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永遠の終わりに、飲み会を開こう―Mrs.fictions『伯爵のお留守番』
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永遠の終わりに、飲み会を開こう―Mrs.fictions『伯爵のお留守番』

2013-10-29 00:55

    /不死身の男といえば誰を思い出しますでしょうか?

    コーブラー♪


    そこじゃねえよ!

    *****
    Mrs.fictionsは、15分の演劇を六劇団で行う「15minuts made」という企画で有名な劇団です。劇団員全員が作演・プロデュースができるという、アーティスト/クリエイターというよりももはや職人さんに近いような集団です。

    紆余曲折ありつつも、今回で二回目の長編公演。短編を得意とする(というか特化してる?)団体だけに、いろいろ大丈夫かなーと思いながら見に行きました、新宿はシアターサンモール。



    長編公演としては、『サヨナラ サイキック オーケストラ』につぐ二度目の公演で、両方とも氏による作演でした。

    本作『伯爵のお留守番』は長寿と不死で有名なサン・ジェルマン伯爵をモチーフに、純粋無垢な不死身の人の恋愛と、その人生を描いた作品。最初は、自分の言葉もわからない橋の下の浮浪者だったサン・ジェルマンを拾ってくれた貴族の女性、次は日本の女子高生、その次はうだつのあがらないヤクザ(男)、そして異星人の女性と、彼の恋愛遍歴は独特の時空間とスケール感があって、「ああ、演劇してるなぁ」という楽しさに満ちたものでした。

    サン・ジェルマン伯爵は岡野康弘が演じた。彼の不思議な魅力のひとつに「どんな変な服装をしていてもなんとなく自然に見える」というのがあると思うのだけれど、今作はそれがバチッとハマっていて、中世ヨーロッパの不思議な青年から、宇宙人との恋愛まで同じ服装(ちょっとフォーマルな貴族ファッション)が全然違和感がなかった。
    ちょっとピュアで、ヤクザチックで彼にしかできない役でした。


    本作はでも欠点の多い芝居だ、というのも初日にみた僕の偽らざる感想でした。

    まず暗転が多すぎる。女子高生の女の子が何度も訪れるシーンは一分おきに暗転が起きるのでひどく見づらく、感情移入できなかった。明転ではだめだったのか。
    時間の流れを意識させるモニタ投影もちょっと長すぎたし、一幕一幕ももっとスピーディーに変えることができたはずだ。
    いい台詞を言うタイミングが少し悪かったりもした。
    ヤクザ時代の同棲相手が死ぬシーンでの一言は、もっと観客のこころに残るように言って欲しかったし、本当にもったいない。
    俳優たちも生かしきれているとは思えなくて、あー、もっと◯◯さんなら彼らをうまく、かっこよく色気があるように活かすのになと思わなくもなかったのだけれど、初日だったので最終日には随分よくなっていたらしいのでこれは毛を吹いて瑕を求めるといったところでしょう。

    ではつまり「ダメなつまらない芝居だったか」と言われれば、断じて否。むしろ、僕が今年みた演劇の中でベスト3に入る傑作でした。その理由は一つしかありません。中嶋康太の「素直さ」です。

    演出では多少の欠点があるものの、劇作としてはたぶん中嶋康太さんしか書けないものだったと思う。不死身の主人公。無敵の英雄。でも、この世界にいるサン・ジェルマンは宇宙の終わりまで生きても「何も出来なかったし、何ものにもなれなかった」人として描かれます。
    でも、宇宙が終わった其の時に、いままで関係をもっていたすべての人や生き物が打ち上げをする」というシーンの、ある意味では地味な終わり方に感動しました。

    違う。正直その場では感動しなかった。「え、これで終わり?!」ってね。

    でも、芝居がはけて、ちょっと知り合いに挨拶して、帰り際にすき家で牛丼を食べている時に、ほかほかの牛丼(並)をみて大泣きしてしまったのでした。僕は。

    『サヨナラ サイキック オーケストラ』では結局何者にもなれなかったことを後悔する公務員がでてきますが、本作では、無限の時間をもちながら何もなれなかった、きっとこの世界に生きて、死んでいった多くの人をサン・ジェルマン伯爵が代弁したのでしょう。

    それは、なんというか、すごく救われたのです。

    きっと何者にもなれなかった人たち(ピングドラム!)は、でも、何者にもなれなくていいのだと。死んで、世界が終わった其のときだけ、正装をしていれば、きっといちばん会いたかったひとにまた会えるのでしょう。

    サン・ジェルマン伯爵が最後に結ばれる女性は、いままで何度も、サン・ジェルマン伯爵に告白しても振られ続ける人が演じるという演出、それをことさらに言挙げしない演出も本当によかった。

    俳優たちも素晴らしかったし、たくさんの人が、たくさんの物語を紡いでも観客にはストレートに伝わるシンプルな作りもよかった。演劇「にしかできない」作品ではなかったかもしれない。

    けれども、演劇だからこその魅力が詰まった作品でした。

    再演はないっぽいけれど、もう一度みたいなぁ。


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