トランプ氏は脅しを繰り返しているが、世界はもはや動じなくなっている。
司法による制約を受け、議会には拒まれ、イランには翻弄される同氏の姿を目の当たりにしてきた世界の指導者たちは、もはやその大言壮語に動揺することはない。
世界の指導者たちがトランプ氏の手法に慣れるにつれ、同氏による脅しや威嚇の効力は薄れている。イランや中国といった国々が同氏の要求に対して強硬な姿勢を崩さない中、専門家らは同氏の影響力が低下していると指摘している。(スティーブ・ヘンドリックス、アンソニー・ファイオラ/ワシントン・ポスト)
20254トランプ大統領が関税引き上げを記したパネルを手に「ローズ・ガーデン」に颯爽と現れた際、世界はまるで火災報知器が鳴り響いたかのように騒然となった。市場からは数兆ドル規模の価値が吹き飛び各国特使がワシントンへ急行し、75以上の政府が交渉に奔走した。中には、合意を急ぐあまり、入念に準備していた対抗策を放棄する国さえあった。
それから16ヶ月が経過した今、貿易を武器にする、カナダを併合する、グリーンランドを奪取する、NATOから離脱する、イランを壊滅させるといった驚くべき脅しは相変わらず続いているがかつてのような警鐘の音は鳴り止んでいる。世界の指導者たちはもはや容易には動揺しない。大統領が裁判所に阻まれ、議会に拒絶され、テヘラン(イラン政府)に翻弄される姿を目の当たりにしてきたから。彼の最後通牒は空振りに終わり、支持率も低迷
 先月、トランプ氏が新たな関税攻勢を発表した際も、世界は悲鳴を上げるどころか、肩をすくめる程度の反応。今回の措置は、最高裁による制限を回避するため、児童労働違反を理由に掲げたものであったが、フランスの中央銀行総裁は影響は軽微だと予測。英国は、自国の輸出業者への影響はほとんどないと表明し、メキシコの経済相も、単に既存の関税が別の関税に置き換わるだけだとして、意に介さない様子。
威嚇的な言動に慣れきってしまった金融市場も、ほとんど動じなかった。
 トランプ氏の2期目が折り返し地点に近づく中、当局者やアナリストらは、同氏の「十八番」とも言える力――ソーシャルメディアでの威嚇や衝撃的な発言でパニックを巻き起こし、そのパニックを自らの望む結果へと転換する(「この件にご注目いただき感謝する」といった調子で)力――が陰りを見せ始めていると指摘する。大統領という「世論を動かす強力な演壇(ブリー・パルピット)」は依然として存在するが、もはや聴衆は恐怖に震え上がってはいない。
「私たちはこうした日々の発表に慣れてしまっています」と、欧州議会の対米関係代表団の議長を務めるイタリア選出議員、ブランド・ベニフェイ氏は語る。「もはや、それらをそれほど深刻には受け止めていません」
 国内に目を向ければ、トランプ氏は依然として国民の議論を支配し、政策の主導権を握り続けている。とはいえ、エプスタイン事件に関する記録を非公開のままにすることや、自身の看板政策である「セーブ・アメリカ法(Save America Act)」を可決させることについて、共和党が多数を占める上院を強引に動かすことはできなかった。今週に入っても、トッド・ブランシュ氏を司法長官に指名する手続きを再び軌道に乗せるためには、譲歩を余儀なくされている。
海外に目を向ければ、何よりもまず、イランは米国の爆撃に屈してホルムズ海峡を再開することを拒み続けており、ロシアのプーチン大統領もウクライナでの戦争を継続している。トランプ氏が最近再び持ち出したグリーンランド購入の要求に対し、欧州は一様に呆れ返った反応を示し、貿易相手国も最新の関税措置を意に介さない様子を見せている。
 米国がもたらす混乱にうんざりしている世界にとって、トランプ氏の誇張や大言壮語は「織り込み済み」の事象。その脅しは往々にしてブラフ(はった り)であり、衝撃や驚きを与えることを好む同大統領も、結局は引き下がることが多い。
 シンクタンク「欧州外交問題評議会(ECFR)」で米国プログラムの責任者を務めるジェレミー・シャピロ氏は、株式トレーダーの間で使われる「TACO(トランプはいつも土壇場で尻込みするTrump Always Chickens Out)」という言葉が、世界の各国の首都でも定着し始めていると指摘。
 シャピロ氏は、トランプ氏の任期初期に世界を動揺させた強気な言動について、「あれほどまでにはったりが通用していたことには、少し驚かされました」と語った。それらが効果的だったのは、「米国の圧倒的な力と、長年にわたり蓄積されてきた外交的資本」を背景にしていたからだと同氏は説明する。しかし、トランプ氏は今や、そうした蓄えを「ついに浪費し始めている」。
「各国当局者は、彼が一種の『いじめっ子』であり、実はかなり臆病な人間だということに気づき始めています」とシャピロ氏は述べた。7
中国は、100%の関税を課すというトランプ氏の脅しに対し、一歩も引かない姿勢を貫いた。さらに、レアアース(希土類)の供給を事実上独占している強みや米国産大豆の購入停止といった手段を講じ、米国政府を譲歩に追い込んだ。この一件は、毅然とした態度で臨めばトランプ氏が折れることも多いという教訓を、他国の政府にも知らしめることとなった。
 ブラジルの・ルーラ・ダ・シルヴァ大統領は、ジャイール・ボルソナーロ前大統領の訴追を阻止する狙いで課された50%の関税措置を無視した。なお、ボルソナーロ氏は武装クーデターを扇動した罪などで有罪判決を受け、結局は禁錮27年の刑を言い渡されている。
トランプ氏の「威嚇による力」の失墜が最も顕著に表れているのがイランだ。米国とイスラエルは爆撃作戦を展開し、イランの最高指導者やその他の高官を殺害したものの、イスラム体制を崩壊させることはできなかった。それどころか、世界のエネルギー供給やその他の貨物輸送の要衝であるホルムズ海峡に対する同体制の支配力は維持されたままである。
 トランプ氏は、テヘラン(イラン政府)に対し海峡の再開を求める最後通牒を次々と突きつけ、特に、拒否すればイランの「文明」を抹殺するとまで脅した。しかし、海峡は閉鎖されたままだった。イランは国家存亡の危機に直面しても屈することはなく、トランプ氏は体制転換やイランの濃縮ウラン備蓄に関する自身の掲げていた目標を、ひっそりと修正するに至った。
 「脅し、爆撃し、そして引き下がる――こうした一連の行動を通じて彼がイラン側に印象づけたのは、彼が追い詰められ、必死になっているという姿だ」と、ロナルド・E・ニューマン氏は指摘する。同氏は、ビル・クリントンおよびジョージ・W・ブッシュ両政権下でアフガニスタン、バーレーン、アルジェリアの駐在大使を務めた、経験豊富な職業外交官である。「熟練した交渉人から見れば、それはつまり、こちらの要求水準を下げる必要はない、という意味になる」
トランプ氏による強硬な圧力も、欧州諸国を自身の対イラン・キャンペーンに引き込むことには失敗した。同氏は、支援を拒否したスペインに対して全面的な貿易禁輸措置をちらつかせ、英国・フランス・ドイツには国連制裁の再発動を迫り、さらにはNATO(北大西洋条約機構)に基づく米国の義務を履行しない可能性さえ示唆した。しかし、こうした同盟国は対立へのさらなる関与を拒否し、スペインやイタリアといった一部の国に至っては、基地や領空の利用を認めない措置をとった。