女流プロも群雄割拠の時代である。若くて強いプレイヤーたちが次々と輩出されている。2011年の女流プロ代表決定戦を制した石井あやも、その冠でエントリーできる期間もそう長くない。優勝しない限り来年はない。そんな気持ちで石井は予選A卓に臨んだ。相手は、大崎初音・二階堂亜樹・高宮まりの3名。起家でスタートした石井は、対戦前の不安を払拭するメンピンツモ表1裏1の親満で最高のスタートを切った。
予選は2着勝ち上がりのシステムなので、後は手堅く打てば逃げ切れる可能性も高い。だが、今年の石井はその道を選ばなかった。
予選A卓の南3局3本場。3着の二階堂の親リーチを受けての一発目、石井の手がこうなった。
ツモ ドラ
二階堂のリーチに無スジのを切ればのテンパイ。ただ、ただ、親満を放銃すればトッブから三着に転落するだけに、石井は現物のを捨ててオリると思われた。自らの放銃で相手3人を喜ばせる必要はないからだ。
だが、石井はすっとを押した。
石井「安全牌の2巡凌いでも後が続かないし、ここでアガれれば一気に楽になると思って勝負しました」
結局、石井は危険牌を引いてオリるが、その直後、二階堂がで親倍をツモる。
ツモ ドラ 裏ドラ
アガった二階堂の手をみて「今日の私は冴えてる」と思ったかもしれない。結局、トップは二階堂に譲ったが、石井は2着で決勝卓へ進んだ。
決勝でも、石井は鋭い冴えをみせる。トップ目で迎えた南1局1本場、石井はカンで役なしのテンパイ。下家の親・和久津晶はチャンタのカン待ち。また、南家・二階堂もポンで待ちのテンパイだった。
ここで石井は和久津のロン牌を引く。二人が仕掛けはテンパイ濃厚だが値段は不明、以外にも危険スジは多いので、石井はをツモ切ると思われた。だが、石井はを止めてオリる。
石井「親の和久津さんに対し、亜樹ちゃんも押し返していた。その亜樹ちゃんが渋々を二鳴き。これは安いけど勝算のあるテンパイだろうと思い、これ以降、自分は無スジを引いたらオリると決めていました」
ここは二階堂に任せ、2着目・和久津の親を流してもらおうと考えていた石井。その直後に、無スジで和久津のロン牌を引いた。これを石井が止めるのはある意味必然だったのである。
リフレッシュが優勝へ導く
石井は、今年のはじめから約1ヶ月間、実家でのんびり過ごしたそうである。
プロ入りから6年、対局と仕事の毎日で、石井の心も体は疲れ切っていた。パンク寸前の石井が下した結論が「長期休暇」だった。
石井「周りからは『お見合い? 結婚?』と騒がれましたが、本当にひたすら実家でダラダラしてました」
この休養の効果は抜群だった。元気を取り戻した石井は東京へ戻ってきた。この代表決定戦では「ひより過ぎない」というテーマを決めて臨んだという。
石井「プロクィーンで押しまくって勝った和久津さんを見たこと。休暇中にも色々考えて決めました」
予選A卓での二階堂への押しもその決意の表れだった。
だが、押しが裏目に出た局もあった。決勝東3局、石井は48500点持ちのトップ目で待ちのタンピンイーペーコーでテンパイ。だが、下家の和久津がドラと役牌をそれぞれポンしてテンパイ濃厚。トイトイ含みのハネ満も十分ありうる。
ここで石井は無スジのを掴んだ。和久津の最終手出しは。普通は突っ込めない牌である。しかし、石井はひよらずに押し、ハネ満を放銃した。
石井「さすがにやり過ぎたと思いました。でも、この時は『これから自分の親だし』と切り替えました。1人より2人リードのほうが、脇の標的にならずにすむし、局も回せるかな、くらいに思っていましたね」
次局以降も精神的ダメージを引きずりそうな放銃を、逆に前向きに捉える。これもリフレッシュの効果か?
ただ、この後は一進一退の攻防が続く。供託リーチ棒が3本となった南2局2本場。ついに山場を迎えた。
テンパイを先に入れたのが石井。7巡目に食いタンでテンパイを入れた。
チー ドラ
だが、そこへ親の二階堂からリーチがかかり供託が4本。また、豊後葵・和久津からも勝負気配がみえる。せっかくテンパイを入れていた石井だが、ここは我慢すると思われた。だが、石井は二階堂のリーチへ次々と無スジを押し返した。
石井「1~2枚は勝負していいかな、と。豊後も和久津さんも押していて、親の亜樹ちゃんはドラのない手、安いかもと思いました」
仮に放銃してもラス親がある。その気持ちが石井を後押しする。結果、和久津からを討ち取る。
そのままゴールまで駆け抜け、2011年以来の返り咲きを果たした。
ドラそばへのケアも忘れずに
A卓南4局1本場 北家・二階堂亜樹
ツモ ドラ
十分なリードで迎えたオーラス。を引き、出アガリできる待ちに取れるようになった。だが下家で親の高宮がホンイツ模様の仕掛け。ここで選んだ一打は?
高宮はポン、カンチーと仕掛け、最後に手出しでを捨てた。
高宮の捨て牌
ぱっと見、マンズのホンイツの捨て牌。は当然切れない。が、二階堂はすら捨てず、打でテンパイを崩したのだ。
ドラ
二階堂「ドラのまたぎの受けも高宮に通ってないですからね。役牌のも暗刻だし、焦って無理にテンパイに取ならくてもいい立場ですから」
実際、高宮の入り目はだ。二階堂の胆力と洞察力に感嘆させられた一打であった。
マークすらさせない大逃げ狙い
東4局1本場 北家・豊後葵
ツモ ドラ
東ラス、トップ目で迎えた豊後は和久津の先制リーチを受けた同巡、チートイツドラ2でテンパイ。一発で無スジのを通したものの、次巡再び通っていないを引いて悩んだ豊後の選択は?
ここで豊後は何とツモ切りで追っかけリーチに出た。
勝負は分かるが、何も無防備になるリーチをかけなくてもとは思えるが…。
豊後「テンパイした以上、オリはないです。ただ、ヤミテンの間に『6400を加点しても、この程度のリードじゃ逃げ切れない』って思ってしまったんです」
豊後は相手3人を舐めるどころか、本気でリスペクトしていた。自分に運があるうちに、一気に安全圏に逃げる。だから追っかけリーチが必要だったのだ。結果、ツモアガリとなり、残る3人に2着争いをさせるように仕向けたのである。