「清貧の思想(中野孝次著)」メモ
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「清貧の思想(中野孝次著)」メモ

2016-04-23 19:00


    ・一時期ベストセラーにも流行語にもなった本。つい最近のように思っていたが、もう25年近く前なのか。月日がたつのは早い。
     私は自分が知らないうちにベストセラーになってしまった本はまず読まない、食わず嫌い症候群にかかっているので、こうした本はまず読まずに終わってしまう。「かもめのジョナサン」も「サラダ記念日」も「なんとなくクリスタル」も「エーゲ海に捧ぐ」も「チーズはどこへ消えた?」も「1Q84」も「火花」もそういう感じで読んでいない。
     でもこれはそろそろいいか、という感じになって読んでみた。申し訳ないがブックオフで108円だったので。
     ベストセラーというのはたいていそれなりに読むのに疲れない、どちらかというとやわめの文章のものが多いようにも感じているが、これはかなり難しい。著者は全然馴染みの無い方で、他の作品は一つも読んだことなく、存じ上げないのだが 今時平均以上の教養がある人のように感じる。
     昔エコノミック・アニマルという言葉が流行って、日本人は
    「経済的利益ばかりを追い求める動物。国際社会における日本人の行動を批判的に形容した語」
      という感じで、経済だけ大国、経済は無視できないけど文化的には野蛮な国、みたいに、日本のマスコミの間では自虐的によく使われていた。それを読む子供の頃の私も、ああ、日本は世界に馬鹿にされる国なんだ、となんとなく思っていた。
     農協のジャルパックツアーなんていうのが当時はあって、田舎のお上りさんが外国の歴史ある観光地に団体で押しかけて、世界各地で顰蹙をかっているんだ、などとも思っていた。「農協 月へ行く」という筒井康隆さんの作品を読んで、現実と小説の区別がつかないもので、こんななんだ~と思ったりしていた。
     昨今中国の人があちこちでマナー違反でいろいろ言われているのを聞くと、日本も昔はあんな感じで見られていたんだろうな、と思う。
     中国の人は日本という失敗ばかりしていた悪い見本の国がせっかく隣にあるのに、なぜ学んで同じ轍を踏まないようにしないんだろう。旅行マナーしかり、公害しかり、バブルしかり、今は戦前の日本そっくりに言論弾圧・軍事強硬路線になってしまった。日本の満州があちらの南シナ海やチベットという印象。戦前の日本もよそからはあんな感じに見えていたんだろうなあ。

     高度経済成長がオイルショックで終わって、のんびり行こうよみたいな風潮もでてきたけど、バブル経済でまた狂騒的な感じになってしまった。

     著者は日本の古典にも明るく、外国人と話す機会も職業柄多かったようで、彼らが持つ日本人に対するエコノミックアニマルで農協月へ行く的な日本人のイメージについては、完全に否定できなくて悔しいんだけど、日本人にはもっと心の世界を重んじる文化の伝統があって、それはあえて名付けるなら「清貧の伝統」とも呼ぶべきもので、今の日本人の心の中にもあるはずなんだ、と古来の例をひいてわかってもらおうとして繰り返してきた説明や講演の内容を、自分自身の認識を整理したいとも思って書いたものだという。

     全体は二部構成になっていて、一部は昔の日本人、本阿弥光悦や鴨長明、良寛や池大雅、与謝蕪村や橘曙寛(この人の名前ははじめて聞いた)、吉田兼好、松尾芭蕉などの残した文章や歌や言葉を手がかりに、彼らが至ったであろう心の境地を語り、それが今の日本人の中にも生き残っている筈であること、第二部ではインドや中国や欧米の思想を例に上げつつ、日本人と彼らに共通する思想があること、日本は敗戦によって、先祖の持っていた知恵を全部古いものは悪い、とばかりに戦前のものは全て破壊して否定してきてしまったが、もう今後はそれではやっていけないので、清貧の思想に立ち返らないとダメでしょう、みたいな結論になっているんだと思う。

     文章が難しいのか、私は読んでいる時にはわかったつもりになっても本を閉じたとたんに何が書いてあったっけ?という感じでなかなか心に残らないのだが、ビンボーでも心の中が楽しければいいや、という考え方には共感しやすいのでわりと読んで無駄ではなかったかな、と思っている。
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