「人体密室の犯罪(由良三郎著)」メモ
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「人体密室の犯罪(由良三郎著)」メモ

2017-01-22 19:00


    ・手持ちの由良三郎作品はこれで最後。この作品は「円周率πの殺人」というタイトルで発表されたものが文庫化の際に改題されたものらしい。

     東京都内、埼玉との県境にほど近いN市中心部にある内科外科を持った病院は戦前から続く個人病院だったが、病院長が戦争で応召されて戦死してからも妻が経営を受け継ぎ、現在の院長である息子の代になっても彼の気さくな人柄とスタッフの実力で、地域の人々に愛される病院だった。

    だが恒例の昼食会のさなか、院長はスープを一口飲んだ所で急に腹痛を訴えて苦しみ出し、検査室に運ばれる。痛がりようからはただの胃痙攣などではなく、潜行性の癌が急激に悪化したか、胃潰瘍の穿孔が疑われる。痛がって身体を伸ばせないためレントゲンはうまく撮影できず、胃カメラを入れることになる。すると胃の中が真っ赤だという。ここで病院のNo.2である外科部長の手で緊急手術に踏み切るが、血圧も急激に落ち危険な状態に。開腹したところ、胃と腸が十二指腸のところで切断されていたことがわかり、緊急縫合したものの院長は死亡する。院長の腹腔内からは、米粒大の鉄の球が発見される。球の表面には鋭いトゲトゲがついていた。

     食道の天井にあった扇風機の羽根には、何かを取り付けてあったようなネジ跡が発見され、ここに強力な磁石がついていて、これがスープに混じっていた鉄球を動かし、院長の胃と腸を内側から切り裂いたのではないか、という疑いが出る。だが院長がそんなものを気付かずに飲み込むだろうか、とかいくら強力な磁石でもそんな事ができるだろうか、と疑念も多い。

     すぐに警察に、という意見も出たが、外科部長に次ぐ立場のベテラン外科医が、ちょっと思い当たることがある、今晩当直なので一晩調べてみたい、通報は翌朝まで待ってほしい、と申し出たため彼にまかせることとし、一同は帰宅する。だが翌朝、彼は会議室の机にうつぶせになって死んでおり、彼も院長と同じように胃と腸を切り裂かれていたがやはり外傷は無い。連続殺人なのか、何か未知の伝染病なのか。

     警察と監察医がやって来るが、どちらとも判断がつかない。医学には素人の捜査官は、鉄球による殺人説を唱える外科部長に同調するが、監察医は不賛成の様子。

     院長の未亡人とも話し合った結果、外科部長が病院を引き継いで経営を続けることになるが、最近大学病院から移ってきた一番若い内科医は、鉄球説に疑念を持って自分なりに調べてみようとする。すると彼を狙ったような事故が起きる。彼はこの段階までは、人柄のいい内科の先輩や、関係ができてしまった年上の看護婦などにも疑念を話したりしていたが、これをきっかけに誰も信頼できなくなり、自分だけで調べようと心を決める。

     彼が調査を進めた結果、ある医学雑誌に生前の院長が書いたらしい匿名の文章が見つかる。しかもそこには少年時代の彼の事らしい患者のことが書かれている。これは本当に院長が書いたものかは匿名のためわからない。
     あるきっかけから警察の監察医の協力を得られるようになり、この執筆者を突き止めたところ、そこには複雑な事情が隠れていた。だが彼も調査中に毒入りの酒を飲まされそうになったり、車のブレーキに細工されたり、相変わらず命を狙われている様子。

     そんな中、またしても病院関係者が死亡する・・・

     人体を密室に見立てた、掴みはOKの作品。こういうこともやろうと思えば今の医学ではできるんだろうが、絶対にバレるだろう。動機は作中人物の口を借りて、遊女八橋(やつはし)を恨み、八橋ほか多くの人を斬った佐野次郎左衛門の吉原百人斬りだな、と言わせている。
     ちょっとずるい人物がある思惑で、実直な人間をたきつける。するとその人物は、たきつけた人間が想像もしなかった過激な行動に走ってしまった、という感じ。

     この作品も音楽に関する記述はなく、医学関係の知識だけで書かれた作品。私としては音楽系の作品の方が好みだけど、病院内の描写なんかは面白かった。
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