ニコラス・クリストフ(ピューリッツアー受賞記者)著「北欧の幸福から学ぶべきこと」(ニューヨーク・タイムズ)
アメリカ企業で、たとえエントリーレベルの仕事でも、高給と素晴らしい福利厚生を得る方法をご存知か?ノルウェーに移住して、そこで仕事を見つけよう。
 建設作業員、ホテルのメイド、ガソリンスタンドの店員、レジ係などは、通常、時給20ドル以上に加え、夜間や週末の手当、年間約5週間の有給休暇、年金、合計1年間の産休・育児休暇、そして子供が病気の際の有給休暇を取得できる。
これらは、セブン-イレブン、バーガーキング、エクソンモービル系列のガソリンスタンドなど、ノルウェー企業か外国企業かを問わず、広く適用される条件。
もし米国やその他の国々の企業が、ノルウェーの小売業の仕事に対してこれほど手厚い条件を提示できるのであれば、自国でも同様のことが可能なのではないのか。
 こうした状況が生まれている背景には、北欧の社会・経済モデルこのモデルは、不平等の是正、機会の拡大、そして生活の質の向上を目指すものであり特に所得水準の低い層の底上げを図るもの。私たちが一般的に「低賃金」の仕事と考えがちな職種であっても、ノルウェーでは実際には決して低い収入ではない。さらに、国による医療や保育の提供に加え、強力な労働組合の存在により、一時解雇や解雇が行われることも稀
 安全、医療、そしてアメリカンドリームを求めるなら、スカンジナビアに目を向けよう。
「私たちはまさにアメリカンドリームを生きているのです」と、ノルウェーの元首相で現在は財務大臣を務めるイェンス・ストルテンベルグ氏は私に語った。「アメリカンドリームは、アメリカよりも北欧諸国の方が現実味を帯びています。」
20世紀半ばのアメリカは、ある意味で今日の北欧諸国のような状態だった」とカッツ氏は述べた。しかし、アメリカは1970年代に方向転換し、最終的にはレーガン革命を受け入れた。
 私が主張してきたように、この後退の一因は、人種差別的な政治的レトリックにあった。それは、あらゆる階層のアメリカ人が利用する一部のセーフティネットプログラムや機会への投資を、主に黒人に利益をもたらす施し物として特徴づけ、特に「福祉女王」という風刺的なイメージを強調するものであった。
 私は数十年にわたり北欧諸国を訪れてきたが、ここ15年ほど、故郷であるオレゴン州の田舎町の苦境を目の当たりにして、北欧モデルへの関心がさらに高まった。工場や製粉所が閉鎖され、メタンフェタミンが蔓延し、ホームレスとして路上で3人の学友が亡くなった。
彼らが社会保障制度の充実したスカンジナビアに生まれていたら、今も生きていたかもしれない、とつい考えてしまう。
アメリカ人が北欧のシステムについて語る時、しばしば3つの誤解が生じる。
まず一つ目は、これらの国々が社会主義国であるという誤解。確かに社会民主主義者が政権を握っていることが多いものの、経済は市場経済。スウェーデンは1970年代と80年代に準社会主義的な政策を試みたが、結果は経済危機。
二つ目の誤解は、北欧諸国の国民は手厚い福祉制度のために、給付金を受け取りながら怠けているというもの。確かに制度を悪用する人もいるが、北欧諸国の労働力参加率はアメリカ合衆国よりも高い。
三つ目は、ノルウェーの場合、その成功は主に石油資源の豊かさを反映しているという誤解。石油はノルウェーに大きな経済的余裕をもたらしたが、同国はその余裕を非常にうまく管理し、世界最大級の政府系ファンドに投資してきた。さらに、ノルウェー統計局の局長であるゲイル・アクセルセン氏によると、1970年代初頭以降のノルウェーにおける女性の労働力参加率の増加は、石油がもたらしたのとほぼ同程度の貢献を同国の国内総生産にもたらしたようだ。
女性は北欧経済の原動力として過小評価されている。女性の労働力参加率は、現在ではスカンジナビア諸国はこの指標でアメリカをはるかに凌駕。2025年には、アメリカの就労年齢女性の約56%が労働力人口に含まれていたが、スウェーデンとノルウェーでは約62%、アイスランドでは70%。もう一つの要因は、質の高い保育施設の利用可能性。ノルウェーの典型的な保育制度では、1歳から子どもを受け入れており、費用は約120ドル/月。低所得世帯にとってはほぼ無料。
 世界知的所有権機関(WIPO)が発表するグローバル・イノベーション・インデックスでは、スウェーデンは3位の米国を上回り2位にランクインしている。フィンランドとデンマークもトップ10入りを果たしている。
 これまで北欧諸国の政策について述べてきたが、成功の大きな原動力は政策そのものよりもむしろ規範にあるのではないだろうか?これらの国々は伝統的に均質な社会であり、相互扶助という村落的な価値観を維持している
北欧モデルは再現可能でしょうか?アメリカのコンビニエンスストアやガソリンスタンドは、レジ係や店員に時給20ドル以上、年金、そして5週間の休暇を与えることができるか?
 経済学者たちが私に語ったところによると、一つの課題は、多くのアメリカ人労働者と比較して、ノルウェーの労働者は識字率が高く、薬物検査に合格しやすく、テクノロジーの扱いにも長けており、長期にわたって雇用される傾向があるため、雇用主はより経験豊富で生産性の高い労働力から恩恵を受けるということだ。つまり、北欧の雇用主は、労働者がより多くの収入を生み出すため、より高い賃金を支払うことができるのである。
そういう意味で、北欧諸国から学ぶということは、最低賃金を引き上げれば幸福度が急上昇するというほど単純な話ではない。むしろ、幼児期から大学教育に至るまで人的資本への投資を行い、あらゆるレベルで機会を拡大するために絶え間なく努力するという課題に取り組む必要がある
こうした取り組みは増税につながる。しかし同時に、労働者のスキル向上と生産性向上にも貢献する。遠くから見ると、北欧の労働者がどれだけの収入を得ているかが分かるが、間近で見ると、彼らがどれだけ社会に貢献しているかが分かる。