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