「おんみつ蜜姫(米村圭伍著)」メモ
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「おんみつ蜜姫(米村圭伍著)」メモ

2016-11-19 19:00
    ・むかーし買った本の消化中。


    八代将軍吉宗の時代、享保十三年。かつての豊後というから、今の大分県あたりの温水という二万五千石の外様の小藩の姫(側室の子)、十八歳の蜜姫はこの時代の慣例を破って大名の娘なのに江戸に送られることなく地元で育つ。
      何故かというとじゃじゃ馬過ぎて、江戸に送ると絶対に藩が取り潰しになるような失態をやらかすに違いない、と父である藩主、乙梨利重(おとなしとししげ)が心配して、病弱で長旅に耐えられぬ、と幕府に嘘をついて手元にとどめているから。
     本人は野山を駆け巡って育ったおかげで乗馬が大好き、剣術は山猿一刀流という実在が怪しい流派の免許皆伝でトラブルが大好き。父親の判断は正しいのだろう。

     温水藩というのは作者の創作した架空のものらしいが、「別府湾から山側に細長く伸びた形をしており、山裾にはいくつもの温泉があり、藩名の由来になっている」ということなのでだいたいあのへんだろう。

     突然、父親である乙梨利重が刺客に襲われ、一命は危うく取りとめたものの、姫は思わず「まあ!すてき!」とはしゃぐ。
     何故かと父が問えば、自分の父親がそんな大物だとわかって嬉しい、という。
     だが父親には命を狙われるような覚えはない。ビンボー藩だがそれなりに善政をしき、自分が贅沢をしているわけでもない。ただ一つ心当たりといえば、海を渡った四国讃岐国のやはり二万五千石の小藩、風見藩(この藩も架空で、著者の別の作品の舞台らしい)に蜜姫を嫁に出そうとしていたことくらい。それを聞いた蜜姫本人も、姫というのはそういうものだと思っているので特に文句も言わないが、父親の次の話を聞いて驚く。
     つまり、この婚儀をきっかけに、地続きでもない温水藩と風見藩を二つで一つの五万石の藩として取り扱ってもらうよう、幕府に届け出ようという。町村合併のさきがけのような構想を持っている。
     それを聞いた娘は、そんな馬鹿なことを計画するから、そんな馬鹿は消してしまえ、と将軍様が刺客を送ったんだわ、と思い込み、それなら私が将軍を倒すため、自らおんみつ蜜姫となって幕府に乗り込んでやるわ、とお題回収しながら決意して、それはいい、ぜひお行きなさい、と娘よりもちょっとタガが外れている母親からお金をもらって旅立ってしまう。また母親から警護役を紹介され、同道することになる。いろいろ言うとおりにしないと、母親がついて来る、というので仕方ない。この浮世離れした母親はもともとは信州諏訪の神社の娘で和歌の才人。実家から武田忍びの末裔を連れてきており、その者を姫につけてつかわすと言う。

     かくして姫は、(母の命により)ものすごく目立つ純白の羽織に、(母の命により)正体バレバレの家紋をつけ(ちなみに家紋は露草)、(母の命により)武者修行の若者姿、つまり男装して、(母の命により)警護役の武田忍びが育てた忍猫を連れておでかけする。

     以降、姫はお隣の杵築(きつき)藩(これは実在らしい)まで歩いてそこの守江湊から赤間関(あかまがせき:現在の下関)行きの船に乗り、富来(とみく)、中津の湊を経て周防灘を突っ切り、現在は関門橋と関門トンネルがある早鞆ノ瀬戸、壇ノ浦、巌流島を眺める。赤間関で乗り換えて秋穂(あいお)、田布施(たぶせ)、宮島へ。また船を乗り換えて倉橋島を大きく回り、大崎下島、弓削島、因島(いんのしま)を経て、粟島と高見島の間を抜けて風見湊へ、という予定だったが、ここで海賊に襲われて姫は船から投げ出され、風見藩の浜に漂着。
     風見藩の若者に助けられ、象頭山の金比羅大権現では結婚相手の風見藩主と会い、また海に出て海賊の本拠地ドクロ島こと木の葉島、塩飽諸島を縫って北上して備中玉島の湊から陸路に入り倉敷、備前岡山へ。ここで藩主池田継政(つぐまさ)の見守る中御前試合に挑み、赤穂、大和田、曽根崎と街道を進む。日本橋でまた船に乗って淀川を上って伏見。二里半歩いて京に入ると、ここで参勤交代で江戸に向う父親の大名行列と遭遇。何故か行列には母親もいる。
     ここで父からある秘密を聞かされ、国に帰るようさとされるが言う事を聞くはずもなくまたしても出奔。しかも今度は母親付き。石部、水口、土山、関の宿、亀山、四日市、桑名から宮へは伊勢湾を渡るが、ここで母娘分かれて母は海路、娘は陸路で尾張を目指す。尾張でいろいろあって熱田神宮を過ぎ宮の宿。母親とは別の船で観音崎を回って品川上陸。ここで母が諏訪湖に行ったと聞き、娘は江戸城に乗り込み、吉宗に目通りし、内藤新宿から府中、日野、横山(八王子)、小仏峠を越えて上野原、大月、勝沼、甲府と過ぎて母のいる諏訪湖へ。高島城で最後の戦い。江戸城でもう一幕あって、またしても姫が出奔して終わる。

     という感じで、移動経路だけ主に書き出したが、それだけでもものすごく忙しい。
     こうした移動の間に姫は味方を増やしていく。海坊主のような船頭、武田忍び、元海賊、冷飯目付、冷飯目付おとめ組、猫軍団・・・

     一方で敵対する者も次々に現われる。まず船上でどうやってトイレに行くかという事からはじまって、熊野忍び軍団、海賊、尾張柳生の剣術使い、裏柳生の忍者、柳生新陰流の剣士・水無月万斎に赤川大膳、柳生最強と呼ばれる殺人剣士山内伊賀亮(やまうちいがのすけ)・・・

     敵のはずなのに姫に力を貸す、尾張柳生の五男坊、柳生厳也(げんや)も現われる。

     吉宗のご落胤を名乗る天一坊、武田信玄の財宝などもからんで盛りだくさん。

     末國善己さんという方の解説にも書いてあるのだけど、時代考証を無視した通俗的な時代小説の面白さ、というものが詰まった作品。そしてこれも解説からの受け売りだけど、人物や地名の一部は架空だけれど、背景となる時代の風俗や土地柄などは、かなり厳しく考証されているらしく、史実と虚構をうまく融合させているところに上手さがある作品とのこと。
     公的記録である徳川実紀の記載の矛盾点をフィクションで埋めて、真相はこうだったかもしれない、と思わせ、平成の大合併へのやんわりとした批判を吉宗に語らせ(経済効率はよくなるかもしれないが、その地方だけの素朴な文化や伝統が消えてしまう)、その吉宗も権力者という点では、地方の首長のような蜜姫から見れば決して正義ではない。など真面目な点と、
     おんみつ蜜姫というタイトルが「あんみつ姫」のパロディであり、蜜姫のじゃじゃ馬振りを目の当たりにした吉宗が自分も「暴れん坊将軍」と名乗ることにしよう、みたいな事を言ったり、と軽い部分もある。
     
     打飼(うちがい)、弓懸(ゆがけ)、四阿(あずまや)、藍花(あいばな)、開の口(かいのくち)などの言葉や由来はこの作品ではじめて知った。

     解説によると、この作品は作者の別の作品、めだか姫というヒロインが活躍する「退屈姫君」というシリーズと舞台が共通しており、「おたから蜜姫」という続編もあるとのこと。
    そのうち読むかも。

     こういうのは、主演に人を得てうまく実写化しれば面白いと思うのだが、ロードムービーになるだろうから費用はたいへんなことになりそう。


     
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