「思い出トランプ(向田邦子著)」メモ(ネタバレ)
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「思い出トランプ(向田邦子著)」メモ(ネタバレ)

2017-09-20 19:00

    ・直木賞受賞作を含む短編集。

    ・かわうそ
     定年まであと3年、という夫と妻。子供はいない。夫に従順な妻だったが彼が脳出血で倒れて半身不随となると、妻が生き生きとしだす。夫に断りなく彼が好きな庭を潰し、銀行の寮を建てようという話をすすめる。夫はこれまで知らなかった妻の本性を見たような気がする。
     子供も本当はいたのだが、医者の手違いで死んだと聞かされていたのだが、妻が放置して手遅れになったのだ。妻のそうした部分をあれこれ思い起こし、夫は妻をかわうそのようだと思う。

    ・だらだら坂
    50歳になった社長が、初めて20歳の愛人を持つ。彼女に与えたマンションに通うとき、そういう身分になれた、という誇りあるような気持ちになって、坂道をだらだらとゆっくり登るのが慣例になっている。愛人となった女は目があかぎれのように細くて美人でもなく器量よしでもないが、言いつけは素直に守る。気は効かないが、言われなければなにもしないが言われたことは必ずやる。そこが気に入っている。隣近所とは付き合うな、と命じておいたのだが、隣の雇われマダムをしているという女とだけは最初に困っていた所を助けられた縁もあって伝票整理の手伝いをするなど交流ができてしまった。
     やがて愛人はマダムの勧めで整形手術を受け、だんだん美人になり、積極的にもなって口数も増えていく。男は坂を上るのがだんだんおっくうになっていく。

    ・はめ殺し窓
     閑職にまわされて夜の付き合いがなくなり、自分の建てた家を明るい時間に見ることが増えた男は、家も古びるのだな、と思う。ある日帰宅すると、二階のはめ殺しになった小さな窓から女の顔が見える。
     一瞬亡くなった母かと思うが、母親似の娘だった。里帰りしてきたらしい。
     貧相だった父は美人でふくよかな母をもらい、結局その母は出入りのものと浮気をして、父は一生嫉妬に苦しんで死んだ。母はよくその窓から外を見ており、それは若い男を物色しているかのように見えてまた父を苦しめた。男は貧相だが浮気をしなさそうな女を嫁にしたが、娘は母親に似て美人に育った。だがおとなしく二十歳で嫁にいってくれた。
     なので男は娘が浮気をして実家に戻ってきたのではと疑うが、真相は夫の方の浮気だった。
    男は、婿が父の仇をとってくれたような気がする。

    ・三枚肉
     夫婦で部下の結婚式に出る男性。50前だが部長である。結婚する部下は以前彼の秘書をしており、家にもよくやってきたので妻とも顔見知りである。男はこの秘書が男に捨てられて少し心を乱していた時に慰め役となり、そのまま男女の仲になってしまった。深みにはまる前に、と他部署に異動させ、関係は絶えた。
     妻はカンがいいので、一緒に彼女に会うと、何かバレルのではないかと恐れて式に行く。
     だが何ごともなく終わる。帰ると、いつの間にか疎遠となった大学時代の友人が来ている。
    彼は妻と結婚する前からの付き合いで、その頃の妻も知っている。妻には水商売の経験があり、反対する両親のために男は結婚をあきらめようとしたこともあったが、その時に妻と男の間に立って二人を繋いでくれたのは彼だった。いわば恩人である。
     一方、友人は療養所に出たり入ったりする病弱な身で、ようやく就職したもののうまくいかず自殺を考えた事もあり、その時に男に本を返さねば、と思ったことが生き続けるきっかけになったと話す。彼にとっては男が命の恩人なのだ。
     妻は彼に三枚肉の料理を出す。使いに出した子供が間違っていい肉を買ってきてしまったと言い訳をしながら。彼は来週から入院すると話す。それを言いたくてわざわざ来たらしい。
     男は昔を思い出し、自分と妻が結婚するかしないかせめぎあっていたころ、部下の秘書と自分にあったようなことが、当時妻の相談相手になっていた彼と妻の間にもあったのかもしれないな、と思う。

    ・マンハッタン
     38歳で会社が潰れ、無職になった男。母親の遺したアパートのあがりもあり、すぐに食べるに困る事はないが、働こうと思っても潰しがきかない事務職であったりもして、気力がわかない。そんな日をすごしているうちに妻は出て行ってしまった。彼女は歯医者で、生活力はある。とあるクリニックに引き抜かれて、そのクリニックの所長といい感じらしい。
     ある日行きつけのコロッケ屋が工事中なのに気付き、マンハッタンという名になるらしいその店のことばかりが気になるようになってしまう。そして開店したスナック・マンハッタンの常連になる。開店前にちょっとした事件があってママとも顔見知りになり、特別な客として遇される。
     やがてマンハッタンは夜逃げ同然に店を閉め、いつもいた常連がママの亭主だったと知る。
    男にまた無気力な日々が戻って来る。

    ・犬小屋
     麻酔医の夫がいる女性。妊娠しているがまだお腹は目立たない。ある日電車内で座っている親子を見る。妻は妊娠しているとわかる。そして夫は旧知の人物だった。
     彼女が短大生だった頃、彼は近所の魚屋で、飼い犬の粗相がきっかけで彼は彼女の家に通い、犬小屋を作ってくれた。犬は思ったよりも大きくなり、出来合いの犬小屋は小さかったのだ。そんなこともあって彼は家にも上がるようになり、彼女に恋していることが傍目にもわかるようになっていくが、結局彼女に拒絶されて犬小屋の中で睡眠薬を飲んだが一命に別条なくそのまま田舎に帰ったとかで姿を消した。
     女性は何も話しかけずに電車を降りる。

    ・男眉
     夫に「お前は曲がない」となじられる女性。彼女は骨太で眉も左右繋がっている男眉だった。祖母はこれを男まみえと読んだ。妹は地蔵まみえといわれた。彼女はお地蔵さんの笑顔が、裏に何か隠しているような気がして好きになれない。

    ・大根の月
     夫と別れた女性。彼女は包丁を使っているときに、つまみ食いの手を伸ばしてきた息子の人差し指を切り落としてしまった。包丁自慢の彼女と、保険の外交員をして出来合いの惣菜で夫を育ててきた姑とはもともと微妙だったが、これで姑は彼女の敵となり、息子の世話も台所仕事も女性はできなくなった。夫は何もかばってくれなかった。だからいたたまれず家を出た。
     彼女はもう戻る気はなかったが、夫が訪ねてきて息子の話をする。息子は人より短い指をどうしたのかと問われても、決して母親に切られたとは言わず、おばあちゃんに切られたと言うのだという。夫は戻ってくれと言う。彼女はどうしようか、と考える。

    ・りんごの皮
     夫と別れて今は別の人と付き合っている女性。玄関でイチャイチャしているところを、訪ねてきた弟に見られてしまう。彼女は自分の理想を持って、少しだけ背伸びして生きてきた。家具や服や食器も、身分不相応に気に入ることができる吟味したいいものを揃えてきた。
     だが弟はほどほどの身の回り、ほどほどの就職、ほどほどの妻や子供、と自分の手の届かないものは見ないようにして暮らしてきた。彼女はそうした弟の性質を歯がゆく思っていたが、今思い返すと弟の人生のほうが確実な実りを生んでいるようにも感じる。
     彼女はりんごを剥き、実の方を放り捨ててりんごの皮を食べる。

    ・酸っぱい家族
     建売住宅を5年前に手に入れた男。上司から新築祝いにもらった虎猫が近所でわるさをし、妻と娘に責められるようになっている。今日はなんと鸚鵡を咥えてきてしまった。
     その鸚鵡の処分に男は困る。庭に埋めるのは妻が大反対。ゴミに出そうとすれば近所の噂になるのでやはり反対。仕方なく男が鸚鵡の死骸を紙袋に入れて会社に出かけることになる。だが、街には共同のゴミ箱も、野原もどぶ河も消えている。結局彼は会社まで鸚鵡を持って来てしまう。そして、若い頃、もっと小さな会社に勤めていた頃に付き合いがあった女性に、どうしても別れが言えなくて、一緒に長いこと歩いたことを思い出す。

    ・耳
     風邪で会社を休む事にした男性。妻も子供もいない家で一人になる。熱が下がり起き出すが、もう出社する気にはなれず、妻の鏡台や子供の机の引き出しを開けたくて仕方がなくなる。
     彼の弟は子供の頃に中耳炎をわずらい、片耳が聞こえない。子供の頃の、弟やクラスの女の子の耳にまつわる思い出が脳裏に次々と浮かぶ。おそらく、記憶は定かでないが、弟の耳が聞こえなくなったのは中耳炎のせいではない。自分がマッチの火を、弟の耳の穴に入れたのだ。
     だが親はそのことをはっきり彼に言わないで死んだ。弟本人も幼く覚えていないという。だが、彼は久しぶりに弟のところに行ってみようかと思う。

    ・花の名前
     心のうるおいのようなものは何も知らぬ、だから教えてほしい、と言った男性を気に入り、妻となった女性。今や銀婚式も過ぎ、夫は鱸と鯔もほうれん草と小松菜も三つ葉と芹も、もちろんたいていの花の名前も区別できる人間になっている。
     ある日、つわぶきの花からとったと思われる、つわ子という夫の愛人を名乗る女から、電話がかかってくる。

    ・ダウト
     父親を見送った男。会社では常務取締役である。なので葬儀は大規模となったが、会社の人間が取り仕切ってくれるので喪主としては楽である。だが一つだけ気がかりがあり、ある親戚の男を呼ぶか呼ばないかで妻と意見が合わなかった。一度も定職についたことがなく、父に言わせればフラッカフラッカしている彼は、そのくせ羽振りがいい時もあって、親族の女性には人気がある。妻も彼のファンなのだ。だが男は信用しておらず、以前の葬式で香典泥棒をしたのではと疑ってもいる。結局声はかけなかったのだが、どこからかかぎつけて彼は当日やって来た。羽振りもいいらしく香典もはずむ。だが男は彼が気に入らない。そして、彼に自分の弱みを握られているのでは、という気もしている。男は前任者を讒言で落とし入れ、その電話を彼に聞かれたのではないかと疑っているのだ。だが本当に知らないのかとぼけているのか、彼は何も言わない。

      トランプがつく書名にちなんで、雑誌での発表順と単行本での収録順は異なり、雑誌連載中に「花の名前」「かわうそ」「犬小屋」の3作品が掲載されたところで単行本になるのを待たずに直木賞候補となり、受賞したという。何故単行本になるのを待たなかったのか、何故こんな異例なことになったのかは公になっていないとか。既にテレビの人気脚本家で「父の詫び状」などのエッセイでも人気だったが、短編小説はこれが初めての連載だったみたい。

     正直な所私は向田さんのエッセイは好きだけど小説は不倫ネタが多くてそういうのは苦手なのと、ちょっとわからないところもあって好きとまでは言い切れないのだが、それぞれの作品に出てくる、登場人物本人や家庭内のちょっとした習慣や口癖の設定や描写にエッセイと通じるところがあるような気がしている。

     
     
     
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