「玉藻の前(岡本綺堂著)」メモ
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「玉藻の前(岡本綺堂著)」メモ

2016-10-23 19:00


    「半七捕物帳」で有名な岡本綺堂氏は、怪談の類も多数執筆していて独特の怖さと雰囲気がある。怪談はその性質から多くは短編、せいぜい中編にちょっと足りないくらいの長さだが、「玉藻の前」は例外的に長編と言ってもよい長さ。ご本人も気に入りの作品だったらしい。

     平安朝の末期、久安4年。世に乱れの兆しが見えて、火災や疫病、盗賊などに庶民の生活が脅かされる世相の中、京に貧しくも仲むつまじい少年少女がある。元服前、十五、六と見える少年の名は千枝松。ひとつ年下の少女の名は藻(みくず)。二人とも粗末な衣服に似合わぬ美貌。
     少女の父、坂部庄司蔵人行綱(さかべのしょうじくらんどゆきつな)はかつて北面の武士であったが、関白の命により狐を射ようとしたところ射損じた上に弓弦を切り、心得が良くないから仕損じるのだと勘気をたまわり浪人となった。しばらくして妻を亡くし、三年坂で転んで身体を痛め、今は娘の世話で床につく毎日。
     信心深い娘は父の快癒を願って毎晩清水の観音さまに参るようになり、やがて近くに住む千枝松と知り合い、千枝松は一人ではぶっそうだと毎夜藻のお参りに同道するようになる。藻は千枝松のことをちえまと呼ぶ。千枝松は両親を亡くして烏帽子折りで生計をたてる叔父叔母に引き取られている。
     
     だがある日、藻がいつもの待ち合わせ場所にいない。千枝松は隣人の助けを借りて探し回り、森の中の古塚のもとに横たわる彼女を見つける。彼女は髑髏を枕にして眠っており、起こして何があったかを訪ねても要領を得ぬ。明日からは外で待ち合わせるのではなく、藻の家に迎えに行くので待っているように、と言い聞かせて千枝松は辞去するが、藻はいくら言っても髑髏を手放そうとしない。

     その晩千枝松は夢を見る。天竺の華陽夫人が斑足太子を惑わせ、無実の人々を残酷に殺させる様子。一日に千人の首を斬って首塚を建てたという。
     場面が変わり、殷の紂王が妲己にたぶらかされ、淫楽にふけり、無実の人を炮烙の刑にかける様子。華陽夫人も妲己も、年頃は異なるが藻の顔をしている。老人がいつしか千枝松に語りかけ、自分はあの女、正体は一千万年の劫を経た金毛白面の狐を倒しに来た太公望である、と告げる。
     千枝松は夢を見た晩より五日ばかり寝込んでしまい、その間に藻は大納言師道(もろみち)の館を訪れ、関白忠通(ただみち)が歌の会に出したが誰も答えられなかったという難題「独り寝の別れ」の歌を身分に係わらず求めていると聞いた、と歌を詠む。大納言は藻の歌の才に驚き、関白にこのことを知らせ、関白は藻を召し出すことになる。
     関白は召し出した藻の可憐さと心映えのよさに感心するが、同席した少納言・信西入道は
    難しい顔をする。

     戻ってきた藻と千枝松は話をするが、どこかこれまでの藻とは別人になっているのを感じる。藻に冷たくあたっていた隣家の老婆が喉を食い破られて発見され、藻はあらためて関白のもとへ奉公にあがる。千枝松はこれを聞いて絶望した気分にかられ、川へ飛びこんで死んでしまおうとしたところを尊げな人物に声をかけられる。これが安部清明が六代の孫、安部泰親(やすちか)。泰親は千枝松があやかしに憑かれていると喝破し、藻の館を見て「凶宅じゃ」と呟く。

     それから4年が過ぎ去り、仁平2年の春。世相が落ち着きを見せ、関白忠通は宴を開く。
    どちらかといえば堅物であった忠通だが、近年華美を好むようになったともいわれる。
     宴の客に風流(みやび)男として誉れの高い、左少弁兼輔(かねすけ)があり、酔い覚ましに庭へ出た彼に声をかけたのは、今は関白の寵愛を一身に集め、「玉藻の前」と呼ばれるようになった藻(みくず)。兼輔は碩学で名高い法性寺(ほっしょうじ)の隆秀(りゅうしゅう)阿闍梨の甥でもあった。玉藻は女人を寄せ付けず、未だ一度の目通りもかなわぬ阿闍梨に逢えるようとりなしてほしいと兼輔に頼み、彼は承知する。

     関白の弟、頼長(よりなが)は左大臣をつとめ、兄を凌ぐ覇気に満ち、師の信西入道を驚かすほどの博学。この頼長と信西が、関白の周囲にいるものの中では華美を嫌う、他者から一目おかれる存在。この頼長が淫らがましい事を自分に仕掛けた、と玉藻は作り話を関白に吹き込む。さらに玉藻は兼輔に連れられて隆秀阿闍梨のもとを訪れ、この名僧を深い見識によって篭絡する。ほどなくして阿闍梨は気が狂ったとの噂がたつ。

     そんな時、玉藻は四年ぶりに千枝松と出会う。彼は今や安部泰親の一番弟子、名も千枝太郎と改め、若き陰陽師としての名は安部泰清(やすきよ)であった。今は境遇の分かれた二人だが、一瞬昔の千枝松と藻に戻ったような、互いをいたわるような言葉を交わす。

     だが屋敷に戻った泰清こと千枝太郎は、師の泰親に怪異(あやかし)に憑かれているぞ、何があった、と問いただされる。千枝太郎は藻と会ったと正直に答えるが、泰親はあの女性は美しいが、心の中に悪魔を棲まわせている、自分は信西入道と語り合ってあの女性(にょしょう)を何とか関白から遠ざけ、封じ込めようとしている、お前も気をつけるがよい、と打ち明ける。

     阿闍梨を狂人にした玉藻は、用がすんだとばかりに実雅(さねまさ)という力自慢の男を操り、兼輔を殺させる。さらに実雅も自害に追い込む。兼輔は関白忠通、実雅は左大臣頼長と
    近かったことから頼長が兼輔を殺させたのだ、と無責任に噂する者が出て、忠通はこれを信じてしまう。その後もいくつか事件があって、忠通は頼長とその師である信西入道を心底憎むようになってしまう。

     千枝太郎は再び玉藻と出会い、今度二人で話したいと誘われるがこれを退ける。玉藻は忠通を言葉巧みに操り、自分を帝の采女として殿上に上げさせようとするが頼長と信西入道がこれを阻む。泰親はもはや放置できぬと七十日の祈祷により玉藻を祈り伏せる決心をし、一緒に祈る四人の弟子の一人に千枝太郎を指名する。

     日照りが続き、玉藻が雨乞いを申し出る。それで雨が降れば玉藻を采女にするのに誰も反対できなくなると考えた忠通はこれを承知し、これを聞きつけた泰親はその雨乞いの席で玉藻の正体を暴こうと、表向きは同じ場所で雨乞い比べをすることにする。

     同じ日の午前は泰親、午後は玉藻が雨乞いをすることとなり、泰親はこれに敗れれば流罪となるが、彼は流罪覚悟で雨乞いなどせず玉藻を調伏するためだけに祈る。
     だが玉藻は泰親が張った調伏の壇へ平気で登り、雨を降らせることにも成功する。泰親は敗れ、閉門蟄居の身の上となる。だが流罪との知らせはなかなか来ない。
     泰親は今一度70日の祈祷を行って玉藻と戦い、これに敗れれば死罪となってもかまわない、との願いを信西入道に伝えるように千枝太郎を使いに出すが、彼はこの使いの途中で待ち構えていた玉藻から自分が泰親や千枝太郎が流罪とならぬよう止めているのだと聞かされる。

     玉藻は千枝太郎にもう一度会ってくれるよう頼み込むが、彼は聞きいれず信西のもとを訪ね、使いを果たす。だがその帰路に野犬に囲まれた玉藻を目撃しこれを助ける。ほんの一瞬、千枝太郎と玉藻は昔のように親しく語り合う。
     だが泰親は使いから戻った千枝松千枝太郎を、お前はまた怪異(あやかし)に憑かれた、先日の失敗もお前がいたからだ、と破門を申し渡す。

     泰親のもとを離れ、叔父叔母のところに戻って烏帽子折りで生計をたてる千枝太郎は、相州
    衣笠から来た武士、三浦介(みうらのすけ)源義明(よしあきら)の屋敷に出入りするようになり、そこには藻によく似た衣笠殿という義明の孫娘がいる。彼女に心ひかれるものを覚えた千枝太郎。翌日、衣笠殿は魔物に襲われるが気丈な彼女は何とか撃退する。三浦介は閉門中の身と知りつつも、安部泰親に助けを求める。
     このころ玉藻の前は正式に采女にとりたてられようとしている。千枝太郎の夢に玉藻が現われ、私とお前は強き縁で結ばれているのに何故他の娘に心を移すのか、と責める。
     
     千枝太郎は衣笠殿を守らんと、そもそも話の発端である、藻が何かに憑かれた古塚の存在を兄弟子に告げる。これを伝え聞いた泰親は、鳥を倒すには巣を焼くのだ、とこの古塚に壇を築き、弟子と共に調伏する。古塚は二つに裂け、壷に納められた黒髪が見つかる。泰親がこの
    黒髪を焼き捨てると、玉藻の前は関白の面前から消えてしまう。だが、同じ頃に衣笠殿も身まかってしまう。

     泰親は悪霊であった玉藻の前を制した、ということになり身分を回復するが、千枝太郎はどこか呆けてしまい、また泰親のもとを去る。

     東国、那須の国で金毛白面の狐が暴れている、という知らせが入り、泰親は京でこれを倒すべく祈ると共に、東国へ討ち手が派遣されることになる。三浦介源義明が名乗りを上げる。

     かくして狐は源義明に射抜かれ、殺生石となる。若い旅人がその石のもとで死んでいる。
    千枝太郎である。彼が死ぬ前に見た夢は、玉藻が人間を捨てても私と一緒になりたいかと問い、それがかなうなら共に地獄へ行こう、と答える夢だった。

     後に保元の乱、平治の乱が起きて、玉藻を滅ぼすのに力を尽くした頼長も信西も命を落とすこととなった。

     みたいな話。青空文庫で全文が読める。
    http://www.aozora.gr.jp/cards/000082/files/480_39601.html

     知らなかったけどNHKで人形劇になったこともあるらしい。
    http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009040013_00000

     九尾の狐は日本妖怪にとっては宿敵で、「うしおととら」や「ぬらりひょんの孫」とかでもラスボスっぽく出てくる。手塚治虫さんの「百物語」にも出てたかな。

     この「玉藻の前」を下敷きにしたんだと思うすごい漫画があって、山田章博さんの
    「BEAST of EAST」。何度も掲載誌が変わったりして、1巻は三社くらいから出たりした
    らしい。不定期連載のためかはじまって20年近くなってもまだ4巻までしか出ていない。


     
     ものすごい完成度の高い絵で、どこを切り取っても絵画のよう。登場人物も藻=玉藻以外はほとんど異なり、千枝松の代わりにもっと腕力のありそうな鬼王丸(王仁王丸)、安部泰親ではなくご先祖の安部清明、さらに賀茂光栄、異国の力自慢や知恵者に獣娘、藤原純友などがこっち側、敵方には玉藻のほか芦屋道満に源一族など、平将門や鈴鹿御前、人魚の姫なども複雑に絡む。太公望も時空を超えてやってくる。
     さらにゴーレムやパンシー、ゴブリンに管狐など、妖怪変化の類も普通に東西かまわず登場する。夢枕獏作品っぽい気もするし、富樫倫太郎作品っぽい気もするし、将門や鬼王丸と聞くと手塚治虫さんの「鬼丸大将」かとも思う。絵の完成度が高すぎて、気軽に読み飛ばせないのでちょっと気合いれないと読めなかったりもする。「玉藻の前」の枠組みはとっくに飛び出してしまっている。

     5巻ははたしていつ出るのか、完結はいつになるのか。気になっている。

    公式HPには特に情報が無い。
    http://kirakuya-honpo.hustle.ne.jp/yamada-akihiro/
     
    この人、ヤマト2199関連のイラストも描いてたのか。
    https://yamatocrew.jp/crew/info/141211-2

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