2015年11月28日、最強戦ファイナル出場を賭けた「サイバーカップ」に8名の選手が出場。今回は予選A卓の戦いをレポートします。
決勝は頭取りなので全員が前に出る場面が少なくないが、2位まで勝ち上がれる予選の場合、序盤はどうしても様子見になりやすい。ところが、東1局からそんな予想を覆すバトルが繰り広げられた。まず、北家・山井が先行リーチをかける。
ドラも役もないシャンポン待ちだが、カン、カン、暗刻という苦しいところを次々に引いてきたことに好感触を得てのリーチということか。
ただ、「おそらくたろうプロが攻め返すと思います」という滝沢プロの言葉通り、南家のたろうもすぐに反撃に出る。
こちらはドラこそ1枚あるが、場にが1枚切れ。だが、たろうはこの形のまま追っかけリーチを敢行した。
そして親の鍛治田も黙っていない。
ドラ2のイーシャンテンから薄いほうの入り目を引き入れての追っかけリーチ。直前のを通され、さらに切りで追っかけられた子方の2人はさぞかし寒い思いだっただろう。待ちの枚数からいっても鍛治田の優位は明らか。どちらが親満に飛び込むのか? それとも鍛治田がツモるのか? そんな思いで見ていた視聴者も少なくなかったはず。だが、勝ったのは鍛治田ではなかった。
アガったのは山井である。裏も乗って2600。チャンス手を決められなかった鍛治田は悔しい一局となった。次局も鍛治田はリーチをかけるが一度もツモれないまま白鳥にアガられ、さらに東3局はたろうのリーチに手が詰まり、トイツになったを捨てるとそれにロンと言われてしまう。いずれもダメージは小さいものの、嫌なムードが漂う滑り出しとなってしまった。
だが、東4局で鍛治田は今までのマイナスを取り返すアガリを決めた。
リーチ・ツモ・チートイツのアガリ。裏は乗らなかったが、1600・3200のアガリとなり、持ち点を24200まで回復させた。これにより、全員が横一線の状況で南場を迎えることになった。
南1局。先手を取ったのは山井だ。
待ちのメンピンリーチだが、ツモって裏ドラが1枚でも乗ればこの小場なら一気に有利な状況に持ち込める。
だが、その一方で親の鍛治田が一撃を狙っていた。
山井のリーチの前にと仕掛けていた鍛治田。を4巡目に捨てていてホンイツはややボヤけていたものの、相手からすれば手の高さ・待ちの良しあしを把握しづらい「気持ち悪く、近寄りがたい」という仕掛けとなっていた。そんな鍛治田が無筋を次々に飛ばしていく。いよいよ鍛治田の手が本物だという雰囲気が卓上に漂い始めた。
だが、そんな鍛治田に悩ましい牌がきた。
山井が直前にを捨てているため、切りやすいのは。ただ、を捨てているため、この選択は難しい。ここでの裏目は致命傷になるだけに、鍛治田は長考。実況席はおそらくこのままをツモ切りするだろうという見方をしていたが、鍛治田の選択は打。のシャンポンに受けた。待ちは少し悪くなるが、打点が一気に高まる。
が、鍛治田のこの手は実らなかった。
山井がをツモり、裏も1枚乗せた。山井にとって理想のアガリとなり、これで一歩抜け出した。
その次局、白鳥が興味深い一打を放つ。
この局は中盤過ぎ、東家のたろうがでチーして食いタンのテンパイ。南家の山井がのポンテンで待ちのテンパイを入れる。そこへ北家の鍛治田がカン待ちのリーチをかけ3人テンパイとなっていた。だが、誰もツモらず、放銃もせずという状況で流局寸前。鍛治田のハイテイを前に白鳥の手が止まった。
安全牌なら直前に山井が捨てたを合わせ打ちすれば良いだけ。だが、白鳥はそうせずに何かを考えている。もしかしたら、たろうか山井に何かをポンさせてリーチの鍛治田のハイテイを飛ばすことを考えているのだろうか? もし山井がポンすれば白鳥にもう一回ツモが回ってくるので、そうすればチートイツでテンパイが入るかもしれない。じゃあ、何を捨てるのか。実況席では捨て牌モニターに映っている牌を必死に追っていた。だが、それらしい牌は何も見当たらない。
じゃあ何だ? 白鳥の思考が分かったのは山井のを捨てたときである。白鳥は1人ノーテンで全員に4000点差をつけられるより、トップ目の山井に安手を振り込んでダメージを最小限に抑えることを選んだのである。
南2局1本場 供託1000点
鍛治田21600 たろう24700 山井32200 白鳥20500
一方、今回のように山井へ放銃した場合、
南3局
鍛治田20600 たろう23700 山井32200 白鳥22500
局数は減るが、点差はつけられずに済む。それが損なのか得なのかは微妙なところかもしれない。ただ、山井の点数と待ちを読み、それが得と判断した白鳥の選択とそれを実行する胆力は凄いと思わせる一局だった。
ただ、次の南3局、もっと凄いことが起こった。
7巡目にたろうが暗刻でリーチをかけた。
ツモって裏1あればオーラスで理想的なトップめに立てる。親の山井はまずオリる。放銃すればトップめを明け渡す可能性があるからだ。オーラスでトップめと2着めは立場が全然違う。トップめは放銃さえしなければどうなっても通過は堅い。だが、下位陣の的にされる2着めは自力でケリをつけなければならない可能性がかなり高い。前に出ればそれだけ放銃リスクも高まるが、傍観していてもツモられたり脇の放銃でマクられるので、否が応でも行かざるを得ないのだ。
さらに、現状の3着めの白鳥も無理はしない可能性が高い。こちらはラス親が残っているからだ。唯一、攻め返すのは鍛治田だが、たろう自身の待ちも悪くないので出アガリできる可能性も十分だ。
そんな思いでリーチをかけたに違いないたろう。だが、親の山井がまさかの追っかけリーチをかけたのである。
だが、結果はたろうがツモで決着。裏ドラも乗せて満貫のアガリを決め、理想の並びでオーラスを迎えることになった。
対局後、この追っかけリーチについて、山井はこう語った。
山井「ここで鈴木プロに満貫をツモられると、オーラスを迎えることになります。で、実際にそうなって(たろうに満貫をツモされて)苦しんだんですけど。それを避けるために、いい状態で親番を迎えられたので『この状態なら戦えるな』と思い、あの曲で決めようと思って追っかけリーチをかけました」
実際、オーラス、山井は決めきれなくて苦しんだ。オーラスが始まって決着するまで50分もかかったのである。トップ目のたろうはひたすら配牌から山井の仕掛けを期待して牌を降ろしていくが、山井の手が仕掛けられる形にならない局が続いた。
一方のラス親・白鳥もなかなか決定打を放てない。
テンパイ連荘を重ねた南4局2本場では、2着め山井から直撃を取った。
裏が1枚でも乗れば白鳥がトップになり、決勝進出を果たせる。だが、山井の攻める気持ちが神に通じたか、裏ドラは乗らなかった。とはいえ、直撃を取ったことで次の局はアガってもよし、流局でノーテン宣言をしてもよしの状況になった。
そして3本場、長い長いオーラスにようやく決着がついた。勝ったのは山井であった。
前局の放銃で3着めに落ちた山井が、ようやく自力で決められる手を入れてリーチ。そして、残りツモ2回のところで待望のアガリ牌を引き寄せ、たろうとともに決勝進出を果たしたのである。