「ふしぎの国のポーの一族(いとうまさひろ著)」紹介と感想
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「ふしぎの国のポーの一族(いとうまさひろ著)」紹介と感想

2016-11-21 19:00


     今年40年ぶりの新作が発表され、いろいろと話題になった「ポーの一族」。
     この作品について書かれた、興味深い本を見つけた。100ページにも満たない文庫本で、著者はプロのライターではない模様。

      新風舎という、かつては日本最大の個人出版を手がけていてその後経営破綻した会社が
    発行した本ということで、再販の見通しが全く無く、今は入手が困難なようで、アマゾンだと4000円とかする。
     私はブックオフで100円+税で買ったんだけど。

     非常に面白い視点で、「ポーの一族」を分析している。コアなファンは欲しくなるかもしれない。主だった、著者の着眼点を以下に述べる。

    ○エドガー・アラン・ポーの生涯と、「ポーの一族」(という作品群)の類似点の指摘。

    ・ポーは2歳で母と死に別れ、妹と別々の家庭に引き取られて育つ。
    ・その妹は12歳で知能の発育が止まってしまったという。
    ・母を早く失ったポーは年上の女性に理想の母を重ねるようになり、14歳で出会った友人の
     母親を特別な存在と思うようになる。
    ・ポーは養父(この人の名前がアラン)と折り合いが悪く、家を飛び出して陸軍に入る。
    ・除隊後に叔母のところに転がり込む。叔母はその後困窮するが、ポーは雑誌編集者として
     生活の安定を得ていたため、彼女と娘を手元に引き取り、面倒を見る。
    ・この叔母の娘と結婚する。ポー27歳、彼女が13歳の時。7歳の時から一緒に暮らした、
     妹同然の存在で、ポーは妹のように彼女を庇護し、彼女は兄のようにポーを慕ったという。
    ・ポーの妻は成人してもあどけなさが残る純心な女性だったが、病弱で24歳で亡くなる。
    ・ポーは妻の死の2年後、「アナベル・リー」という亡き妻へ捧げる詩を最後の作品として
     生涯を閉じる。「アナベル・リー」のスペルを並び替えると「メリーベル」となる。

    ○「マザー・グース」ほか引用されている英文学についての考察

    ・マザーグースが本格的に日本語訳されたのは北原白秋訳(大正10・1921)が最初。
    ・マザーグースは1975年の谷川俊太郎訳が大ベストセラーになる。
    ・1975時点で既に「メリーベルと銀のばら」「小鳥の巣」が発表されており、萩尾さんは谷川
     版でマザーグースを知ったわけではない。
    ・萩尾さん本人が、エッセイで中公新書「マザーグースの唄(平野敬一著)」を読んだと
     書いており、この初版発行は1972年。ポーの一族第一作「すきとおった銀の髪」執筆時期
     と重なる。
    ・萩尾さんがこの本に興味を持ったのは、子供の頃に覚えた「きらきら星」「メリーさんの
     羊」「ロンドン橋おちた」「だれが殺したクックロビン」「くつのお城のおばあさん」など
     が載っていたからという。
    ※「クックロビン」は「マザーグースの唄」では「コックロビン」と訳されており、原文は
     「Cock Robin(雄の駒鳥)」だそうで萩尾さんの勘違いだったのではと指摘している。
     (萩尾さんは欄外に Cook Robin 駒鳥のオス と注記している)
    ・というような感じで、ポーの一族中に引用されたマザーグースを解説している。
    ・シェイクスピアの「お気に召すまま」が「小鳥の巣」で登場している。
    ・ポーの村の位置と、シェイクスピア作品についての関連についても述べている。
    ・ロバート・ブラウニングの詩「春の朝」が「小鳥の巣」で使われている。
    ・「春の朝」の訳文は上田敏訳「海潮音」から引用されているらしい。

    ○「ふしぎの国のアリス」との関係

    ・著者によれば、この作品の重要な出来事は西暦の1桁が0か5の年におきている。
    ・だが、「ポーの一族」というエピソードは第1巻では1880年ごろと書かれていたのに、
     「ランプトンは語る」ラストの年表では1879年に修正されているように見える。
     コミックスには収録されていないエッセイでも1879年の話である、と言っているらしい。
    ・これはアランとエドガーが出会った年を1879年にしておくと、アランは14歳だったので
     1965年生まれとなり、この年はグレンスミスの日記が書かれた年でもあるので、この2つの
     出来事を同じ年の出来事にしておきたいと、後から思い直したのでは、というのが著者の
     意見。初期に発表された構想メモでは1980年と記載されているという。
    ・著者はこれを1965年が「ふしぎの国のアリス」の発表された年であることを萩尾さんが
     後から知り、グレンスミスがポーの村に迷い込むのとアランの誕生とアリスが不思議の国に
     迷い込むのとを時期を重ねたかったのではと考察している。
    ・著者はリデル森の中のリデルも、アリスを模した登場人物である、と考察している。
    ・「小鳥の巣」を境として、ポー・シリーズは前期と後期に分けられ、前期はエドガーが
     メリーベルを失ったことを思うシーンが多いのに対し、後期ではそれがほとんど無いこと
     などから、前期と後期の構想の違いを著者は考察している。
    ・つまり前期はポー夫妻をモデルとしたエドガーとメリーベルの物語だが、後期はふしぎの
     国のアリスがモチーフだと。
    ・ふしぎの国のアリスは実在の少女がモデルで、彼女のためにルイス・キャロルが書いた話
     は有名だが、この実在の少女の姉妹の名前がポーの一族に登場するという。その名前は
     シャーロッテとエディス。そしてこの姉妹の姓は、リデルだという。いかにもである。
    ・「はるかな国の花と小鳥」に登場するエルゼリは、実在のアリス・リデルの生涯に似た
     エピソードがあり、それを参考にしたキャラクターでは、と著者は考察している。

     などと、言われて見ればそうかもしれない、という緻密な考察が今紹介したもののほかにもいろいろ書かれた本で、雑誌掲載の文章も細かくチェックしており、漫画研究書として出来がいいと思うし、萩尾作品、ポーの一族ファンとしては興味深いと思う。もちろんそんなの認めない、という立場もあるだろうけど。 

     ポーの一族には年代が特定できないエピソードがいくつかあり、著者は一般に言われている
    その時期の推定にも検証した結果として異議があるという。そこは本にはページ数の関係で入れられなかったそうだが、本家の作品が40年ぶりに復活した現在、こちらの本もその部分
    も入れた改訂版が出てもいいのでは、と思う。
     その場合は是非、著者と萩尾さんの対談なども入れてほしいものだが。著者の考察通りなのか、全然別の理由があるのか、もう覚えていないのかもしれないが聞いてほしいと思う。

     著者ご本人と萩尾さんがそれを望んでいればですが。本にはカットも多数収録されており、
    それは小学館を通じて許可をいただいているということなので萩尾さんもご存知なのだろうと
    思う。このまま埋もれてしまうのはもったいない気もする。再刊の価値はあるかと。
     きっと売れますよ~、と出版社の人には無責任に呼びかけておこう。
     こんなへき地のブロマガをそういう人が読むとは思わないけど。
     





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