「はだか大名(山手樹一郎著)」
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「はだか大名(山手樹一郎著)」

2017-11-21 19:00


    ※タイトルで期待する人がいるかもしれませんが、特にエッチな内容ではありません。身分を捨てて裸一貫になってがんばる若様の話。

    ・11代将軍徳川家斉は、一妻二十一妾に子供を53人産ませた、職務に熱心な将軍であったが、女子は嫁に行くからともかく、男子の身の振り方には家臣が困ることになる。分家させるほどの土地はもはや無く、諸侯に押し付けてしまえ、ということになり、本来正当な跡取りがいるのにそちらを押しのけて、お世継ぎとして迎え入れよ、などいう無茶も通ってしまう。
     明石藩十万石もこうした圧力に屈し、聡明をうたわれた嫡子、直之助は廃嫡されて若隠居の身に。養子として斉信が送り込まれてくる。これが聡明、あるいは凡庸ならまだそれなりに救われたが、どこかの将軍のようにわがままで好色で酒乱で、と絵に描いたような暴君だった。本来の若様に忠義を通そうとした気骨のある人物はことごとく手討ちとなり、家中の女は重臣の妻や娘まで犯され、目の前を横切ったというので3歳の幼児まで惨殺する。
     どこにでも奸臣というのはいるもので、真っ先に自分の妻をこの新藩主に差し出した男・大内右源太が寵愛を受けて権力を握り、主君の後ろ盾をいいことにやりたい放題。
     残った家来にはそれを良しとしない者もいるのだが、中心になるべき人材は討たれ尽くし、もはや専横を止める者はいない。

     そんな中で、江戸小名木川で若隠居の身となった直之助は妻同然の側室、菊乃と静かに暮らしていたが、斉信はこの菊乃を罠にかけて辱め、彼女は恥じて自害する。
     これを知った直之助は自らのこれまでを恥じ、菊乃のために百日の喪に服すると領民のためにも家臣のためにも、これを自らなんとかせねば、と若隠居の身分を捨て、一介の浪人、浮世捨三郎を名乗って屋敷を出る。

     あてがあっての行動ではなかったが、市井の人々と交流するところとなり、気の強い辰巳芸者の小稲、その叔父で岡っ引きの佐平、盗賊の油屋伝次、もと明石藩忠臣の娘で芸者となった小品、その弟の要吉、両替商伊丹屋宗兵衛、その娘お美代、といった人々と力を合わせて斉信・右源太の悪業に対抗する。
     北町奉行遠山左衛門、医師伊東玄朴といった人物の後ろ盾も得て、ついに明石に乗り込んで藩の危機を救い悪人を倒すが、跡目には別の人物を立てて自分はもはや大名家には戻らず、一介の素浪人として巷間に暮らすことになる。お庭番と飯炊き女を連れて。

    というのがおおおまかなストーリー。八幡さまにお参りしている小稲と知り合ったのをきっかけに、彼女の周囲の困りごとを解決しているうちに、自然と悪人と対決することになる。
     江戸には主人公の義姉にあたる前藩主の未亡人やその用人など、力になってくれる旧臣も残っており、藩の江戸屋敷にも心あるが今の主に逆らえないという立場の者もいる。彼が行動することで、そうした臣下の気持ちも変化して行く。

     主人公に助けられた小稲、小品、お美代の3人の娘は力になろうとするが、武家娘から芸者へと運命が変転し、身体を壊した小品は斉信にむち打たれて儚くなり、明石まで同行したお美代は大内右源太の斬り合いの際に卑怯にも至近距離から背中を鉄砲で狙われた主人公を弾丸からかばって事切れる。

     菊乃を含めて3人のヒロインが死んでしまうが、残った小稲は飯炊き女として主人公と共に生きる事になる。ちょっと苦い締めくくりである。
     
    以下備忘的に登場人物。

    松平直之助
    ・・・明石十万石の嫡子だったが、将軍の血を引く斉信に追われる形で廃嫡され、
       無理やり江戸の小名木川にある屋敷で若隠居の身となってしまう。
    菊乃
    ・・・直之助の愛妾。元は先侯夫人の腰元だった。斉信に凌辱され、自害する。

    浮世捨太郎
    ・・・百日間菊乃の喪に服した直之助が、一素浪人となって世直しを、と名乗る
       ようになった名前。持ち前の鷹揚さと聡明さと剣の腕で市井の人々を助け、
       今度は彼らの助けを借りて明石藩の政道を正そうとする。

    小稲
    ・・・辰巳芸者。年の頃は19か20。二枚証文(芸も売ります、帯も解きます、と
       いう2つの証文を書いた芸者)の身でありながら、気に入らない男に帯は解か
       ぬ、という意地を通してきている気の強い娘。

    油屋伝次
    ・・・油屋を名乗るが本職は泥棒。小稲の客で、金で関心を買って帯を解かせようと
       するが失敗し、小稲と険悪になるが、仲裁に入った捨太郎を気に入り、彼を
       助ける右腕のような存在となる。いつの間にか、小稲と捨太郎が夫婦になるの
       が自分の楽しみ、みたいになってしまう。

    小品
    ・・・小稲の妹分の芸者。もとは明石藩士の娘だが、父親が手討ちとなり零落した。
       身体を壊して今は療養の身。小稲に生活の面倒を見てもらっている。
    ・・・捨太郎のはからいでお美代と同じ伊丹屋の寮で療養するようになるが、
       乱入してきた斉信からお美代をかばい、鞭打たれて絶命する。

    要吉
    ・・・小品の弟。13歳。正道を通して討たれた父、長患いの果てに死んだ母、
       芸者となって身体を壊した姉を見て、武士というものに嫌悪感を持っている。
       魚を売って姉を世話し、将来は医者になって姉のような病人を治してやりたい
       と思っている。後に捨太郎のはからいで伊藤玄朴に弟子入りする。

    松木要左衛門
    ・・・小品、要吉の父。明石藩士だったが斉信の養子入りの際、直之助が正統な跡継
       ぎであると主張して忠義を通すがそのために不興を買い、後に手討ちとなる。

    お美代
    ・・・江戸の両替屋、伊勢屋の娘。行儀見習いのため明石藩の江戸屋敷に腰元として
       つとめていたが、その美貌に目をつけた斉信から夜伽を命じられる。
       自分は行儀見習いに来たのであって妾になりにきたのではないとこれを拒絶。
       そのため屋敷内の座敷牢に軟禁されてしまう。直之助に助け出され、命の恩人
       と慕うようになる。その後直之助を助けて働くようになる。
       明石で銃弾から直之助をかばい、落命する。

    伊勢屋
    ・・・お美代の父。娘の命を救ってくれた直之助の財政面の援助をするようになる。

    兼次
    ・・・男みたいな名前だが女。三十代後半の石臼のように太った女。長年色町で
       すごし、今は女を使う方にまわっていて、小稲や小品の証文を預かる立場。
       金が第一。次に若い男。

    万七
    ・・・元は船頭だったが七つ年上の兼次にかわいがられ、亭主のようになっている。
       だが兼次に頭が上がらず、よく殴られており、そのウサを小品のような弱い
       女をいじめて晴らす、人間の屑。

    大内右源太
    ・・・明石藩江戸詰めの重役だったが、斉信が養子にくると真っ先に妻を差し出し、
       右腕の位置を確保した佞臣。だが頭が切れ、剣の腕も立つなどあなどれない。
       逆に斉信を操る気配もあり、妻が斉信の子を産めばさらに権力の座に上れると
       考えているらしい。
       最初は捨三郎を見くびっていたが、次第にその器量を無視できなくなり、
       暗殺を企む。

    斉信
    ・・・11代将軍徳川家斉の子。わがままで好色で酒乱で、何一ついい所のない暴君。
       捨三郎の事実上の妻、菊乃を犯して自害にいたらしめ、3歳の幼児を前を
    ・・・横切ったとして殺すなど残虐非道。ものにしようと思ったお美代に思いがけず
       抵抗され、これを監禁したところ捨三郎によって連れ出されてしまい、お美代
       に強く執着するようになる。お美代を守ろうとした小品を馬のムチで打ち殺
       し、お美代と小稲を人質にして捨三郎を誘い出し、殺そうとする。
       だが結局、捨三郎ではなく、殺した幼児の父親の猟師が彼を射殺する。
       
    お松
    ・・・明石藩先侯の妻で、捨三郎には義姉にあたる。さすがに斉信も正面から彼女に
       無礼はできないので、捨三郎を陰から助力する。

    平松外記
    ・・・明石藩国許の城代家老。主だった人々が放逐されたあと、最後に残った忠臣。
       領民の信頼があつく一揆を誘発しかねないため斉信派も簡単に彼を失脚させられない。
       腹を切る覚悟で捨三郎に協力する。

    遠山景元
    ・・・江戸北町奉行、ご存知遠山の金さん。この作品では刺青を見せたりはしない。
       捨太郎に好感を持ち、他藩の事ゆえ表立って干渉はできないものの、さりげなく一緒に
       行動して彼を刺客から守ったり、部下を差し向けて陰から助成したりする。

    伊藤玄朴
    ・・・江戸幕府の奥医師で蘭法医。捨太郎と知己を得て、小品の診察と、要吉の弟子入りを
       快諾する。





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