孫崎享には毀誉褒貶が多い。かつて朝日新聞紙上で佐々木俊尚は孫崎の「戦後史の正体」を謀略史観だと評し、内容を次のように要約した。ロッキード事件、郵政民営化、TPPはすべて米国の陰謀であり、米が気に入らなかった日本の指導者はすべて検察によって摘発され失職した、と。さすがに後日、この書評には事実誤認があったとの訂正記事が出た。

 いっぽう、憲法記念日の朝日新聞には安倍政権下の日本の右傾化を憂う作家・小林信彦の長文の寄稿が載り、「戦後史の正体」の論述を「私の記憶する戦後史とほぼ重なっている」と高く評価している。

 その孫崎の最新作が「小説外務省」(現代書館)である。小説と銘打っているが、主な登場人物は実名で記述され、2022年の日本の社会情勢を予言的にこう描き出す。TPP加盟後。多国籍企業が医療分野に参入し、高額薬を健康保険の対象に認めさせられる。その結果、支出が増大し、国民健康保険は