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記事 5件
  • She said, I said. #8

    2012-10-12 21:00  
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    前回、突発的に『魔法少女まどか☆マギカ』の話を挟んで(元々はドワンゴの中の人に頼まれて書いたものなのですが)このブロマガも多少注目を集めたと思うので、アップしたあとこれまでの全章を1時間限定で無料公開にしてみます。ちなみに次の章で最終回。 自動販売機に暴行を働かなかった代償なのだろうか。春香は僕の部屋にいる。
     僕と由紀の前を早足で歩く彼女、有原家と草薙家への分岐点となる十字路をまっすぐウチへ向かって突き進んでいったので、事後承諾的に家へ上げてしまったのだ。それも、マンションのオートロックの自動ドアを前に無言でたたずんでいるところへ鍵を開けて通してやり、エレベータのボタンを押してやり、さらに自宅のドアまで率先して開けてやったのだから情けない。そうでもしなければ、それこそ蹴破られていた気がする。
     共働きの両親はまだ帰っていないので、明らかにビビッている由紀を自室へ非難させ、向かいの僕の部屋へ春香を入れてキッチンから麦茶とコップを取ってくると、世にも恐ろしい光景が待っていた。ベッドの上で枕を抱え、無表情でどついている。ぼす、ぼす、ぼす、と時報のような一定間隔で。さほど強くないのが逆に怖い。僕はとりあえず机にコップを置き、麦茶を注いだ。
     ぼす、ぼす、ぼす、ぼす、ぼす、
    「あ、あのな春香、ムロさんはだな」
    「わかってる」
     手を止め、かすれ声で呟く。いいやわかっているはずがない。
    「兄貴は電波女のゲロチューが好きな天井知らずの変態で、アンタはあたしに隠れてアイツの黒パンツで抜いてるエロ薙エロ助」
    「ほら全然わかってねえッ」
     たまらずわめいたのがかえって刺激したらしく、
    「アンタたちのことなんて全部お見通しよ! 兄貴はゲロ女かばってゲロ舐めた! アンタもベタベタされてるんでしょ、アイツ言ってた! 電波研の部室かどっかに愛の巣があってそこでアレやコレややらかしてるんだわ、昼休みとか、探しても見つからないときはどうせそうなのよ! 電波スカートめくって電波パンツためつすがめつ眺めまわして、それで、ッ……」
     もはや日本語の体をなしていない。血管が切れそうなくらい紅潮した顔。
    「電波スカート電波パンツって何だよ! クスリでラリってる人の話を真に受けるなバカ! 落ちッぐッ、着いて俺の話を聞け!」
     顔面を枕で砲撃されながらも説得を続ける。あさま山荘を包囲する機動隊の気分だ。
     

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  • She said, I said. #7

    2012-10-04 00:05  
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     春香の兄・祐介も登場していよいよ佳境、なんですが、どうも筋書きがよくわからないことになってます。ストーリーそのものを書きながら/描きながら考える、という、昔からの悪い癖です。さすがに最近はプロットらしきものも組むようになりましたが……。しかしなんだ、「手の早い女の子」ってライトノベルじゃよく見かけますけど、こんなのが身近にいたら命がいくつあっても足りませんね。 有原祐介という人物の大きさは、身長一八五センチという物理的なものにとどまらず、彼に一定以上の期間接してきた人物は皆少なからず――春香、僕、黒木、それにロリコンの伊瀬でさえ読書好きになり、彼と同じ高校に進学したという精神面の影響力からも推し量ることができよう。そして伝説の数々。いわく、幼稚園では保母さんの膝に座って新聞を読んでいた。いわく、小学校入学時には常用漢字をすべて読み書きできるようになっていた。いわく、中学校を卒業するころには自前の蔵書数が一〇〇〇冊を超えていた。いわく、小規模ながら俊英ぞろいで知られた風野高校第三文藝研究会から、その恐るべき文才で部員を一掃してしまった。いわく、センター試験の数学・地学の合計点は二〇〇点で、二次試験の数学はまったくの白紙だったにもかかわらず東大文三に現役合格。云々、云々。
     春香がそのバカっぷりにもかかわらず現在下にも置かれぬ扱いを受けているのは、高村の指摘するような一面の人間的魅力もさることながら、ひとえにこの偉大な兄のおかげなのではないか、と思う。
     ――しかし、それだけの才能に恵まれた彼が、幾度となく新人賞に蹴られて小説家になれず、大学もやめて半ばひきこもりニートと化し、果ては妹の下着で抜いているというから、現実はどこまでも厳しい。かつては現代に生きる文学青年と思わしめた秀麗な眉目は愁いを帯びはじめていつしかどんよりと曇り、有原家にお邪魔したときの、こんにちは哲哉君、という挨拶は弱々しく湿り、春香の部屋でテレビを見たりマンガを読んだりしていると、時折隣の彼の部屋からうめき声やらドスンという物音やらが聞こえてくる。そのたびに春香は梅雨空のような顔をする。バカ兄貴が、と呟いたりする。
     そして今、彼女はヒマラヤの雪男を見る目で、バカ兄貴とヘンなOBの二人連れを追跡中。何故か僕と由紀も巻きこまれた。
     

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  • She said, I said. #6

    2012-09-28 03:47  
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    更新が遅くなりました。今回は哲哉の妹・由紀が登場します。自分ではけっこう気に入っているキャラ造形。 窓際の柱の真後ろという、学生なら誰もがあこがれる特等席に座る春香が授業中に何をしているかといえば、ノートをとるでもなく寝るでもなく、ひたすら図書室から借りた本を読むのだ。堂々と机の端に三冊くらい積み上げたりして、片っ端から読む。日がな一日読む。読んだそばから返してはまた借りているので、常時五冊くらいは図書室の本をキープしている。そんなことになっているのはもちろん祐介さんの英才教育の賜物なのだが、この女、読んだものが頭の中身にろくに反映されないという特異な性格をしている。だから偏差値は五九だし、『檸檬』は読めるのに『包茎』が読めないし、ツルゲーネフとドストエフスキーとトルストイを登場人物の名前まで含めてごちゃごちゃに覚えている。これが本当の活字バカだ。
     そして五限目の古文を、春香は村上春樹の『パン屋再襲撃』を読んで過ごしている。よりによってその本か、と左斜め二つ前の彼女を見ながら思う。以前読んだことがあるが、「ファミリー・アフェア」という仲の良い兄妹の話が収録されているのだ。そして村上春樹だから当然のごとく性的な内容になるわけで、ほらケータイにメールが届いた。
    『アンタ去年コンドーム買ったの?』
     額を机に打ち付けそうになった。春香の様子をうかがうと、口を尖らせ、不機嫌そうに僕を横目でじろり。説明しておくと「ファミリー・アフェア」には、兄が一七歳のときにコンドームを買ったことを妹が知っており、妹が一九歳のときにレースの下着を買ったのを兄も知っているという記述がある。それが春香の手にかかればこういうメールが生まれるわけ。
     となれば返信は決まっている。
    『お前は来年レースの下着買うのか?』
    「買うか変態ッ!」
     春香が真っ赤になって叫び、教室中の目が集まった。
    「有原ぁ、本は好きなだけ読んで構わんが声に出さなくてもいいぞぉ」
     古文の教師がのんびりと言って皆が笑う。僕を睨み据えながら縮こまる春香。言動は常に意味不明な女だがこういう反応は極めて読みやすい。なにしろバカだから。
     

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  • She said, I said. #5

    2012-09-20 09:52  
     今回は短い章なので、「ココマデ」はナシにして無料公開にしてみます。もう少し草薙君がモテる理由を「描写」すべきだった、というのが、ありがちな反省点。
     高村と二人で中庭を横切る。
    「……あのさ、あの地下室のことは」
    「言わないわよ。生徒会には筒抜けだけど、一応機密事項扱いですから」
    「FSBかGPUか、ウチの生徒会……」
    「それにね、」
     高村は僕より半歩前に出て、
    「室見先輩の言うこともわかるの。三つくらい隠れ家が残っていたほうが精神衛生上いいわ」
    「ムロさんがいても?」
    「あんな人だけど、たぶん一線はわきまえていると思う。猫と遊んでいる感じなんじゃないかしら、室見先輩にしてみたら」
    「だからあんなに無防備というか、アレなのか」
    「猫にパンツ見られても害はないものね」
     僕は仏頂面でペプシの残りを飲み干す。
    「いったいどこまでヘタレスケベだと思われているんだ俺は」
    「じゃあ女殺しと思われ

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  • She said,I said. #2

    2012-08-28 17:27  
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      『She said, I said.』は今回から有料化します。お値段1記事105円ポッキリ。ちなみに現在のぼくの全財産は57円です。
    「あんまり仕事増やさないでもらいたいんだけど」
     保健室で、ベッドに寝かされた僕の額にオキシドールを塗りながら高村が言う。情けなくもノビてしまった僕を一人で担いで連れてきたのは、身長一七五センチの堂々たる体躯でバレーボール部キャプテンも務める彼女だ。ちなみに僕は一六三センチで春香は一五五センチ。
    「俺にいてッ、言うなよ。どう考えてッ、ても悪いのはあいつだろ」
     抗議しつつ、視界を横切る脱脂綿が赤く染まっているのを見て取って渋面を作る。こりゃ重傷だ。
    「わたしはフェミニストなので痴話喧嘩のときは女の子の味方です」
     イソジンを摘みつつ高村。そういえば上野千鶴子なんか読んでたっけ。
    「アレが痴話喧嘩に見えたのか、高村には」
    「二人でアレだけ仲良くバカバカ言い合ってれば誰だってそう思うわよ。おまけにパンツ覗いて」「いててててて」「カバンで殴られて失神なんて、犬どころか金魚も食べないわね」
     パンツ覗いて、のくだりでぐりぐりとイソジンを押し付けられ、悲鳴を上げる僕。
    「不可抗力だッ! ていうか、常識的に考えて校則違反スレスレのスカートで廻し蹴り喰らわす女なんかいるかよ」
    「そういえば、パンツ見えたら困るから何とかしろっていつか説教してたわね、草薙君」
    「そんでモップの柄で殴られたよ高村さん」
    「どうして困るのかしら?」
     女教師のような口調で訊いてくる。
    「どうしてって……目の毒だろ。何かの拍子でそんなモノが視界に入ったら」
    「そうねえ、他の男子に見られるのはイヤよね」
    「おい人の話聞いてるか?」
    「はい終わり」
     僕の言葉を軽やかにスルーして、高村は額に絆創膏を貼った。そして立ち上がりつつ、
    「まさか気絶するとは思わなかったから、少しくらいここで寝ててもいいわよ。先生にはわたしから言っておくから、草薙哲哉は有原春香のパンツ覗いて保健室送りになりましたって」
    「その前の過程をはしょりすぎだ!」
    「あんな話を細大漏らさず報告しろなんて言ったら、わたしも怒るわよ」
     声のトーンが女教師から生真面目な女子高生になった。
    「……言わねえよ」
    「わかってるわよ。それじゃ、あとは付き添いに任せるから」
     ドアを開け閉めする音。……付き添い?
    「出てきていいぞ、そこのバカ」
     返事の代わりに、かさりと物音。