争奪戦A卓に出場したのは、水城恵利(第11期野口賞)、手塚紗掬(初代女流雀王)、松岡千晶(初代東日本最強戦ガール東日本) 、大平亜季(現女流最高位)の4名。
まず先行したのは松岡である。
ノータイムでを捨ててのリーチに「へー、そういうものか」と思った。ドラが1枚でもあれば待ちに取るだろうが、ドラが0枚なら三色にして打点を高めたいところ。まぁ、打点力アップなら一発や裏ドラに期待できるし、「安くても先行したほうが展開的に有利」とか「アガりやすい形にすれば手塚の親も流せる」など利も多い。そう思えばやはり3門待ちに取るべきなのだろう。ただ、もしソーズがの形ならピンフと三色のどちらを選ぶか興味深いところである。結果は松岡がツモで700・1300で先行した。
続く東3局、松岡は目いっぱいに構えたことが功を奏す。
東3局6巡目 東家・松岡
ツモ ドラ
こういう場合、ピンフ形になっていることから安全牌のを抱える人が少なくない。ただ、一発勝負の親はとにかく隙を作らないことが大事である。松岡はここでを残し、次巡もツモでテンパイし、即リーチ。一発でをツモり、裏ドラを乗せて4000オールのアガリをモノにした。
続く1本場でも先手を取った松岡がカンのテンパイを入れ即リーチで押さえ込みにいく。大平がドラの単騎で追っかけたが、ここも松岡が競り勝ちリードを広げる。だが、2着目と24000点以上の差をつけたところで、少しホッとしてしまったのか。これ以降、松岡の攻めっ気に翳りがみえはじめた。ここからしばらく松岡以外の3人の争いが始まる。
水城が1300・2600をアガって迎えた東4局。手塚がのシャンポンでリーチをかけ、松岡も水城もオリるなか、親の大平が粘りをみせた。最終ツモでテンパイし、通っていないを勝負し親を維持したのである。
その次局、水城のリーチを受けながらカンで待ちで追っかける。
待ちは決して良いとはいえないが、この待ちが手塚から出る。
東4局1本場11巡目 西家・手塚
ツモ ドラ
手塚も、もしこの巡目でテンパイせず無スジを引いていればあたりで回っていた可能性が高い。まさにこのタイミングでテンパったからこそ出たであろう。半ば負けを覚悟で水城とのメクり合いを挑んだ大平にとっては非常に嬉しいアガリとなった。前局の押しがなければ、このご褒美にもありつけなかっただろう。
だが、好事魔多し。さらにアガリを重ねて松岡のトップに迫りたい大平にとって最悪の一局が待っていた。と仕掛けた大平の手牌はこの形。
東4局2本場6巡目 東家・大平
ドラ
この後、を引いたところでドラのを切る大平。その少し前、チャンタ狙いでを捨てていたが、これを引き戻したことで引きで強いテンパイが組める。また、大平はをトイツから1枚外し、もう1枚を浮かせたまま残していた。手塚がを1枚捨てていることから、引きのテンパイも強い待ちになる。と、ここまでは大平の描いていた構想通りだった。
だが、その直後、上家の松岡が捨てたに微妙な反応を見せた。実は大平の手で唯一、鳴きたい牌がこのなのである。
東4局2本場7巡目 東家・大平
ドラ
だが、しかないということが逆に大平からチーするという意識を薄れさせてしまった。松岡がを捨てた瞬間、ツモ山に手を伸ばす大平。だがその瞬間、大平は「鳴かなきゃ」と気づいていた。だが、もうツモる動作に入っている。ここからチーをするのは、ルール違反ではないが麻雀プロとしての作法としては「見苦しい」とされる。大平は潔くツモの手を止めなかった。大平がの食い延ばしをしなかったのはこういう理由からだったのだ。
だが、ここから大平の手はなかなか動かない。そうこうする間に、手塚にホンイツのテンパイ。
ドラ
さらに水城がテンパイを入れる。
東4局2本場13巡目 南家・手塚
ツモ ドラ
水城はここでドラを捨て、待ちでリーチ。
この時点で大平の手牌は、
という形。テンパイすれば水城・手塚のいずれかに放銃濃厚の形になっていた。そして大平が引いたのが。打で前に出たが、水城からロンと言われてしまう。大平、5200は5500の放銃となった。
当日夜、大平は自らのブログにこう記していた。
「東ラスの親番でペンチーしなかったことは1年中苦い思い出になりそうです」
悔いの残る敗退となった大平(左)
南入し、トップの松岡を追いかける3人の争いは益々熾烈になる。
南1局1本場は、タンピンの待ちで親リーチをかけた水城に、ラスめ手塚がピンフイーペーコー確定の待ちで追っかけ。さらにドラのを暗刻にした大平が応戦する。ここを制したのは手塚だった。
高目のツモに裏ドラを乗せてハネ満のツモアガリ。
これで2着に浮上した手塚。続く親でも上手くドラを重ねてチャンス手になった。
だが、これがなかなかテンパらない。アガリを諦め、ノーテン罰符獲得に向けて動く水城が仕掛け、そして親番維持の形テンを入れるため手塚も動く。が、この両者の仕掛けが松岡に最高のプレゼントを贈ることになった。
松岡は安全第一の構えを取りつつ、役なしのカン待ちのテンパイを入れていた。だが、トップ目だけにリーチもかけづらく、待ちも薄い。無スジを掴めばオリすらあるヤミテンだった。
だが、が4枚になったところでアンカン。そのリンシャン牌が何とだったのである。
カンドラにが乗ってマンガンのアガリ。東ラス以降、大平・水城・手塚の3人は松岡にプレッシャーをかけ続けていた。松岡もかなり引き気味に打っていて、点差がどんどん縮まっていた。だが、このアガリで松岡が生き返ったのである。こうなると親のない水城・手塚はかなり苦しくなった。
2着の大平に23300点差をつけて迎えたラス前。流局寸前に松岡の手が止まった。
上家の手塚のにチーテンをかけるかどうか迷っているのである。結果、松岡はここで連荘することを選択したが、この判断はどうだったか?
解説の瀬戸熊プロは「動いてテンパイを入れて続行し、水城・手塚にチャンスを与えるよりは、親を洗ってオーラスの一騎打ち勝負に持ち込んだほうが良さそう」とコメント。私も概ね同意見である。上家から鳴きづらい状況で親との一騎打ちは決して楽ではない。親がリーチと言われれば飛び込みにくいし、かといってツモられて逆転ということも起こりうる。とはいえ、連荘した結果、水城や手塚に大物手をツモられて三つ巴になるよりは(一騎打ちのほうが)優勝の可能性は高そうに思える。
だが、松岡は連荘を選択した。そのことがダメ押しのアガリを導いた。
ラス親・大平との2軒リーチに競り勝ち、ダントツになる。オーラスは大平にやや粘られたが振り切ってトップとなった。
この対局では、リードして以降が「やや守りすぎ」という印象のあった松岡。手堅い打ち方はたしかに放銃を避けやすいが、前に出ないぶん局が停滞し点差を詰められやすくなる。女流プロ代表決定戦に出場するメンバーはその辺りの経験が豊富な打ち手ばかりなので、守るだけでは勝ちきれないことが多くなる。だが、一昨年、最強戦ガールとして全国を飛び回った松岡。そのときから比べて「強くなった」と評価する人は少なくない。これから女流プロ代表決定戦に挑むまでの数ヶ月の間、さらにレベルアップしてくることに期待したい。