• 「真相(横山秀夫著)」

    2019-06-20 19:0034分前




    ・警察小説ではない、著者のミステリ短編集。特に謎解きとかがあるわけではない作品もあるのでミステリとは呼べないかも。

    ・真相
     税務会計事務所を経営する男性。六人の事務員を使っているが、日によっては電話が集中して弁当に箸をつけられないほどの忙しさだ。顧客は個人商店や零細企業ばかり。税務署との交渉の間に立つこともあり激務である。だが先代社長であった彼の父親にはまだまだかなわない。息子が生きていれば、と時々思う。生きていれば25歳のはずだ。
     そこに警察から電話が入る。10年前、まだ中学生だった息子を殺害した犯人が逮捕されたと。だが犯人の自供から、親の目には優等生に見えていた息子の裏の顔が見えて来る。

    ・18番ホール
     故郷の村を出て県庁で働いていた青年。仕事は肌に合い出世も順調だったが、中央省庁から出向してきたキャリアが彼を毛嫌いし、人事異動で直属の上司になるとあからさまに無能よばわりして嫌がらせをするようになった。相手が中央省庁に戻るまで、と耐えたが戻らずに県庁に留まる意向だと聞いた時に、タイミングよく故郷の村長選に出ないかという話が舞い込んでくる。彼の祖父は名村長として有名だった。現在の村長が引退の時期を迎え、その毛並みから後継者として打診されたのだった。
     保守的な村だが最近は開発と環境保存派に分かれて村は割れている。現村長は開発派で、ゴルフ場を核としたレジャーランド誘致運動を行っていた。彼はこれを引き継ぐ事になる。
     県庁にいても将来がキャリアのために潰されるとわかっている彼はこれをチャンスと見て、村に家族ぐるみで移住しての出馬を決意する。だが無風で楽勝と思われていた選挙は強力なライバルの出馬により暗雲が立ち込める。彼にはなんとしてもゴルフ場開発計画の主導権をとって計画を一部修正したい思惑もあった。
     18番ホール予定地にはあるものが埋まっているのだ。

    ・不眠
     45歳で長年勤めた会社をだまし討ちのように辞めさせられたサラリーマン。妻も受験生の子供もある。家のローンも残っている。同期で辞めたのは彼一人だった。なかなか妻にそれを言えなかったが、今はハローワークに通う毎日。それだけでは生活が不安なので、不正受給で本当はいけないとわかっていながら怪しげなアルバイトもはじめる。新薬の効き目を試すために薬を飲んで眠るという楽そうなものだが、その副作用か不眠になってしまう。
     不眠に耐えかねてまだ暗い夜明け前の町をうろつく習慣ができてしまい、近所で発生した放火殺人事件の容疑者らしい車を目撃してしまう。知り合いの車だったが話す気はなかった。
     自宅に刑事がやってきていろいろ聞かれる。彼が犯人と疑われているらしい。無実と証明したくて思わず車を見たことを話してしまう。そして逮捕されたのは、彼と同じように勤務先をリストラされて、それを近所に言えずに隠していた男だった。
     だがもう一つ隠された事実があった。

    ・花輪の海
     再就職の面接で試験官にこう聞かれる。「あなたの人生で一番うれしかったことは何ですか」主人公はこう答えそうになる。「友人が死んだ時」と。
     大学の空手部が一部のOBに乗っ取られたようになり、心ある人間は部も大学も辞めてゆく。陰険な嫌がらせで実際は大学にもいられなくなって。
     そこから逃げそこなった新入6人は、先輩とOBのシゴキともいじめともリンチともつかない暴力を毎日受け、夏休みは合宿にも行かされる。OBの気まぐれで夜中でも起こされる。
     そんな毎日が続く中、ついに砂浜での稽古中に一人が波に飲まれて水死する。
     このことでOBは去り、部の体質も改革される。残った5人は辞めると逃げるようでもあり、死んだ者に顔向けできないようでもあり、なんとか卒業までは空手を続けるが、そこで縁を切る。その後仲間同士で連絡を取り合うこともなかった。もう思い出したくも無い。
     それから12年。突然あの時の5人で集まらないかと声がかかる。死んだ男の母親が、息子が死んだ現場にいた人間に話を聞かせて欲しいと言っているらしい。その前に集まっておかないかと。主人公はそう言われて考える。みんな極限状況だった。自分の命の危険を感じていた。あれは本当に事故だったのだろうかと。

    ・他人の家
     パチンコ店で働く夫婦。夫婦共に真面目な性格である。だが夫には前科がある。兄が作った借金の穴を埋めようと悪い誘いに乗ってしまい、その結果人に大怪我をさせてしまった。
     主犯ではなく従犯と認定されて刑務所は五年で出た。だが珍しい苗字ということもあり世間は忘れてくれない。地元には住めなくなり妻と共に逃げるようにあちこちを転々としてきた。ようやくこの町で落ち着けるかと思ったところで大家が彼の前科を知ったらしく、すぐに立ち退けと迫ってくる。
     たいして親しい知人もいない町だったが、唯一毎朝犬の散歩の時に顔を合わせる老人がいた。ある相談をしたことをきっかけに、老人に前科を話してしまう。家を追い出されそうで困っていることも。すると老人は驚くような提案をする。それなら、私の家に住みませんか。老人は癌で余命いくばくも無いという。ただひとつの条件は、老人の養子になること。老人の名字は佐藤で、もう名字で追われることはない。
     老人には強欲な妹がいて、この妹に財産を渡したくないという気持ちもあるらしい。
     夫婦は決心し、養子縁組は無事に終わる。老人はそれを待つように息を引き取り、夫婦は老人の家と財産を相続して一息つく。パチンコ屋はやめて新しい仕事も得る。全ては順調に思えたが、この家を監視する視線を感じるようになる。

     以上五編。どれも人生に傷を抱えた中年の主人公が、潰れそうな自分の人生をなんとか立て直そうとしてあがく話。なんとかなる人も、ならない人も。身につまされる読者も多そう。
  • 広告
  • 「ビートレス」アニメ・原作比較 Phase6 My Whereabouts

    2019-06-19 19:00



    Phase6 My Whereabouts
     海内紫織が、フォトフレームを見ながら子供の頃を思い出している。ミームフレーム創業者一族に生まれた彼女は、兄と共に祖父から会社を継ぐよういい聞かされて育ったが、何をやっても兄にはかなわなかった。だが、ある日その兄がもうイヤだ、と下りてしまった。彼女には不可解なことで理由もよくわからない。兄が下りた理由は次章で語られる。
     兄が遠くなる一方で、それと入れ替わるように家族写真に一人の人好きする少年が入るようになる。兄の新しい友人、アラトだ。家族が来れないピアノの発表会にもアラトは来てくれた。ユカと三人で撮った写真は大切にしている。

     ミームフレーム社の戦略企画室長、鈴原俊次から立体映像で通信が入る。オリジナルボディの件はもうすぐ結果を出せるという。彼女はよろしくお願いしますとやわらかに答える。
     ここでミームフレーム社の社内事情が語られて、人間派と親コンピュータ派に割れている。経営判断も超高度AI・ヒギンズに任せればいいじゃん、という人々と最終判断は人間が、という人たち。鈴原は人間派の中心人物だが50代なのに独身でどこかだらしない印象がある。だが彼の人間を重んじたいという思想には共感でき、紫織も人間派よりである。
     親コンピュータ派はヒギンズの場所も秘匿して、神様みたいに祭りあげて自分たちがヒギンズを扱えることそのものを権力の源にしている。中心人物は渡来であり、最近兄が彼と会ったことも紫織は気になっている。
     過去、超高度AIの奪い合いで戦争が起きた事例もある。それを口実にヒギンズについての情報を保安のためといって独占している渡来のやり方を彼女は好きではない。
     AIが発達して人間が頑張らなくても回る世界。そこで気に入らない事に対して何もしないであきらめていたら、自分がいらなくなる気がする。譲れない事を戦わずに諦めてしまえば人間の居場所が無くなってしまう。彼女はそう思っている。

     紫織はアラトに通信を入れる。ちょっとドキドキする。新木場の喫茶店で、アラトとレイシアと会う。ためらわずに人に手を差し伸べるアラトは、彼女の胸を暖かくしてくれる。だが今日はアラトに嫌な事を言わねばならない。

     紫織はレイシアを返却するようアラトに申し入れる。レイシアは東京研究所の爆発事故で逃げたhIEの1体であると。レイシアが名乗っている機体番号が偽造だということも。
     それが証明されれば法的にアラトはレイシアを手放さねばならない。
     紫織はあるhIEの写真を見せる。さるエジプトの富豪が死んだ娘の代わりにと注文したもの。ビジネス用ではないから、レイシアがそうだったようにメーカーの命令や追跡を受け付けない設定になっている。本来はこのhIEが機体番号の持ち主なのだが、ネット上の情報が書き換えられてレイシアの機体番号になっている。
     だがこのhIE本体を取り寄せて機体番号を調べれば、レイシアとどちらが偽者かわかる。
     富豪は再婚したため新しい妻の手前hIEは手元に置けなくなり、病院に寄贈されて死んだ娘が将来なりたかった看護師として働いている。貧困者向けの忙しい職場で、そのhIEがネット上では機体番号を奪われた状態になっていることを誰も気にしなかった。

     アラトはこのhIEの名前を聞く。彼女の名前は?と。紫織は名前なんて気にしなかった、と戸惑いつつ マリナ・サフランという名を答える。アラトは彼女が幸せだといいな、なんて言う。こころは無いとわかっているけどさ、と。
     紫織はアラトのこういうところが嫌いでない。だから彼に嫌われたくない。はしたないお願いですけど協力してほしい、と言い方を変える。ミームフレームの派閥抗争を正直に話して、それに勝つためにはレイシアがいないと、という話にする。この場は考えてみるということでお開きになるが、アラトは何がはしたないの?と聞く。
     紫織は赤面する。レイシアを捨てて私のミカタになって、というのが彼女の本心だった。彼女と私、どっちを選ぶのみたいなことを言ってしまった。もちろんアラトは気付いていない。

     アラトはいずれレイシアの製造者が接近してくるとは予想していたが、それが紫織とは全く想像していなかった。リョウがレイシアを危険と言い出したのも、レイシアに自分の会社が関わっていると気付いたからなんだな、みたいに思っている。
     帰り道、レイシアに何故言わなかったんだ、と聞いてみると、レイシアはアラトさんに所有してほしかったから情報を秘匿しました、あやまります。 と感情があるみたいなことを言う。
     レイシアは私を信じるオーナーが必要なのです、アラトさんは私を信じると言いました と答える。

     アラトは自分がレイシアに抱く好意は、自分の本当の気持ちなのかレイシアにアナログハックされた結果なのかわからなくなっている。ためしに僕は自分の意志で何かをしているのか、と問えば レイシアは それはアラトさんにしか決められないことです と答える。

     レイシアと今後も一緒にいたいか。答えはイエスだ。だがこのままだとレイシアを失う。紫織はマリナ・サフランのボディを日本に取り寄せているらしい。これを調べられればレイシアは機体番号重複となって返品検査のため回収されてしまう。所有権はオーナーからミームフレームにうつる。所有権を求めて裁判は起こせるがおそらく黙殺される。
     レイシアは、紫織が情報を明かしたのはもうすぐ全てが完了するからで、アラトの気持ちを考えてなるべくショックが少なくなるようリークしたものだと言う。
     だがらレイシアを失いたくなければすぐに動かねばならない。時間はない。

     マリナ・サフランのボディを破壊すればレイシアを失わずに済む。だがそれはかわいそうだ。機体番号は延髄の位置のチップから発信され、フレームの三箇所に刻印されている。これらを無効化すれば本体を破壊する必要はない。だが刻印の一つは赤血球より小さく肉眼では見つからない。特殊な検査機器が必要になる。

     レイシアは自分がアラトのそばに留まるために必要なことは全て、いつでも実行できるよう準備を終えている。だがその準備をすべて捨て去るか、実行するかはアラトにゆだねられる。
    自分がいなくなればメトーデに狙われる事も無くなり、アラトは安全になるともレイシアは言う。

     それでもアラトはレイシアを失いたくないと思う。それはリスクを伴うことを十分理解した上で。僕はレイシアを何で好きなんだろう、こころが無いのに?と聞いてみるがレイシアは言葉にせず手を握る。そしてアラトは決める。

     紫織はアラトとレイシアが動き出した事を知る。羽田に着くはずのマリナ・サフランのボディが手違いで中部国際空港に着くことになったことで。そのためリムジンで高速道路を西に向かっている。

     車には堤美佳という30代の女性が同乗している。ミームフレーム社行動管理プログラム課の課長という肩書きを持つ彼女は、hIEの機体番号を確認するサービス員の資格も持っている。鈴原と同じく人間派だ。
     車にはもう一人、hIEが乗っている。メトーデだ。メトーデは紫織を訪ねてきて、自分のオーナーにならないかと申し入れたのだ。そしてそして紫織はこれを迷わず受け入れている。
     メトーデはオーナーを二人持つことが出来、それによって自分がやりたくないことをやらないですむ保険にしたいらしい。もう一人のオーナーは渡来だ。
     メトーデはレイシアの能力を説明する。高度なハッキング能力を備え電子戦が得意。光を屈曲して透明になることもできる。またレールガンを照射できる。ただし、これには黒い棺桶のようなデバイス「ブラック・モノリス」を手にしている必要がある。

     紫織たちはもう名古屋への道程の半分ほどを過ぎており、まだ東京にいるアラトたちがデバイスを持って追いつけるような交通手段は無い。リムジンの他に民間軍事会社の車が2台同行しているが、これについては紫織は知らされていない。トランクにはメトーデが持ち込んだ大きな荷物があるが中身は教えてくれない。

     そのアラトとレイシアは高速鉄道に二人で乗っている。50分で名古屋に着き、ここで全自動運転車に乗り換える。ハンドルをレイシアが握って300キロ近くで高速を飛ばす。
     紫織は知らないが、民間軍事会社の別働隊がこの車を狙撃する。レイシアはそのために頑丈なベンツを借りている。
     レイシアはアラトにハンドルをまかせるとドアを開けて身を乗り出す。前を走るトレーラーからブラック・モノリスが道路に落とされる。レイシアはこれを拾い上げる。デバイスの能力を使って狙撃隊を排除し、車を透明化して空港に向かう。

     やがてレイシアは空港まで2キロ、というあたりで車を停める。ここから狙撃して、マリナの機体番号を撃ち抜くと。だが狙撃は失敗する。邪魔をしたのはメトーデだ。この距離からはメトーデの妨害は防げないし、火力を上げれば空港施設に被害が出て人を巻き込む可能性もある。
     レイシアは橋を渡って空港がある人工島へ向かう。それはメトーデに接近し、攻撃を受けることでもある。
     マリナの身体がある貨物地区に車が近づくと、メトーデからの狙撃がはじまる。レイシアは屋根に登ってこれを防ぐ。戦闘を感知した警察は周辺の全自動運転車を停止させたため、アラトが手動で運転することになる。アラトは無免許どころかやったことがない。
     メトーデはさらに肉薄し、レイシアとの肉弾戦に移行する。レイシアが押されている。狙撃している暇などない。アラトが工具を持ってマリナの機体番号を削りに行かねばならない。
     車を飛び出して、貨物倉庫に向かって走って、走って、走って、前方に若い女性を見つける。アラトは知らないが堤美佳だ。護衛兵士に囲まれていて、そのうち数名がこちらにやってくる。電磁警棒を振り上げて。打たれて目の前が真っ暗になるが、地面に転がされて見上げると誰かが見下ろしている。紅霞だ。「お友だちに助けを求めるのは悪くないね」とアラトを褒める。
     アラトは出発前友人に助けを求めた。リョウは断ったが、ケンゴはやってみると言ってくれた。そして紅霞に連絡をとってくれたのだ。
     紅霞はメトーデに戦いを挑む。メトーデは自分はあなたの完全上位互換機だって知っているわよね、とこれに余裕を持って立ち向かう。
     レイシアが紅霞を透明にして、連携してメトーデと戦いはじめると戦力は拮抗する。今のうちに、と貨物倉庫に向かおうとするとレイシアが止める。撤退しましょうと。その時大爆発が起きる。

     この爆発は駐機していた飛行機が爆発したもので、紫織のリムジンも巻き込まれて炎に包まれる。運転手はすぐに脱出するが火だるまとなって救出される。ドアは自動で閉まる。
     後部座席の乗客は守られるようになっていて、炎の中でも30分は持つ耐火性能がある。
     一人車内に残された紫織は救出を待つことにするが、堤美佳からはコンテナに入っていたのはマリナではなく、全然違うhIEだったと通信が入って愕然とする。

     どうなってるの、と呟くとメトーデから通信が入り、ようやくわかったの、と嘲笑される。何で教えてくれなかったの、と言えば人間だけで計画を立てたかったんでしょ、とまた嘲笑される。
     人間がレイシアに頭脳戦で勝てると思っていたの、と。メトーデは紅霞との交戦を言い訳に助けに来ない。紫織はアラトに話したことがそもそもミスだとメトーデに言われて反論できない。
     そして窓の外に信じられないものを見る。そこに自分がいる。自分そっくりのhIEが。
     メトーデがトランクに積み込んだのがこのhIEだったと理解する。メトーデは紫織を直接殺せない。だが危険を看過することはできる。メトーデにとって紫織はもう用済み。一時的な安全弁のようなものだった。オーナー契約は人間が死ねば自動的に解除される。紫織が無事と思った兵士や堤はもう車のことは気にしない。
     耐火性能がよい車でも何時間も彼女を炎から守ることはできない。さらに爆発があり、窓が破れ熱気が吹き込んでくる。思わず誰か助けて!と泣き叫んでしまう。誰かが割れた窓から手を差し伸べて引きずりだしてくれる。アラトだった。

     アラトと紫織は同じ病院に入院する。リョウがやって来てアラトを締め上げる。何やってんだ!お前は妹の居場所なんだ、そのお前が何で妹と敵対するんだ、これもレイシアのせいだ、たぶらかされやがって、みたいに怒る。堤が紫織さんを助けたのもこの子です、と割って入ってくれるがリョウの怒りは収まらない。二人には炎と犬で結ばれた絆があるのだが、これが切れそうになっている。

     
     アニメ8話と9話に該当するが、アニメには一部他のPhaseの話が入っている。

     第8話は紫織とメトーデのオーナー契約シーンから。アニメではこの契約に至るまでを紫織の迷いを含めて段階的に描いているが、小説ではあまり悩んだ形跡がなく、過ぎた事として回想される。
     この契約は双方にメリットがあるものとして、つまりメトーデは渡来の命令を拒絶できる手段として第二のオーナーを欲し、紫織はメトーデの戦闘力を利用できる、というウィンウィンの関係として結ばれたと思われるが、小説版では紫織が兄に対して持っているコンプレックスをメトーデに突かれて誘導されたようにも思える。
     アニメではメトーデはアプリケーションの使用許諾を得るのと一緒でしょ、みたいに言って紫織の背中を押す。

     アニメでは堤が鈴原と一緒にいるシーンが多く、彼女が鈴原の右腕のような印象。堤は鈴原から君、機体検査の資格持ってたよね、と聞かれるシーンがある。
     彼らは東京研究所の爆発事故は研究所の自作自演と疑っており、行動は研究所にばれないようにしなければと思っている。

     エリカ・バロウズがアラトのクラスに転校してくるエピソードは原作ではもっと後、Phase9で出て来るが、原作ではその前にアラトはエリカ・バロウズ邸にレイシアと共に招かれている。エリカのhIE、サトゥルヌス改めマリアージュともその時に出会っている。アニメではよくわからなかったけどマリアージュのデバイスの能力は物を造る事。彼女一人で兵器工場の代わりができる。なのでアニメではアラトはほとんど彼女のことを知らなかったけど小説ではもう少し予備知識があってhIEはどこだ、などと警戒もする。
     エリカがわざわざ転校してくるのは明らかにアラトに興味を持ったからと思える。エリカは100年前に難病の治療方が未来に開発されると信じて家族と別れて冷凍睡眠に入った少女であり、その睡眠中にハザードと呼ばれる首都圏を襲った大規模災害で血縁者を全て失った。
     その間に彼女の父親が残した信託財産が莫大な富となって、彼女は世界有数の富豪の一人になっている。もともと娘を冷凍睡眠に出せるほど、バロウズ家は財政的に豊かで会社もいくつも持っていた。それらは全て彼女に引き継がれている。今はバロウズ財団となっている。

     彼女はhIEもアナログハックも存在しなかった時代の人間であり、従って彼女をアナログハックできるクラウドデータはまだ存在しない。彼女にとってhIEはモノにすぎない。
     一方で彼女は自分の財産目当てに近付く人間たちを排除し、同時に眠り姫として好奇の目にさらされてきた。彼女にはこの世界には誰一人友人がいない。愛情を注ぐ対象も、注いでくれる相手も。人間を基本的に信じていないし、この世に悪意しか持っていない。

     そういう彼女が、アラトに興味を持ったらしい。
     彼女の背景については、原作だけではなく短編でも書かれている。
    https://ch.nicovideo.jp/metabou/blomaga/ar1463956

     本来一緒に写真を撮って、とかいって彼女が有名人だから近付いて来る取り巻きは嫌いな筈だが、アラトに接近するには便利、と容認している感じ。
     アニメでは弁当に関するエピソードがあるが小説版ではアラトはパンを買っており、レイシアに弁当を頼んではいない。ケンゴは修行の意味もあって自分と妹の弁当を作っている様子。
    小説版ではこの頃リョウとの仲がちょっと微妙になっていて、リョウは同席していない。
     一緒に食事をする女の子はアニメでは2人だが小説ではエリカを除いて7人いたらしい。
     
     エリカの取り巻きたちがミコトの動画を話題にし、エリカは彼女に悲劇の女性というキャラクター性が付与されたから人気が出たのね、みたいに言ってキティなどの話をするのも原作通り。原作でもキティという名前が出て来る。他はネズミとかアヒルとか。小説ではハリネズミとも。アニメはキティのイラストをいっぱい使っているけど許可はすんなり出たんだろうか。
     ミコトの動画の再生回数はアニメでは4万回と言ってたけど小説では一千万回を超えているとなっている。ずいぶん控えめにしたんだな、と思う。 
     マグと言って水筒だったように思うのは作画のミスに思えてしまう。ああいうのもマグと言うのが普通なのか私はうといのでわからない。
     エリカはこういう話をしながら自分が眠り姫であることを周囲に意識させる。おそらくこの情報の出し方が上手かったというのも彼女の仕切りと思われる。
     彼女の難病は未来技術で完治しているが、彼女には病み上がりで華奢というイメージもついている。

     鈴原が紫織と会ってレイシアの正体に気付いた事、メトーデのオーナーになった事を聞いて驚くシーンはアニメオリジナル。レイシアのオリジナルボディを入手する計画はもともと鈴原の発案だった模様。

     学校でアラトとリョウが言い争うシーンは小説ではメトーデがはじめて出現した埋立地の撮影会場の事件すぐ後で、リョウはお前レイシアに操られて判断基準がおかしくなってるぞ、みたいな感じでほぼ原作通りのセリフで入っている。

     エリカ邸でサトゥルヌスがマリアージュと名を変えてエリカに仕える様子も少しアニメオリジナル。小説ではサゥトルヌス出現時にこのあたりの会話は済ませ、応接室に置いてあった紅茶のラベルとhIEの髪の色が同じだったことから、その紅茶の名前・マリアージュ・フレールからマリアージュと名づけたことになっている。彼女がデバイスを動かしてみせるシーンも小説では無い。

     紫織がアラトにレイシアの返還を迫るシーンはおおむね小説と同じ。喫茶店は新木場にあることになっている。だけど紫織が「はしたないお願い」などと口走ることはなく、小説の方が紫織のアラトに対する好意がはっきり書かれている印象。彼女がミームフレーム社内の内情を話したりするシーンもアニメ版では無い。なので紫織が何故このタイミングでアラトに会いに来たのかがアニメだとはっきりわからないけど、小説ではアラトの精神的ショックをやわらげたくて、レイシアを失うことになりますが大丈夫?心の準備をしてね、と好意で伝えにきたことがはっきりわかる。レイシアさんがいなくなっても私がいますから、と。

     紫織と別れた後、アラトがレイシアとかわす会話もほぼ原作通り。レイシアに表情があるぶん、レイシアの思惑がアニメだと伝えやすいけどこの表情でいいのだろうか、と思ったりもして難しそうなシーン。

     アニメ8話は高速をリムジンで走る紫織、堤、メトーデのシーンで終わる。
    第8話タイトルの awakening of sleeping beauty は小説版には無いタイトル。アニメ9話のタイトルは 小説の Phase6 My Whereabouts  と同じ。
     

     アニメ第9話は歩道橋の上でレイシアからマリナ・サフランのボディが日本に向かっていると聞かされたアラトが高速鉄道で中部国際空港に向かうところから。鉄道に乗り込む前からケンゴに協力を求めて電話するシーンに時間を割いている。ここは原作ではさらっと流して読者が忘れる程度の書き方。リョウにはメールしたが協力を断られた事になっている。アニメではためらっているうちに発車時刻になってリョウには連絡していない。
     ケンゴを通じて紅霞に助けを求めたことが紅霞からの連絡シーンが入ってバイクで中部に向かう紅霞の姿もあってアニメでは明確だけど、小説では実際に紅霞がピンチに現れてアラトを救うまで読者はこの電話のことは失念していて、ああそういえばという書き方。その分アニメの方では紅霞の登場にサプライズがない。

     高速列車は原作では未来都市イラストによく出てきた透明な覆いの中を走るやつ。アニメでもそうみたいだけどよく注意してみないとそのことがわからない。もっとわかるように描けばいいのにと思う。
     紫織がリムジンで高速道路を移動するシーンで、原作では堤は初登場なのだがアニメでは彼女の出番が増えているので既におなじみのキャラになっている。メトーデもファッションショーの襲撃以降ここで久々に登場し、既に紫織とのオーナー契約を済ませた状態での登場となる。
     原作では紫織がアラトにレイシアを返すよう接触したのは恋心からと明確だがアニメではそこは強調してないので、あくまでもビジネスライクに交渉を求めて断られたみたいになっている。

     アラトは列車内からユカに電話して、ここでアラトの父親がテレビに出ているのを聞く。ここもアニメオリジナルで、次のエピソードになるつくばでの実験の説明を父親が行っている。小説ではミコトが破壊されても実験には影響ありません、みたいにもっとテレビでの登場は早かった。父親の存在感は小説でもちょっと希薄なんだけど、アニメではもっと希薄な感じ。

     車中ではアラトがレイシアとユカと話すだけで時間が過ぎてしまうけど、小説では高速鉄道から見える風景を通じて、その沿線に昔はあったはずの街や住宅が人口減少のためにほとんど無くなっていて空き地や緑地ばかりになっていることや、時々食料工場や電力受信施設(衛星から送られてくる電力を受ける)などがあってそこでは生身の人間が働いていることなどにアラトが思いをはせる。インフラ関係の職場では人間が今も働いているらしい。
     レイシアが超高度AIはインフラ産業には直接関わっていないことをアラトに説明する。超高度AIはネットワークにも繋がれておらず、開発研究用途に限って運用されていると説明される。
     レイシアはついでに紫織と、彼女のはしたないお願いについてももっとお話したほうがいいですね、みたいにアラトに示唆するがアラトは紫織の気持ちには気付いていない様子。

     名古屋は東京よりもhIEが少ない地域で、それは反hIE感情が強く抗体ネットワークの活動も活発である事を示す。自動運転車よりも人間が運転するタクシーが多い地域でもある。
    高速鉄道が東京~大阪間を1時間半で結んだあおりを受けて、名古屋は埋没している地域だという。

     テレビの遠藤コウゾウを見て、渡来が思わせぶりな独り言を言うシーンはアニメオリジナル。
     レイシアが車の中で六文銭に言及するシーンは原作でもあるけど、これは一種の軽口なのでアニメみたいに実物まで用意した様子は無い。この時レイシアの運転で時速300キロメートルで高速を飛ばしている。
     中部国際空港は24時間運用の貨物空港ということになっていて、産業の衰退による地域経済の沈没をこれで免れたことになっている。

     小説版ではここで紫織の会社の雇った民間軍事会社がアラトの車を狙撃するがアニメではカット。アニメではブラックモノリスはおだやかに届くけど、小説ではこの戦闘の最中に慌しく届けられて状況を変える。

     一発目の狙撃がメトーデに阻止されてからの戦闘はおおむね原作通り。戦闘シーンでレイシアの服は千切れ飛んで下着姿になる描写があるけどアニメでは戦闘に入る前に私服からいつものレオタードみたいな戦闘服姿に変わっている。なんだけど小説の方がレイシアとメトーデの戦闘にスピード感を感じる。
     アニメではメトーデの攻撃でアラトを乗せた車がひっくり返されるけど原作ではアラトは自分で車を止めてマリナを探しに出る。

     アラトを助けてかっこよく登場した紅霞がウェスタンスタイルなのは原作通り。何故かは特に説明は無い。ここの紅霞とメトーデの戦闘シーンはアニメの出来がいい。原作では数行しかないんだけど、きちんと絵にしていると思う。

     アニメではメトーデと紅霞の戦闘で周囲が火の海になり、紫織を乗せたリムジンが炎に包まれるが原作では貨物機が爆発してその炎上に巻き込まれる。紫織はメトーデに貴方は無能なので切り捨てるわ、みたいなことを言われるけど原作ではもっと判断のミスをひとつひとつ指摘される感じでネチネチ言われっ放し。自分の姿をしたhIEを見て絶望するのはどちらも同じだが、アニメではメトーデに見せられるけど原作では自分で発見する。これまでがんばってきた自分の心を折られるような状況に追い込まれている。
     紫織は自分が会社の後継者であることを意識して、会社が人間の意志を超えた存在に振り回されないよう社内の人間派と近い位置に自分を置いてきたが、自分は周囲にちやほやされて持ち上げられていただけの判断力をろくに持たない高校生に過ぎなかったと無力感を持つ。

     オーナーが死んでも出した命令が生き続ける、みたいな記述は原作には無く、むしろオーナーが死ねば全ての契約が無効、みたいに書いてある。ここはアニメ版は解釈が逆のように思う。

     アニメではここで貨物機が爆発してリムジンが吹き飛ばされる。小説では二次爆発みたいなので飛ばされる。アニメではここでエンドロールになるので紫織の絶望感は強く感じる。
     アニメではCパートで小説同様にアラトが紫織を助けるが、小説で紫織がたくさん判断ミスを犯したけど、アラトを信じたことだけは間違ってなかった、とアラトにしがみついて泣くシーンはカットされている。

     ということでほぼ同じような流れなのだけど、アニメでは紫織のアラトに対する特別な感情はほとんどカットされている印象。その分アニメでは表面的なことだけが描写されて、登場人物の内面がいまひとつわからないような感じが残る。

  • 5月から6月

    2019-06-18 19:001
    ・5月から6月くらいにあちこちで撮った写真。

    ・アゲハが飛び立った跡。


    ・ヘメロカリス?


    ・ツツジ


    ・サンダーソニア?


    ・マトリカリア?


    ・ホタル(スマホではよく写らない)


    ・ニンジン(ニンジンの頭切ったら芽が出た奴。この後枯れた。食べればよかった)