NYT「ロシアとウクライナ、終わりの見えないエスカレーションの連鎖
双方がミサイルやドローンを駆使して相手を屈服させようと激しい攻撃を加え合い、絶え間ない人道的苦難を招いている。しかし、どちらの国もその決意が揺らぐ気配はない。」
双方は、主要都市近郊にある食料や通信販売の配送品を保管する倉庫を焼き払っている。また、重要な輸出品である穀物を積んだ港や船舶を攻撃し、電力供給や車両の燃料供給を支えるエネルギー網を破壊している。
 ロシアとウクライナは、前線から遠く離れた都市部においても、報復の応酬となる激しい航空戦を繰り広げている。その結果、2022年にモスクワが全面侵攻を開始して以来、最も深刻な苦痛が双方の国民にもたらされている。
 前線が膠着状態にある中、双方は増強されたミサイルやドローンの戦力を駆使し、報復を行うとともに、相手を徹底的に叩いて屈服させようとしている。直近の例として、ウクライナの首都キーウ(キエフ)はここ数日、ロシアのドローンによる絶え間ない攻撃にさらされており、ひっきりなしに鳴り響く空襲警報が住民を苦しめている。
それでも、事態の激化によって、どちらかの国が戦い続ける決意を弱めるという証拠はない。専門家によれば、ロシアとウクライナ双方が、米国主導の和平交渉(今年は目立った成果がなく、再開が見込まれている)において有利な立場を築こうとする中、この冬には人々の苦しみがさらに増すだろうという。
ウクライナは戦いをやめるわけにはいかず、ロシアもやめるつもりはないと専門家は指摘する。

 「問題は、ウクライナに比べてロシアがどれだけの痛みに耐えられるか、という点にあります。そして、ロシアは多大な痛みに耐え得る国なのです」と、フィラデルフィアを拠点とする外交政策研究所(FPRI)の軍事専門家であり、頻繁に前線を訪れているロブ・リー氏は語った。
 こうした「目には目を」の報復合戦という新たな局面が加速したのは、6月下旬のことだった。当時ウクライナは、ゼレンスキー大統領が「戦争終結を余儀なくさせる」ことを目的と掲げた、対ロシア攻勢(40日間に及ぶ作戦)を開始していた。
 ウクライナがその挑戦状を突きつけて以来、同国の長距離ドローンは、大手オンライン通販企業の倉庫を30カ所以上攻撃している。その多くは、ロシア版Amazonとも言える「ワイルドベリーズ(Wildberries)」の施設だった。こうした攻撃はロシアの商業物流を混乱させ、中小の販売業者に甚大な損害を与えたほか、数人の倉庫作業員の命を奪う結果ともなっている。
ウクライナは、ロシアの石油精製所や燃料物流網への攻撃も続けている。先月にはロシア国内のガソリンスタンドの約70%でガソリンやディーゼル燃料が枯渇し、1990年代初頭のソ連崩壊以来最悪となる燃料危機に陥った。クレムリン(ロシア政府)は事態収拾を急ぎ、低品質なガソリンやディーゼルの販売を許可するなどの措置を講じた。しかし8月中旬になっても、モスクワ市内で燃料を販売しているガソリンスタンドには、どこも2時間待ちの長い列ができていた。
 さらに、アゾフ海や黒海沿岸地域のインフラに対するウクライナの攻撃は、世界最大の小麦輸出国であるロシアの農産物輸出に打撃を与え、占領下のクリミア半島を孤立させる事態を招いている。
ロシア経済は、成長がほぼ停止し財政赤字が急拡大しているものの、直ちに崩壊するような危機的状況にはない。しかし、ロシア領内深部への攻撃によって、ロシアの人々はかつてないほど戦争を身近に感じるようになり、こうした攻撃による民間人の死者数も開戦以来最多の水準に達している。
ウクライナの民間人の死傷者数は、開戦当初の数週間以来、最多となっている。
ロシアの弾道ミサイルや超音速ミサイルが、今やウクライナの都市をほぼ意のままに攻撃している。その主な理由は、ウクライナが保有する米国製迎撃ミサイル「パトリオット」の在庫が不足していることにある。時速370マイル(約600キロ)を超える速度に達するロシアの新型ジェット推進ドローンが、偵察や標的への体当たり攻撃を行っている。ウクライナの民間人の死傷者数は、開戦当初の5週間を除けば過去最多であり、ロシア側の死傷者数を大きく上回っている。
 ロシアによる黒海での攻撃は、オデッサ地域の重要な港湾機能を麻痺させ、2026年後半にはウクライナ経済に20億ドル以上の農業輸出損失をもたらす恐れを生じさせている。過去6ヶ月間で、300以上のウクライナのガソリンスタンドがロシアの攻撃により損傷または破壊された。食料品店などに商品を供給する倉庫や多数のショッピングセンターも攻撃を受けている。
プーチン大統領(はウクライナへの攻撃を激化させると明言している
ウクライナ側もまた、攻勢を強める可能性がある。同国は独自の強力な弾道ミサイルを開発中であり、この秋にも完成する見通しだと述べている。アナリストらによれば、もしそれが実現すれば、戦争は新たな局面に入ることになるという。
ペスコフ報道官は、米国主導の和平交渉が「深く停滞している」と述べた。その言葉を裏付けるかのように、木曜日から月曜日にかけて、キーウ(キエフ)では58回にわたり空襲警報が発令され、ミサイルやドローンによる度重なる攻撃にさらされました。
 専門家や外交官らは、本格的な和平交渉は来春か来夏まで行われないだろうと見ている。ウクライナ当局者によると、米国の主要な交渉担当者であるトランプ大統領の義理の息子クシュナー氏と、大統領の特使であり長年の友人でもあるウィトコフ氏が、交渉を再始動させるために近くウクライナを訪問する予定。しかし、こうした訪問の噂は今年に入って少なくとも4回流れたものの、実現には至っていない。
 ロシア側には、交渉に応じる姿勢は全く見られない。ウクライナ当局者や西側の外交官によると、プーチン氏は、ロシア軍がウクライナ東部のドンバス地域をいまだ完全には制圧できていないことに苛立っているという。現在ロシア軍が支配しているウクライナの領土は全体の20%弱にとどまり、3年前と比べてもわずかに増えた程度。
 空からの攻撃が激化する中、双方とも状況に適応。先週までには、モスクワのガソリンスタンドで見られた長い列も解消された。火曜日にはウクライナの多くの地域で新学期が始まりまったが、ロシアによるミサイルやドローンの攻撃は続いており、キーウの学校では昨年に比べて新入生(小学1年生)の数が10%減少。