プロレス本読み比べその4 To Be The Man リックフレアー自伝
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プロレス本読み比べその4 To Be The Man リックフレアー自伝

2015-07-04 11:10
    さて、ここ3回続いたプロレス本特集の最後を飾るのは
    専門誌ライター、新聞記者、ブッカーときて最後はやはりレスラーの本、
    それも「レジェンド」と呼ばれる方の本を紹介したいと思います。

    リックフレアー / To Be The Man リックフレアー自伝



    購入場所:地元のブックオフ

    購入金額:960円

    1980年代にアメリカプロレスのメジャー三団体の1つ、NWAのトップの座に就き
    2008年(正確には11年)の引退に至るまで90~00年代に渡って現役として活躍し続けた
    ネイチャー・ボーイ」(日本のファンに馴染み深い言い方だと狂乱の貴公子)
    リック・フレアーが2003年に出版した自伝です。

    俗に「業界一卑劣な男」「最後のNWA王者」「16回の世界王者」と言われ
    日本でも1980年代に全日本プロレスに「NWA王者」として度々来日して
    ジャンボ鶴田や天龍源一郎、長州力、三沢光晴といった一流選手と幾度となく対戦し
    のらりくらりと戦い「Oh,No!」と哀れみを乞いながらいつも最後は勝つイメージを
    記憶に持つ方は多いかと思われます。

    日本でのザ・グレート・カブキ戦

    80年代末期から90年代はアントニオ猪木率いる新日本プロレスにも参戦し、
    猪木が1995年に北朝鮮で試合を行った際に猪木の対戦相手を務めたのが彼でした。

    私は1990年代末期からプロレスファンに、しかも新日本プロレスのファンに
    なった関係で1980年代の全日本プロレスはリアルタイムでは知らないのですが
    プロレスマスコミの刷り込みもあってかNWA世界ヘビー級王者と言えば
    「世界最高峰のチャンピオン」と記憶されている方が多いかと思います。
    しかしながら、彼が王者の地位にいた時は後述のようにNWA自体の権力基盤が
    崩壊し始めていた影響もあり多くのファンからすると元王者のファンクス兄弟や
    スタン・ハンセンといった常連外国人レスラーに比べると「あんな弱々しい奴が
    王者にしたせいでNWAは衰退し始めた」と思う方もいらっしゃると思います。

    前置きが長くなりましたがそんな彼が30年近くのレスラー生活を綴ったのがこの本です。

    自伝の御多分に漏れず彼の生い立ちから始まりますが、
    そこでいきなり彼は養子縁組用の乳幼児売買事件の被害者であるという
    衝撃の告白から始まります。
    養子先の家で実子と変わらぬ愛情を注いでくれた養父母の話から
    やがてレスラーを志してデビューする頃までの話は他のレスラーの話と
    概ね似たりよったりの話です。

    2度目の戴冠となった1983年のハリー・レイス戦

    しかし、単なる無名レスラーであった彼が「元祖ネイチャー・ボーイ」である
    バディ・ロジャースを真似て金髪にしたり、マイク・アピールを必死に勉強し
    更には衣装や彼の代名詞である「Woooooo!」や前のめり受身といった仕草を
    修得する事で彼自身のレスラーのアイデンティティーを作り上げ
    彼のレスラー人生を左右するハメになった1975年の飛行機墜落事故の詳細や
    そこからリハビリを兼ねた肉体改造に成功し一気にトップスターの地位に登りつめる
    までの過程は他のレスラーでは書けないであろうバラエティーに満ちています。

    本人が「人生で最高の試合の1つ」と絶賛し、ファンからの評価も高い
    1989年5月7日のリッキー・スティームボード戦

    そしてこの過程で日本のプロレスラーの自伝本では必ず曖昧模糊にされている
    所謂「ケーフェイ」に関してもあっけからんと語っています。

    特に「現王者のブッキング(スケジュール)や次期NWA王者を決める為のNWA総会」や
    ジュース(流血)のやり方や意味、試合に関する具体的な取り決めやトラブル、
    更にはプロモーターのギャラの良さ悪さ(笑)、彼が出会ったレスラーの素顔や裏話を
    かなり綿密且つ現役・引退・存命・故人を問わず様々な人を語り尽くしています。

    中でも日本で三男が薬物中毒で急死した(当時はただ病死と発表)事で有名な
    名レスラー、フリッツ・フォン・エリックと次男を除く彼の子供達の不幸な死を
    俗に「エリック家の悲劇」と言いますが、フレアーはこの事に関しても

    デイヴィッド(三男)は素晴らしいアスリートでスターになる素養はあった
    (急死した三男の)部屋にあったヤクを処分したのは(子飼いの)ブローザー・ブロディー
    (ドラッグを)やるかやらないかは個々人の判断
    (四男の)ケリーはとても好きだったが重度のドラッグ中毒だった(中略)
    兄の急死でNWA王者になる事ができたが(薬が原因で)長期戴冠は無理だった
    フリッツは息子たちが(次男以外全員薬物中毒を)抱えている現実を見ようとしなかった
    (中略)彼が現実に目を向け息子たちに自分の行動に責任を持たせればああならなかった。

    プロならではの厳しくシビアな意見を述べています。

    一方でNWA王者として世界各地を遠征した際の思い出も記していて
    プエルトリコで現地住民が大暴動を起こす熱狂ぶりに「命の保証がない」と感じ取り、
    急遽シナリオを変更し王座を明け渡し、再戦も強引に負けた事にして
    九死に一生を得た(記録上は抹消されたそうです)様な話もあれば
    ホンのチラリとですがジャイアント馬場の政治的圧力を匂わす事も書いており、
    (馬場はNWA主流派と仲良くNWA王者が日本遠征をしてきた際に政治権力と
    多額のギャラを提示して遠征中だけ王座を公式に貸与させる行為を3回行ってました)
    その為、ジャンボ鶴田戦ではハリー・レイスが(監視役として)同行したという
    裏話を筆頭に日本のプロレスファンには衝撃的な内容も多数あります。

    その時の試合。
    因みに解説は「レイスが何やらアドバイスを送っています」と言ってますが
    彼曰く早く片付けやがれ!バスの中に冷たいビールが待っているんだ!だったとかw


    この様にNWA王者時代の彼はまさに「時代の寵児」とも言うべき活躍ぶりを
    していたのですが当の組織であるNWAが既に80年代にさしかかると
    アメリカの不景気に伴う緊縮財政と税金の値上げによりNWAに加盟していた
    地方の弱小団体の倒産(日本でも有名なファンクス兄弟のアマリロ地区等)が相次ぎ
    NWAを脱退し自分のテリトリーだけで興行を行うテリトリーも現れました。

    と同時に残っていた各地方の弱小プロモーター達も自分のテリトリーの
    興行を盛り上げる為にかつてジャイアント馬場がやった様に

      「おらが団体のスターにもベルト貸して王者にして」

    という安易な要求を拒否しきれず受け入れた事でNWAのブランド価値が低下し始め、
    更にはケーブルTVの普及やファンの見る目の肥えた事によりかつては使い回していた
    「安直な反則負けといった下手なアングル」が段々通用しなくなってしまい、
    そこに来てメジャー三団体の1つ、WWE(当時はWWF、以下改名までWWFで書きます)の
    全米侵攻作戦により全米各地のローカル団体が全滅に追い込まれて
    フレアーのレスラー人生は大きな転機を迎える事になります。

    文字通りフレアーがベルトを”貸した”1986年のダスティ・ローデス戦


    NWAも85年以降は従来の「プロモーターの合同カルテル」から
    有力プロモーターの1人であったジム・クロケットJrが実権を握り
    WWFに対抗して様々な拡大路線を行いますが時遅く債務超過へと転落してしまい
    TBSに売却、団体名を「WCW」に変更する事になります。

    そしてフレアーにとって「人生でどうしても許せない2人のクズ」の1人、
    ジム・ハード副社長との確執が主題となっています。
    ジム・ハードは元々ピザ屋で働いていた人間でTV局で少しプロレスに関わった
    ”ド素人”であり、安直に「WWFのパクリをすれば受けるだろう」
    名のあるレスラーに対して小学生にも受けないようなギミック(設定)変更を強要します。
    フレアーもその御多分に漏れず「古代の剣士、スパルタカス」という冒涜に近い
    ギミック変更を求められる等して精神的に追い詰められた挙句解雇されてしまいました。
    しかし、転んでタダで起きる人間ではないフレアーは何と

    まさかのNWA王座のベルトを持ったままWWF移籍

    という業界の掟破りのウルトラCをやって驚かせました。

    WWFのリングで実現した「80年代のアイコンVsアイコン」であるホーガン戦
    因みに持っていったベルトは裁判の結果、TV放映時は黒く塗りつぶされています。


    WWFでも世界王座を2度獲得する等して2年間ほど在籍した後、
    契約を延長せずフレアーはWCWへ復帰します。
    しかし、この復帰がフレアーにとっては

    これ以上、この世界にいたいと思わなくなってしまった

    と本人も述懐するほどの2度目の地獄でした。
    当時WCWの実権を「人生でどうしても許せないもう1人のクズ」
    とこき下ろしたエリック・ビショフが握り始めた直後で
    億万長者テッド・ターナーの豊富な資金源を使って上記のホーガンを始め
    数多くのWWFのスターを引き抜き始めました。
    更に移籍した選手の契約には

      「クリエイティブ・コントロール(自分の勝敗を自分で決めていい)」

    というトンでもない条件を付与した為、契約にそれが入ってないフレアーは
    「キャリアも全盛期を過ぎたタダの老いぼれ」扱いされ、
    フレアーの経歴をまるで無視するような格下との負け役や
    自尊心を破壊される様な惨めなストーリーを強要されていき
    精神的に病んでしまう様子が崩壊していくWCWの舞台裏と共に描かれています。

    マンデー・ナイトロ最終回でのスティング戦。
    プロレスへの情熱を失いかけていた為か
    トレーニング不足が祟りTシャツを着て試合をしています。

    詳しい内容は省略されますが今まで脈々と築きあげてきた自分の功績を
    全否定されるされる扱いを見るとまるで定年前に窓際族に追いやられた
    かつてのエリートサラリーマンの様な悲哀さ、苦しみが文章にも綴られています。

    そんな不遇の90年代を過ごし、一時期は「レスラー生活を続ける情熱」さえも失いかけてた
    フレアーですがWCWは放漫経営の末に倒産WWFに買収された事で転機が訪れます。

    最初はWCW末期にとレニーングを辞めてしまった為に試合をしない
    役割ですが、そこから体をリボルビングして試合復帰を果たし、
    徐々に自信を取り戻していく過程が綴られています。

    2007年の試合。NWA時代はこれをパイアグラなしで本当にやってのだから驚き(笑)

    そしてフレアーにとって更なる転機になる事が訪れます。
    それはかつてWCW時代に憎んでも飽き足らなかったエリック・ビショフが
    「契約タレント」としてWWEに入団してきた事でした。
    WCW時代は相手が「重役」あって手が出せず苦しめられたビショフに対して
    入団当初は「プロ」として大人的な対応をしてきたフレアーが
    積年の恨みを果たすべく2003年3月17日のRAW(TV番組)の舞台裏で
    ビショフを血塗れになるまでフルボッコにした(!)事で踏ん切りがつき
    「ネイチャーボーイ」としての自信を取り戻し5月19日の地元グリーンビル大会での
    彼を尊敬し戦い方まで影響を受けているHHHとのメインマッチとその後に
    ビンス・マクマホン以下大勢のレスラーが彼を祝福する所でこの本は幕を閉じます。

    フレアーにフルボッコにされた直後のビショフ。
    全く動揺していない辺り腐ってもプロです。

    その後フレアーは2008年にフレアー本人が「自分を上回る人物」と
    最大限の評価をしているショーン・マイケルズ戦で1度引退します。

    HBKとの1度目の引退試合



    しかし2009年には引退を撤回し2011年まで現役続行後2度目の引退をしました。
    その間に20年近く連れ添ったベス夫人と離婚し2度の再婚・離婚を経験、
    (オマケに4番目の奥さんとはDVを受けての離婚…)
    更には2008年にプロレスデビューした末子であるリード・フレアーが2013年に
    25歳の若さで薬物中毒で急死するなど順風満帆とは言い難い老後を歩んでいます。

    それでもリードの姉であるシャーロットがプロレスラーとしてデビューし、
    フレアー本人も今尚「ネイチャー・ボーイ」としてプロレスに登場しており
    これからも「生ける伝説」として活動し続けてくれると思います。

    シャーロットの試合に同伴するフレアー

    彼の自伝を見ると所々でファンから見れば思わず首をかしげるようなレスラーを
    評価していたり逆に誰もが知っている有名なレスラーを厳しく批判をする等
    「見る方とやる方の視点の違い」がありますが、それもフレアーが「伝説」として
    アメリカプロレス史に名を残す程の努力や活動を経験した上での持論ですので、
    「ああ、フレアーの様な考え方もあるんだな」っと思って頂けると一段と
    プロレスの奥深かさが実感できるかと思います。

    WWE好きは無論の事、例え猪木信者でも馬場さん好きの古くからの
    日本のプロレスファンにも是非とも読んで頂きたい一冊だと私は思っています。

    次回の本紹介は…スイマセン、まだ未定です。

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