カードゲームから考える経済学と心理学 part2
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カードゲームから考える経済学と心理学 part2

2018-05-15 12:07
     
     「パブロフの犬」という有名な心理学の実験がある。犬を一匹用意し、ベルを鳴らした後にエサを与える。この行動を繰り返すとどうなるか。ベルの音を聞いただけで犬が寄ってきて、唾液を垂らすようになる。当たり前だが、ベルの音で唾液を垂らす犬なんていない。全く関係ない二つの事柄を「エサ」というキーワードが結びつけたのである。これを心理学では「強化条件付け」あるいは「強化」と呼ぶ。そして、今度はベルを鳴らしてもエサを与えないという行動を繰り返す。そうすると、ベルの音を聞いても犬は寄ってこないし唾液も垂らさない。こちらは「消去」と呼ばれる。
     この実験はもう少し踏み込んで、ベルの音が鳴ればエサが与えられるという関係性を100%から下げていけばどうなるか。ベルが鳴れば毎回エサがもらえるというのが最初の実験だが、そこを少し変えてみる。例えば、ベルを鳴らして2回に1回という規則的なペースでエサを与える。そうすると、犬でもこれくらいの規則性は学習するようである。これの特徴は、100%のときと比べて強化に時間がかかるという点だ。当然、消去にも時間がかかる。さらにエサを与える条件を変えて、不規則にしたらどうなるのか。ベルが鳴ってもエサがもらえるかどうかはわからない。でも、エサがもらえるときは必ずベルが鳴る。ベルとエサには関係があるのだが、ランダム性を与えるのである。2連続でエサがもらえることもあれば、5連続でもらえないときもある。こうなると、強化も消去もさらに時間がかかるのである。同時に、言い換えれば1回強化されてしまうと消去しにくいということでもある。消去のためにはベルが鳴ってもエサがもらえないという経験を何回も何回もしなければならない。その途中で1回でもエサがもらえてしまうと消去は最初からやり直しになる。

     なぜパブロフの犬の実験を持ち出したかというと、同じことがカードゲームで起こっているからである。ベルの音をパック開封、エサをレアカードに変えたらどうなるか。レアカードを当てるためにはパックを開封することが必須である。しかし、パックを開封したからといってレアカードが当たるとは限らない。もっと言えば、開封するまでどんなカードが入っているかはわからない。このランダム性に人は強く惹かれるのである。消去されにくい強化条件付けされてしまうのだ。例えば、パックを100も200も開封してレアカードが全く出てこなければ強化されないし、消去は簡単だ。しかし、実際にそんな人はいない。それだけパックを開封すれば必ず数回は「よっしゃああああ!」と言いたくなるようなレアカードが当たるだろう。その経験がパブロフの犬における「強化」なのである。
     カードゲームの醍醐味の一つに「カードを開封する瞬間」を挙げる人は多いが、その理屈はこの実験から簡単に説明できる。4,500円で30パック入りの箱ごと買ってきて開封する、その中から数枚レアカードを当てる。そんな経験が忘れられなくて、また箱ごと買ってくる。一度に3~4箱買うという人も珍しくない。そして、その中から再び数枚のレアカードを当てる。この繰り返しである。最初からどんなカードが入っているかわかってしまったら、ここまでの金額を投入するなんてありえない。何が当たるかわからないからこそ、箱ごと買いたくなるのである。パック開封の瞬間が楽しいのである。遠足の弁当箱のフタを開ける瞬間が楽しいのと似た理屈だろうか。

     ギャンブルをやめられない理由も全く同じ説明が可能だ。最大の理由は「たまに当たるから」である。これもやはり、100回やっても200回やっても一向に勝てないならばギャンブル中毒になんてなりえない。やめることも簡単だろう。しかし、実際はレアカードと同じように、それだけ回数を重ねれば数回は叫びたくなるほどの勝利を得るはずである。そうして人はギャンブルにのめりこんでいく。福袋が売れる理由も同じである。開けてみるまで何が入っているかわからない。その中に数個、「これめっちゃいいやつじゃん」と思えるような商品が入っていれば強化されていく。そしてまた買いたくなる。さらに、それ以上に当てはまるものこそがソシャゲのガチャであろう。このように、パブロフの犬の実験は身近なところで活かされているのである。

     さて、実はパック開封がやめられない理由はもう一つ考えられる。それは「すぐに結果がわかる」ことだ。パックを買ったら、それこそその場で開封することも可能だ。箱ごと買ったとしても、ベンチでも探してそこで開封することができる。結果がすぐわかるから次の勝負もすぐできる。そうして気が付けば100パック開封してたなんてのはカードゲーマーなら思い当たる節があるのではないか。もし、開封に1週間かかるなんて仕様だったらカードに一度に数千から万単位注ぎ込むなんてのは考えにくい。宝くじを定期的に買う人はいても中毒になる人はいないのである。宝くじは結果発表に数週間から数か月かかる。それだけ時間が経つと、結果がどうでもよくなりやすくなる。実際、高額当選しても引き換えないという人は結構いるそうだ。おそらく、宝くじを買ったことすら忘れているか、どうせ当たってないと思って結果を調べるのが面倒なのかのどちらかだろう。すぐ結果がわかって、すぐ次の勝負ができるというのは人がついついやめられなくなるメカニズムとも言えようか。はやく次の勝負がしたいのである。そうでなければ、1日に何回もガチャを引いたりしない。課金額が10万どころか100万をこえるなんてこともおこるわけだ。1年で正月くらいしか機会のない福袋も、楽しみにすることはあっても中毒なんてことはそうそうおこらないことも同じ理屈で説明できよう。

     ここまで散々パック開封がやめられない理由を述べてきたが、実は宗教団体が同じ理屈で成立しているということをご存知だろうか。信者がお布施をすれば教祖様から認められる。再度お布施をすればまた認められる。お布施をすれば100%の確率で認められればすぐに強化されていくのである。しかし、十分強化されたところで、今度はお布施をしても認められないということがおこっていく。それでもお布施をし続けることでまた認められる。100%からランダムへと変化していく。そうすると、強化されやすく消去されにくいということが完成する。結果、その宗教から抜け出せなくなるのだ。カードゲームも、最初はいろいろなカードが当たる。持ってないカードが次々へと当たるから、多少レア度の低いカードでも嬉しく感じやすいだろう。カードを買えば持ってないカードが当たる。これは100%に近い強化とも言える。やがて、多くの種類のカードを手に入れれば、新しいカードがなかなか手に入らなくなる。それでもカードを買い続ければ、持ってないレアなカードが当たる。こうなると消去されにくい。カードと宗教を同列に語るのも無理があるかもしれないが、その奥底にあるものは同じ理屈ではなかろうか。


     今回は心理学を中心に述べてきたが、「お金を払う」という行為が存在する以上、経済学も少なからず関係している。商品を買うという日常的なことにも心理学が潜んでいると考えてみると面白く感じられないだろうか。part3はまたネタがあれば投稿しようと思う。
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