「江戸の暴れん坊(山手樹一郎著)」メモ
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「江戸の暴れん坊(山手樹一郎著)」メモ

2017-11-20 19:00


    ・山手樹一郎さん、というと「桃太郎侍」という連想が働くけど、それ以外にも江戸を舞台にした痛快な時代小説を山ほど書いている。どれを読んでも同じといえば同じで、きちんと完結しているというよりは、まだまだ続くけどこの辺で、みたいに終わるのも多い気もするけど、必ず正義が買って悪が滅び、主人公は美女と結ばれる、という安心して読めるパターン。
     ヒロイン候補が二人いて、片方は命を落としたりすることもあるんだけど。

     今回はこんな感じ。江戸のそろそろ幕末、という時代。高輪の大木戸を抜けて江戸を出ようとする旅支度の若い男がある。今は渡世人みたいな格好をしているが、歩き方や身のこなしから、出自は武士と知れる。はっきり書いてないけど20代後半くらいの印象。その男を呼び止めて、道連れを願った娘がある。こちらは20になるかならないかといったところ。

     お互いに身の上はぼかして本当のことは言わないのだが、実は男性の方は尚歯会の末席に名をつらねていた蘭学者で、旗本の長男でもあったが蛮社の獄で敬愛する先輩の渡辺崋山、高野長英といった人々が牢に入り、自身も鳥居庸三を殴った事があるのでついでに捕まるかも、ということでしばらく江戸を離れることになった。家督は弟にゆずり、今は医者と名乗って旅をしている。名倉もやる。江戸時代に名倉というのは、骨接ぎの本家みたいなもの。
     剣術の方も小野派一刀流で免許皆伝の一歩手前くらいの腕。本当の医者とまではいえないが、蘭学の方を熱心にやっていたので心得がないわけではない。名倉の方もある程度はできるらしい。
     娘の方もわけ在りで、実は親分稼業の家の娘で、殺された父親の仇を討とうと思って、そちらの筋から頼りになる助っ人を探していて、この若者なら、と思ってついて来たのだった。

     娘はなんとかこの男をたらしこんで味方にしたいと思い、男は男で娘をあやしみつつも嫌いなタイプではない、ひょっとしたらスリか何かと疑いつつも好きにさせてお手並み拝見といこう、と奇妙な道連れになる。だが娘はかなり目立つ美人で、何かと狼藉を働くけしからん男が寄ってくる。仕方ないな、と男がこれを追い払う。そんなことを繰り返しているうちに、土地の親分と事を構えることになってしまう。
     やがてちょっと只者でない感じの旅人がもう一人道連れとなる。金物屋を名乗るが、飛脚かと思うくらい健脚で、忍びの者か、と思うくらい身も軽い。こちらは30代。
     この3人が行きがかり上、やくざ者のためにつらい思いをしている娘を助け出したり、土地の乱暴者を倒したりという話になっていく。

     そんなことをしながら、主役男女の距離が近づいていくかと思うと、突然娘が、江戸に帰ると言いだす。親の仇をとろうと思い、その助太刀に男の協力を、と思ってここまできたが、父の死は結局父が選んだ稼業の結果でもあり、男と一緒に退治してきた連中と本質的には同じこと、助けてきた娘と同じような人たちを泣かせてきた結果でもあったのだ、と悟ることになり、もう仇討ちはやめて江戸で平凡な女として暮らす決心がついたという。
     男を慕う気持ちもあったが、彼が身分のある家の出らしいとも薄々悟り、身分違いとも思ったらしい。男の方は庇護の対象以上の色恋的な感情は持っておらず、これで二人は別れ別れ、ヒロインが消えてしまう。

     金物屋とも一時的に別行動になる主役だが、すぐに雲助にさらわれそうな娘さんを助けてまたしても同行する事になる。彼女は父親を弟子に殺されており、その仇討ちにでた兄と従兄弟に呼ばれての旅路。だが実は弟子は犯人ではなく、従兄弟の陰謀だった。
     これにも主人公と金物屋が加勢して陰謀を破り、娘と疑いの晴れた弟子がいい感じになったところでもういいだろう、と別れる。

     しばらく播州須磨で過ごしたあと、主人公はやはり江戸の蘭学仲間が気になり、一度戻りたいと思うようになる。
     今度は江戸へ向う道中で、ある大店の女主人と番頭たちの一行と道連れになる。何故か無精ひげの侍も同行している。
     次第に様子がわかってくると、このお内儀は江戸の呉服屋の後家で、商用を兼ねた上方見物帰り。侍は全然知り合いでもなんでもないが、このお内儀の美貌に引かれて用心棒の押し売りみたいに無理やりついてきている、とわかる。
     お内儀はもと深川芸者。年の離れた呉服屋の旦那に身請けされて女房となったがよく仕え、その間に商売も覚えて主人亡き今も立派に店を守っているという人物。
     それだけに柔らかに相手をいいくるめることも、強く出て相手を諫めることもできる。だが用心棒の押し売りには若干手を焼いているようすで、この男には恥という概念が全く無く、自分が言った事をすぐ翻す。恰幅がいいので役に立つ場面もあるのだが、本人が威張るほど腕利きでもない。
     主人公は金物屋のすすめもあり、用心棒への牽制役もかねて同行することとする。
     雲助にからまれたり、狂人が突然刀を抜いて切りかかってきたり、というたびにこの用心棒は逃げてしまうのだが、主人公が相手をなんとかするとけろっと姿をあらわして、今自分が秘儀で倒そうとしていたのに邪魔をしおって、みたいにまた戻って来る。その恥知らずさは只者でなく、そのしつこさにちょっと主人公も不安を覚えたりもするが、結局ある宿場で泥棒であるという正体をあらわし、お内儀を手込めにしようとしたところを主人公に見つかり、結局逃げてしまう。
     そのころまでには主人公とお内儀は惹かれあっているのだが、お内儀は店の事があって自分から好きとは言い出せないし、主人公も江戸の蘭学仲間が気になり、自分も一種のお尋ね者だから店に迷惑をかけると思えば踏み込めない。
     だが今度はお内儀がおろそかにできない、店の上得意である大名のお納戸役の馬鹿息子が偶然道連れとなり、またしても色目を使って同じようなことになってしまう。
     結局この男もお内儀と主人公の仲がもうかたい絆になっていることを思い知らされて先に行くことになるのだが、どうも江戸でよからぬことをたくらみそうな気配もある。それなりの大名の家中なので、彼が主人公を開国主義者だ、といいたてればどんな落とし穴にはまるかわからない。
     そのへんを察したお内儀は、店を番頭に譲り、主人公に嫁入る決意をする。そして自分の財力で箱根に居を構え、江戸が安全になるまで主人を匿うことにする、あたりでちょっと中途半端な気もするけど話はここでおしまい。

     という感じで、次々に何かは起きるんだけど、大筋的なことはあまりない。蛮社の獄にからんだ主人公をもっと追ってゆけば幕末ものになるんだろうけど、それはしないで江戸の道中もので終わらせている。今回は3人登場するヒロイン候補も、主人公側に味方する人たちも、誰一人犠牲になることなくめでたく終わっている。
     良くも悪くもそういうところが山手作品なのだろう。

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