第1回の開催から今年でちょうど四半世紀が経つ麻雀最強戦。麻雀最強戦レポーターの梶やんが、近代麻雀で掲載された過去の名対局やエピソードなどをピックアップし紹介する[不定期連載]


第5回最強戦が開催されたのが1993年8月5日。この年は「Jリーグ開幕」「皇太子殿下と小和田雅子さんの結婚」「ドーハの悲劇」「プロ野球FA制度実施」などがありました。

さて、この年の最強戦からは「竹書房新人王戦」が本大会の予選として行われました。若手プロの予選として近代麻雀から選抜された打ち手たちの対局が行われた。ここで勝ち上がったのがプロ連盟の滝石潤プロでした。滝石プロは第7期の十段位(1990年)のタイトルも獲得しており、西原理恵子さんの『まぁじゃんほうろうき』にもしばしば登場するプロ連盟の若手のホープという存在でした。ちなみに私がプロ入りしたのもこの年です。昨年の最強位の佐々木秀樹さんや今回の新人王戦を勝った滝石プロなど、20代前半の打ち手が活躍する姿を見て刺激を受けたのかもしれません。

現最強位の佐々木秀樹さんをはじめ、今回参加したのは山田英樹・小島武夫・飯田正人・井出洋介・伊藤優孝・荒正義・山崎一夫・金子正輝・馬場裕一・安藤満・片山まさゆき・伊集院静・河本正敏・長谷川和彦・灘麻太郎・滝石潤の17名でした。

まず注目されたのが作家の伊集院静さんです。雀豪としても名高い伊集院さんは、あの雀聖・阿佐田哲也さんとも親交が深く、伊集院さんの小説『いねむり先生』は昨年ドラマ化もされました。また、前原雄大プロの、「雄大」という雀ネームの名付け親としても知られています。もちろん麻雀もプロを相手しても全く引けをとらないほどの実力の持ち主です。

予選1回戦東3局 ドラpai_s_2m.jpg
北家の伊集院さんの配牌はこちら
pai_s_2m.jpgpai_s_4m.jpgpai_s_7m.jpgpai_s_9m.jpgpai_s_1p.jpgpai_s_2p.jpgpai_s_6p.jpgpai_s_7p.jpgpai_s_9p.jpgpai_s_7s.jpgpai_s_8s.jpgpai_s_sha.jpgpai_s_chun.jpg

チャンタが狙えそうな配牌でしたが、伊集院さんは押し寄せる中張牌に逆らわず素直に内側に寄せて、次のようなタンヤオチートイツドラ2のイーシャンテンになります。
pai_s_2m.jpgpai_s_2m.jpgpai_s_6m.jpgpai_s_6m.jpgpai_s_7m.jpgpai_s_5p.jpgpai_s_6p.jpgpai_s_7p.jpgpai_s_7p.jpgpai_s_3s.jpgpai_s_3s.jpgpai_s_5s.jpgpai_s_5s.jpg

が、この時、親の灘プロの手はpai_s_haku.jpgトイトイの7700テンパイ。待ちはpai_s_5p.jpgpai_s_6p.jpgです。つまり、伊集院さんがpai_s_7m.jpgを重ねてしまうと、灘プロの手に飛び込むのは必至でした。

その伊集院さんはpai_s_6p.jpgを重ねてテンパイ。ここでどちらを切るか? 打pai_s_7m.jpgならセーフ、打pai_s_5p.jpgならアウトです。

伊集院「リーチ!」

なんと伊集院さんはリーチを宣言し、pai_s_7m.jpgを河に捨てたのです。結果、このリーチが最終的には親でテンパイの灘プロまでもオロしてしまいました。当時の観戦記には「理屈では言い尽くせない勝負勘と運とを合わせ持った打ち手だ」と記されています。



この第5回最強戦も前回同様、予選4回戦で上位3名が決勝卓に進出し、最強位・佐々木さんと半荘2回を戦うシステムです。予選3回戦を追え、飯田プロ・小島プロが優勢。この年は3回戦終了時にプラスしていれば誰でも決勝進出の可能性があるという混戦模様でしたが、飯田プロ・小島プロは手堅く2着をキープし、決勝進出を決めました。

残る1つの椅子は、予選四回戦のオーラスで大爆発した雀鬼会・山田秀樹さんが勝ち取りました。27500点持ちでオーラスの親を迎えた山田さんは、このラス親だけで30400点を稼ぎ、+81.5Pのトップで予選1位通過を果たしたのです。

決勝戦は佐々木さん、山田さん、飯田プロ、小島プロの4名が戦うことになりました。飯田プロは当時最高位を4連覇中でしたが、まだ最強位戦では決勝卓に座ったことがありません。昨年の最強戦を惨敗した飯田プロは、周囲から短期戦の勝負で結果を出すことは難しいからと慰められても、それに対しこう答えていたそうです。

飯田「どんな対局にしろ、我々プロが負けてはいけない。その点は、大いに反省しなくては…」

そんな決意を持った飯田プロでしたが、決勝1回戦では山田さんにサンドバッグにされてしまいました。決勝1回戦全13局中、飯田プロは8回リーチをかけました。それに対し山田さんは一歩も引かずに突っ張り返す。そしてことごとく飯田プロのリーチを潰してしまったのです。

東1局11巡目、西家の山田さんはメンピンドラ2のリーチをかけました。

西家 山田さん
pai_s_5m.jpgpai_s_6m.jpgpai_s_7m.jpgpai_s_7m.jpgpai_s_8m.jpgpai_s_9m.jpgpai_s_5p.jpgpai_s_6p.jpgpai_s_9p.jpgpai_s_9p.jpgpai_s_3s.jpgpai_s_4s.jpgpai_s_5s.jpg ドラpai_s_9p.jpg

これに対し飯田プロの手は
pai_s_7m.jpgpai_s_8m.jpgpai_s_9m.jpgpai_s_1p.jpgpai_s_1p.jpgpai_s_2p.jpgpai_s_3p.jpgpai_s_4p.jpgpai_s_6p.jpgpai_s_7p.jpgpai_s_8p.jpgpai_s_8s.jpgpai_s_9s.jpg

という形。pai_s_9p.jpgで三色に振り変わることを考えればヤミが常道です。そして山田さんのリーチを受け、一発目に引いたのがドラスジのpai_s_6p.jpg。これがpai_s_9p.jpgツモだったなら飯田プロもpai_s_6p.jpgを切っていたでしょう山田さんの捨て牌にpai_s_7s.jpgがあったので、飯田プロはヤミテンしそうなイメージですが、追っかけリーチもあったかもしれません。いずれにせよpai_s_6p.jpgを勝負するのは間違いなさそうです。

が、そういう利点もないまま、ただテンパイ維持だけでpai_s_6p.jpgを切るのは無謀です。飯田プロはここで現物のpai_s_8s.jpgを捨ててテンパイを崩します。さらに3巡後、pai_s_5p.jpgを引いてpai_s_1p.jpgpai_s_4p.jpgpai_s_7p.jpg待ちのテンパイに復活。当然、追っかけリーチです。

pai_s_7m.jpgpai_s_8m.jpgpai_s_9m.jpgpai_s_1p.jpgpai_s_1p.jpgpai_s_2p.jpgpai_s_3p.jpgpai_s_4p.jpgpai_s_5p.jpgpai_s_6p.jpgpai_s_6p.jpgpai_s_7p.jpgpai_s_8p.jpg

誰もが「さすが」と唸る回し打ちですが、実はこのテンパイ復活までの間に飯田プロはpai_s_7s.jpgを引いていたのです。つまり、飯田プロが無謀な勝負を挑んでいれば山田さんのリーチを潰せたのでした。結果、この局は流局。しかし、この局で山田さんと飯田プロの相性が決まったかのように、以後の展開は明暗がくっきり分かれてしまったのです。飯田プロの敗因が、冷静な対応にあったというのなら、なんと麻雀は理不尽なゲームなのでしょうか。

東3局、親の山田さんに親満・親っパネと飛び込む飯田プロは東場にしてハコテン。飯田さんの決勝戦はこの時点で「終わった」のでした。

(第9回 了)